軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

327 造船技師

「こ、これは……」

目隠しをして、 クルマ(レンタカー) に乗せてしばらく連れ回した後、手を引いて少し歩き、その後、転移。

そして目隠しを外した時、老造船技師の眼に映ったのは、……一隻の建造中の帆船の姿であった。

全長は、20メートル前後。

現代においては、大型コンテナ船は全長300メートルオーバー、タンカーだと400メートルオーバーとかもある。クイーン・メリー2で345メートル、戦艦大和は264メートルである。

それらに較べれば小さいが、それでもコロンブスが使った3隻のうちの最大の船、サンタ・マリア号と同じくらいの大きさである。

……同じ帆船でも、日本丸Ⅱ世の110メートルに較べると、かなりショボいけどね。

それでも、ボート程度の漁船しか造ったことのない者達が、実物見本と私が持ち込んだ地球の帆船の構造図だけを頼りに造るのは、あまりにも大きな壁だ。

うちの国に帰化してくれた、探検船団の生き残りの船大工がいるけれど、彼らはあくまでも応急修理のための人材であって、帆船の設計・建造とかに携わる者達じゃないから、そりゃ大きな助けにはなっているけれど、あまり何でも出来るというわけじゃない。

それを、この元帆船技師のおじいさんに何とかしてもらいたいわけだけど……。

あ、転移の時に目隠しをして連れ回したのは、大きな意味はない。

私の能力を誤魔化すために、『ある場所に移動してから、転移した』というように偽装しただけだ。

どこからでも簡単に転移できるというのと、特定の場所に行かないと転移できないというのでは、全く違うからね。

後者なら、転移するには何らかの大掛かりな機械設備が必要だとか、偶然できた次元の穴から、とか、色々と考えられるパターンがあるからね。

まあ、うまく話が纏まって、しょっちゅう来てもらうようになったら、いちいち時間を掛けるのは面倒だからカミングアウトするけどね、どこからでも転移できるって……。

守秘義務付きの契約を結ぶまでは、正確な情報は与えない方がいいからね。

「……どうぞ、こちらへ」

そして、建造中の試作大型帆船の中へ。

「こりゃあ……」

私に声を掛けてくる作業員達や、それに返事する私の言葉から、ここで使われているのは自分が知っている言語ではないことを知り、そして電動工具どころか、明かりにすら電気が使われていないこと、作業員達の服装、使っている工具、その他諸々から、何となく状況を察したらしい技師のおじいさん。

「……マジモンか? 金持ちの国や地方自治体が現在の造船技術を使って造るんじゃなくて、本気で、持てる知識と技術を振り絞って造ってやがんのかよ。ちっぽけな、……こんなちっぽけなフネを、自分達の全てを懸けて……。

ああ、そこはそんなやり方じゃ駄目だ!

もっと小さいフネならばともかく、このサイズのフネでそんなやり方だと、強度が足りねぇよ!

どうしてこのレベルのフネを造ろうとしているくせに、そんな基本的なことも知らねぇんだよ、おかしいだろうが!」

あ~、そりゃまあ、不思議に思うよねぇ……。

今までの状況から、ここが『地球ではない』ということは察しているだろうけど……。

「拿捕した敵艦を見本にして、デッドコピーしてるんです。

この国の本来の技術力は、全長6メートルくらいの木造漁船を造るのが精一杯です。

試作の小型帆船を一隻造りましたけど、素人の習作、って感じで、不具合続出、漏水も多いです。

見本にした拿捕艦と習作の小型船は、この後案内します」

「……ぐふ……」

え? モビルスーツを搭載する予定はないよ?

「ぐふふ、ぐふふふふ……、ふぁ~っはっはっはァ!

馬鹿か? 馬鹿だろう? 素人の集団が、いきなり20メートル級のキャラック船造ろうだと!

馬鹿だろ? 大馬鹿揃いかよっ!」

ボロクソだな……。

「任せろ……」

「え?」

「任せろっつってんだよ、この俺に! クソっ、引退して暇を持て余してる俺の前に、こんな面白そうな 玩具(オモチャ) をぶら下げやがって……。

それで、通訳できる奴、いるのか?」

「あ、うん、ここの現地語と敵国語……船大工と、作業員の一部はこの国に帰化した拿捕艦の元乗員だから……、そして英語が分かるのは、私とうちの家臣ひとり、それとこの国の第三王女殿下だけだよ」

「ばっ……、王女様に荒くれ者揃いの造船作業員との通訳なんかさせられるかよ!

ということは、嬢ちゃんと家臣の、ふたりか……。

……って、『 うちの家臣(・・・・・) 』だとぉ! ま、まさか、嬢ちゃん……」

「うん、貴族だよ、一応……。ここの侯爵領に隣接した、子爵領の領主」

「げえっ! い、今までの数々の御無礼、 平(ひら) に御容赦を……」

「あ、いいよ、そういうのは。貴族うんぬんは、こっちの世界での話だから。

おじいさんと私の関係は向こうの世界でのものだから、あくまでも私達の関係は『一般市民同士』、そして『お友達のおじいさん』、『孫の友人』ってことで!」

「……お、おう。そうしてもらえると、助かる。じゃ、それで行くぞ」

うん、切り替えが早いね。

「そういうわけで、ちゃんとした仕事として正式に契約したいんだ。守秘義務付きで。

契約金額は、後で相談。仕事内容は、現場の総監督、改良箇所の指摘、設計の確認、その他諸々。

特に、船体強度と安定性、速度や操艦性能に関わることは、最高責任者、最終意志決定権者だと考えてもらっていいよ」

「……つまり、好きにやれる、ってことか?」

「うん」

「……面白くなってきやがった……。

なあ、嬢ちゃん。ふたりほど、声を掛けたい奴がいるんだが……」

「おじいさんが推薦するなら、勿論、腕が良くて口が堅くて信用できる人達だよね?」

「あたぼうよ!」

造船三銃士を連れてきたよ、ってヤツか……。

「よし、承認! ……あ、帆布の入手先に、伝手あります? 電気を使わない、造船用の工具とか、その他諸々も……」

「任しとけ!」

よし、これで帆船の新造計画が進むぞ。

いや、色々と問題が生じていて、建造スケジュールがかなり遅れてるんだよねぇ。

いくら実物見本と地球の資料があっても、素人集団じゃあ無理があったよ、うん。

あとは、造船三銃士に任せよう。

私は色々と忙しいから、通訳は殆どコレットちゃんに任せることになりそうだなぁ……。

ちょっと、9歳の子供を働かせすぎかな。

でも、まぁ、それくらいの歳の子は、このあたりではもう立派な労働力としてカウントされてるからなぁ……。

町の子ならばそうキツくはない家事や家業の手伝いとかかもしれないけれど、田舎だと結構キツい仕事をさせられているし。

さすがに、領主でもそこまでは口出しできないからなぁ。町の子、農村の子、漁村の子、山村の子で、手伝える仕事も違うし……。

領主としては、せいぜい、2日に1度、午前中のみの学校に通わせるのが精一杯だ。

さて、おじいさんが知り合いに声を掛けたり工具の手配をしてくれたりしている間に、次は、新大陸の方か……。

あちこちを同時進行でやってるから、ホント、忙しいんだよねぇ。

日本のブラック企業で働くのに較べれば、それでもヌルいって言われそうだけど……。

新大陸(向こう) では、貴族との交流だとか、商売だとか、 仲良しグループ(ソサエティー) だとか、色々とやっているけれど、それらは全部、将来のための布石、種 蒔(ま) きだ。

私の母国は取るに足りない小国だと思い、私の活動は国としての貿易を始める前の準備段階だと考えて、危険視することなく、 正式な貿易開始時(そのとき) にはガッポリ稼がせてもらおうとして、色々と便宜を図ってくれている貴族や商人の皆さん。

それにつけ込んで、ジワジワと ヤマノ子爵(わたし) の影響力を浸透させ、情報の入手ルートを確立させてゆく。

そして国の中枢にいる人達の奥様と娘達を、化粧品や食べ物、ソサエティーや幼年組等によって、私とみっちゃんのシンパとする。

ソサエティーや幼年組のメンバーは、将来、高位貴族や王族の妻となる子達だからね。

貴族の結婚年齢から考えると、次の探検船団が計画される頃には、既に何人かが跡取り息子の妻になっていてもおかしくない。事実、既に婚約している子も多いのだから。

新大陸の方も、知り合いやお友達が大勢できちゃったからなぁ。

できれば、本当の戦争になることなく、対等の立場での国交が始まればいいんだけど……。

実際にはうちの国とヴァネル王国は現在戦争中なんだけど、本国の人達はそれを知らないから、まぁ、そこは何とでもなるだろうし。

でも、対等の立場での交流をするためには、対等の力が必要だ。

高価な宝石を身に着けた弱者が、無法者に『仲良くしよう』と言って近付いても、身ぐるみ剥がされて崖から突き落とされるだけだ。

国同士が対等の付き合いをするには、対等の国力、そして対等の戦力が必要だ。こういう社会レベル、こういう倫理レベルの世界では。

ま、私が健在のうちは、何とかなるだろう。

未来を見据えて、のんびり行くか……。