作品タイトル不明
326 報 酬
懸案事項であった、録音内容確認のバイトに対する、サビーネちゃんへの 報酬(バイト代) 。
アレの要望が決定したらしい。
そして、サビーネちゃんから出された要望というのが……。
「ええ? 私が持っているのと同型の馬車ぁ?」
「うん。私も王女としての役目とか私用とかで、馬車で移動することがあるんだよ。
そして、姉様の馬車の乗り心地を知ってしまった今、いくら王族用で普通の馬車よりは乗り心地がマシとはいっても、……この国の馬車に我慢できると思う?」
「……確かに……」
サビーネちゃんが言いたいことは、嫌というほど分かる。
お尻と内臓に来るんだよね、ここの馬車に乗ってると……。
それも、30分とか1時間とかなら何とか我慢できても、数日とか乗り続けるんだよ、馬車で遠くへ行く時には……。
それも、王都内はともかく、街道とかは道がガタガタなんだよねぇ……。
私も、それが嫌だから、地球で馬車を作らせたんだよ。
確かに、クルマを寄越せだとか、他の地球産のハイテク製品を寄越せとか言われるよりは、ずっとマシだ。サビーネちゃんも、おそらくその辺を配慮して、遠慮したつもりで『馬車』を選んでくれたのだろう。馬車なら、この国で目立つようなおかしなものじゃないから……。
多少外見が変わっていても、王女用の特製馬車としては、そうおかしくはない。華奢で可愛らしい外見だからね、私の馬車は。
……でも、それを報酬にするには、大きな問題点があった。
それは……。
「……高いんだよ……。アレ作るの、メチャクチャ高いんだよ……」
そう、ジュラルミンやチタンを多用し、サスペンションに凝り、弓矢や投槍を防げるようにしてあるから、メチャクチャ高い。窓なんか、ガラスと樹脂素材で多重構成の、第3世代型の防弾ガラスだよ。
クルマとかなら、中古を買えば数十万だけど、これは高いんだ……。
「クルマの10倍とか20倍とかでは利かないんだよ、製造価格……」
「えええ!」
うん、多分サビーネちゃんは、クルマより遥かに安いと思っていたのだろうなぁ。
サビーネちゃんにとって、クルマは超科学の産物、馬車はこの国にもあるやつを少し進化させただけ、とか思って……。
いや、そうじゃないんだよ……。
でも、落とし所としては、確かにいい選択なんだよなぁ。
ただ、高いということだけを除けば……。
私のやつみたいな防弾機能はナシで、サスペンションがしっかりした普通の既製品だと、数百万円で済むか……。
でも、数日間の徹夜仕事に対する報酬としては、論外だよねぇ……。
サビーネちゃんも、まさかそんなに高いとは思っていなかったらしく、固まってるし。
さすがに、こりゃ無理か……。
「……じゃあ、実費は払う、ってことなら?」
「え……」
た、確かに、それならば私としては問題ない。
馬車なら、この世界の文明の進歩を歪めるようなことはないし、いくら高いとはいっても、王女様の馬車代としてであれば、国家予算から見れば些細なものだろう。この国で作ったとしても、ゴテゴテとした飾りやら何やらで、どうせぼったくり価格になるのだろうから……。
「そ、それなら、可能かな……。後で、いくらになるか見積もりを取っておくから、それで王様の許可がもらえれば、だけどね」
私の馬車の時には、何度も検討会議を開いたし、新たな機能を付加するために試行錯誤を繰り返したから、メチャクチャ高くついた。2台目ならば、それよりは安くなるだろう。
「うん、分かった! ……でも、多分大丈夫だと思うよ、ミツハ姉さまの馬車の防御性能を説明すればね。……それと、乗り心地。
後で、とうさまを試乗させてね、姉様の馬車に!」
「あ、うん、それはいいけど……」
* *
「「「承認!」」」
見積もりを見せて、試乗させて、性能や設備について説明したところ、王様、宰相様、財務大臣さんの3人から、一発で承認されてしまった。
いや、いいけどね。実費は全部出してくれるらしいから、私の損失はないし、私の馬車を作ってくれたところに発注するだけだから……。
え?
王様用の馬車と、大臣用の馬車、その他数台を注文したいって?
しょっちゅう遠出をする外交官に、是非この『お尻が痛くならない馬車』を与えたい?
……いや、いいけどね……。
そっちは、手数料取るよ?
防弾仕様とか可愛らしい装飾とかがないならその分は安くなるけど、ゴツくて大型のを作るなら、それなりの価格になるよ。
防弾性能、大きさ、頑丈さ、軽さ、その他様々な性能をどれくらいにするか。
こっちは、 王様達(ユーザー) と細かく相談して、メーカーさんとの調整が必要だよなぁ……。
でも、まぁ、 キャンピングカー(ビッグ・ローリー) を寄越せとか言われなかっただけ、マシか……。
* *
「……で、現物はどこにあるんだ?」
「え?」
ここは、ミツハが帆船建造のために色々と質問に行っている、地球の某国の元帆船技師の自宅である。
知り合った切っ掛けは、ミツハがお孫さん……12歳の少女……と たまたま知り合った(・・・・・・・・・) ことであり、少女の祖父が昔、帆船の建造に携わっていたということを たまたま知った(・・・・・・・) ミツハが是非お話を聞きたいと頼み込んだのである。
そして、『帆船に強い興味を持ち、その建造に関しての知識が門外漢の少女としては異常なまでに豊富であり、玄人はだしの質問を投げかける』という異国風の顔立ちの少女をすっかり気に入った老技師は、孫の友人であるその少女(この国では、孫娘と同じくらいの年齢に見える)が 度々(たびたび) 問い掛けてくる質問に、いつも笑顔で答えてくれていたのであるが……。
「その質問は、実際に造ろうとしてうまくいかなかった者にしか分からねぇ質問だ! 吐け!!
嬢ちゃん、興味本位で色々と聞いているだけじゃねぇだろ!
……造ってるよな、実際に……。
今現在、嬢ちゃんが尋ねているような技術レベルで帆船を造っているような国は 無(ね) ぇ。
いくら大型帆船の建造は金持ち国の道楽みたいなもんだとはいえ、どこも俺くらいの技師は大勢抱えているからな。
そして、造船や技術情報の収集に小娘を使うような 造船所(トコ) は 無(ね) ぇよ!
どこにある、その建造中のフネは? ちょっと、お爺ちゃんに見せてみな? ちゃんとしたアドバイスをしてやるからよ……。
素人だけじゃ、まともなフネを造るのは絶対に無理だぞ。
……ええ、どこだ? どこでこっそりと造ってやがる?
南海の孤島の地下にある、秘密造船所か何かか? え?」
「どこの海底軍艦轟天号かっ!」
……しかし、いくら実物見本があるとはいえ、プロの造船技師がいない状態での大型帆船の建造はさすがに無理があり、かなり行き詰まっていた。さすがに、技術習得用に造った試作小型帆船みたいにはいかない。……あの試作帆船も、外見はともかく、色々と問題点を抱えているのである。
そう、そろそろ専門家の助力が欲しい段階となっているのだ。
また、帆布の問題もある。
小型試作帆船の帆布は、レフィリア貿易を介して新大陸で購入した。
しかし、さすがに大型帆船1隻分の帆布を、造船業界とは全く関係のない小さな新興商会が購入するのは、怪しすぎる。他国への転売を疑われるであろうし、色々と腹を探られるに決まっている。
そして、新造艦だけでなく、全ての帆を失ったイーラスの分や、拿捕艦の替えの帆も必要である。
それに、国産の大型帆船1号艦の帆は、地球産のものを使うつもりであった。
帆船は、帆が命。
なので、艦体の製造技術で劣る部分を、帆の性能でカバーしたいのである。
……そして、ミツハにはそういう業界へのコネがなかった。
この、元帆船技師であれば、そういうメーカーとの伝手があるかもしれない。
「うむむむむむむ……」