作品タイトル不明
324 アイドル大作戦 5
「……あいどる、ごっこ?」
「あいどる、とは何ですの?」
あ~、ここには『アイドル』という言葉がないから、翻訳されなかったか……。
いや、勿論『偶像』とか、『崇拝されるもの』という意味の言葉は存在するのだけど、私は現代日本で使われている方、『若手人気タレント』という意味で使ったから、『該当する単語なし』ということで、そのまま『アイドル』と喋っちゃったわけね……。
「ええと、私の国の言葉で、概ね十代の若い歌い手が熱狂的に持てはやされて大人気になった場合、そう呼ばれます。偶像とか崇拝とか、そういった意味ですね」
「「「「「「おおおおお!!」」」」」」
……いかん、追加燃料を投下した。
「歌姫ですわね! それも、酒場で歌うような 下賤(げせん) な者達ではなく、国立音楽堂で歌うような……」
「あの、我が国の天使、『100万人の妹』と呼ばれる、リンメイ様のような?」
「「「「「「おおおおおおおおおっ!!」」」」」」
……アカン、もう止められそうにないよ……。
ここで異を唱えたりすれば、暴動が起こる……。
* *
「自業自得だよ、姉様……」
「また、おかしな下心でもあって、視野が 狭窄(きょうさく) してたんでしょ、ミツハ……」
状況を説明すると、サビーネちゃんとコレットちゃんに呆れられた。
……いや、ただ幼年組の子達に楽しんでもらい、みんなが仲良くなる切っ掛けになればと思っただけなんだよ、本当に……。
「……で、その『アイマス大作戦』っていうのは……」
「ピー! サビーネちゃん、ピー!! 『アイドル大作戦』だよっ!」
「すごい美人、または目を 瞠(みは) るほどイカす奴……」
「それは、『アイフル大作戦』!! ……っていうか、そんなDVD、うちにあったの?」
「……で、ユニット売りにするの? それとも、ピン売り?」
「サビーネちゃん、どうしてそんな言葉知ってるのよ!」
「大人数のグループで売ると、ひとりひとりの個性が埋没しちゃって、集団としてしか認識されなくなるよ。それだと、今の『ソサエティーの一員』としての状態と変わらないんじゃないの?」
いや、だから、どうしてそんなこと知って……。
「あ! コレットちゃんが入院していた時の、日本邸 入(い) り 浸(びた) りの時! あの時に、勝手にテレビ見たり、お兄ちゃんのDVDやブルーレイのコレクションを観たなああっ!!」
……えっちなのは、ちゃんと隠してあるよね、お兄ちゃん……。
「全員をひとつのグループにしちゃうと、練習とかが大変なんじゃないの? みんな、貴族のお嬢様なんでしょ?」
おお、コレットちゃんから、鋭い指摘が。
いや、サビーネちゃんには敵わないけど、本当に頭がいいんだよね、コレットちゃん……。
英語、日本語、新大陸語を併行して勉強し、どれもそこそこ喋れるようになったという時点で、知ってたけど……。
その他にも、リバーシ売り込み計画の時の発案とか、随所で才能の片鱗を見せていたし……。
「確かに……。みんな、貴族教育やら嫁入り修業やらで、結構大変らしいからね……」
「それに、みんなでグループを作ると、歌も 踊り(ダンス) も壊滅的な姉様の居場所がなくて、仲間外れになっちゃうしね」
サビーネちゃんからの、痛恨の一撃ががが!
「う、うるさいわっっ!」
気を取り直して……。
「じゃあ、全員でやるのはソサエティーとして行動する時だけにして、『アイドル大作戦』としては、ふたりから5~6人までのユニットにするか……。そして、飛び抜けて人気と実力がある者が出てきたら、本人の希望があればピンでやらせてみるかな……」
「うん、そんなトコだろうね」
「賛成!」
よし、それで行ってみるか……。
* *
「ミツハ、孤児院から嘆願書が来ていますわよ」
「え?」
みっちゃん、ソサエティーのお茶会とかの他の人がいる時には私を『ミツハさん』って呼ぶけれど、ふたりだけの時には『ミツハ』って呼び捨てにしてくれるんだよね。それだけ、気を許してくれているのかな。
……まぁ、私の方が年下だと思っているせいもあるのだろうけど。
ソサエティーの他のメンバーは『様』呼びだから、『ミツハさん』でも、みっちゃんとしては親密さを表してくれているのだろうな。
……多分、みっちゃんは無意識でそう呼んでいるのだろうけど……。
「嘆願書? そりゃまた、大仰な……」
孤児院から貴族に書簡が来るということは、たまにあるらしい。寄付のお願いとか、資金集めのためのイベントの後援をしてくれないか、とかの……。
……でも、『嘆願書』となると、ただの『お願い』よりも強い、『 何卒(なにとぞ) 、お聞き届けの程、お願いいたしますううぅ~~!!』ってイメージなんだよねぇ、私としては……。
「……で、内容は?」
「幼年組が演奏会でやった、アレ。アレを、孤児院の子供達でやる許可と、練習の指導をお願いしたい、って……」
「はあああああぁ?」
いったい、どういうことだ? 何を考えて……。
……いや、待て!
孤児院。
幼い子供達が大勢いる。
いつも全員が同じ場所にいるし、時間は充分にある。そして全員が、生きるため、お腹いっぱい食べるためならば、命懸けで頑張るだろう。
そして今、世間では『天使達のダンス』として有名なアレを、桁違いに完成度が高い練度で披露すれば。身綺麗にして、お揃いの可愛い衣装を着せて。
大店のイベントどころか、貴族家のパーティーとかからも 演(だ) し物としての依頼が来るのでは?
そして当然のことながら、大店や貴族の名誉にかけて、お礼として充分な額の寄付がされるに違いない。孤児達が充分な食事をするために必要な、寄付が……。
おそらく、幼年組とは住み分けができるだろう。
幼年組は、貴族のお嬢様達。貴族にとっては、息子の婚約者候補であり、他家との繋がりを強化できる駒。
孤児院組は、ただその場限りの、素晴らしいものを鑑賞して眼福を得、刹那の至福を味わうだけのもの。
……余程気に入った場合は、養女に迎えて、なんて可能性もゼロではないかもしれないけどね。
まぁ、そこまでは行かなくても、御祝儀代わりにと孤児院に寄付してくれる主催者以外の貴族もいるかもしれない。孤児院の危機に際しては、少し助けてやろうと思ってくれたり……。
そして、出演依頼が殺到している幼年組の負担が減る。
さすがに、情報漏洩防止の観点から、孤児院でブルーレイの上映は駄目だろう。
ならば、幼年組に孤児院を慰問させて、手本を見せてあげたり、一緒に練習させる?
貴族の子女と孤児達の交流?
「……承認!!」
「え?」
私がふたつ返事で了承するとは思ってもいなかったのか、みっちゃんは目が点状態。
いや、これは受けるだろう。
……美味しい。あまりにも美味しすぎる!
幼年組の情操教育、平民との交流の場として。
そして、美談として……。