作品タイトル不明
317 陞 爵 2
「……じゃあ、そういうことで……」
「分かった。……しかし、ミツハ、あまり根を詰めすぎるなよ。ちゃんと休んでおるのか?」
「あ、ハイ、一応……」
王都での陞爵イベントが終わり、次は領地でのイベント……周辺の領主や領内の有力者を招いての祝賀パーティー、陞爵に伴う領内の法整備や改変、その他諸々……のためすぐに領地に戻ったボーゼス侯爵様とのふたりきりでの話し合いを終え、今日のところはこれで引き上げることにした。
ふたりきりなのは、アレだ。他の人達に聞かれると、色々と騒がれそうな気がしたから。
話の内容には、もし私の身に何かあった場合には子爵位は返上し、ヤマノ子爵領は王家にお返しすること。そしてその場合、できれば元子爵領をボーゼス侯爵領に組み込んで欲しいと王様にお願いしておくこと等が含まれていたからね。
この国では、爵位を売ったり、血の繋がらない者を養子にして継がせたりすることは認められていない。
領地と領民は、あくまでも王様からお預かりしたものであり、自分のものじゃないから。
継がせられるのは、その貴族家の開祖、初代の血を引く直系の子孫(卑属)のみ。初代の傍系や配偶者、姻族等には継承権がない。
爵位継承権があるのは、あくまでも『貴族たるにふさわしい功績を上げた偉大な人物の血を引く者』だけなのである。
初代の傍系は駄目だけど、現当主の傍系は、初代の血を引いていればOKなので、普通であれば本家が途絶えても後継者は大勢いる。初代から数世代後であれば……。
でも、今の私には、後継者がひとりもいない。
結婚しても、配偶者には継承権がないから、子供ができるまでに私がいなくなれば、ヤマノ子爵家はそこでおしまい、というわけだ。
コレットちゃんやその子孫も、家臣の一族として子爵家に仕え続けることはできるけれど、私が養女にしても『ヤマノ子爵』になることはできないというわけだ。
なので、私が 後継者(こども) を作る前に死んじゃった場合に、おかしな者がここの新たな領主になったりしないように、根回しをしておいたわけだ。
ボーゼス侯爵様や、その跡継ぎであるテオドール様なら安心して領民を任せられるし、イリス様やアレクシス様、ベアトリスちゃん達が、ちゃんとテオドール様を守ってくれるだろうし……。本当は、私が望む者に継がせることができる『裏技』があるらしいのだけどね。それには王様の事前承認が必要だし、普通は滅多に認められることはないらしいけれど、私なら、何とかなると思う。でも、それは最後の手段だ。『忍者部隊月光』での、拳銃に相当する。
ただ、今そんな相談……私が子孫を残すことなくいなくなる……とかをすると、イリス様やベアトリスちゃんが過剰反応して騒ぎそうな気がするから、そのあたりは感情とは別に冷静に判断してくれる侯爵様とふたりきりで話したのだ。
……侯爵様も、あまりいい 表情(カオ) じゃなかったけどね。
これで、 喫緊(きっきん) の用件は概ね終わった。あとは、領地運営とギャラリーカフェ『Gold coin』のフォロー、新大陸での地歩固め、くらいかな。
新大陸の方は、最も探検船団を出す確率が高いヴァネル王国にはガッチリ食い込んだから、そういう話が出れば私の耳に入らないはずがない。
なので、レフィリア貿易と、レフィリアが纏める『女性事業主国際ネットワーク』を使った妨害工作やロビー活動、『ソサエティー』を利用した政治工作、宗教的な世論誘導等を行う時間的余裕は確保できるはず。
地球の各国の方も、私に何かを強要することは不可能だということ、そして私を本気で怒らせるのはヤバいということを理解してくれたらしく、こちらから提供するものだけで我慢してくれているし。……今のところは。
新大陸の偵察やイーラス捜索、艦隊戦とかで偵察機を出してくれた国や、ゲゲゲ姫の国を助けるためにヘリを出してくれた傭兵団とかが過大な報酬を得たのを知って、私には恩を売ったり依頼を引き受けたりするという形で関わった方が得策だと考えたのかな。
私としても、その方がありがたい。
そういえば、あの後、御用聞きというか何というか、自国の航空機の航続距離だとか装甲歩兵戦闘車のスペック表だとかが送られてきたり、フリゲートならいつでも出せますよ、とかいう営業メールが来たりしているのだ。
……いつか依頼する日が来るのだろうか……。
そういうわけで、領地の……、あ!
サビーネちゃんとコレットちゃんへの報酬、忘れてた……。
特に、サビーネちゃん!
本人からの希望であるクルマと航空機は却下したけれど、次に何を要望してくるか分からない。
できれば、本人からおかしな要望が来る前に、こちらから選択肢を示してあげた方がいいかな。あの、無線機と自転車の時のように……。
あ、クルマを却下したのは、維持整備やガソリンとかの問題もあるけれど、勿論、一番の理由は事故が怖かったからだ。
そして航空機は、……価格が高い、滑走路がない、維持整備、危険、その他諸々の障害以前の問題として、そもそも誰も操縦できんわ!
うむむ、危険がなく、あまり高価ではなく、私に被害が来ず、サビーネちゃんが満足してくれるもの……。
うむむむむむむ……。
アカン、思い付かん!!
* *
「ミツハ、例の件の報酬なんだけど……」
キタアアアアァ~~!!
しかし、こっちから提案する件は、全く案が浮かばなかったんだ。
サビーネちゃんは、どんな要求を思い付いたのか……。
勿論、実現不可能なこと、あまりにも難度や私の負担が大きいこと、そして危険なことは駄目だということは理解してくれているはず。……サビーネちゃんだからね。
移動手段関係は、主に危険を理由に、既に却下済み。あのマウンテンバイクで我慢してよ。
常識人であるサビーネちゃんは、あまり無茶は言わないはずなんだけど……。
「大型冷蔵庫、冷凍庫、電子れんじ、がすれんじ、水洗といれを要求する。それと、冷凍食品、にほんの食材、おやつの定期的な補充ね!」
「何じゃ、そりゃあああああ~~!!」
それは、あまりにも私の負担が大きい!
いや、モノ自体はいいんだ。今の私には、大した金額じゃない。
でも、水洗トイレとか、浄化槽の設置工事の他に、定期的な清掃や点検を行う必要がある。
年に1回以上、専門の清掃業者に連絡してそれらを実施しなきゃならないし、数年ごとに交換しなければならないパーツがある。
そう、維持整備が大変なんだよね……。毎年業者を この世界(こっち) に連れてきて整備してもらうわけにはいかないよね、さすがに……。
私の領地邸とか雑貨屋ミツハに設置するなら、私が自分で整備したり、整備の時だけシステム全体を日本邸に転移させたりと、色々な方法がある。
でも、王宮に設置したのでは、それも難しいだろう。
子爵様、それも『救国の大英雄、雷の姫巫女様』が、毎年王宮でトイレの整備をするというのは、さすがにマズいだろう。
それに較べると家電の提供は簡単だけど、これだけの電力を賄うには、今のサビーネちゃん用ソーラー発電システムでは到底不可能だ。 雑貨屋ミツハ(うち) に匹敵するシステム、つまり家庭用燃料電池……LPガスによる発電システムや、もっと大容量の蓄電池、制御盤とかが必要になる。
……そして勿論、定期的なガスボンベの交換も……。
あまり設備が大規模になると、事故も怖い。感電、電気火災、ガス漏れとか……。
何せ、こういう文化レベルだ。汗で濡れた手で電気が流れている部分に触れたり、夜間にガス臭いから原因を調べようとしてロウソクの火を近付けたりとか、平気でやるだろうからなぁ……。
それに、そこまで行くと、サビーネちゃんだけのための秘密の 魔導具(アイテム) の域を超えてしまい、王宮中で噂になったり、他の王族や貴族連中からの『うちにも欲しい!』という要求が来たりするかも……。
王族と言っても、話が分かる常識人である王様一家だけでなく、王位継承権がある親族は大勢いるだろうからね。中には我が儘を言う人や、王族が言うことは全て通ると勘違いしている人もいるかもしれない。
とにかく、あまりにも面倒事が大き過ぎるということだ。
……いや、気持ちは分かる!
地球の便利道具に慣れ、快適なトイレ生活を知ってしまった今、王宮での生活が苦痛に思えるのは……。
そして今、サビーネちゃんが一番欲しているのは、飲食関係とトイレだということは、よ~く分かる!
地球の美味しい飲食物に慣れ、そして快適なトイレに慣れたサビーネちゃんにとっては、王宮にあるであろうぼっとん便所や、真ん中がくり抜かれた椅子の下に壺が置いてあるやつとかは、耐え難いのだろうなぁ。以前は何も気にせずに使っていたものであっても……。
何せ、コレットちゃんですら実家のトイレを耐え難く思ってしまっているらしいのだから……。
でも、電気ポットとお風呂関係はメイドさん達の仕事を奪うことになるため自粛したらしいのは、さすが平民にも気遣いのできるサビーネちゃんだ。
……まあ、平民であればともかく、王女様であるサビーネちゃんには、そのふたつはこの世界のもので充分だけどね。
シャンプー(リンス成分入り)とボディシャンプーは、しっかりと雑貨屋ミツハで購入してるから……。
「水洗トイレは、ここには下水道がないから浄化槽とその後の排水場所が必要だし、維持整備が大変だから、物理的に実現不可能のため、却下!
電化製品は、 神力(でんりょく) が足りないから、今以上のは無理。
冷蔵庫は、既に小型のがあるじゃない。それに、定期的な食べ物の補充とか、いくら実費を払ってもらうにしても、面倒過ぎるよ。せめて2~3カ月とかの期限付きじゃないと……」
そう、既にサビーネちゃんには小型冷蔵庫、LEDライトスタンド、小型扇風機を与えてあるのだ。……それと、無線機が2台。
おそらく、今のソーラー発電システムと蓄電池では、現状で一杯一杯だと思われる。
特に、小型冷蔵庫が電気を喰っているだろうからね。
「…………」
あれ? サビーネちゃんの反応がちょっとおかしいぞ?
いつもなら笑いながら交渉するのに、何だか、マジモードだ。……おまけに、ちょっと暗い。
……あ! これ、確かにお菓子や食材が欲しいというのも本音だろうけど、本当は、私の定期的なサビーネちゃんの部屋への訪問、……そして私がどこかへ行っちゃわないようにと『約束で私を縛る』というのが本当の目的だったのかも……。
いかん、対処を間違えた?
いや、でも、そのまま呑めるような要求じゃないから、却下する以外の選択肢はなかったよね?
どうしようもないやん……。