軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

316 陞 爵 1

陞爵(しょうしゃく) である。

……いや、私じゃないよ、ボーゼス伯爵様だよ。

まあ、既に決定されていたことだから、驚くようなことじゃない。

ボーゼス伯爵様は、人格者だし、領民に慕われているし、王都から遠く離れた田舎で周辺の小さな男爵領や子爵領の支援をしながら堅実な領地運営をされているから、出世しても全然おかしくはない。

でも、普通であれば、そう簡単に陞爵できるようなことはないらしい。

当たり前だ。

貴族家は、一族郎党が滅びるかお家お取り潰しにでもならない限り、ずっと存続する。

そうホイホイと新興貴族家を立てたり陞爵させたりすると、あっという間に貴族だらけ、上位貴族だらけになってしまう。

貴族が増えると、領地、貴族年金、役職等がどんどん必要になるし、その子供や孫、その他諸々の『貴族としての待遇を要求する者達』がネズミ算式に増えてゆく。

……そんなの、国の負担が激増して、どうしようもなくなっちゃうよ。

でも、ボーゼス伯爵領は、探検船団に対する対処、接収した3隻の船に関する権利や帰化した乗員達の領民化、そして海軍基地と造船所の保有、銃や大砲の研究開発と、この国の、いや、この大陸の未来を 担(にな) う超重要な一大拠点と化した。

なので、利権目当ての他の貴族達からちょっかいを出されないように。そして他国からの干渉もはね返せるようにと、侯爵位に陞爵させるのは当然の対処だろう。

それに、帝国からの侵略の際にいくつかの貴族家がお取り潰しや降爵になっているから、ボーゼス家の陞爵はそのバランス取り、穴埋めとしても丁度良かったのかもしれない。

私やアレクシス様の叙爵も、その関連で認められたのかもね。

とにかく、貴族家の新規叙爵や陞爵なんて、普通はそうそう簡単に認められるようなものじゃないらしい。

……そりゃ、御先祖様が貴族になれたのと同じ、いや、それを上回る功績を上げないと、今より上の爵位にはなれないよねぇ。

そんなの、どんな無理ゲーだよ……。

あ、功績的には、私も伯爵位に陞爵して当然であり、事実そういう話も出たらしいのだけど、この国では平民であった私が子爵に叙されたばかりなのに、連続して伯爵位に、というのは、さすがに少々マズいらしかった。

それでも雷の姫巫女様に陞爵を、という声はあったらしいのだけど、私を跡取りである長男の嫁に、とか考えている伯爵家や子爵家の人達が、私が伯爵になっちゃうと家格的な釣り合いの問題で嫁にしづらくなるからという考えで反対したらしいのだ。

……うん、グッジョブ!

伯爵になっちゃったら、さすがに領地がこの小さな元男爵領のままというのは問題があるだろうし、かといって、今更この領地を離れてどこかの広い伯爵領で最初からやり直し、というのも嫌だ。

そもそも、私が『小さな領地がいい』と言ってここを貰ったというのに、台無しだよ。

まぁ、王様達も私は婿取りじゃなくてどこかへ嫁に行くと考えているのか、無理に私の爵位を上げようという気はないみたいだ。

私の価値というか、名声的には、何人もいる『伯爵様』ではなく、たったひとりしかいない『救国の大英雄、雷の姫巫女様』っていう肩書きだけで充分であり、お釣りがくるからねぇ……。

まあ、そういうわけで、ボーゼス伯爵様にとっては、遥か昔に新興貴族となった御先祖様に匹敵する功績を認められたということであり、一世一代どころか、前後数世代において一度あるかないかという晴れ舞台である。

そりゃ、気合も入ろうというものだ。

あの伯爵様が、結婚式前日の花婿のようにソワソワしているのは、ちょっと笑える。

……で、伯爵様から頼まれてるんだよねぇ、祝賀パーティーの料理の準備……。

式典は、当然のことながら王宮で行われ、私はボーゼス家に関係が深い貴族として普通に参列するだけ。

さすがに、そんな式典で余興の寸劇をやったり花火を打ち上げたりはしないよ。

勿論、サビーネちゃんやルーヘン王子のデビュタント・ボールのために考えているやつとかも、絶対に使わない。そんなの使っちゃったら、ふたりの時に使うネタが本当になくなっちゃうからね。

まぁ、今回の伯爵様の陞爵理由には私が大きく関わっているから、式典に呼ばれるのは当たり前か。

それがなくても、私にはただの子爵家当主という肩書きの他に、『救国の大英雄、雷の姫巫女様』っていう肩書きがあるから、新たな侯爵が誕生する式典に呼ばれないということはあり得ないだろうけどね。

と、まぁ、そういうわけで、パーティーだ。

いや、式典は無事、何事もなく終わったよ。

余計なことなど介在する余地のない、ガチガチの行事だったね。

そしてボーゼス伯爵……、いや、侯爵様に頼まれていた料理は、アデレートちゃんのお 家(うち) 、ライナー子爵家からのお手伝い部隊と、ベアトリスちゃんのデビュタント・ボールの時にヤマノ料理を学んだボーゼス家の料理人が頑張って作ってくれた。

いや、さすがに、こんな日に私が裏方として調理場の陣頭指揮を 執(と) ったりはしないよ。

正式な参列者である私、『救国の大英雄、雷の姫巫女様』にそんなことをさせちゃあ、ボーゼス伯……侯爵様の評判が、陞爵早々、ダダ下がりだ。

いや、ベアトリスちゃんのデビュタント・ボールはいいんだ。

あれは、ただのひとりの少女である私が、親友である女の子のために個人的に協力しただけだから、微笑ましい少女同士の友情物語で済む。

そしておそらく、私のデビュタント・ボールの時にはお返しに『聖女、ベアトリス様』が寸劇か何かに友情出演、もしくはカメオ出演でもしてお返しするのだろうとでも思われているのだろう。

……でも、今回のは、そういうわけにはいかない。

陞爵、それも伯爵位から侯爵位への陞爵のパーティーなんて、友情とかなんとかでどうこうできるようなものじゃない。

今日の立場は、それぞれの貴族としての力関係、派閥関係を表してしまう。

そんな日に、私が裏方の作業員なんかした日にゃ、後で貴族連中に何を言われるか、分かったもんじゃない。

そもそも、私と伯……侯爵様とでは、『友情』で済ませるには歳が離れすぎているしね。

とにかく、そういうわけで、事前の協力は惜しまなかったけれど、今日の私はただのパーティー参加者のひとりであり、裏方作業にはノータッチ。

ま、昨日のうちに日本製の食材やらスイーツやらを大量に渡しておいたので、問題はない。

もう、ライナー家のマルセルさん達は、アデレートちゃんやベアトリスちゃんのデビュタント・ボールで出した料理は完璧に作れるし、その他の地球の料理や、それらを自分達でアレンジした新作料理とかも作れるようになっているから、海魚とか高級黒毛和牛とかバルバリー種の鴨肉とかの食材を渡せば、宮廷料理人など足元にも及ばない料理の数々を作ることができる。

……いや、そうなったのは、この国では到底入手することのできない食材と、同じく私が無尽蔵に提供する、『使い放題の、様々な香辛料やハーブ、調味料』の力が大きいことと、見本となる料理を私が食べさせ、レシピも提供したというのが大きい。

だから決して、宮廷料理人の腕が悪いというわけじゃない。もし宮廷料理人達に私が同じ物を提供したならば、彼らはもっと凄い料理を作れるかもしれないのだから……。

というか、宮廷料理人さん達に申し訳ないな。

おそらく、王族やお城でのパーティーに招かれた貴族の皆さんが、ヤマノ料理と比較して色々と批評するに違いない。

イカン、何か救済措置をしないと、宮廷料理人の皆さんの立場が……。

「……いや、そこまで心配する必要はないだろう。彼らもその道のプロなのだ、それくらいは自力で乗り越えられる。下手に同情するのは、プロに対する侮辱になるぞ」

「あ、王様……、って、どうして王様が今ここにいるんですか! 王様って、パーティーが始まってしばらく経ってから、『国王陛下のご入場です!』とか紹介されて登場するものなんじゃないんですか? それに、どうして私が考えていることが分かるんですか?」

「いや、さっきから声に出ていたぞ……」

また、それか~い!

「そして、後でちゃんとそういう登場の仕方をするぞ。しかし、その後は皆と話したり色々とあって自由に料理が食べられんからな。

だから、新作のヤマノ料理を食べるためには、今のうちに動くしかないのだ……」

「そんな理由かいっ! ……あ、そういえば、王冠かぶっていませんね……」

「ああ、今は『国王としての行動』ではないからな」

「王冠かぶってない時は、非番扱いか~い!! ……って、どうしてサビーネちゃんがいるのよっ!」

何か、ちょっと離れたところで、サビーネちゃんが料理をパクついている。

ティアラ着けていないから、サビーネちゃんも今は王女としての仕事中じゃないってことか。

私に子爵位の授与をしてくれた時には、ちゃんと着けてたよね、ティアラ。 第二王女(ちぃ姉様) も、 第一王女(上姉様) も……。

あ、そのふたりも、向こうで食べてる。

回りのみんなは、今は話し掛けちゃいけないのか、邪魔をする様子はない。

……いつものことで、慣れてるのかな?

「そんなわけあるか! 今日だけだ、ヤマノ料理の新作が出ると聞いたからな。

普通の料理なら、料理長に言えばいつでも好きなものを作ってくれるわ!」

「あ、それもそうか……」

どうやら、いつもこんなみっともないことをしているわけじゃないらしい。

当たり前か……。

そして、また口に出ていたか。

まあ、とにかく、今日は私の出番はない。

ただのパーティー参加者のひとりとして、普通にのんびり……できるわけがないか。

貴族のパーティーは、宴会とは違う。社交の場、……つまり、仕事の場だ。

あちこちに挨拶して、領地の生産物を売る商談やら、ボーゼス侯爵領との取引の仲介を頼んでくる相手に交換条件を持ち掛けたりと、色々と業務活動、営業活動をしなきゃならないのだ。

世の旦那さん達が飲んで帰ってくるのも、仕事の一環だったりするから、奥様方はあまり怒らないであげて欲しい。

……とにかく、大した出来事もなく、ボーゼス伯爵様は『ボーゼス侯爵様』にジョグレス進化した。

これで、当分は大きなイベントはないだろう。

そろそろ、領地の方の仕事を進めなきゃなぁ……。