作品タイトル不明
315 新たなる作戦 4
「……え?」
敬虔(けいけん) な信者達が祈りを捧げている、神殿の『祈りの間』。
皆、前方に設置されている女神像に向かって祈っているため、初めはそれに気付く者はいなかったが、そのうち、ふと視線を上げた者の眼に、それが映った。
そして、 怪訝(けげん) そうに上げられたその声に、他の者達も視線を上げ……。
「「「「「「ああっ女神様っ!!」」」」」」
そう、そこにあったのは、『祈りの間』の壁の高いところ、ステンドグラスの下の装飾部分の出っ張りに腰掛けた、ひとりの、……いや、 一柱(ひとはしら) の女神の姿であった。
金髪のウィッグとカラーコンタクトを着け、顔や手足の露出部分に白人用のファンデーションを塗り、頭にティアラ(模造品)を載せ、更に頭上には光がぐるぐると回る輪っかを浮かべた、その姿……。
身に着けている衣服は、白くひらひらした、いかにも『女神様です!』と言わんばかりのやつである。更に、背には白い翼付き。
翼はかなり頑丈に作られており、衣服の下で、ハーネスによって身体にがっちりと固定されている。
そして……。
『 私、顕現(アピア) !』
胸元に付けられたピンマイク……送信機本体は腰に装着しており、服の中を通した細いケーブルで繋げられている……により、昨夜のうちに天井近くに仕掛けられたスピーカーから大音量でミツハの声が流れる。
『敬虔なるしもべ達よ、我が宣託を聞くが良い!』
「「「「「「ははぁ~~っっ!!」」」」」」
一斉に平伏する、信者達。
それはそうであろう。
つい先程まで、そんなところには誰もいなかった。
そして、これだけの人数の前で、誰にも気付かれることなくそのような場所に 上(のぼ) れるわけがなかった。
……いや、たとえ気付かれてでも、少女が素手で上れるような場所ではない。そこまで上るための足掛かりも何もないのであるから……。
誰にも気付かれることなく、一瞬のうちにそんなところへ出現できる者。
もう、それだけで女神か御使い様扱いされて当然であるというのに、更に、その者が背には純白の翼、頭上には光り輝く輪っかを冠し、大声で怒鳴っているわけではないのに広い祈りの間の隅々にまで響き渡る声で話し掛けられては、もう、疑おうとする気さえ起きないのも当然であろう。
『我が神意を受けて人の世に善意と幸せの輪を広げようとする者達の邪魔をする、悪党がいる。
お前達の手で、何とかせよ!』
そして、ソサエティーのメンバー達が受けている被害を都合良く説明し、メンバーの少女達が望む婚約話はOK、望まない話のゴリ押しはNG、打診は構わないけれど強要は駄目、断られたら素直に諦めること、との宣託を下した、女神様。
そして、腰掛けていた壁の出っ張りの上に立ち上がり……。
『では、さらばじゃ。とおっ!』
そう叫ぶと、女神は出っ張りから飛び出し、宙に舞い……。
「「「「「「消えた……」」」」」」
翼が頑丈に作られ、身体にしっかりと固定されていたのは、このためであった。
ただの扮装であれば、そんなに頑丈に作る必要はなかった。
しかし、ほんの一瞬とはいえ、宙に舞った瞬間に破損しないだけの強度が必要だったわけである。
そして、転移の時に天井の四隅に仕掛けてあったスピーカーも連れて行き、翼にくっつけていた数本の本物の鳥の羽根は残したため、女神が消えた後、ひらひらと数本の純白の羽根が舞い落ちた。
その後、落ちてきた羽根の壮絶な奪い合いが始まり、阿鼻叫喚の大騒ぎとなってしまったが、神官達の必死の叫びで何とか騒ぎは収まり、羽根は全て神官の手で回収された。
……残念ながら、羽根は全て、奪い合いによってかなりボロボロになってしまっていたが……。
その日は、王都の神殿で月に一度の大神官様の説法がある日だったため、貴族の参列者も多かった。
……勿論、それが分かっていて、その日を狙ったのであるが……。
そのため、この大事件は、あっという間に貴族や王族の間に広まった。
当然のことながら、平民の間にも。
たとえそういう日ではなかったとしても、結果は同じであっただろうが……。
そして……。
* *
「婚約のゴリ押しをしていた侯爵家が、引き下がりましたわ!」
「うちも、いけ好かない中年の伯爵が、私を後妻にと強要していたのを取り下げましたわ!」
「私も、無理矢理婚約させられそうになっていたのが、何とか逃げ切れそうな様子です!!」
……どうやら、上手く行ったらしい。
窮地に陥っていた6人を始め、他のメンバー達も意に染まぬ婚約話は無事蹴れたらしい。
本人は嫌がっているけれど両親が乗り気な話は、貴族の娘というものは自分の感情とは関係なくお家のために嫁ぐもの、というのが常識であるため、『お家にとって望ましい』、『親が望んでいる』ということは、即ち『本人の望みである』と解釈されてしまうが、そのあたりは神殿での『女神からの、神意の伝達』によってしっかりと説明されていたため、大きな問題はなかった。
上位貴族や羽振りのいい貴族からの婚約申し入れがあったため驚喜していた両親達は死にそうな顔をしていたらしいが、さすがに、目先の利益よりは、女神に睨まれることを避ける方を選んだらしかった。
……まあ、当然のことだろうけどね。
とりあえず、これにて一件落着!
……あ。
「皆さん、勘違いしては駄目ですよ!
自分が望めば、嫌がる相手でも結婚できる、とか考えて、罪のない殿方にゴリ押しや強要をしては駄目ですからね!!」
前にも言ったけれど、もう一度、念押ししておこう。
「「「「「「…………」」」」」」
何だよ、その、無言で俯くという反応は!
……オマエラ、怖いわっっ!!
最近、ちょっとメンバーの子達、調子に乗り過ぎてない?
最初はみんな、貴族の子女としての自覚がある、良識的な良い子達だったのに、何だか最近は『自分達は女神様にコネがある、特権階級だ!』みたいな感じになってきたような……。
船魂やら御使い様やら女神様やら、ちょっと乱発し過ぎたかな?
う~ん、そのうち、何か『しっぺ返し』がありそうな気がして、不安だなぁ……。