作品タイトル不明
313 新たなる作戦 2
「うむむむむむむ……」
相手が明確な悪党、犯罪者であれば、色々とやりようもある。
でも、こういうのは難しいんだよなぁ……。
強制して無理矢理、という形じゃなくて、遺恨の残らない形で自主的に 退(ひ) いてもらわねばならない。そして、女性側に 傷が付く形(・・・・・) にならないように……。
それも、相手がひとりやふたりならばともかく、かなり多くて、ひとり排除してもまたすぐに別の者が、となると、きりがない。だから、特定の個人に対する罠や 搦(から) め手とかは無意味だし……。
貴族のお家に関することだから、他国の貴族である私や、侯爵家の娘としてのみっちゃんが口出しするのはマズい。せいぜいが、ソサエティーの仲間として本人に少し助言できる程度だ。
「うむむ、どうすべえ……。みっちゃん、何かいい案はない?」
「また、無茶振りを……。
そうですわね、まず、ゴリ押ししてくる先方に『うちのメンバーと結婚しても、メリットがない』、もしくは『大きなデメリットがある』と思わせ、しかし現在の婚約先には切られないよう、そちらにはメリットがあると思っていただく方法、ですわね」
「おお! で、具体的には、どうやって?」
「それは、あなたが御自分で考えるのですわ」
「そんな無茶振りされても……。みっちゃん、思ったより使えねぇ……」
「それはこっちの台詞ですわよっっ!!」
あ、怒った……。
「軽いジョークじゃん……、って、ごめん、私が悪かった!!」
いかん、本気で怒ってる!
* *
これはマズいと思ったのか、慌てて私とみっちゃんの間に割り込んで、紅茶のお代わりを入れてくれたメイドさん。
やはり、上級貴族家のメイドさんは違うねぇ。
主人と奥様がいない時には、 家令(スチュワード) か 執事(バトラー) が家の差配をするのだろうけど、さすがに御令嬢とその客である友人の歓談の場に立ち会ったりはしない。
だからここには給仕役と何か用事を言いつけられるのに備えてメイドさんがふたり控えているだけなんだけど、そのふたりが、まるで示し合わせたかのように同時に、さっとティーポットを差し出して、紅茶を 注(つ) ぎ足してくれたのだ。
……勿論、そうすれば私達がいったん口を閉じるからだ。
「…………」
そして、メイドさん達の意図を察して、紅茶を注ぎ終わった後も黙ったままのみっちゃん。
うん、使用人からの、こういった『余計な真似を、といって不興を買い、怒られる危険を冒しての配慮』を素直に受け入れるというのは、高慢な貴族の馬鹿娘にはできないよねぇ……。
さすが、みっちゃん。
さすみつ!!
……って、全部私のせいじゃん!
いや、ごめん!
というわけで、メイドさんに軽く頭を下げて感謝の念を伝えて、仕切り直し。
「とりあえず、婚約話殺到の理由だけど……。
他には出回らせていない高級化粧品と化粧技術のせいで、圧倒的な美貌……に見えること。
メンバーはヤマノ製品が優先的に買えること。……自家消費分だけだけど……。
ウェンナール男爵領救援作戦と、輸送隊を護った神兵、そして女神からのお言葉で、聖女扱い。
あと、ノーラル王国との海戦における大勝利も、うちの子達の祈りのおかげだという話がある。
つまり、うちのメンバーを嫁にすると、 ヤマノ子爵(わたし) と女神様の両方にコネができるというわけよね。そして、本人が凄い美少女。
……アカン。メリットあり過ぎて、諦めさせる方法が何も思い付かん!」
私の状況分析に、みっちゃんも困り顔だ。
「……あ! そういえば、結婚すれば ヤマノ家(うち) から家族分の商品が優先的に買えるという権利が婚家に移る、という『早く結婚させられることを抑止する効果』のことは……。
以前にも、婚約話がたくさん来て困ってる、って話が出たよね? その時に、家族にそう言えば結婚話がなくなるだろう、って言ってたよね?」
「それは、『結婚すれば』ですから、結婚を遅らせる効果はあっても、婚約の抑止効果にはならないでしょう。現在の婚約を破棄させての乗り換えに対する効果はありませんわよ。
それに、御自分の家族に対する抑止効果はあっても、相手側にとっては逆に、早く結婚させたいという理由にしかなりませんわよ」
「あ、なる程……」
駄目か……。
「それに、先方から『結婚後、購入枠の半分は実家の皆さんに提供する』とか言われれば、御家族への抑止効果もあまりなくなるかもしれませんわ」
「あ……。そりゃ確かに、いつまでも嫁に出さないわけにはいかないから、あまりにも早い結婚はある程度抑止できても、程々の年齢になれば、それにも限界があるか……」
うむむむむ……。
駄目だ、いい案が浮かばない。
「その件は、後日……。とりあえず、今日は次のお茶会の打合せを進めよう……」
うん、焦っても、いい考えは浮かばない。
今日のところは、急ぎの用件を進めよう。
* *
「そんなの、御使い様にお願いすればいいでしょ?」
「うん、そうだよね」
「……え?」
火薬の爆発事故で 地球(ロンドン) の病院に入院した技術者のふたりは、既に退院して、こっちの世界に戻っている。
左腕をなくした人は、その他の怪我は少なかったし、意識不明だった人も、出血多量が主な原因だったから、輸血や輸液で持ち直した後は、そう長期の入院が必要だったわけじゃなかった。
……そして、引き延ばしに関してはかなり強く警告しておいたし、向こうも『ちゃんと対応しておけば、また次の患者を連れて来てくれるだろう』と期待したのか、少ないサンプルで引き延ばすより多くのサンプルを手に入れた方が得策だと考えたのか、ちゃんとマッコイさんの予想期間内に退院させてくれたのだ。
なので、今はサビーネちゃんもコレットちゃんも、通訳と付き添いの任を解かれ、フリー。
いや、それぞれ、王女教育と家臣教育はあるけれど……。
そういうわけで、今日はサビーネちゃんを領地邸へ連れて来て、私の私室でふたりに相談しているわけだ、例の『婚約ゴリ押し対策』について。
正直、この件に関しては、コレットちゃんが役に立つとは思っていなかった。
ただ、最近ふたりには色々なお願い事をしてばかりで、コレットちゃんの病室以外では3人一緒にまったりすることがなかったから、まぁ、3人でいる時間を少しでも増やそうとしただけだ。
コレットちゃんにも、別に身体を張らなくても私の役に立てるのだと思わせたかったし。
私がアイディア提供者として期待していたのは、サビーネちゃんの方だ。
……そして出たのが、この意見。
「女神様は、ソサエティーの活動と、そのメンバーに対して好感を 抱(いだ) き、祝福を与えてくださっている、という設定なんでしょ? なら、メンバーの意に染まぬ婚約を強制する者に対しては不快感を抱かれる、ということなんじゃないかな?
それなら、メンバーが望む婚約については支障ないし、望まぬ婚約なら、現在結ばれているやつでもゴリ押しされるやつでも駄目、ってことにならない?
メンバー側が嫌がるものは、相手側が強要するものも、親が強要するものも、全てアウト。
そしてメンバー側が望むものは全てセーフ、ってことに……」
「お……、おおおおお!」
勿論、ここでサビーネちゃんとコレットちゃんが言っている『御使い様』というのは、私のことだ。……つまり、私にそういう役割をやれ、って言ってるわけだ、あの、『イーラス』救助作戦の時のように……。
「……で、その『御使い様にお願いする』っていうのは、具体的には、どのようにすれば……」
「「それは、自分で考えてよ!!」」
「あ、やっぱり?」
……うん、知ってた……。