作品タイトル不明
312 新たなる作戦 1
「みっちゃん、いる~?」
「……また、あなたはアポなしで突然……。
で、妹さんのご容態は?」
今日、みっちゃん2号のところへ来たのは、次のソサエティーの打合せのためだ。
いや、購入物の準備とかもあるけれど、その他にも、議題やらお知らせ事項とか、事前にみっちゃんとは色々と打合せをしておくよ、勿論。
そして、一番にコレットちゃんのことを心配してそう聞いてくるところが、みっちゃんの優しいところだ。
喋り方がちょっと高慢っぽいのは、上級貴族の娘として、舐められたり馬鹿にされたりするわけには行かないからだろう。みっちゃんは、本質的には、優しくて良い子なんだ。
「コレットは退院したよ。もう、飲食も普通にして大丈夫。……傷はかなり残っちゃったけど……」
「……そうですか……」
ちょっとみっちゃんの表情が暗くなった。
まあ、貴族や王族の少女が、身体に大きな傷が付いちゃったらねぇ……。
本人は、そんなの全然気にしていないどころか、喜んでるんだけど。
……って、コレットちゃんは貴族でも王族でもないか。
平民にとっちゃあ、多少の傷痕なんか、関係ない。
主君を護った時の傷なんか、コレットちゃんが言う通り、勲章だ。
私だって、コレットちゃんやサビーネちゃんを護ってできた傷ならば、皆に誇るだろう。
……まぁ、どんな怪我をしても傷痕残らないけどね、私の身体……。
今日は侯爵は不在らしく、姿がない。夫人もいないみたいだから、どこかのパーティーか何かかな。
あ、ボーゼス伯爵様やイリス様と違って、ミッチェル侯爵には心の中では敬称を付けたりはしないよ。口に出す時には、そりゃその場にいる人や状況によるけどさ。
「で、次のソサエティーのお茶会だけど、何か問題点とか議題に挙げたいこととか、ある?」
「問題点、ですか……。まあ、あると言えば、あるのですが……」
「え?」
一応、聞いてはみたけれど、本当にあるとは思わなかったよ、問題点……。
侵略行為も潰して、心配事はもう何もないと思っていたのに……。
「どんな問題があるの? 今は上手く行っていると思っていたのに……」
「その、上手く行き過ぎている、ということですわ、問題点は」
「え?」
何じゃ、そりゃ! 上手く行ってるなら、問題ないじゃん!
「……上手く行き過ぎて、他の貴族の娘達との差が開き過ぎましたわ。お化粧の技術も、団結心も、そして貴族や民衆達からの評価も……。
今や、ソサエティーのメンバーは、女神のしもべか御使い様、聖女扱いですわよ。
なので、婚約者がいない方には、えげつない程のお申し込みが……。
そして婚約者がいらっしゃる方も、男爵家や子爵家の方がお相手のところには、伯爵家や侯爵家からの割り込みが……。
婚約相手が、ただの政略結婚であったところはまだ良いのですが、中には、領地が隣同士だとか、家が寄子・寄親の関係とかで、幼馴染みで本当に仲の良い方達もおられますのに……。
そこに、派閥やら生産物の取引やらで圧力を掛けて、無理矢理横から奪い取ろうという……」
あ~、なる程……。
いくら伯爵家や侯爵家の娘であっても、みんながみんな、自分の家と同格や格上の貴族家の跡取り息子と結婚できるわけじゃない。……特に、次女や三女、四女とかになると……。
子爵や男爵家の子息であっても、跡取り息子であればラッキーな方であり、爵位を継げない次男以下の者との縁談も多いだろう。
そこに、上位貴族が自分の息子をゴリ押ししてきたわけか……。
……いかん!
いかんいかんいかん!!
可愛い少女を泣かせることは、たとえ神が許そうとも、この私が許さない!
……可愛くない少女なら、泣かせてもいいのか、って?
いや、女の子はみんな、少女だというだけで可愛いんだよ!
外見とかは関係ない。『少女』という存在そのものが可愛いんだよ!
ヒヨコや手乗りぶんちょがみんな可愛いのと同じだよっ!
山野家(うち) は、犬も猫もヒヨコも文鳥も、みんな飼ってたよ。
ヒヨコなんか、小学校の校門前で売っていたカラーヒヨコを、卵産むとこまで育てたからね。
…… カラーヒヨコ(ああいうの) は、全部雄じゃなかったのかよっ!
初生雛(しょせいびな) 鑑別師(かんべつし) 、頑張れよっ!!
「でも、今まで『お申し込み殺到』って嬉しい悲鳴みたいなことは聞いてたけど、そんなに困ったようなことは……」
「そりゃ、それぞれのお家の事情ですもの、ドロドロしたことは言いにくいですわよ。
それに、中には良縁が来たと喜んでいる方もおられますから、それに水を差すような発言は……」
「なる程、そりゃ言いにくいか……」
「今まではそれ程切羽詰まった状況ではなかったのが、いよいよ追い詰められて、どうしようもなくなってきた者が出始めたようですわね……」
うむむむむ……。
「あ、みっちゃんは? みっちゃんは大丈夫なの?」
そう、みっちゃんも、元々そういうのに困っていたはずだ。それが更に悪化しているんじゃあ……。
「私は、お父様が王族か公爵家、侯爵家あたりにと望まれていますし、婚約者も、幼馴染みの仲の良い殿方などもおりませんわよ。
我がミッチェル家のためには王太子殿下あたりを狙うべきなのかもしれませんけど、あの方は、ちょっと……。私としましては、第二王子殿下か第三王子殿下の方が……、って、何を言わせるのですかっ!!」
いや、知らんがな……。
みっちゃんが自分で勝手に自爆しただけじゃん!
王太子殿下って言うと、アレだ。パーティー会場に別名での子爵を名乗ってお忍びで来て、公衆の面前で私のスリムな体形に対して暴言を吐いてくれたヤツ。
……まあ、確かに、アイツはねぇ……。
会ったことがないけど、第二王子と第三王子はアレよりはまともなのか……。
みっちゃん、人を見る目はありそうだものね。
「まぁ、そういうわけで、伯爵家以下のところからの申し込みには塩対応でした私のことは諦めて、ソサエティーの他のメンバーに乗り換えようとした方が多く、私は 却(かえ) って楽になりましたの。
それもあって、割を食った方々に申し訳がなくて……」
そう言って、どんよりとした顔をするみっちゃん。
そんなのに責任を感じることないのに。
やっぱり、みっちゃんはいい子だなぁ……。
……しかし、困ったなぁ。
派閥の圧力とか領地間の商取引を盾に、って言ったって、そんなの貴族にとっては普通の駆け引きに過ぎない。別に卑怯だとか犯罪だとかいうわけじゃないし、文句を言われる筋合いのものじゃないだろう。
それに、本人同士はともかく、親は上位貴族からの割り込みの申し込みを歓迎し、喜んでいる場合もあるだろう。
貴族の結婚なんて、本人同士の 惚(ほ) れた 腫(は) れたとかは関係なく、お家同士の繋がり、政略結婚が当たり前だからねぇ。貴族の娘として、税金を使った贅沢な暮らしをさせてもらっているんだから、それに文句を言うのは筋違いだ。
それが嫌なら、貴族の身分を捨てて、駆け落ちなり出家なりすればいいんだよ。
……しかし、結婚すればソサエティーを卒業とか、婚約のゴリ押しをしてくる貴族にはヤマノ子爵家やソサエティーからの反撃やペナルティを、とかいうわけにも行かない。
ソサエティーの影響力を貴族界に強く及ぼすためには、嫁入り後もメンバーとは繋がっている必要があるからね。
そして、普通に本人が納得して結婚する場合や、現在の婚約者が嫌な奴で、婚約破棄して別の者との婚約を望んでいる子とかの障害になるような真似はできない。
うむむむむ……。
「みっちゃん、何かいいアイディアはない? 多少なら私に労力的、経費的、そして評判的に迷惑が掛かってもいいから」
「…………」
あれ、みっちゃんが 胡乱(うろん) な眼で私を見てる。
いや、私だって、 可愛い女の子(なかま) のためなら、それくらいするよ!
そうそう、いつも自分の利益のためにしか動かないってわけじゃないよ。