作品タイトル不明
310 事 故 2
「すみません、急患です! 命に関わる状態一名、左腕欠損一名、お願いします!!」
急患受け入れ口で、大声でそう叫んだ。後ろには、隊長さんと、担架を担いだ隊員さんが2組。
……うん、ここは、例の病院だ。
つい先日、コレットちゃんが退院したばかりの……。
他の病院でもいいけど、無駄にあちこちに情報を拡散する必要はないし、余計な説明の必要がないから、同じ 病院(とこ) にした。
そして、大袈裟ではなく本当に怪我人がヤバい状態だと一目で察したお医者さんが大声で怒鳴り、ストレッチャーに乗せられて、手術室へと運ばれた。……意識不明の方の人が。
左腕欠損の人は、命に別状はないし、千切れた部位があるなら接合手術とかができるだろうけど、ないならどうしようもないから、傷口の処理をするくらいしかできないだろう。
それでも、消毒やら傷口の縫合やら、そして抗炎症剤の点滴とかは必要だろうけど、それは一分一秒を争うほどのことじゃない。
これが、腕が吹き飛んだ直後、とかであれば話は変わるが、もう5~6時間くらい経っちゃってるからねぇ……。
あ、ストレッチャーがもう一台来て、左腕欠損の人も運ばれていった。
……さすがに、放置はなかったか……。
「隊長さん達、ちょっとここで待ってて。病院の人達やその他の人達にも、私が戻るまで何も喋らないでね。すぐに責任者が戻る、自分達は患者を運ぶよう頼まれただけで何も知らない、って言ってね」
「おぅ、分かった」
うん、さすが兵士、非常事態でもしっかり対応してくれる!
よし、転移!
* *
「……というわけで、意思疎通もできず不安であろう患者さんに付き添って欲しいんだけど……」
「了承!」
「……というわけで、以下同文」
「承認!」
* *
「お待たせ! じゃ、 本拠地(ホームベース) に送るね」
「え? 今回の出番、これだけか?」
「だから、隊長さんが来るほどのことじゃないって言ったでしょ! 病院側との話があるから、私はもう行っちゃうよ。ここにいても、ウルフファングのみんなには出番はもうないよ」
「「「「「…………」」」」」
あからさまに落胆した顔をされても、どうしようもないよ。
じゃあ……。
「連続転移!」
5人をウルフファングの本拠地に置いて、戻ってきた。その間、僅か1ミリ秒。
そして、スマホで電話。
相手は勿論、いつもの連絡先。
……そう、『 異世界懇親会(イセコン) 』の、この国の連絡先ね。
あんな怪我人を担ぎ込んだら、警察に連絡されてしまう。
だから、また対処をお願いせざるを得ないのだ。
それもあって、そのあたりの話が通りやすい 戦闘証明(コンバット・プルーフ) 済みの、ここにしたのだ。
……そして、コレットちゃんを無理矢理退院させた時に酷く落胆していた担当者さんが、凄い上機嫌で『すぐ行きます!』って叫んだのには、少しイラッとした。
「ようこそ、お帰りなさいませ!!」
院長先生が満面の笑みで挨拶に来たのには、かなりムカついた……。
* *
まだ意識は戻っていないけれど、輸血や点滴で命には別状ないという状態になった人には、コレットちゃんに張り付いてもらった。
いつ意識が戻るか分からないし、気が付いた時に周りにいるのは言葉も通じない見知らぬ者達ばかり、というのでは、不安と混乱で怪我に障るからね。
そして、唯一の言葉が通じる付き添いが王女殿下だということを知れば、ショック死しかねない。
私は感覚が麻痺しちゃっているけど、平民にとって王女殿下に話し掛けるなど、到底許されることのない、打ち首モノの行為だろうからねぇ……。
なので、今、話せる状態である左腕欠損の人に、『ここの言葉の勉強のため、通訳として実習したいらしい。だから王女殿下ということは気にせずに、勉強のお手伝いと言うことで、どんどん通訳を頼んで欲しい』と言って、サビーネちゃんを張り付けた。
勿論私もいるけれど、私は病院の人やエージェントの人との話があるし、色々と他の用事があるからね。
あ、忘れてた。
転移!
日本に転移して、マッコイさんに電話。
いや、病院からでもできたけど、国外、それも地球の反対側とかからだと、電話代が高くなるかと思って……。
電話の内容は、外傷患者を4人ほどと、軽傷者を何人か診て欲しいから、消毒薬や傷薬、痛み止めとかを持って定時に退勤してね、ってこと。
爆発事故で、重傷者は地球の病院に搬送済み、ということは、ちゃんと伝えた。そういう情報は、薬の選択に必要だと思ったから。
マッコイさんは内科医だけど、別に簡単な怪我の治療ができないってことはないだろう。
それに、本格的な治療ではなく、見落とされた思わぬ怪我……ただの打ち身だと思っていたら、実は骨折だったとか……がないかとか、このまま放置していたら後遺症が残ったりしないかを確認してもらうだけだ。もし問題があった場合には、後で、改めて方策を考える。
そして、再び病院へ。
忙しい……。
* *
病院での説明や遣り取りが終わり、怪我人ふたりは同じ部屋に。
4人部屋だけど、患者はうちのふたりだけ。
その方が防諜上も便利だし、コレットちゃんとサビーネちゃんも一緒にいられるし、交代もできる。
怪我人のふたりも、仲間と一緒なら心強いし、話し相手がいる方が退屈せずに済むだろう。
……どうせ、何を喋ってもここの人達には言葉が分からないし、知られて困るようなこともない。
文明が遅れた国の者が、農業や漁業、そして火薬の製造技術について話したところで、そこから何か得るものがあるとは思えない。
これで、何とか一段落か……。
事故が起きたのは残念だけど、死者が出なかったことだけは、幸運だった。
片腕を失った人は気の毒だけど、ああいう世界なんだ、事故や戦争、 壊疽(えそ) やら何やらで、四肢を失う人は決して少なくはない。ボーゼス伯爵様は人格者だから、多分片腕でも働ける配置に廻して、雇い続けてくださるだろう。公務災害だからね。
ボーゼス領と国のために危険な業務に就いてくれたことに対する報酬と褒美は、ちゃんと与えなきゃならない。
左腕よりも頭の方を使う配置とか、片腕でもできる仕事……書類仕事、検品、作業管理とか……は、いくらでもある。特に、爆発的な発展を遂げつつあるボーゼス領では、信頼の置ける者、管理を任せられる者は、何人いても困らないだろう。
……いや、『爆発的な』と言っても、別に火薬に爆発して欲しいわけじゃないよ!
あ、義手はどうだろうか。
書類を押さえたり、軽く物を掴めるだけでも、かなり助かるんじゃなかろうか。
向こうの世界の現行業種を圧迫することはなく、戦争に利用されることもない。
昔は高価だったけど、今はファッショナブルで超カッコいい 筋電義手(バイオニック・ハンド) が安価で手に入るらしい。
目が悪い人が眼鏡を掛けるのは、何の不思議もない。むしろ、お洒落な眼鏡はカッコいい場合も多い。
ならば、腕が悪い人が義手を、それも超カッコいいのを着けるのもいいじゃない。
あの人は前腕切断だから、上腕義手ではなく前腕義手になるのかな。
よし、色々と調べておこう。
私がいなくなれば、整備や補修ができなくなるかもしれないけれど、それまでは、少しでも不自由さを減らしてあげたい。
あ、ボーゼス伯爵様に会って、話を聞かなくちゃ……。
それと、事故の原因調査に、再発防止策、その他諸々……。
診療所に入院していたのは6人だけど、入院するほどではない怪我をした人は、もっと大勢いるだろう。マッコイさんを運ぶまでに、その人達も集めておいてもらわなきゃ……。
武器や兵器の開発、特に爆薬関係においては、昔の地球でも、死亡事故なんか日常茶飯事。
……でも、私に関係することでは、なるべく不幸になる人は作りたくない。