軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

307 疲労イン

「……疲れた……」

「どうかしたの、姉様……」

日本の自宅で、紅茶のカップを片手に溜息を吐いた私に、サビーネちゃんが心配そうな顔で声を掛けてくれた。

「ちょっと、疲れちゃったんだ……。

そもそも私は、雑貨屋の店主としてのんびり暮らしたかっただけなんだよ。

まあ、『渡り』ができなくなって王国か日本に取り残された場合に備えて、両方に充分な資産を隠匿しておきたいと思って、かなり暴利を貪った商売をしてはいるけど……。

でもそれは、日本や私の祖国だと平民でも普通に買えるものが、王国では馬鹿高いとか、王国の金貨を日本や祖国のお金に換金すると4分の1以下に目減りしちゃう上に税金を取られるとかで、老後の備えをするには頑張ってお金を稼がなきゃならないからであって、仕方ないんだよ!」

「…………」

ありゃ、サビーネちゃんの反応が良くないな……。

「姉様、それは平民の考え方だよ。貴族は、領地からの収入があるから、そんな心配はしないよ。

子供に爵位を譲っても、別邸で悠々自適の隠居生活を送れるから。

まあ、それは置いといて、……続けて」

お、おぅ……。

「で、最近、殺伐とした出来事ばかりで……。

私は、別に 戦闘狂(バトルジャンキー) や 射撃狂(トリガーハッピー) というわけじゃないよ。

ただ、悪党に人権はないと思っているし、薄汚い盗賊の命は、可愛い女の子の命の1万分の1の価値もないと思ってはいるけど……」

「……お、おぅ……。……続けて」

「なのに、ここんとこ、戦争やら提携店が襲われたりやらで、殺し合いやら嵌め合いやらの、殺伐としたことばかり……。

内政や商売に励んだり、もふもふの動物達と遊んだり、可愛い少女と 戯(たわむ) れたりと、もっとそういう生活が……、って、何?」

何か、サビーネちゃんが急に手を差し出してきた。

「……可愛い少女」

「……お、おぅ……」

一応、差し出された手をにぎにぎしておいた。

「まぁ、そういうわけで、ちょっと疲れちゃったんだ……」

「女性主人公が疲れている? ……『 疲労(ヒロぅ) イン』ってやつかな?」

「それな!」

うん、コレットちゃんの影響を受けて、サビーネちゃんも言葉遊びをするようになったんだ。

ちなみに、今は日本の自宅にいるので、サビーネちゃんの勉強のために、日本語で話している。

上達したなぁ、サビーネちゃんの日本語……。

「でも、どうしてこんなに事件が続くのかなぁ。確率的に、ちょっと多過ぎるでしょうが……」

私が、そう言って愚痴を 溢(こぼ) すと……。

「姉様、それ、独立事象が連続したんじゃないよ。全部繋がってるやつだよ。

帝国からの最初の侵略を撃退したから、レミアちゃんの国への 自棄糞(やけくそ) の侵略が行われたのだし、それに失敗したから、後のない帝国が暗殺という非常手段に出たんじゃない。

新大陸の方はよく分からないけど、植民地を巡る海戦だって、姉様が滞在国の海軍にちょっかいを出して海軍関係がおかしな動きをしたことが、他国からの疑念を招いたのが切っ掛けなんでしょ?

提携店のトラブルだって、姉様が弱小の新興商家に肩入れして利権を与え、そして貴族や王家に取り入る武器となる商品を独占販売させたから、既存の 大店(おおだな) が食い付いてきたわけで……。

みんな、原因があって、それが順番に進行して、なるようになっただけじゃないの? 誰かさんが撒いた種が育っただけで……。

別に、行く先々で事件が起こるという、あの子供探偵みたいな呪いが姉様にかかっているわけじゃないよ」

「え?

ええ?

えええええええ?」

が~~ん!!

い、言われてみれば、その通りだ……。

たまたま偶然に、連続して事件が起こったわけじゃなく、全て『然るべき理由や経緯』というものがあって生起したのか……。

「そ、それじゃあ、全部私のせい? 戦争も、みんなが襲われたのも……」

「そんなわけないじゃない!」

「……え?」

「姉様がいなければ、帝国軍によってうちの国は大勢の兵士や民間人が殺され、征服されて国民は奴隷扱いだったわよ。そしてその後、うちの国民を先頭にした侵略軍でレミア王女の国が襲われ、周辺国が次々と侵略されたわよね?」

「……そ、それは確かに……」

もし私がいなければ、確かにサビーネちゃんが今言った通りになった確率が高いだろう。

「そしてその後、新大陸からの調査船団の銃や大砲に対処できず、新大陸からの本格的な侵略艦隊の到来を招いたはず……」

「それも、確かにその通りだけど……」

「そして、姉様と関わったために不幸になった人がいたとしても、もし姉様が関わらなければもっと不幸になっていたかもしれないでしょ。

姉様と会うために出掛けた先で、転んで足を 挫(くじ) いた人がいたとするよね。

でも、もし姉様と会う約束がなかったとしたら、その人は別のところへ出掛けて、馬車にはねられたり盗賊に襲われたりしたかもしれないよね?

人生に、『もし』や『たられば』はないよ。全て、自分が選んだことの結果があるだけだよ」

「…………」

後悔しても意味はない、ってことか……。

サビーネちゃん、その歳で、達観してるなぁ……。

あ、勿論、後悔はしなくても、反省は必要だし、次回への教訓は得なきゃなんないけどね。

意味のない、後ろ向きのことは考えても無駄、ってことだ。

その時に手に入れていた情報と手元にあった戦力で、その時点において最も適切だと考えた選択肢を選んだ結果だ。それを、後で入手した新情報によって『失敗した!』と後悔するのは、ちょっと違うと思うのだ。

そこは、事前にもっと正確かつ詳細な情報を入手していなかったこと、そして充分な戦力を用意して念入りに準備していなかったことを『反省』して、それを教訓として次回に活かすのだ。

『後悔』は、後ろ向きの行為だ。そうじゃなくて、『反省』という、前向きの姿勢でなくっちゃ。

「そうか……。そうだよね……」

私が今までの行動を後悔したら、今まで私に関わって死んだり怪我をしたり不幸になった人達に申し訳ないよね。私は、自分が選んだ選択肢、自分の行動を反省はしても、後悔しちゃいけないんだ……。

「それに、姉様が戦った時って、攻められて反撃したり、襲われて返り討ちにしたり、また攻撃してこないようにキッチリやり返したりした時だけだよね。

それも、結果的には早期終戦に繋がって、姉様抜きでズルズルと戦いが続いたり、街に攻め込まれて住民の虐殺や暴行、略奪、放火等が行われた場合に較べると、死傷者もその他の被害も遥かに少ないよね? 敵も、味方も……」

「うん……」

そう言われてみれば、確かにその通りだ……。

私がいなくても戦争は起きただろうし、そして私がいなければ……。

よし、くよくよ悩んでも仕方ない!

別に、私が喧嘩を吹っ掛けて廻っているわけじゃないんだ。責任は、喧嘩を売ってきた者に取ってもらおう!

「じゃ、コレットちゃんのところへ行くよ!」

「うん!」

よし、転移!!