作品タイトル不明
306 帝国の末路
「……で、帝国の様子はどうでしたか?」
うん、それを確認しなきゃならない。
「ああ、皇帝が退位することは既に決定しているらしいが、後継者争いが激しくて、とても今後のことが決められるような状況ではないらしいな。
誓約書と金貨2300枚の件は向こうにとっても最優先で処理すべき事項であったし、金貨2300枚など国や王族にとっては 端金(はしたがね) じゃから、討議の対象にすらならなかっただろうからな。
だが、後継者に関することや、その他の権力、利権に関することは……。
というか、ミツハ、お前わざとそうしただろう? 後継者関係で揉めるように……」
ははは、せいか~い!
「勿論!」
私は、はっきりと断言した。
そして、苦笑する王様。
「……ミツハ、うちに嫁に来んか?」
「ななな、何を突然! 王様、奥さんいるじゃないですか! それに、王様と結婚したら、私、サビーネちゃんの義母になっちゃいますよ! そもそも、何歳離れていると……」
何、とんでもないこと言ってるんだか、王様……。
「馬鹿もん! 『嫁』というのは、息子の妻のことだ、自分の妻のことじゃないわっ!」
「え……」
ありゃ? そうなの?
翻訳ミス? それとも、日本語でもそうなの?
まあ、どっちにしても……。
「パス!」
「……そうだろうなぁ……。いや、分かってはいた……」
そう言いながらも、少し残念そうな王様。
いや、私、まだ19歳だよ。ここじゃ結婚年齢が低いかもしれないけれど、日本じゃ女性の平均初婚年齢は29歳だよ。まだ10年もあるよっ!
それに、ここでは私は12~13歳くらいに見えているはず。
まあ、貴族なのだから、婚約ならばともかく……。
でも、結婚は、まだ早いだろう。
……いや、王子様と婚約するつもりはないけどね。
王様が言ってるのって、癒しの王子様ルーヘン君じゃなくて、あのキラキラ王子様のことだよね、性格キツそうな第一王子、王太子殿下の……。
あれは、ちょっとご勘弁……。
いや、そりゃ王様は性格キツい方が国のためにはいいのかもしんないけど、旦那さんにはしたくないよ。
そもそも、王妃殿下なんか柄じゃないし、見世物のパンダ兼ホステス要員なんて、やりたくないし。
……ルーヘン君?
19歳の私があんな幼い子と結婚したら、犯罪者だよっ!
「そして、使者が色々と文句や嫌み、皮肉とかを言われたらしいが、『御使い様に関してのクレームは、我が国ではなく、お国の神殿経由で女神様に直接御連絡くださいますよう……』と言って帰ってきたそうだ」
「ぶはっ!」
王様がこういう言い方をするということは、それは王様から事前に言われていた『返し』ではなく、その使者さんのアドリブなんだろう。
……なかなかやるな、使者さん!
とにかく、これでこの件は終わりにしよう。また、向こうから手出ししてこない限り。
……ま、さすがに、またやるとは思えないけどね。
私が、何度騙し裏切っても、毎回甘い対応をすると思っているわけじゃあるまい。
というか、そう思われないように、舐められないようにと、侵略部隊には容赦ない攻撃を行ったし、帝都攻撃も たまたま人的被害は(・・・・・・・・・) 少なかったけれど(・・・・・・・・) 、誰も死なせないように、とかいう配慮はしていない。
いくら条約無視の奇襲攻撃や暗殺を行っても、相手は馬鹿なお人好しで、こっちの兵士をなるべく殺さないようにしている。
……そんなの、抑止効果ゼロで、何度失敗してもまた攻めてくるに決まってるじゃん。
いくら負けても人的被害が殆どなくて、兵士の人数が減っていない。
それって、勝つまで何度でも繰り返して、1回勝てればいいんだから、そりゃ何度でも再挑戦するよねぇ……。
ま、今回簡単に降伏したのも、今まではたとえ戦争に負けたとしても、死ぬのは前線に出た兵士や現場指揮官達だけで、戦場には行かない上位貴族や王族達は絶対に安全だと思っていたのに、いきなり自分達の頭上から『死』が、地位や身分には関係なく、皆に平等に降ってきたのに仰天したからだろう。
ヤマノ家(うち) に手を出した者は、トップから末端の実行者まで、 満遍(まんべん) なく、あまねく公平に『死と破滅』を賜る。
うちの関係者を護るためには、そう思わせなきゃ駄目だ。
たとえ、 ヤマノ家(うち) の評判が悪くなろうが、恐れられようが……。
あ! ひとつ、忘れてた。
「王様、私達を襲った犯人を捕らえているんですけど、引き渡して、この国の法によって裁いてもらっていいですか? 現場はこの国の王都で、襲われたのはこの国の国民ですから……」
「ああ、勿論、構わん。ま、現行犯であり、襲ったのが貴族であり御使い様であり救国の大英雄である姫巫女様と、9歳の少女だからな。そして、未遂ではなく、実際に少女に重傷を負わせておる。
……ミツハの母国の医療技術でなければ助からぬところだったのであろう?」
王様の言葉に、私はこくりと頷いた。
まあ、アレクシス様の時のことがあるからね。それくらいは分かるか……。
「冤罪だとか事実関係を争うだとかいうことがないから、裁判の必要すらないだろう。刑を宣告して終わり、だな。いくら減刑しようが、斬首刑以下になることはあり得ぬ」
……ま、当たり前か。
本人には心理的な攻撃のため『破滅した後の帝国に帰してやる』とか言ったけれど、勿論、こんな凶悪犯を解放するような馬鹿じゃないし、再び暗殺に来そうな、私達に怨みや殺意を持った者、一度殺しに来た者を野放しにするわけがない。
……そう、『あれは嘘だ!』というやつだ。
それに、そもそも、任務に失敗して捕らえられ、全てを吐いたと思われる、 敵に解放された暗殺者(・・・・・・・・・・) 。そんな者が、母国に帰れるわけがない。
裏切ったと思われて、一族郎党皆殺し。
……次の裏切り者を出さないための見せしめとしてね。
ならば、駄目で元々と、再び私を殺そうとする確率がかなり高いだろう。
また失敗して死んだとしても、『任務に殉じた者』になるから、『裏切って、無傷で解放された者。おそらく高額の報酬も貰っているに違いない』ということで一族郎党、というのよりはずっとマシだろうから……。
ま、とにかく、犯した罪は現地の法により裁かれ、罪を償ってもらうしかない。
さすがに、私が 私的制裁(リンチ) 、というわけにはいかない。
ここは、犯罪が行われた場所である、この国の司法機関にお任せしよう。
「……で、サビーネはいつ戻るのだ?」
「……」
「…………」
「「………………」」