作品タイトル不明
305 侵略者 5
ざわ……ざわ……
王都のあちこちで、王都民達が噂話をしていた。
「 酷(ひで) ぇ……。ウェンナール男爵領が危機の時に何もしなかった王族と、ソサエティーに加わらず何もしていない公爵家の娘が、ソサエティーを乗っ取って私物化、名声を独り占めにしようとしているっていうのか……」
「許せねぇ! 聖女様達を食い物にして支配しようなんざ、女神様に楯突く行為だ! いくら王族だからって、そんな悪逆非道な横暴が許されるはずがねぇ!
せっかく聖女様達の御尽力で我が国に女神様の御慈悲が 賜(たまわ) れたというのに、これじゃ、女神様に見捨てられちまうぞ!!」
そんな声が、王都中で……。
* *
「いったい、どうなっておる! この噂の出所はどこだ! そして、なぜこちらの思惑が筒抜けなのだ!!」
「いえ、そう言われましても、イレイシャ嬢をソサエティーにねじ込む、それも陛下の肝いりで、主宰者として、などと、誰がどう見ても魂胆丸分かりではないですか……」
宰相に正論を吐かれ、うっ、と口籠もる国王。
どうやらこの件は宰相には相談せず、国王とケリスコール公爵家の間で密かに進められていたようである。
なので、問題が起きてから話を持ち込まれた宰相は、かなり機嫌が悪いようであった。
「いや、しかしだな、ヤマノ子爵関連で色々と名を落としてしまった儂と 息子(アレ) の人気回復とか、王太子妃候補のイレイシャ嬢に国民の人気を集めるとかで、無料で効果抜群な方法ではないか、イレイシャ嬢がソサエティーの聖女達を束ねる大聖女となり、息子と結婚するという筋書きは……」
それを聞いて、ハァ、と疲れたような溜息を 吐(つ) く宰相。
「……そしてその結果が、現状なわけですが……」
「うっ……」
そう、 なぜか(・・・) 、あっという間に王都中に噂が広まり、王都民から、いや、国民からの王族批判の声が高まっているのである。
しかも、貴族達の間からも、恥知らず、子供達の親睦会を政治利用のために乗っ取り踏み台にしようとする外道、などと、普通では考えられないような酷評をされている。
特に、ソサエティーに救われたウェンナール男爵領とその寄親や派閥の貴族達、そして娘がソサエティーに加入している貴族達が、一斉に王族バッシングを始めたのである。
元々、ミツハの思惑で少しは男爵家や子爵家の娘も加入させているものの、ソサエティーの構成員の大半は有力な伯爵家と侯爵家の娘達である。それも、派閥を跨いでのメンバーであった。
なので、それらの貴族家が結集した場合、いくら王家とはいえ、簡単にどうこうできるわけではない。
「ミッチェル侯爵の派閥は王宮派との関係が良好であるし、ケリスコール公爵家ともそう仲が悪いわけでもない。なので、公爵家からの強い要望ならば受けてくれると思ったのだ!
確かに美味しいところを奪われるのは業腹であろうが、王家と公爵家からの強い要望であるし、その見返りは確実に得られるのであるから、政治的に考えるとそう損にはならぬのは明白なのだからな。それが、なぜ……」
「はぁ?」
宰相が、呆れたような声を出した。
「いえ、確かにミッチェル侯爵はそう判断するでしょうが……」
「なら、なぜ……」
国王の疑問の声に、宰相が無慈悲な答えを返した。
「それは、ソサエティーはミッチェル侯爵とは全く関係のない組織だからでしょう?
アレの主宰者は、ミッチェル侯爵ではなく、令嬢であるミシュリーヌ嬢です。……そしてその黒幕は、言わずと知れた、あの、ヤマノ子爵ですよ。
もしミシュリーヌ嬢が父親の 傀儡(かいらい) であったなら、ヤマノ子爵領産の商品を王宮に納入させないとか、王女殿下達の加入を断るとか、そんなことをするとお思いですか?
ソサエティーは、正真正銘、子供達が運営している親睦団体なのですよ、大人の操り人形ではなく……」
「…………」
「おそらく、これは意図的な 情報操作(リーク) かと思われます。一部の貴族達の仕業か、ソサエティーの少女達に心酔した王宮内の平民事務官達の仕業かは分かりませんが……。
そして恐ろしいのが、この噂の拡散速度と、その正確さです。
普通、噂というものは拡散する過程で歪み、変質し、尾ひれが付くものです。それが、今回は完全な正確性を保ったまま、あっという間に拡散しています。
こんなもの、誰かが意図してコントロールしない限り、あり得るはずがありません。
……とにかく、ソサエティーに敵対した場合、民衆や貴族、そして本来味方であるはずの者達をも敵に回してしまうということが、よく分かりましたね……」
「…………」
さすがの宰相も、ウェンナール男爵領への援助作戦そのものが、民衆を味方に付けるためのものであったこと。そしてリーク元がソサエティーそのものであることまでは看破できなかったようである。
幼い少女達であっても、父親や使用人達、お友達である貴族の子供達に愚痴を溢したり悩みを相談したりすることくらいはできるのである。
そして更に、そこにヤマノ子爵の人脈や、レフィリア貿易の顔の広さを利用した広報効果が加われば……。
* *
「……ケリスコール公爵家から、イレイシャ嬢のソサエティー加入要望が取り下げられた」
ミッチェル侯爵様の言葉に、にやりと嗤う、みっちゃんと私。
うん、あれだけ露骨な魂胆が晒され批判されちゃあ、ゴリ押ししてソサエティーに加入したところで、逆効果だものねぇ。
大聖女どころか、聖女達に 仇(あだ) なす、悪魔の手先呼ばわりは確実だからねぇ……。
王太子妃の座に近付くどころか、却って大きく遠ざかっちゃったんじゃなかろうか、今回の件で。
余計なことさえ企まなきゃ、順当に第一王子の婚約者になれていたかもしれないものを。
我がソサエティーに牙を剥いた者の末路か。
なむなむ……。
* *
そろそろ遣いの人が帝国から戻っているかな、と思い、うちの国の王宮に顔を出した。
うん、賠償金を受け取るために。
「ほれ、誓約書と、金貨2300枚だ。帝国金貨だが、うちの金貨と価値は同じで、我が国でも普通に使えるぞ」
ああ、国の信用度は関係ない、地金の価値のみの通貨だからか。
そして、面倒さをなくすため、近隣諸国の金貨は全て金の含有量は同じ、ってわけか……。
尤も、含有量が同じなだけで、純度は若干違うのかも。勿論、その分は大きさで補正してあるだろうけどね。
あ! 今までは地球で換金していたのはこの国の金貨だけだったけど、新しい種類の金貨だから、高値が付く可能性があるぞ! 硬度を持たせるために混ぜてある金属が、王国のとは違う可能性もあるし。
とりあえず、各国政府は絶対に入手しようとするだろうから、オークションにかければ……。
コレクターとかも、頑張って競り上げてくれるかも……。
そして、にひひ、とほくそ笑む私に、王様から苦情が。
「それで、サビーネは、いったいいつ帰ってくるのだ……」
そう、日本邸もコレットちゃんの病室も、冷暖房完備、ゲームと 円盤(ブルーレイ) と小説と漫画、そしてリアルタイムのテレビ放送が観られて、お菓子や果物が食べ放題。
……コレットちゃんは患者だからお医者さんの指導が入るけど、サビーネちゃんにはそんなの関係ないからね。
お風呂は、私に転移を要求して、ヤマノ家日本邸に入りに行ってる。
……どうして私がそんなのの言いなりになっているか?
ここで、録音確認作業の時の報酬の一部を使われたんだよ、『あれの報酬の一部として要求する!』って……。
それ使われたら、断れないじゃん……。
しかも、それで報酬の『一部』だよ、『一部』!
それだけで済ませてくれるつもり、皆無の模様。
それに、コレットちゃんの分は、まるまる手付かずで、未使用だしね、報酬……。
おまけに、今回の件で、コレットちゃんには返しきれない程の借りができちゃったし……。
私の命の代価って、どれくらいの借りになるのかなぁ。
……まあ、コレットちゃんは無理を言ったりする子じゃないから、心配はしてないけどね。
そしてサビーネちゃんが病院に泊まり込んで寝る時は、コレットちゃんのベッドに潜り込んで、ふたり一緒に。
大人用のベッドに子供ふたりだから、充分寝られる。
普通ならばそんなの病院側が許さないだろうけど、……まぁ、上から言われているんだろうなぁ、『自由にさせろ』って……。
くそっ、私も混ぜてよっ!!
……さすがに、子供ふたりと大人ひとりは、病院のベッドじゃ無理か……。
そして、王様からの苦情には、笑って誤魔化す私であった……。