作品タイトル不明
304 侵略者 4
「やっと来ましたわね……」
「ん? 何かあった?」
やや久し振りの、新大陸はヴァネル王国の、ミッチェル侯爵邸。
まだ次のソサエティーの集会までには時間があるのに、どうしたのだろうか。何か、みっちゃんの様子がおかしい。苛立っているかのようだ。
「問題が起きましたの! ……で、何日も不在で、いったいどこで遊び歩いていたのよ!」
あ、こりゃ、かなり機嫌が悪いな。適当に誤魔化したんじゃ、火に油だ。みっちゃんにはあまり嘘は吐きたくないし……。
仕方ない、正直に話すか……。
「ちょっと国外で暗殺者に襲われて、私を庇ったコレットが脇腹をナイフで刺されちゃって……」
「ひいっ!!」
あ、みっちゃん、へたり込んじゃった……。
* *
「も、申し訳なかったですわ。そんなこととは知らず、暴言を吐きました。どうか、御容赦を……」
あの後、飛んできた侯爵様に抱えられて自室のベッドに運ばれたみっちゃんは、何とか落ち着くと、まず最初に謝罪してくれた。
「……で、妹さんのご容態は……」
うん、コレットちゃんとサビーネちゃんは、私の妹としてミッチェル侯爵家の皆さんやソサエティーのみんなには紹介済みだ。私の後を追って、私の手伝い兼監視役兼遊びに来た、ヤンチャな腹違いの妹達、ということで。
なので、みっちゃんとも面識があるんだよねぇ、コレットちゃん。
みっちゃんも、自分が知っている友人の妹が刺されたとか、そりゃ驚くか。
そして、侯爵様も動転していた。
そりゃ、動転もするだろう。私が襲われ、そして妹が刺されたとか言われたら……。
でも、事件が起きたのが他国で、襲ったのは私の母国の隣の国の者だと聞いて、あからさまに 安堵(あんど) していた。
ま、気持ちは分かるけどね。
「私を狙って突き出されたナイフだったから、横から飛び出して私を突き飛ばしてくれたコレットにとっては急所への攻撃とはならず、脇腹に 抉(えぐ) り込むように突き立てられたナイフによってお腹に穴があき、真っ赤な血がどばどばと流れて、内臓が少し傷付いただけで……、って、大丈夫? みっちゃん、何か、顔色が悪いけど……」
「誰のせいですかっ! そんなに生々しく説明する馬鹿がいますかっっ!!」
思い切り、怒られた。
「その様子だと、妹御は助かったみたいだが……、よく助かったものだな、それで……」
うん、腹を刺されて内臓が傷付くというのは、旧大陸では勿論、ここ新大陸においても、死亡率が高いやつだ。
しかも、それがまだ幼い少女となると……。
「運が良かったそうです。……でも、傷痕は残る、って……」
「「…………」」
コレットちゃんも、私と同じく王族の子供だと思われているから、身体に大きな傷が残るのは女性としては致命傷。……多分、そう思っているんだろうな。ふたりとも、沈痛な表情だ。
「……で、コレットは、『姉様を護ったという、一生に亘って自慢できる勲章だ!』って大喜びで、サビーネがそれを嫉んで、自分も傷痕を欲しがっちゃって……」
「「…………」」
「ミツハさん、私、あなたが何を言っているのか、分かりませんわ……」
「大丈夫。私も、あのふたりが何を言っているのか、分からなかったから……」
「「「………………」」」
「……まあ、ミツハが妹達にどれだけ好かれているかということだけは、よく分かったな……」
「ちょっと、重過ぎるんですよね、ソレ……」
「「「…………」」」
「……で、話は戻って、その『問題』っていうのは何?」
みっちゃんにそう尋ねながら、侯爵様の方に目を遣った。
これは我が『ソサエティー』の話だから、部外者は席を外せ、という合図のつもりだったのだけど……。
「お父様にも報告済みです。一緒に聞いていただきます」
みっちゃんが、真剣な顔でそう言った。
どうやら、かなり大きな問題らしかった。
* *
「……じゃあ、その公爵家の御令嬢が……」
「ええ、『ソサエティー』を乗っ取ろうとされているようですわね。
まあ、正確には、その父親が、でしょうけど……」
ま、そりゃそうか。
……しかし、ソサエティーの乗っ取りは不可能、というのが分からないのかなぁ……。
「おそらく、ソサエティーの少女達が聖女と呼ばれており大人気なのに目を付けて、そのトップに立つことにより人気と功績を独り占めにし、王太子妃の座を、とでも考えておるのだろうな。
なので、自分が第一王子の婚約者になれるまでのごく短時間だけ保てばいい、とでも考えておるのではないかな。一時的にトップに立てさえすれば、その後のことなどどうでもいい、と。
あるいは、王太子妃の座を利用して、ソサエティーを完全に自分の私兵と化すことを目論んでいるとか……」
「「あ~……」」
侯爵様の説明に、げんなりした顔の私とみっちゃん。
こりゃ、例の手を使うしかないかな……。
「侯爵様、その娘と公爵家、潰してもいいですか?」
「「えええええっ?」」
うん、敵と悪質な妨害者は排除する。
当然、そのための備えはできている。
そして侯爵様から、問題の公爵家はミッチェル侯爵家と敵対しているわけではなく、一応は味方の陣営ではあるが、侯爵様とは派閥が異なること。そして公爵本人もその娘もあまり評判が良くないということ、……つまり『元々評判は良くないから、更に若干評判が落ちても、大して問題はない』という返事を得た。
ま、好人物であれば、こんな手は使わないよね。
そして、いくら敵ではないといっても、自分の娘が主催する組織にそんな真似をされて面白かろうはずがないよね。
だから侯爵様は、にやりと嗤う私に口出しすることはなかった。
もし口出しされていても、状況は全く変わらなかったけどね。
ソサエティーは私達の組織であって、侯爵様とは無関係なのだから。
* *
「……という次第ですわ。
どうやら、今まで何もしていない公爵家の令嬢が、皆様の功績を全て奪い、御自分がのし上がるための踏み台にとお考えのようですわね。
そして、王族である公爵家の者に『聖女達』と呼ばれている皆さんがおられますソサエティーを牛耳らせることが都合が良いのか、王宮もそれを良しとしている様子……」
ソサエティーのお茶会で、みっちゃんはみんなにそう説明すると、ひと息ついてから宣言した。
「もしそうなりました場合、私はソサエティーを引退いたします」
「そして勿論、王族の支配下に入り、権力者に利用されるだけとなった組織に他国の貴族である私が所属するわけには参りませんから、私も脱退することになります」
みっちゃんに続き、私も脱退の宣言を行った。
私が抜けたら、ソサエティーがどうなるか。
美味しいスイーツ。
ヤマノ子爵領産の品々。
化粧品。
その他諸々の入手経路が全て失われ、ソサエティーは身分の上下に縛られ、王族や公爵家のいいなりになる。
そんなもの、もはや楽しい『ソサエティー』ではない。
「そして一昨日、王宮を経由してケリスコール公爵家から、娘をソサエティーの主宰者として受け入れるようにとの命令が届きました」
「……」
「「…………」」
「「「「「「………………」」」」」」
みんなの間に静寂が広がった。
そして……。
「その言葉、宣戦布告と判断する!」
「「「「「「当方に迎撃の用意あり!!」」」」」」
皆の声が揃った。
勿論、みんなには私の母国の物語として、色々なネタを仕込んである。
復讐物、お仕置き物、勧善懲悪物、完全超悪物、悪の美学、……そして『ざまぁ物』のお話を含めて……。