軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

303 侵略者 3

トイレ転移ではなく、ちゃんと病院の外から歩いてきて、正規の面会手続きを取ってコレットちゃんの病室に顔を出すと、……来客中のようであった。

……勿論、いくら個室とはいえ、私は毎回この部屋に直接転移したりはしない。

いつ 院長回診(大名行列) が来るか分からないし、看護師さんが点滴の様子を見に来るかも分からないのだから。

病気じゃなくても、化膿止めとか、お腹いっぱい食べられるわけじゃない今のコレットちゃんには栄養補給も必要だしで、毎日何本もの点滴が必要らしいからね。

それに、コレットちゃんは特別待遇みたいだから、様子を見に来られる回数が多いみたいだし。

なので、病院の外に転移して、ちゃんと受付を通して面会に来ているのだ。

サビーネちゃんはそれを面倒がってトイレ転移を要求してくるから、絶対に回診中じゃない時間帯……食事の時間とか、夕方以降……に限り、認めている。

それ以外の時間には、ちゃんと病院外に転移する。

今はサビーネちゃんはおらず(ゲームで徹夜して、日本邸で寝てる)、お客さんは知らない人物だ。

大人ではなく、コレットちゃんと同じくらいの年齢の、小さな女の子。

パジャマ姿なので、入院患者なのであろう。

……これがこの子の街歩きの普段着だとすれば、ちょっと問題がある。

長期入院中の子供は、退屈して、病院中をうろつくからねぇ、大怪我やベッドから起きられない病人を除いて……。

そして、同年代の入院患者を見つけて、って 筋書き(こと) かな……。

この子は入院していなきゃならないほどの怪我をしている様子はないから、病気の方かな。

……尤も、 本当の入院患者(・・・・・・・) であれば(・・・・) 、の話だけど……。

「あれ、お友達ができたの?」

コレットちゃんとお客さんに向かって、にっこりと微笑んでみた。

「うん! お友達になった、ローリンちゃんだよ!」

「お邪魔しています、ローリンと申します!」

コレットちゃんに続き、そう言って笑顔で挨拶する少女。

むむむ……。

少女の様子に、不自然なところはない。

…… 不自然なところが、(・・・・・・・・・) なさすぎる(・・・・・) ……。

いや、こう、あるだろう!

お友達の家族に初めて会った時の戸惑いとか、予期せぬタイミングでいきなり出会ったことへの狼狽えとか……。

それらが全くない、完全にスムーズな笑顔と受け答え。

うん、プンプン臭うよねぇ、芸能界の 子役(プロ) のような臭いが……。

「初めまして! 私、この子の姉の、アレッタです」

「……よろしくお願いいたします」

ほら、今、『え?』って顔をした! ほんの一瞬だけど。

見た目の年齢からして、私がコレットちゃんの姉だということは容易に予想がつくはず。

なのに、どうしてそんなに意外そうな反応を示す? それも、一瞬だけ。

いや、確かに髪や眼、肌の色、そして容貌から、似てないのは分かるよ。

それでも、異母妹とか義理の妹とか、色々とあるじゃない。なのに、そのあからさまな『想定外の事態に陥った!』みたいな反応は、何だよ。

そして、受け答えは自然だけど、それは もっと年齢が高ければ(・・・・・・・・・・) 、の話だ。この年齢じゃ、 卒(そつ) がなさ過ぎるよ……。

私が姉だということに驚いたなら、普通、幼い少女ならもっと大きな反応を示すものだろう。えっ、と声を漏らすとか……。

それを、一瞬、僅かに表情が揺らいだだけとか、どんな自制心やね~ん! そういう訓練でもしてたんか~い!!

……っていうか、してたんだろうけどね、訓練……。

コレットちゃんには、私が第三者には偽名を名乗る、ってことは事前に伝えてある。

ここの病院関係者に名乗っている、某国で爵位を貰っている名前とも違うやつをね。

そしてコレットちゃんは、私達や自分の家族のことについては、誰にも、ひと言も喋っていないはず。

……なのに私の名前やコレットちゃんとの関係に違和感を感じたり疑問を抱いたり、そしてそれをほんの僅かしか表さなかったりするのは、……アレだ。

私の名とコレットちゃんとの関係を、事前に知っていた。だから、一瞬言葉に詰まった。予定していた自分の台詞を喋れなくなったから。

そして、私が姉だということに驚いたのなら、もっと反応が大きいはずである。

……普通の、10歳前後の少女であれば。

そう、 普通の(・・・) ……。

そしてオマケに、この子は可愛い。とても可愛いのだ。

いや、そりゃ確かに、向こうの世界で知り合った女の子達は、みんな可愛い子ばかりだったよ。

でもそれは、コレットちゃん以外の私の知り合いの少女達は、みんな王族か貴族の子だからだ。

……何百年と続いた、トップブリーダー達の仕業。

配偶者に、美男美女で能力が高い者ばかりを選んでいたら、そりゃ、子孫も美男美女になるだろう。

おまけに、幼少の頃から磨き上げられるのだから、可愛くなって当然だ。

だから、それはいい。科学的に、統計論的に、そして遺伝子科学的に納得できることだ。

……でも、たまたま入院した病院で出会った女の子までが美少女というのは、ちょっと……。

いや、確率的に、あり得なくはない。それは分かるのだけど……、でも、何となく胡散臭い。

それに、これは以前私が『ありそうなこと』として想定していたことのうちのひとつだ。

……まあ、別に私やコレットちゃんに危害を加えようとかいうつもりはないのだろうけどね。

ただの情報収集か、お友達になって情が湧くようにしておいて、後で『実は、お父さんが困った立場になっていて……』とかで私達に何か協力させるつもりとか……。

でも、この子は私達が何者かということを 知らないはず(・・・・・・) だし、今後も、無理のない形で それを知る機会(・・・・・・・) が訪れるとも思えない。

いったい、どうするつもりなんだか……。

そして、家族が来たなら自分は辞去する、というのが普通だろう。

ここに入院している自分は、いつでもコレットちゃんと話しに来ることができるのだから、わざわざやってきた家族との時間を邪魔しようと考える者はいない。

いないはず。

……いないんじゃないかな……。

「……」

「「…………」」

「「「………………」」」

帰りやがらねえ~~っっ!!

別に自分から話し掛けるわけでもなく……多分、私にどう話し掛ければいいか分からないのだろう。当然、私の隠し撮り写真くらいは見せられているはずだけど、私がコレットちゃんの姉の『アレッタ』だと言っている以上、それを前提とした話しかできないから……、黙って私がコレットちゃんと話すのを待っている。

……うむむ、どうすべぇ……。

「……」

「「…………」」

「「「………………」」」

うわ、この沈黙にも動じず、居座り続けるとか……。

子役ちゃん、恐るべし!!

……でも、これじゃあ 埓(らち) があかない。

「ごめんなさい、ちょっと、家族の内輪の話をするので……」

さすがに、ここまではっきり言われては、居座るわけにはいかなかったようである。

というか、自分がいる限り私とコレットちゃんの話が始まらないならば、いる意味がない。

ま、隠しカメラや盗聴器があるだろうから、怪しまれるのを承知で無理に居座る必要はないのだろう。……それにしては、かなり粘っていたけどね。

そして、 子役ちゃん(ローリン) が部屋から出ていった後……。

ひゅひゅん!

室内に仕掛けられた隠しカメラや録音器、盗聴器を、一瞬のうちに転移させた。

ま、コレットちゃんが検査やら何やらで部屋にいない時に、また仕掛けられるだろうけど、コレットちゃんもサビーネちゃんもそれを承知での会話しかしないし、ちょっと秘密度が高い話は向こうの言葉を使うからね。

全部向こうの言葉にしないのは、ある程度のデータが揃えば解読できるようになるかもしれないからだ。

……私は、人類の科学力を侮らない。

そして、プロが使う最新式の隠しカメラや録音器がたくさん手に入るのは、ありがたい。

そのうち、また役に立つ時が来るだろう。

それに、おそらくコレットちゃんは、全て承知の上であの子役ちゃんを話し相手にしているのだろう。

この国の一般的な情報……10歳前後の女の子が知っている、普通の情報。ファッションや娯楽、食べ物、その他諸々……を手に入れるための、情報源として。

コレットちゃんは、情報量の少ない田舎で育ち、純真ではあるけれど、決して馬鹿じゃない。

喋っていいことと悪いことはちゃんと見分けられるし、私が教えたことは忘れないし、……そして私の指示は絶対に守る。たとえ、どんなことがあろうと。

なので、コレットちゃんは、ある意味、サビーネちゃんより信頼できるのだ。

……あ、カーテンも閉めておかなくちゃ。

離れた場所から窓ガラスにレーザー光線を当てて、室内の会話による窓ガラスの振動を読み取って盗聴する、なんて技術は、既にありふれたものだ。

では、サビーネちゃんを迎えに行く時間まで、ふたりでゆっくりするか……。