軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

302 侵略者 2

ルディナとシルアに私が気付いたことを説明すると、あ、と驚いた顔をした後、納得した様子のルディナ。

シルアも、女子力の差で負けたわけではないと分かり、機嫌を直した模様。

そういうことは気にしないように見えていたけれど、やはりシルアも女の子だったか……。

「今度会った時、ルディナは孤児で、ただの雇われ人だと言ってみる? 相手が信じないようなら、孤児院の院長先生に証言してもらうとか……。

あ、孤児院の院長先生達を食事に招待するっていうのもいいかな。ルディナの職場紹介というか、ちゃんとした職場で頑張ってます、とか、そういう感じで……」

「え……」

そうだよ。ルディナが店長として立派にやっているということを孤児院の大人達に見てもらうというのもいいよね。

本当は子供達もみんな招待できればいいんだけど、全員となると、ちょっと店が狭いんだよねぇ。

……あ、その日だけ店は休みにして、テーブルを撤去して長机と折り畳み椅子を入れればいけるか? 転移で運べば簡単だし……。

そうだよ、そんな変な男のことなんか関係なく、そういうのをやってもいいじゃん。

男の方は、いざとなれば 上の方(・・・) にお願いすれば、どうとでもなるだろう。

そんなのより、ルディナの孤児院に対する現状報告会の方がずっと重要だ。

「よし、決定!!」

「えええええ~!」

* *

そして数日後。

休業日である週末、一般のお客さんが入ってこないように貸し切り中の札を掛けた『Gold coin』の店内では、孤児院の院長先生、雇われている大人達、そして孤児達が席に着いていた。

いつものテーブルは撤去して、安物の長机を入れ、椅子を追加してある。

孤児院の皆さんには、今日はスペースの関係で長机だけど、いつもはちゃんとお洒落なテーブルを使っているということは、きちんと説明してある。

……いや、こんな長机で営業するカフェはないよ、うん。

ルディナの職場のイメージが下がっちゃ大変だ。

そしてカウンターの内側には、緊張した面持ちのルディナ、いつもと変わらぬ無表情のシルア、そしてウエイトレス姿の私。

さすがにルディナとシルアのふたりだけでは人手が足りないし、今日はルディナが主役なのにオーナーの私がいたんじゃ邪魔になる。

オーナーとしての私の名前や姿が広まるのも、安全上よくないし。

なので今日の私は、ただの臨時のお手伝い。

ルディナとシルアにも、そこはしっかりと説明してある。不自然な態度は見せるな、と……。

「ほ、本日は、ようこそお越しくださいました。お店のオーナーさんのご厚意で、今日は孤児院の皆さんに私の職場紹介を兼ねて、お世話になりましたお礼をしたいと思います。

本当は自由に注文していただきたいところなのですが、人手不足により、料理はこちらで決めさせていただきます。

……で、では、皆様、どうぞごゆっくり……」

結構図太いかと思っていたルディナが、何かかなりアガっている様子。

でも、何とか噛まずにこなせたようだ。

パチパチと拍手が起こり、それを合図に、3人で一斉に料理を運び始めた。

勿論、料理は事前に用意して、奥の調理場で火に掛けるだけだったり、テーブルの上に並べるだけにしたりと、準備は万端。

選んだ料理は、大きく二分されている。

片方は、孤児院では出ることのない料理。

手が込んでいたり、材料費が少し高かったりするやつだ。

そしてもう片方は、孤児院でよく出る料理。

……但し、材料のランクを上げたり、具を増やしたり、色々と手を加えている。

うん、ルディナが『こんな料理を食べたかった』シリーズと、『こんな料理でも、少し頑張れば美味しくなる』シリーズだ。

後者は勿論だけど、前者も、そんなに高くつく料理じゃない。孤児院では手間とか経費節減とかで出せないだろうけど。

なぜルディナがそういう 献立(こんだて) にしたかは、何となく分かる。

今のルディナの給金なら、みんなにステーキを食べさせてあげることもできただろうけど、ルディナが孤児院のみんなに出したかったのは、そういうものじゃなかったのだろう。

一度限りの、『手が届かない、自分達には縁のない贅沢』ではなく、頑張れば手が届く、という程度の、ちょっとした贅沢。

……但し、量はたっぷりある。多分、子供達がいくらお腹いっぱいになるまで食べても絶対余るくらい。

おそらく、それが孤児院時代のルディナにとっての、最大の夢だったのだろう。

「さあ、皆さん、どうぞ!」

子供達が、料理を前にして誰も手を付けないから、仕方なく私がそう声を掛けた。

ルディナは調理場に戻って料理の最後の仕上げ……料理の再加熱とか……をやっているし、シルアにそんな配慮を期待する方が間違っているから。

そして、わっ、と料理に食らい付く子供達。

大人達は、それを見て苦笑しながら、ゆっくりと料理に手を付けた。

「あら……」

院長先生が、ふふ、と微笑んでいる。

あの料理は、ルディナが孤児院でよく作っていたというやつだ。

……但し、具材や調味料は、ルディナの夢を実現したやつ。

その違いに、思わず溢れた笑みなのであろう。

ルディナが込めた、色々な思いを汲み取って……。

「あれ、美味しい!」

そして子供達は、いつも孤児院で出てくる料理ではなく珍しい方の料理ばかり食べていたけれど、さすがに悪いと思ったのか、お馴染みの方にも手を付け、……そして驚いている。

「おい、すいとんとおじやも食べてみろよ! 何か、すっげぇ旨いぞ!」

「ええっ? ルーちゃん、腕を上げたのか?」

「いや、そりゃ、ここの料理人やってんだから……、って、何じゃこりゃあ! 旨い、旨すぎるぞ!」

うむうむ。ルディナは、決して料理が下手なわけじゃない。むしろ、腕がいい方だ。

孤児院時代にルディナが作った食事が不味かったのだとすれば、そりゃ素材と調味料と器材のせいだ。

なので、それらが劇的に改善された今、ルディナがその実力を発揮し始めたというわけだ。

何の不思議もない。ルディナは、立派なうちの料理長、花板さんなのだから……。

ルディナが孤児院を出てから、まだ1年ちょいしか経っていないらしい。

だから大人達は皆当時のままで変わっておらず、子供達はふたり程入れ替わっただけで、殆どはルディナがいた時のままのメンバーらしい。

なので、最初のうちは久し振りに会ったことと立場の違いから少し戸惑っていた子供達も、慣れてきたのか、ルディナのことを昔のあだ名らしい『ルーちゃん』と呼んで色々と話し掛け始め、ルディナにも笑顔が見え始めた。……作り笑いではなく、本当の笑顔が。

ルディナも、ちょっと緊張していたのだろう。

孤児院出の者でも立派な職業に就ける、ということを見せたい反面、自分がとんでもない当たりくじを引いただけであり、普通は孤児がいきなり店長になったりできるはずがないということがよく分かっているため、『みんなも頑張れば私みたいに~』と言うことができず、どう言えばいいのか分からず、悩んでいたのだろう。

ま、考えても仕方ない。

孤児にも、幸運が舞い降りることもあら~な、って笑っとけばいいんじゃないかな。

世の中には宝くじに当たる者もいて、それが自分になる可能性もゼロじゃない、ってだけで、充分励みになるだろう。

但し、宝くじも、買わなきゃ絶対に当たらない。

ルディナの幸運も、料理の腕と計算能力、そして犯罪行為や安易に売春に走ることなく真面目に頑張ってきて、そしてうちの従業員募集に応募するという行動に出たから掴み取れた結果だ。

そのことが子供達に伝われば、ルディナが孤児達に対して果たした貢献度は大きい。

ただ一度満腹にしてやったことなど遥かに及ばない、大きな成果だろう……。

* *

いくら楽しい時間であっても、終わりの時がくる。

お開きの時間がきて、名残惜しそうに席を立つ子供達。

……いや、 今生(こんじょう) の別れじゃあるまいし、また来りゃいいじゃん!

メニューの中の一番安い食事は、日本人の感覚だと380円くらいだ。その金額のこの国の通貨を日本円に両替するとメチャクチャ安くなるから単純には比較できないけど、他の食料品の価格と比例した体感的な価格ならそれくらい……、って、孤児にとっては大金か。この街なら、大根ならば4本は買える。

孤児院を出て、独り立ちするまでは外食なんか無理か……。

いやいや、別に客として来なくてもいいじゃん!

店が休みの日に遊びに来ればいいし、逆に、ルディナが孤児院に遊びに行ってもいい。

今まで、ルディナは休みの日には料理の研究をしたり大掃除をしたりと、私用では全く外出していなかったらしいけれど、それじゃ駄目だろう。子供は、遊ぶのも仕事のうちだ。

それに、以前ルディナが言っていた、『孤児院では月に一度、その月が誕生日の者を纏めてお誕生会を開く』ってやつ。料理が1品多く、手作りの木彫りの人形とかを貰うだけらしいけれど……。

それに、行けばいいじゃん。その日は、店は閉めて。

料理をたくさん作って、持っていってあげなよ。

……院長先生が、シルアに挨拶してる。

色々と助けてやってくださいね、とか言って……。

あ、こっちに来た。

「ルディナをお助けいただき、ありがとうございます! まさかあの子が、このような幸せを掴めるなんて……。よろしく、よろしくお願いいたします……」

そして、深々と頭を下げられた。

……さっきの、シルアに対する態度と全然違う。

これは……。

うん、バレテーラ!

私がオーナーだってこと、完全にバレてるね、これ。

さすが、お年寄り。

孤児院の院長、恐るべし!!

* *

「あ、オーナー。先日は、ありがとうございました!」

あれから数日後、閉店直後に店に顔を出した。

何だか、ルディナが以前より明るくなったような気がする。よしよし……。

でも、今日来たのは、例の心配事の件だ。

「ルディナ、例の粘着男の方はどうなってる?」

「ああ、あれなら、終わりました。

私が孤児院出身で、給料の一部を孤児院に寄付しているから文無しだってことを教えたら、嘘だ、って言って凄んできましたので、シルアがフォーク……、フォークソングで……。

あ、いえ、本当はちゃんと貯め込んでますよ? お給金は充分いただいていますからね!」

はいはい、フォークソングを歌って、撃退したわけね?

そして、私が相場を知らなかったから、住み込みで食材費無料でのあの報酬額が高すぎたということは、既にちゃんと認識しているよ……。

「それと、その時にいたお客さんのひとりが、孤児院のことをご存じだったらしくて、『あ~、いたいた! 確かに、以前孤児院にいた子だ! 思い出したよ……』って言ってくださいましたので……。

それ以後、あの男は姿を見せていません。

まあ、孤児院の近くで少し聞き込みをして調べれば、本当のことはすぐに分かりますからね」

その人、本当に孤児院時代のルディナのことを知っていたのか、それとも常連さんが気を利かせて嘘を吐いてくれたのか……。

ま、どちらにしても、本当のことなのだから問題ない。

あ~、大きな揉め事になることなく、無事に終わったか……。

これで、ひと安心だ。

13歳のルディナに先を越されるという最悪の事態は、回避されたか……。

「「え?」」

「ん? どうかした?」

「……声に出てましたけど……。今の……」

「……」

「「「…………」」」

「ぎゃあああああああ~~!!」