作品タイトル不明
301 侵略者 1
既に数日前から、コレットちゃんは自分でお手洗いに行けるようになっている。
まぁ、特別室だから室内にあるんだけどね、お手洗い。
元々完全看護だから、コレットちゃんの心のケアと退屈させないこと以外には、私達がずっと張り付いている必要はなかったんだけど……。
なので、コレットちゃんからの申し出により、私は面会時間には少し顔を出すけれど、長時間付きっきりではなく、他の仕事を進めることにした。
……サビーネちゃん?
ははは……。
ここで使いやがったよ、あの『録音内容確認のための、徹夜のバイト』の報酬を……。
そう、『自分が指定する時間に、病院と日本邸の間を移動させてもらう権』として……。
ここへ転移する時にはトイレの中へ、と指定しやがった。
確かに、お医者さんや看護師さんとかが来ていても、この部屋のトイレは使わないだろう。
コレットちゃんが使用中でも大丈夫なように、ドアぎりぎりの場所にふたり揃って転移、とか……。
個室なのが、 徒(あだ) となった。
しかも、部屋代が馬鹿高い、特別室だ。
なので、広いトイレが付いているし、防音も遮光も完璧。
そして、なぜか私とサビーネちゃんが面会時間以外に出没しても、看護師からの指導は入らない。
……絶対、上から何か指示が出てる。『容態に影響がないことには、なるべく自由にさせるように』とか何とか……。
そもそも、個室料金も、払っているのは普通の個室の料金なのに、特別室だよ……。
何かの指示が出てるに決まって……、あ!
私達、『お忍びで旅行中の、他国の貴族の娘』って触れ込みじゃん!
そして、初日に国の『 とある機関の人達(・・・・・・・・) 』が駆け付けて、警官を追い返して自分達で仕切ったり、その後も何回か私と話しに来た。
これで、特別扱いされないはずがないよ!
おまけに、私達がこの国で犯罪の被害に遭ったと思っているからね、病院側の人達は。
う~ん、部屋の差額分、病院のご厚意なのか、国から出てるのか……。
ま、どっちでも構わないか。 私の懐から出るのじゃ(・・・・・・・・・・) ない限り(・・・・) ……。
そして、サビーネちゃんの要求が『病院と王宮の間を移動』じゃなくて、『病院と日本邸の間を移動』なのは、アレだ。
『親友の危機に駆け付けないで、何が王族か!!』って王様達を言いくるめて、『ずっとコレットちゃんに付き添っている』と言い張って王宮には戻ってないんだよね、ここんとこ、ずっと……。
そしてその実態は、病院か日本邸に滞在して、王女教育のない休暇を満喫してやがるのだ。
そういうわけで、しばらくほったらかしになってたところの様子見。
そしてやって来ました、ギャラリーカフェ『Gold coin』。
「何か変わったことはある?」
閉店時刻の15分後くらいに顔を出したから、お客さんはもうひとりもいない。だから、ドアを開けると同時にそう言ったところ……。
「あ、オーナー! 実は、ちょっと困ったことが……」
ルディナが、そんなことを言ってきた。
* *
「えええええ!」
店の片付けと明日のための仕込みが終わった後、客席のテーブルで紅茶を飲みながらふたりの話を聞くと、何と驚きの報告が!
「プ、プロポーズされたぁ? ルディナが?」
そう、18歳のシルアではなく、13歳のルディナが、である。
横でシルアが、ぐぬぬ、と悔しそうな顔をしている。
……大分、表情が出るようになってきたなぁ……。
いや、4歳も年下のルディナに負けて、それだけ悔しかったのかな?
このあたりは、先進国に較べ、結婚年齢が低い。
現代地球でも、12~15歳くらいで結婚できる国はある。
日本でも、平安時代とかには13歳前後で結婚することも珍しくはなかったらしいし……。
でも、この国の女性の結婚可能年齢は、さすがにもう少し上だったはず……。
「あ、勿論、すぐに結婚できるわけじゃないですから、婚約、ということですけど……」
あ、それなら納得だ。
婚約なら、どこの国でも、生まれてすぐにということもある。
しかし、貴族だとか金持ちの家だとかならばともかく、孤児がそんなに早く婚約する必要があるかな?
結婚できるようになった時点で結婚すればいいだけであって、あちこちへの根回しだとか家同士の繋がりだとかで、事前契約のようなことが必要な立場じゃないだろうに……。
どうしても逃がしたくない、って執着してるのかな……。
「孤児院の頃のお友達?」
「いえ、それが、全く知らない人で……」
「えええええ? ……詳しく!!」
そしてルディナが言うには、最近店に来始めた24~25歳くらいの男が、唐突に婚約を申し入れてきたらしいのだ。それまでは、シルアの胸ばかり見ていたらしいのに……。
シルアは店で唯一のウエイトレスなので、客の眼に付く。無表情ではあるものの、整った顔立ちでスタイルもいい。年齢的にも、交際を申し込まれて何の不思議もない。
……というか、申し込まれない方が不思議なくらいだ。
ルディナも、決して可愛くないわけではない。しかしそれは、まだ13歳という『子供らしい可愛さ』だ。
いや、人種的なものがあって私と同じくらいの身長だけど、 地元(ここ) の人達から見れば、普通に13歳の子供に見えるだろうから。……私と同じく。
「ロリコンかっっ!!」
思わずそう叫んでしまったが、そうなると、私に交際を求めてくる者もロリコンだということになってしまう。
「ああ! あああああああああっっ!!」
思わず頭を抱えて、絶望の叫びを上げてしまった……。
……大丈夫、日本なら15~16歳くらいに見られるし、向こうの世界なら12~13歳で婚約するのも全然おかしくない! 私、貴族だし……。
婚約してから2~3年経てば、外見には関係なく15~16歳だと認識される! 『渡り』で生命力を削られて成長が遅れていると思われているし!!
はぁはぁはぁ……。
……え? あれ? 私、向こうで結婚することを前提として考えてる?
地球(こっち) で結婚することは諦めていると?
……いや。
いやいやいやいやいや!!
ぜぇぜぇぜぇ……。
「……それは、 一旦(いったん) こっちへ置いといて!」
そう、今はルディナのことである。
その男は、本当にルディナのことが好きなのか。愛しているのか。……そして誠実なのか。
「私はいつもカウンターの中か奥の調理場で調理をしていますから、お客さんとはあまり顔を合わせないし、お話しすることも殆どないんですけどねぇ……。
まだ、シルアの方が、同じくお話しはしないものの、近くで顔を合わせるのに……」
その条件でもシルアではなくルディナが選ばれたということであり、自分の言葉が暗にシルアをディスっているということに気付いていないらしきルディナ。
勿論、それに気付いているシルアは不機嫌そうである。
「それで、勿論お申し込みはお断りしたのですが、それ以後、急に馴れ馴れしい態度を取られるようになりまして、勝手にカウンターや奥の調理場に入り込もうとされたり、色々と……」
衛生管理的に、部外者を厨房に入れる飲食店なんかあるものか。
そういう、常連面をした勘違い野郎は、店の者からは 蛇蝎(だかつ) の如く嫌われる。
そりゃまぁ、客商売だからあまり露骨には文句を言わないけれど、絶対に許容できない行為だ。
そんな者は、常連扱いどころか、いつ出入禁止を言い渡されるかも分からない、嫌われ者だ。
「そして、『お店の経営を手伝ってあげる』とか、『もっと価格を上げて利益を出さないと』とか、お店のことに口出しをされて……」
え? いくらルディナと付き合いたいといっても、それは少し出しゃばり過ぎだ。
ルディナは、いくら店長とはいえ、ただの雇われ店長に過ぎないから、勝手に経営方針を変えたり、アドバイザーを雇ったりする権限はない。
実際には、うちはかなりルディナの自由にさせているけど、それは たまたま(・・・・) だ。
部外者には関係のない話に過ぎない。
なのに、なぜそんなことを……。
…………あ!
私は、日本では15歳前後に見られるけれど、欧米系の人種からは12~13歳くらいに見られる。異世界でも、そして地球の多くの国々でも。
異世界では、『魔物の肉』という安価で充分な供給量がある動物性タンパク質の食べ物があるため、栄養不足で身長が低かった昔の地球人とは違い、現代の地球人並みの身長と体格なのである。
……いや、まぁ、ここは地球なんだけどね。
そして、私はこの店の設立のためにあちこちに顔を出したし、従業員を雇うための面接もした。
……つまり、『この店の 持ち主(オーナー) は、12~13歳の少女である』という情報が流れているわけだ。 その筋(・・・) の者達の間には。
そして、顔写真とかは出回っていない。
シルア。18歳で、ウェイトレス。
ルディナ。13歳で、店長兼経理担当兼料理人。
普通に考えれば、13歳の店長兼経理担当兼料理人、というのはあり得ない。
しかし、料理好きな金持ちのお嬢様が趣味で開いた店ならば、それもあり得る。
しかも、趣味の店であれば、あまり利益が出ないであろうと思われる低価格設定の理由も理解できる。……普通の店にとっては、大迷惑であるが。
そして、オーナーは12~13歳の少女であるという情報。
ルディナは店に住んでいる。
武術の心得があるらしき年上の女性が、 護衛(ウエイトレス) として常に張り付いている。
地元の犯罪組織が手出ししないということは、 実家(後ろ盾) がかなりの権力者。
「……これ、ルディナがここの 持ち主(オーナー) で、金持ちの娘だと思われていて、完全に財産狙いじゃん!
アウト!
アウトオオオオォ~~!!」