軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

294 切られる少女と切れる少女 3

「アルダー帝国の暗殺者さん、あなたに私の暗殺を命じたのは誰?」

「……え?」

縛り上げられて、地下室の柱に繋がれた男……私を襲い、コレットちゃんを傷付けた犯人……にそう問い掛けると、男は驚いたような声を出した。

多分、私が男の素性を確認することもなくアルダー帝国の者だと決めつけたからだろう。

「皇帝ですか? それとも、実務担当の大臣か、軍の高官?」

「ど、どうして俺がアルダー帝国の者だと勝手に決めつけるんだ?」

あ、 そこ(・・) か……。

「いや、決めつけるも何も、そうだということを 知っている(・・・・・) からね。既に知っていることをいちいち聞く必要はないでしょ。

だから、その部分は飛ばして、その先から聞こうかと……」

「……」

「…………」

「「………………」」

「い、いや、俺はただカネで雇われただけで、雇い主のことは何も知らない……」

「だから、そういうのはいいから。私は『知っている』って言ったでしょ。

なので、供述も証拠も要らない。

売られた喧嘩は買う。吹っ掛けられた戦争は受ける。

攻撃を受けたなら、直ちに応戦。そして二度とふざけた真似ができないように、徹底的に叩き潰す。……当たり前のことでしょ?」

「…………」

暗殺者は、何とかアルダー帝国とは無関係だと思わせたかったらしいけれど、手詰まりになったのか、黙り込んだ。

ここで下手にアルダー帝国とは無関係だと主張すれば逆効果になるということくらいは、馬鹿でも分かる。なので、黒幕はアルダー帝国だと決めつけた私に対して、そうだとも違うとも言えず、困っているのだろう。

「まあ、喋りたくないなら、それでいいよ。ただ、あなたのせいで帝国が滅亡するだけだから」

「え?」

驚いたような顔をしても、もう遅いよ。

「だって、一部の者が企んだことなら、その連中を潰せばいいけど、誰が企んだのか分からなかったり、皇帝や貴族連中の総意であったりした場合には、全部潰さなきゃなんないでしょ?

反対したり止めようとした人達や、今回の暗殺未遂には無関係の人達には手加減しようかと思っていたんだけど……。

実行犯であり、任務に失敗して、なおかつ被害を一部の者達に局限してもらえる 機会(チャンス) を自ら潰して皇帝一族や多くの上位貴族達が壊滅することになる原因となったのは、あなた。

そのことを、帝国が壊滅したあとで、生き残りのみんなに伝えてあげるね。

あなたの名前、歴史に残るかもね。帝国が滅びる原因となった、稀代の大悪党として……。

家族や親族、お友達や職場の皆さんが、さぞや誇りに思ってくれるでしょうね。

じゃ、次に会うのは帝国が滅びた後になるかな? その時には、同僚や上司の皆さんのところへ送り届けてあげるね。……皆さんが、まだ生きていれば、だけど……」

そう言って、地下室を後にした。

後ろの方で、待てぇ、とか、話を聞いてくれぇ、とかいう声が聞こえるけれど、もう遅い。

私以外の者には言葉が通じないということはとっくに分かっているだろうから、私が立ち去れば、もうこの男には自分の言葉を私に伝えることすらできない。

……そりゃ、焦るか。

でも、自分ではっきりと『雇い主のことは何も知らない』と言っちゃったんだから、仕方ないよね。

一度言ったことを 翻(ひるがえ) されたんじゃあ、どっちが本当のことか分からないからねえ。

さて、では仕込みに入るか……。

* *

あれから、数日後。

現地時間にして、午前2時くらい。

街灯があるわけでなし、月明かりもない深夜。

勿論、人っ子ひとりいやしない。

私はごく普通の街娘のような恰好をして、アルダー帝国の帝都にいた。

うん、以前上空から見たことがあるので、転移で簡単に来ることができたのだ。

私の手には、 掛矢(かけや) ……大型の杭打ち用木槌……が握られている。そして、数本の 高札(こうさつ) ……立て札というか、掲示板というか……が背負われている。

その高札の1本をここ、民衆への告知の高札が立てられる帝都城の正門近くの地面に突き刺し、掛矢を振るう。

掛矢の頭部にはタオルをあてて、大きな音が響かないようにして……。

いくら帝都城の正門とはいっても、こんな時間に門番が立っていたりはしない。城門は固く閉じられて、門番は内側の詰所で椅子に座って仮眠を取っているはずだ。

……事前の聞き込みによると。

高札を充分打ち込んで、次の場所へ移動。

次は、帝都中央公園の高札場だ。

場所は、帝都の重要施設と共に、昼間のうちに確認してある。聞き込みによる情報収集もバッチリだ。

みんな、異国風の顔立ちで目立つ小娘が 間諜(スパイ) だなどとは考えもしないらしく、私が質問すると、知りたがりの他国からの観光客だとでも思うのか、何でも教えてくれた。

『おじさん、あれ、何?』

『軍の食料貯蔵庫だよ』

『おばさん、あれ、何?』

『王宮と取引のある大店の倉庫だよ』

って感じで。

まあ、別に秘密事項というわけではなく、帝都の人なら誰でも知っていることだろうから、問題ないのだろうけど……。

その後、もう3カ所ほど廻る。

無人の街での、孤独な作業だ。

しかし、辛くはない。

これは、コレットちゃんを傷付けられたことに対する復讐だから。

……山野一族の、怒りを見よ!!

* *

「な、何だこりゃ?」

「……め、女神様からのお知らせだぁ?」

帝都の人々が困惑するのも無理はない。

その日の朝、人々が目にした高札には、とんでもないことが書かれていたのである。

アルダー帝国が、女神の御使いに暗殺者を差し向けた。

女神の力に守られた御使いは勿論無傷であったが、御使いを守ろうとした敬虔なるしもべ、9歳の少女が凶刃に倒れた。

本日夕刻、神罰が下される。事件とは無関係の敬虔なるしもべ達は、帝都城、軍関連の施設から充分離れた場所にいること。

「おい、これって……」

「ああ。馬鹿貴族共がやらかしたか、それとも女神の名を騙る神敵の仕業か……。

とにかく、どちらにしても……」

「ああ。夕方には、安全なところにいるべきだ、ってこった……」

そして、そのしばらく後……。

「なっ、何だ! 空から紙が……」

帝都の上空から、たくさんの紙が降ってきた。

「……文字が書いてある? 俺は字が読めねぇんだ、誰か読んでくれ!」

識字率がそう高くはないため、何人かの者達がそう叫び、親切な者が降ってきた紙に書いてあることを大声で読み上げてくれた。

「『女神様からのお知らせ』……、こりゃ、高札に書かれていたのと同じ文章だ。皆に確実に伝わるよう、女神様が御配慮なされたに違いない! いいか、よく聞けよ! これに書かれている内容はだな……」

(……計画通り……)

日本で大量にコピーしてきたチラシを瞬間転移で帝都上空からバラ撒いたミツハは、その後帝都の地上へと転移し、人々の様子を窺っていた。

そして、紙が空から降ってきたこと、その紙が見たこともない薄くてつるつるのものであったこと等から、これは間違いなく本物、女神からのお知らせであると確信する者が多いことを確認した。

(よし、夕方前にもう一度確認して、作戦は予定通り実行しよう!)

そして、ミツハはウルフファングの 本拠地(ホームベース) へと転移した。