作品タイトル不明
293 切られる少女と切れる少女 2
「え……」
私の説明を聞いて、真っ青になって絶句するサビーネちゃん。
うん、コレットちゃんの怪我のことをサビーネちゃんに教えないわけにはいかない。
コレットちゃんは、サビーネちゃんにとって唯一、本音で話せるお友達だ。黙っていて、あとでバレたらただでは済まないだろう。
それに、英語がある程度喋れて信用できる者は、コレットちゃんの他にはサビーネちゃんしかいない。付き添いのお手伝いをお願いできるのは、サビーネちゃんだけだ。
なので、病院のお手洗いの個室から王宮のサビーネちゃんの部屋へと転移したのだ。
コレットちゃんはまだ麻酔から覚めていないから、今のうちに各部との調整を進めておくのである。……コレットちゃんが目覚めたら、忙しくなるから。
ウルフファングの隊長さんには、付き添いは頼めない。
見た目が、ちょっと……。
あのガタイでコレットちゃんに付き添っていたら色々とアレだし、警察を呼ばれかねない。
なので、私が席を外している間は、サビーネちゃん頼りだ。
「命に別状はないから、心配ないよ」
「そういう問題じゃあ……。傷痕とか、後遺症とか……。
それに、ミツハが狙われたんでしょ。今回の襲撃が失敗しても、また……」
うん、それくらいは分かってる。
「1時間後に来る。それまでに王様に説明して、着替えとかの準備をお願い」
サビーネちゃんは、こくりと頷いてくれた。
* *
「……知らない天井だ」
コレットちゃんが、日本語の勉強を兼ねて読んでいるライトノベルで覚えた言い回しで呟いた。
麻酔から覚めての、第一声がコレである。
そして、目覚めたコレットちゃんへの私の第一声は……。
「ごめん。痛い思いをさせてごめん。 傷痕(きずあと) が一生残るような怪我をさせてごめん。
ごめん、ごめん、ごめん、ごべん……、うあああああああああ~~っっ!!」
本当はコレットちゃんに抱き付きたいけれど、そうすると傷口が開いちゃうことくらい分かってる。だから、それは我慢した。
でも。……でも。…………でも……。
泣きじゃくる私に、コレットちゃんは優しく微笑んでくれた。
そして……。
「よかった、傷痕、残るんだ!」
「……え?」
満面の笑みを浮かべたコレットちゃんが何を言っているのか、分からない。
「これから一生に亘って、これがミツハを守った勲章だよって、みんなに何度も自慢できるんだ!
どう? サビーネちゃん、羨ましい?」
「ぎぎぎ……。
ミツハ、次に襲われる予定は 何時(いつ) !」
……ふたりが、何を言っているのか分からない。
王女様に怪我をさせたり、一生残るような傷痕を付けたりしたら、とんでもないことになっちゃうよ!
責任取って、お嫁さんに貰わなきゃならなく……、って、それもいいかも……。
いや。
いやいや。
いやいやいやいやいや!
コレットちゃんは、大丈夫だ。PTSDの兆候は、欠片もない。
おそらく、コレットちゃんにとって『死の恐怖』は一番怖いことじゃないんだ。
今、コレットちゃんの頭の中は、自分が死にかけたということに対する恐怖ではなく、私を守り抜いたということに対する喜びと誇り、そして満足感に満ちているのだろう。
……馬鹿だ……。
私が不在の間は、サビーネちゃんが付いていてくれる。
ならば、今、私がやることは……。
私の眼からこぼれ落ちた、 雫(しずく) 。
コレットちゃんの身体についた、 痕(きずあと) 。
ならば、それに続くのは……。
「 To Heart(あなたの胸に、直撃よ) !」
そう、 敵(あなた) の 心臓(ハート) に、鉛玉を……。
その胸 を飾る(に生えた) 、私がプレゼントした 銀色のアクセサリー(剣とナイフ) 。
私の脳裏を、この場にふさわしい言葉が次々と流れてゆく。
復讐の弾道
黒衣の花嫁
モンテ・クリスト伯
虎よ、虎よ!
コノウラミハラサデオクベキカ……
……そして……。
死ぬのは奴らだ!
「……行くの?」
サビーネちゃんの言葉に、私は、黙ってこくりと頷いた。
うん、勿論サビーネちゃんは、私も行く、なんてことは言わない。
……これは、私の仕事。
私が、ひとりでやる仕事だ。
それが分からないようなサビーネちゃんじゃない。
……転移!
* *
「隊長さん、航空爆弾と砲弾、たくさん用意して! 一定数回転しないと安全装置が解除されないとか、発射時のショックで起爆装置がアクティヴになるとか、そんな面倒な機構は付いていないか、簡単に解除できるやつ。
信管は、着発でも遅延でもOK。
それと、火炎瓶、ナパーム弾、バンカーバスター、燃料気化爆弾、対戦車擲弾発射器、その他諸々……」
「バンカーバスターは 高価(たか) いし手に入らん。……そして、燃料気化爆弾はやめとけ!」
「燃料気化爆弾はやめとけおじさん『燃料気化爆弾はやめとけ!』、ってことか……」
「誰が『おじさん』だっ! それに、まだ敵がどこか分かっていないだろうが。訊問もまだなのに……」
うん、訊問はしていないけれど、黒幕がどの国かは分かってる。
……私の、言語理解能力。相手の言語知識をスキャンして相手の言葉を喋れるようになる、ってやつ。
で、もし誰かの言語知識をスキャンしたあとで、『 鶏の唐揚げ(ザンギ) 』、『 氷下魚(コマイ) 』、『試される大地』、『 寒い(しばれる) 』、『デレツキ』とかの言葉を覚えていたら、相手がどこの出身かの見当は付くだろう。
そう、あの襲撃犯は、とある国特有の言い回しや言葉をたくさん知っていた。
そしてあの国では、いや、あのあたりの国では、私、雷の姫巫女様に危害を加えようとする者はあまりいない。たとえそれが街のチンピラや暗部の者であったとしても……。
だから、使い捨てとして他国の犯罪者を雇って、なんて考えると、仕事を受けた振りをして即座に通報、なんてことになるから、危なくて、とてもそんなことはできない。
なので、自国の、それも信用の置ける配下の者に命じるしかないんだよね……。
ま、そういうことだ。
勿論、あとでやるけどね、訊問……。
……まあ、そういうのがなかったとしても、最初から相手の見当は付いてた。
私を利用しようとするのではなく、問答無用で暗殺しようとする者。
それだけ私が憎くて、邪魔だと思っている者。
うん、そんなの、あの国しかないよね……。
一回目は、私がたまたま住んでいた国が攻撃された。
だから、『 雑貨屋ミツハ(大事なもの) 』と『 知り合いのみんな(大切な人達) 』を守るために戦った。……主に、職業軍人を狙い撃ちにして。
二回目は、知り合いの国が侵略された。
だから、国境を越えて侵入してきた軍隊を攻撃した。……主に、指揮中枢を狙い撃ちにして。
そして三回目は、私と、私の命より大切な女の子を殺そうとした。非戦闘員の、9歳の女の子を。
だから、それを命じた連中を攻撃する。……主に、 非戦闘員(皇帝一族と貴族達) を狙い撃ちにして……。
一回目と二回目は、別に私と私の大切な人達が直接狙われたわけじゃない。
国と国との戦いに、たまたま関係していただけだ。
私は当事者じゃなかったし、国の面子を潰さないようにとか、非戦闘員や無理矢理戦いの場に連れ出された人達をなるべく傷付けないようにとか、色々と気を遣った。
……でも、今回は違う。
私と、非戦闘員である私の大切な人に対する直接攻撃。
しかも、暗殺という卑劣な手段で。
……許さん!
山野一族の、怒りを見よ!!