軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

271 帝国の興亡 7

『 ワルキューレの騎行(おんがく) 』と共に、ヘリがサーチライトを点灯した。

まあ、敵には対空兵器がないから、敵兵を追い立ててパニックに陥れるには効果的か。

よし、こっちもそろそろか……。

「迫撃砲、撃ちー方始めー!!」

キィン キィン キィン キィン……

1メートルそこそこの、肉厚の薄いあまり頑丈そうには見えない筒に、その筒先から手で弾体を落とし込み、その落下の衝撃で発射されるという、とてもお手軽な兵器、迫撃砲。

発射音は、すごく小さい。

口径や種類によるけれど、余り大きくないものは『キィン』と僅かにかん高い音がするだけ。

他に、『パシュン』とか『パァン』とかいう音がするものもあるけれど、普通の榴弾砲とかに較べると、玩具かと思われるくらい発砲音が小さい。

そのくせ、4~5キロ飛ぶし、とにかく筒先から手で落とし込むだけなので連射性能がいい。

そして、砲も弾体も小型軽量。

こういう場合には、とても使い勝手がいい。

……但し、精密砲撃にはあまり向かないかも。かなり仰角が大きい、曲射だからねえ……。

迫撃砲は、殺傷目的ではなく、パニック助長用。

とは言っても、全くの見当外れのところへ撃つわけにはいかないので、勿論1発撃つごとに死傷者が出る。

……戦争なのだから、仕方ない。しかも、こっちは『侵略された方』だ。

ここでたたみ掛けるように攻撃して一気に潰走に持ち込まないと、この何十倍、何百倍もの死傷者が出ることになるだろう。……敵側にも、そして味方側にも。

敵軍は、完全にパニックに陥っている模様。

まだ辺りは真っ暗というわけじゃないけれど、一日の行軍が終わり、あとは夕食を摂って眠るだけ、という状況で気が緩んでいるところに、いきなりの大音響と炎の柱、そして次々と身体が千切れ飛ぶ仲間達。

聞こえてくるのは轟音、見えるのは仲間達の 阿鼻叫喚(あびきょうかん) の地獄絵図。

隊列を組んでいるわけでもなく、上官からの指示もなく、ただ一方的に自分達に降りそそぐ、むごたらしい死を招く光の雨。

薄暗くなってからの攻撃なので、機関銃の弾には、数発に1発の割合で 曳光弾(トレーサー) が混ぜてある。

曳光弾は弾頭の底に黄燐や赤燐、マグネシウム等の発火性物質が仕込んであり、撃つと、それらの物質が燃焼し発光しながら飛んでいく弾丸であり、撃ちながら照準を修正できるから便利だ。

敵から射手の位置が判る、通常弾とは弾道が少し変わる、等の欠点があるけれど、今回はそれらの欠点は大した問題とはならない。それどころか、威圧効果が増すから、メリットの方が大きい。

それに、近距離だと発火性物質が燃え尽きる前に目標に到達するから、 焼夷弾(しょういだん) としての効果もある。

曳光弾ではなく焼夷効果を本来の目的とした焼夷弾、焼夷徹甲弾のような効果はないが、荷馬車や荷車を焼き払うくらいであれば、それなりの効果は充分に見込めるだろう。

まあ、そういう狙いで混ぜているわけじゃないだろうけど……。

しばらくの間はただ闇雲に走り回っていただけの敵兵は、死を振りまく 光の雨(えいこうだん) がどうやら宿営地の中心付近に集中しているらしいことに気付いたのか、一斉に外縁部方向へと散り始めた。

別にそういう命令が出たわけではなく、それぞれの『生き延びるための、兵士としての勘』のようなものなのだろう。

どぉん!

そして、兵士達が蜘蛛の子を散らすように……かなり速度が遅いが……全方位に広がり始めてすぐに、轟音が……。

そう、勿論ウルフファングが事前に仕込んでおいた、地雷である。

1個あたり数百円から数千円で敵を倒せる、とても経済的な兵器である、地雷。

特に対人地雷は、安くて効果的。殺さずに重傷を負わせれば、敵に与える負担が大きくなって、いいことずくめ。

……仕掛ける側にとっては。

そして、その場所が敵国内であり、自軍が後でそこに進軍することがなく、戦後のことや道義的責任とかも一切気にしないのであれば……。

勿論、現在の地球においては禁止条約が結ばれているが、条約に加盟していない国もあるし、裏のルートで手に入るし、構造が非常に簡単なため、自作することも容易である。

……そしてここは、地球じゃない。

地球の条約の効果は、ここには及ばないだろう。

まあ、対人地雷の最大最悪の特徴である、『戦争が終わっても、そのまま埋まっている』、『非戦闘員である民間人が被害に遭う』というのを避けるため、地雷の 敷設(ふせつ) 個数はごく僅か、そして敷設場所は正確に記録し、爆発個数も確認して、用済み後は確実に全て処理することにしてあるからね。

タイマーで一定時間が経過すれば自爆するとか、電波で全て起爆するとかいう地雷もあるけれど、そういうのは高くつくし入手に時間がかかるらしいから、今回は安物で。

だから、踏むと空中に跳び上がってから爆発して殺傷効果が高いやつだとか、兵列の先頭にいる下っ端ではなく中央付近の騎士や高級士官連中を潰すための『一定回数踏まれてから爆発するやつ』とかも使っていない。本当に安物の、単純な『踏めば爆発する』というだけのやつだ。

とにかく、戦後に民間人に被害が出たり、敷設地域が誰も立ち入ることができない場所になったりすることは、許容外だ。いくら地球の協定は関係ないとはいっても、『私が決めたルール』は破らない。それが、最低限の、私の矜持だ。

……まあ、地雷は、私が『地雷、ついてこい!』で火山の上空にでも転移すれば、処分漏れは発生しないだろうから、心配ないけどね。

埋設場所を記録させたのは、私が無差別に地雷を使うつもりはないこと、そして地雷の敷設においてはルール厳守、ということをウルフファングの人達に示すためだ。

以後のこの世界における作戦において、安易に地雷を使うことを考えられると困るから……。

地雷が埋設してあるのは、前方、つまりゲゲゲ姫がいる王都へと向かう側のみ。

引き返す方には、埋めていない。街道にも、道から外れた両脇の草地や荒れ地の部分にも。

ま、そちら側の街道部分に埋めていたら、来る時に爆発してるよね。安物のしか使ってないんだから。

迫撃砲も、最初は中央部付近に撃ち込んでいたけれど、今は敵軍が夜営していたところと地雷原の中間付近に撃ち込んでいる。

そのあたりは敵兵がまばらだけど、たくさんの兵士を殺すのが目的ではなく、自国の方に雪崩を打って敗走させるのが目的だから、それでいい。

とにかくそういうわけで、前方側での爆発が続いているわけだけど、迫撃砲はそうたくさん撃ち込んでいるわけじゃない。

……迫撃砲の 弾体(タマ) は、高いんだって。

そりゃ、数百円の地雷に較べればねぇ。普通の榴弾砲や誘導弾に較べれば安いんだろうけど……。

まぁ、敵兵には迫撃砲による爆発と地雷による爆発の区別なんかついていないだろうけどね。

ただ、前方に逃げれば爆発して、後方に逃げれば爆発しない。それだけ分かれば充分だ。

敵陣には、明かりがなくなっている。どうやら、攻撃側に狙われないよう、焚き火やランプは全て消されたらしい。

でも、こっちにはサーチライトや赤外線スコープ、スターライトスコープとかがあるから、そんなに真っ暗というわけではない状況では、視界的には殆ど困らない。

逆に向こうの方が、外していた武器や防具を見つけられなかったり、自分の現在位置や上官の居場所が分からなくなって混乱に拍車を掛けているみたいだ。

そして上官の方も、散り散りになってしまった自分の部下に命令を下すことができなくなっている。

食事をする寸前の、武器防具を外し、気が緩んだ瞬間。

装備を身に着ける暇もなく、暗闇の中を逃げ 惑(まど) い、所属部隊の仲間や上官、指揮官達と完全にはぐれてしまった兵士達。

所定の位置から外れ落ち、どこかへ転がってしまった歯車。

そんなものには、何の価値もない。

発射速度は落としたが、撃ち込む場所を少しずつ中央寄りへと近付けている迫撃砲。

そしてそんなものは殆ど関係ないくらいに、あからさまに敵兵を追い立てる2機の汎用ヘリ。

勿論、大音量で『ワルキューレの騎行』を流しながら、サーチライトで威嚇し、機関銃をぶっ放しながら……。

よし、完全に敗走が始まったな。