作品タイトル不明
272 帝国の興亡 8
今日はこの辺で勘弁しといたろか。
「迫撃砲、撃ち方やめ~!」
そして、無線機の送信スイッチを、ポチッとな……。
「追い立て射撃、終了! 荷馬車と荷車の破壊と焼却に移行せよ!」
『1号機ラジャー!』
『2号機ラジャー!』
よし、これであらかた片付いた。
あとは、低高度で撃てば曳光弾で燃え上がるかもしれないし、お手軽でお安い火炎瓶も積んであるから、物資の多くを燃やせるだろう。
勿論、残る物資も多いだろうけど、馬車と荷車を燃やされ破壊され、馬を失っては、それらを全て運ぶことはできまい。
司令部や上級士官の多くを失い、装備や物資を失い、命令系統がズタズタのまま恐慌状態に陥って暗闇の中を敗走する軍隊。
明け方になれば、集結してある程度再編成されるかもしれない。
しかし、召集された農民兵達の中には、逃げたまま離散し、そのまま脱走して自分の村へと向かう者もいるだろう。
そして指揮官や上級士官達は、いつまで経っても姿を見せない。
物資を失い、空腹の兵士達。
様子を見ながらここへ戻り、物資を回収しようとしても、多くの物資は燃え、そして残った物資を運ぼうにも、荷馬車も荷車も使い物にならない。
……うん、再編成後の侵攻継続の確率は、かなり低いよね。
まあ、勿論偵察は続けるし、もし侵攻が続けられるようなら、また同じことを繰り返せばいい。
無線機を、ポチッとな……。
「状況終了! 策源地へ帰投する。迫撃砲陣地脇へ着陸せよ!」
『1号機ラジャー!』
『2号機ラジャー!』
あとは、みんな一緒にウルフファングの 本拠地(ホームベース) へ帰還するのみ。
ま、私はその後、ゲゲゲ姫のところへ顔を出さなきゃなんないけど……。
ゲゲゲ姫、多分ヘリの派手な凱旋とかを期待してるんだろうけど、下手に民衆が近付くと危ないし、乗員達も祝勝会に、とか言い出されると面倒だ。
私がずっと通訳させられるのも嫌だし、乗員達におかしな話を持ち掛けられるのも困るし、ヘリや武器の警備とかも……。
ヘリだけ先に転送するのもアレだし。
とにかく、面倒事は少ない方がいい。
あ、残った地雷を処分しとくか……。
本当は、敷設したウルフファングのみんなにやらせたいところだけど、夜中にやるには危険すぎるし、時間もない。なので、今回は後で口頭での『地雷は、私が許可した場合以外は使わない』という再度の通達だけで済ませよう。
ま、ウルフファングのみんなは、それくらいのことはとっくに承知しているんだけど。
* *
ヘリが着陸した。
エンジンは止めないから、うるさいのとローターの風圧のため、少し離れた場所に。
転移で地球に戻る前に、異状の有無を確認しなきゃ。基本は守らなきゃね。
なので、事前の打ち合わせ通り、両機の機長が降りてきた。
「異状は?」
「1号機、人員・機材、異状なし!」
「2号機、人員・機材、異状なし!」
「了解。オールミッション・コンプリート、 本拠地(ホームベース) へ帰投する!」
手順通りの遣り取りをして、カッコよくキメた。後は、『了解』の返事を受けて……。
「あの、ちょっと頼みがあるのだが……」
「ん? 何?」
圧倒的な力の差があったとはいえ、全く危険がなかったわけじゃない。荷馬車の破壊のため高度を下げた時、弓や投槍で奇襲されれば死者を出した可能性はあるし、下手をすればヘリが墜落したかもしれない。
なので、命懸けの仕事を請け負って……、いや、『参加費を払って』やってくれたことに対して、多少のことは聞いてあげてもいい。元々、何か埋め合わせをしようと思っていたし。
「せっかく異世界に来たんだから、土と草を少し持って帰りたいな、と……。それと、撮影も……」
「何だ、それくらい全然構わないよ。あ、防疫のため、虫や細菌とかは転移対象からカットするよ」
「そりゃ、当然だろ。じゃ、少し待っててくれ」
1号機の機長が手を振って合図すると、両機の乗員が何人かずつ降りてきた。そしてその手には、バケツと移植ごてが……。どうやら、前もって打合せがしてあったらしい。
さすがに、全員降りて、ローターが回っているヘリを無人にしたりはしないか。副操縦士は残ってるよねえ、 正操縦士(きちょう) が降りているんだから……。
「撮影したの、他の者に見せてもいいか?」
「あ、私達の首から上は撮影しないなら。それと、テレビやネットとかの一般民衆の目に触れるのは駄目。仲間内や傭兵仲間に自慢したり、土や草を売る時の証明のために使ったりするのはいいよ。
つまり、元々この世界のことを知っていた者には見せてもOK、新規に広めるのはNG、ってことね」
うん、今回は弾薬その他で大赤字のはずだ。いくら異世界での戦いに参戦したかったとはいえ、傭兵団としての予算の遣り繰りでこんな大赤字を出しちゃあ、運営が苦しくなるだろう。
元々、私は依頼料を出して雇うつもりだったんだ。数十万ドル、下手すれば数百万ドル払って。
だから、それくらいは構わない。
土は普通の土であって、別に稀少金属を含んでいるというわけじゃないし、草も、植物図鑑で地球にはない植物だと判定したわけじゃない、普通の草だ。私が各国との取り引きに使うようなものじゃない。なので、それくらいなら全然構わない。これが、動物だとか、敵の兵士の死体を、とか言われたら、ちょっと考えるけど。
* *
そして、しばらくして、ヘリ乗員による土と草の採取が終了。
採取の様子は、仲間がビデオ撮影していた。採取物が本物だという証明用だろう。撮影はさっき私が許可したから、問題ない。
本当に、普通の土と雑草、せいぜいが草花程度だから、お金にはならないと思うけどね。
アレかな、甲子園で、出場チームが記念に土を持って帰るというようなやつ。
確かに、お土産としてはいい記念になるかもね、異世界の土と草は。何より、お金がかからないのがいい。
さて、では帰還と行きますか。
帰還の転移は、別に乗員が全員ヘリに乗らなきゃならないわけじゃない。
それに、こんなところではエンジンを止めたりしないけれど、ウルフファングの 本拠地(ホームベース) に戻ったらそのままエンジンを止めて、みんなお風呂に入った後で 事後報告会(デブリーフィング) 、そしてその後は親睦会となる予定だ。
私は、みんながお風呂に入っている間にレミア王女のところに顔を出して、 事後報告会(デブリーフィング) に間に合うように戻ってくる。
私のお風呂? 私は迫撃砲からは少し離れていたから、別に火薬の燃焼ガスを浴びたりしていないし、出発前にシャワーを浴びてから、そんなに時間は経っていない。
……い~んだよ、細けえこたー!
女の子は、臭くなったりしないんだよ!
それに、最近、新しい技を身に付けたのだ。
転移する時に、『汗や老廃物は残れ!』ってやつ。
さすがに、体内にあるうんちは残していかないよ。
……酷い便秘の時以外は。
勿論、その時には、ちゃんとトイレから転移するよ……。
地雷は、ヘリが着陸する前に転移で処分した。
あとは、ヘリと人員、迫撃砲と残弾や各種装備をウルフファングの本拠地へ転移させるだけ。
「じゃ、みんな準備はいい? 帰還するよ!」
よし、OK!
「転移!」