作品タイトル不明
270 帝国の興亡 6
王都中から湧き上がる歓声を受け、大空へと舞い上がる2機の汎用ヘリ。
目指すは、先行しているウルフファングの待機地点。
場所は、国境からこちら側へ約1日の距離。
……輸送部隊を伴った、歩兵中心の軍隊の進行速度で。
王都からはまだまだ距離があるが、ヘリならば、大した時間はかからない。
そして、戦闘地点がそれだけ国境のこちら側であれば、誰がどう言おうと、こちら側が宣戦布告なく奇襲により侵略された被害者として、『正義は我に有り!』と声を大にして叫べるというわけだ。
攻められる方には不利なこともあるが、有利なこともある。
戦場が自国内だということは、地形や地域特性がよく分かっているということ。
戦う場所や時期を自分達で決められること。
……敵軍が国境を越えた場所が分かっていれば、そこから王都へと向かう進軍ルートなど、子供にでも分かる。そして SOA(スピードオブアドバンス) 、進出速度から計算すれば、かなり正確な推定位置が分かる。
まあ、そんな予測計算をしなくても、斥候やら地元住民の有志やらが刻々と情報を届けてくれるのだけど。
……そして更に、事前に『仕込み』ができるという利点がある。
帝国軍が朝方に国境を越え、夕方頃に差し掛かるあたりで、軍が夜営できそうな丁度いい場所となると、ある程度限られる。
ウルフファングとは、随時無線機で連絡を取っている。
なので、丁度良い場所を選んで『仕込み』をして、そしてそこを見下ろせる高台に10基の迫撃砲を設置しているということは既に確認済みだ。
そして、転移でヘリを連れてくる前に一度こちらへ来て、予測通りの場所で敵が夜営の準備を始めたことも勿論確認してある。
もし予想が外れた場合には、作戦の決行を1日繰り延べて仕切り直すつもりだったけれど、二度手間にならなくてよかった。
迫撃砲、6人で10基というのは多すぎるような気がするが、まぁ、それぞれ少しずつ照準をずらしておけば、1基だけ使っていちいち照準を変えるのよりは楽ちんなんだろう……。
迫撃砲は、今回用意したやつは5000メートルも飛ばないらしい。ウルフファングは、先進国の正規軍みたいに、高価な最新装備を用意できるわけじゃないからねぇ。
でも、迫撃砲は砲自体が小型軽量で、弾体の発射もとても簡単なので、傭兵団にとっては使い勝手がいいらしい。
そりゃ、大口径の自走榴弾砲なんか、小さな傭兵団が入手したり維持整備したりするのは無理だろう……。
とにかく、今回の任務には迫撃砲で充分、というわけだ。
そもそも、主役はヘリチームなので、迫撃砲は『 賑(にぎ) やかし』に過ぎないし。
攻撃 発起(ほっき) 地点が近付いてきた。
『間もなく目標地点。高度下げ!』
『『ラジャー!』』
少しでも発見される時間を遅らせるため、高度を下げるように指示。
そしてしばらくすると、前方からの発光信号を視認。
迫撃砲は曲射なので、陣地は敵からは見えない位置にある。なので、反対方向から来る私達に指向性の発光信号を送ることは全く問題ない。
『前方に友軍からの発光信号を視認。あとは計画通りに。私は離脱します!』
『1号機ラジャー!』
『2号機ラジャー!』
この期に及んで、余計な指示は必要ない。
そして、プロは無駄口を叩かない。
『作戦開始!!』
そして私は地球を経由した連続転移で地上、ウルフファングの迫撃砲陣地へと転移した。
これからヘリがドア全開で急激な機動をやりまくるというのに、そんなのに乗ってたら、落ちちゃうよ! ……多分、酔っちゃうし。
それに、狭いから私がいたら邪魔になっちゃうしね。
ここは、素人はお呼びじゃない場所だ。
……その名を、 最前線(フロントライン) と言う……。
「砲撃用意!」
「用意よし!」
私が言うまでもなく、当然のことながら準備は調っていた。
……うん、知ってた。
でも、お約束というか、カッコいい台詞は言いたいよね!
そして、2機のヘリは迫撃砲陣地をオントップした後に上昇して高度を取った。
敵の野営地全体を 俯瞰(ふかん) して、司令部の位置を確認するためだ。
あと、物資の集積場所……荷馬車や荷車を駐めているところ……とか。
勿論、矢や投槍等が届かないように、という意味もある。
皆が寝静まってからの方が、相手が混乱するし真っ暗で対処が遅れるから都合がいいんじゃないかと思ったのだけど、あまり真っ暗だと司令部や物資の集積場所が分からない、と言われた。
食事の時間なら、焚き火やら何やらで大体の位置は分かるらしい。
まあ、司令部は普通中心付近に置くだろうし、物資は街道脇に置くだろう。それ以外の場所にする理由がないからね。
そして、いくら地上に焚き火による明かりがあろうとも、それは上空を照らせるようなものじゃない。
漆黒の空から聞こえるタービンエンジンとローターによる騒音。
雷か、それとも何かの天変地異か。
そう思ったのか、騒ぎながら空を見上げる兵士達。
うん、少し丘を上れば、敵の野営地はここからも見える。真上から見るわけじゃないから司令部の位置とかは分からないけど、兵士達の騒ぎくらいは分かる。一応、スターライトスコープくらいは用意してあるので。
そして、そろそろ『明るくなる』頃なので、スターライトスコープを使うのはやめとこう。
ぼちぼち、ヘリチームが野営地の布陣を把握した頃かな……。
どおん! どおん!!
キタ~!
1機のロケット弾は、2発共、司令部のテントと覚しきところへ撃ち込まれたはず。
そしてもう1機は、物資、つまり荷馬車や荷車が駐めてあるところへ……。
どおん! どおぉん!!
よし、来た!
汎用ヘリの武装は、M60機関銃が左右各舷に1挺ずつ。そして、無誘導ロケット弾が2発。
所詮、傭兵の装備なので、とても最新型というわけにはいかない。そのため、ヘリの武装も少々古く、骨董品に近いものらしい。2発しか装填できない無誘導ロケット弾でも、彼らにとっては虎の子の兵装なのだろう。
ウルフファングにとっての 連装20ミリ機関砲(かみさま) と同じく、傭兵団の誇り、傭兵団の象徴、ってとこかな。
これで、ロケット弾は打ち止めだ。
あとは……。
どたたたたたた!
うん、機銃掃射だ。ベルト給弾の、7.62ミリ弾による掃射。
但し、兵士を片っ端から狙うんじゃなくて、司令部と思われるテント付近の人影と、各部隊ごとの指揮系統……大隊本部とか……を集中的に狙っている。
目的は敵の殲滅ではなく、雪崩を打って 潰走(かいそう) させることなのだから、無駄に死者を増やす必要はない。
……そりゃ、何百人もの、あるいは何千人もの死者は出るだろうけれど、それは仕方ない。宣戦布告もなしに他国に侵入してきた侵略者達なんだから……。
そして……。
ちゃちゃちゃちゃ~ちゃ、ちゃちゃちゃちゃ~~!
やっぱり……。
ヘリコプター乗りは、この曲しか知らんのかい!
上空から大音量で聞こえてくるのは、勿論、皆さんお馴染みの『ワルキューレの騎行』。
まあ、あとは敵兵にパニックを起こさせて潰走させるだけだから、ハッタリカマすのはアリだけど……。
さすがに、元ネタに忠実にオープンリールで鳴らしているわけじゃないだろうな。
今の音響システムは場所も取らず電力もあまり喰わないから、大して邪魔にはならないか。
……しかし、敵の兵士には、どう受け取られているのかなぁ。
『ワルキューレの騎行』と言うよりも、……『悪き幽霊の奇行』?