作品タイトル不明
257 誕生日 7
どん!
ひゅるるるるるる……
し~ん……
ぱぁんっ!
「「「「「「うわああああぁ~~っっ!」」」」」」
最初は、単発でデカいのを上げてくれた。
20号、一発80万円の、2尺玉かな?
あああ、一瞬で、80万円ががが! しかも、人件費別で!
80万円砲……。
ガッハ・カラカラかな?
この世界初の本格的な打ち上げ花火なんだから、初弾がショボいのだと 沽券(こけん) に関わる、とか思ったのだろうなぁ……。
それに、予算の関係で、あまり連続した同時打ち上げはできないから、間隔をあけて、一発ずつじっくりと楽しむ構成にしてくれたのだろう。 早打(はやうち) は短時間で大量の玉を消費するからねぇ。
とは言っても、一発ずつ手動で導火線に点火するような時代じゃないから、全て事前にプログラム入力しての、電子制御による、電気導火線を使った遠隔点火なのだろうな、多分。
安全第一だよねぇ。
さすがに2尺玉は、そうそう打てないだろう。あとは、10万円の10号(尺玉)や、3万円の7号あたりで。
……5000円の3号とかは、さすがにショボい……、いや、それも、使い方次第でいい味を出せる場合もあるか。全ては、プロの技術次第だ。
そして、たまには連発を交えながら、一発一発、限られた予算内で大事に打ち上げてくれている。
これが、王宮主催のイベントであれば充分な予算が出せたのだろうけど、ただの伯爵家の娘の誕生祝いだと教えてあるから、そうそう無茶な金額は出せないことは、おやっさんも理解してくれている。
……でも、打ち上げ場所として王宮の敷地を提供されていること(勿論、見張りの兵士が何人も張り付いている)から、普通の伯爵家の娘じゃないだろうということは察しているかも。
そういうのは全然分からない人達かもしれないけれどね。技術屋さんだから……。
とにかく、うまくすれば次は侯爵家御令嬢とか王女殿下とかの誕生パーティーの仕事が、とかいう可能性には、当然気付いているだろう。その時には、しっかりと黒字になるだけの報酬をせしめるつもりで……。
ま、そんな損得勘定とは関係なく、生まれて初めて花火を観る異世界の人々に半端なものを見せては花火師の名折れ、という思いを上回る理由なんかないんだろうけどね。みんな、馬鹿揃い(褒め言葉)だから……。
本番である今日は、朝から数人の従業員を連れてきて設置作業をしていた。
勿論、従業員達には全員、守秘義務を徹底させたし、おやっさんと下見の時に一緒だった人以外には、詳細は説明していない。ただ、おやっさんの指揮で設置作業をしているだけだ。
……ここが『異世界』だってことは、勿論分かっているだろうけどね。
ま、もし誰かに喋ったとしても、誰も信じやしないだろうけどね、『異世界に行って、花火を打ち上げた』なんてヨタ話……。
誰かが漏らしたとしても、おやっさんや他の従業員達が否定すれば、漏らした奴が嘘吐き扱いされて終わりだ。異世界行きの証拠なんか、何もないし。
そう、見張りの兵士には、従業員達の安全確保と共に、『この世界のものを持ち帰らないよう、見張っておく』という任務を指示してあるのだ。草一本、葉っぱ一枚すら持ち帰らせないよ。
そういう点でも、設置場所が王宮なのは都合がいい。見張りがいたり、行動できる場所が限られていたりしても、不自然じゃないからね。
ま、どうせ帰還時の転移で、私が余計なモノは排除するんだけどね……。
そして、花火は予定通りに進行している。
日本有数の大花火大会には到底及ばないけれど、短い時間内で、少ない玉数で、精一杯のプログラムを組んで多くの種類の花火を打ち上げてくれている。
興奮して叫ぶ人、声も無く呆然として見入る人、女神の奇跡だと泣き出す人……。
勿論、この中庭にいる人達だけじゃない。
王都中の人達が、王宮から夜空に駆け上る 火箭(ひや) と、大輪の花を咲かせる炎の花に熱狂し、叫んでいる。
その声は、王宮の広場で打ち上げ作業をしているおやっさん達にも届いているだろう。
勿論、もっと大規模な打ち上げは、何度もやったことがあるだろう。
……でも、こんなにやり甲斐のある、心が燃える仕事は、そんなにないと思うよ。
喜んでくれているといいな……。
そして、フィナーレは連続乱れ打ち、最後にデカいの……多分、尺玉……を打ち上げて、花火は無事終了した。
あとは、転移で日本に連れ帰ってあげるだけだ。パーティーと、身内での二次会が終わる頃には、片付けも終わっているだろう。
おやっさん達にも、撤収作業が終われば食べるようにと料理や飲み物を用意してある。
……勿論、お酒はなし。
夜で人目はないだろうから、器材を積んだトラックは店の横に転移してあげるけれど、従業員の皆さんはそこから自分のクルマとかで帰宅するわけだからね。
それに、もしトラックの荷物をすぐに下ろそうとして、酔っていたために手や足を潰した、なんてことになったら大変だし。
* *
花火のあと、しばらく呆けていたお客さん達もようやく再起動し、少女の成人を祝福する女神の御業を 讃(たた) えたり、周りの人達と興奮してツバを飛ばしながら話したり……。
夜だからツバが飛ぶのが見えないのは、幸いだ。
花火が女神の御業だと思っている人もいるみたいだけれど、勿論、そうは思わない人達もいる。
王宮で打ち上げ作業を見ていた人達、……そして、その費用を経費として請求される、ボーゼス伯爵様とか。
そして……。
「ミツハ!!」
え? どうしてサビーネちゃんが怒っているの? それも、激おこだ。
ここは、花火の素晴らしさに感動して、賞賛の言葉を掛けてくれるところじゃないの?
「どうして……」
え?
「どうして、アレを今使ったのよ! 私のデビュタント・ボールの時、どうするのよ!
二番煎じじゃ、笑いものになっちゃうじゃないの!
私の時には、アレより凄いのを用意してくれるんでしょうね!!」
「あ……」
私が思わず溢した言葉に、サビーネちゃんが激昂した。
「あ、って何よ、あ、って! まさか、何も考えていなかったとか? ミツハが持っているパーティー用演出の隠し球、今回で全部使い果たした、ってことはないよね? よね? よね……」
……やばたにえん。
どうしたら……、あっ、いいもの見っけ!
「ルーヘン殿下、お楽しみになられていますか? どうでしたか、先程の花火は……」
「こら、逃げるなあっ!」
いやいや、こんな絶好の弾避けが来たら、そりゃ使うでしょ!
サビーネちゃんは、弟のルーヘン君には甘いから、私がルーヘン君と話している時には邪魔をしないし、声を荒らげることもないんだよね~。へへへ……。
「……ミツハ、僕の成人の誕生パーティーの時には、勿論もっと凄いのを用意してくれるんだよねっ!」
「しまった、こっちもかああああっ!!」
そして、あとは私が差配することは特になく、そのままパーティーは無事に終わったのであった。
その後、余った料理とお酒で、ボーゼス家の使用人、ライナー子爵家からのお手伝い軍団、電飾行進のキャスト達と共に二次会。勿論、ボーゼス家総員とサビーネちゃん、そしてアデレートちゃんも参加。
自分の家の使用人達が参加するのに、自分だけ帰るような子じゃないよね、アデレートちゃんは。
使用人達と一緒に帰るから、多少遅くなっても問題ないし。
勿論、御両親は空気が読める人達なので、とっくに帰っている。
……で、どうしてここにいるのかな、第一王女殿下と、王様、宰相様……。
あ、 第二王女殿下(ちいねえさま) もいるか……。
仲間内での打ち上げなんだから、空気読もうよ!
……しかし、第一王女と第二王女は既に成人していて、そしてベアトリスちゃんには妹がいなくて、よかった……。本当に、よかった……。