作品タイトル不明
258 誕生日 8
二次会が終わって、私は王宮へ。
今回は、ボーゼス家の会場では私が今すぐに片付けなきゃならないものはない。私が提供したお酒や料理、食材等は、余ったものも全部ボーゼス家のものになるからね。
最初に使ったノートパソコンやプロジェクターとかは、使用後にすぐ片付けて、隙を見て一瞬のうちに日本の自宅へ転送しておいたし。
幕や照明関係は、明日でいいや。ボーゼス伯爵家に盗みに入るような泥棒はいないだろうからね。無理に今日片付けようとして、酔った連中が暗いところで作業なんかすれば、事故の元だ。
そう、スペイン語で言うところの、アレだ。
『 明日で間に合うニャ(アスタマニャーナ) !』
……そして今私がやらなきゃならないのは、花火関連の撤収作業だ。
「お疲れさまでした~!」
私が打ち上げ器材の設置場所に行くと、既に器材は片付け終えてトラックに搭載されており、みんなは草地に座って料理を食べていた。
……飲み物は、お茶。ジュースだと、せっかくの料理の味が分からなくなるからね。
お酒は、なし。このあと、事故られたりしたら寝覚めが悪いからね。
「おお、嬢ちゃん! ま、ここへ座れ!」
「「「「「座れ座れ!!」」」」」
え? いや、みんなお酒は飲んでないよね?
……まぁ、座るけどさ……。
「花火師生活50年、こんなに嬉しいことはない!」
……町田先生かよ……。
「花火師として、日本式の花火を観たことのない異国の人々に『初めての花火』を見せるという大役を授かり、我が生涯を捧げた花火の素晴らしさを……」
あああ、何か、熱弁が始まっちゃったよ……。
「長い時間を掛けて作ったものが一瞬で 弾(はじ) け散る、 浪漫(ロマン) 。 刹那(せつな) の輝きに、人生と命を込めた……」
お酒、飲んでないよね?
あああああ、従業員の皆さんも、何だか涙を 拭(ぬぐ) ってるよ。
……まぁ、気持ちは分かる。
街中から上がる大歓声。
この世界の伝説として、歴史に残るであろう偉業。
それを成し遂げたのだから、嬉しくないはずがない。
まぁ、料理が残るのも 勿体(もったい) ないし、食べ終わるまで付き合うか……。
* *
あの後、花火師の皆さんを送り届け、解散。
残りの半金と追加分の200万、そして少々の心付けの追加料金を加えて、明日中に振り込んでおこう。
振り込みは、国内からがいいかな。
いや、万一送金ルートを辿られるとマズいから、私の口座から振り込むのは駄目か。
窓口で現金振り込みの手続きをするのも、金額が大きいから顔を覚えられたり、ちょっと支店長室まで、とか言われると困る。防犯カメラの映像とかも含め、辿れる痕跡を残すわけにはいかないし。
……仕方ない、前金の時と同じく、現金手渡しか。国外からの振り込みも、円でとなると、何かと面倒そうだし。
現金を用意しなきゃならないなら、支払いは数日後でいいか。今日は別の用があるし、おやっさんもそう急がなくてもいいって言ってくれてたし……。
いや、日本で自分の口座から下ろせばすぐだけど、それだとその分の補充で『彫刻が海外で売れたことにして、送金』という手間が掛かるし、税金をガッポリ取られる。
これは『山野光波』が使ったお金じゃなくて、『謎の依頼人』、もしくは『異世界の王女、ナノハ』が支払うお金だ。なので、『日本人、山野光波』が税金を払わなきゃならない理由はない!!
うむうむ。
……しかし、おやっさん達と直接顔を合わせると、また熱弁に付き合わされそうな気がするから、気が進まないんだけどなぁ。
ま、仕方ないか……。
* *
そして、翌日。
やってきました、ボーゼス伯爵家王都邸。
うん、LEDライトや電線、発電機やバッテリーとかの回収と、伯爵様との事後打合せがあるからね。支払いのこととか、反省点とか、色々と……。
よし、たのも~!
* *
「ミツハ、最っっ高!! 昨夜のことは王国史に残るわよ、私の名と共に、永遠に!!」
そう言いながら私に抱き付いてきた、ベアトリスちゃん。そして……。
「やってくれたな、ミツハ……」
そう言って、頭を抱える伯爵様と、剣呑な雰囲気のイリス様。
……勿論、『やってくれた』というのは、お礼や賞賛の言葉じゃない。
「事前にミツハが『ボーゼス伯爵家の長女、ベアトリスのデビュタント・ボールを祝い、祝砲の大きな音と共に夜空に炎の華が咲く』と触れて廻っていたから……、あ、いや、それは仕方ないのは分かっておる。何の予告もなく アレ(・・) をやっていたら、パニックが起こっていただろうからな、事前予告の必要性は分かっておる。問題は、だ……」
そこで、大きく息を吸った伯爵様。
「あれを観た王都の民の大半が、『女神様が、聖女ベアトリス様の御成人を祝福されたのだ』と信じ込んで、夜通し大騒ぎ。今もまだ酒盛りしとるわっっ!!」
うひゃ~!
昨夜は疲れてたから、日本の自宅へ戻ってシャワー浴びてベッドで熟睡したため、全然知らなかったよ……。
「あ、じゃあ、神殿の大司教様あたりにお願いして、否定してもらえば……」
「大司教は、先頭に立って『女神の奇跡です!』とか『聖女の誕生です!』とか叫びまくっておるわっ!!」
「あちゃ~!」
そう言えば、神殿には事前告知に行かなかったなぁ……。
「そして……」
まだあるんかい!
「今朝早くから、次々と貴族家からの使いが来ておる。……そして現在、ベアトリスへの婚約の申し込みが既に30件を越えておる。皆、我がボーゼス家との繋がりと、そしてそれ以上に、聖女を自分の一族に取り込もうとして必死になっておるのだ。
……どうしてくれる! まだベアトリスは4日前に15歳になったばかりだぞ! どうしてくれるのだ、ええ!!」
あわわわわ、伯爵様、激おこだあっ!
そりゃ、ベアトリスちゃんは年齢制限ギリギリまで結婚させない、そして結婚する時も、嫁には出さずに婿を取る、とか言ってたからなぁ、伯爵様……。
いや、ベアトリスちゃんは別に跡取りで女伯爵や女侯爵になるというわけじゃないけれど……。
イリス様の方をちらりと見ると、イリス様はそんなに怒ってはいない模様。
イリス様も伯爵様と同じように考えておられるだろうけど、やはりイリス様も女性だから、もし自分のために昨夜のようなデビュタント・ボールを行ってもらえたら、と考えると、ベアトリスちゃんの喜びが理解できるだろうし、私がどれだけベアトリスちゃんのために頑張ったかを分かってくださっているのだろう。だから、マズくはあっても、私を怒鳴りつけるつもりはないのだろうな。
「そして……」
えええ、まだあるんかい!
「陛下から、『サビーネの時は、あれに劣らぬものにしてくれるのであろうな!』と。そして、『ルーヘンの成人の儀のことも忘れるな!』と……」
「ぎゃあああああああ!!」
サビーネちゃんとルーヘン君のことは、昨夜、本人から直接釘を刺された。
実は、サビーネちゃんのことは、全く頭になかったわけじゃない。無意識のうちに考えないようにしていただけで……。
……でも、一の姫様と二の姫様のデビュタント・ボールはもう終わっているから安心していたので、第二王子のルーヘン君の成人の儀のことまでは頭になかったんだよね……。
女性の華やかなデビュタント・ボールにばかり頭が行っていたけれど、男性の15歳の成人の儀も、大きなパーティーを開くんだよねぇ、当然のことながら……。
ボーゼス家次男のテオドール様は、出会った時にもう既に15歳だったけど、ルーヘン君はまだだからねぇ。第二王子殿下の成人の儀が、伯爵家の長女のデビュタント・ボールよりショボい、なんて、王家の威信に関わるよねぇ、やっぱり……。
そして私は、花火も出店も電飾行進も、手持ちのネタは全て使い果たした。
……やばたにえん……。
あ、そういえば、どうして今まで私は貴族の少女のデビュタント・ボールに『普通の招待客』としてはあまり呼ばれなかったのだろうか。
裏方として依頼されたことはあるけど……断ったけどね……、招待客としては、そんなに呼ばれないんだよねぇ。
いや、呼ばれる時はあるけど、明らかに 頻度(ひんど) が少ない。他のパーティーには必ず招待されるのに。
勿論、招待されたパーティーに全部出るわけじゃないけどね。
とにかく、それが少し疑問に思えたので、伯爵様に聞いてみたところ……。
「……馬鹿か? 自分が主役として若い男達に売り込める 機会(チャンス) に、自分より圧倒的に優良物件であり男達の関心を集めまくる女性を招待するような間抜けがいると思うのか?
まだ婚約者探しをする気がないとか、自分の売り込みよりもミツハとの繋がりを求めて本人か親が望まない限り……」
あ~……。
いや、勿論分かってる。
伯爵様が言われている『優良物件』というのが、見た目や身体の特定部分のサイズとかのことじゃないことくらい。
子爵家当主だとか、大国の王姉殿下だとか、神兵へのコネだとか、王族と仲がいいとか、そっち関連のことだよね。
そして、ベアトリスちゃんみたいに、両親が『うちの子には、まだ虫は付かせない!』と考えているとか、『何とかして雷の姫巫女様と懇意になりたい!』と思っているとかいう場合には招待してもらえる、ってことか。
…… 新大陸(ヴァネル王国) では、誕生パーティーに引っ張りだこなんだけどなぁ、私……。