軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

255 誕生日 5

ぱぁん!

寸劇を終えて、普通のドレス……貴腐人店長作……に着替えたばかりのベアトリスちゃんと、ハイタッチ。

「完璧の母!」

「えへへ……」

失敗の許されない、自分の出番が無事終わったからか、寸劇の成功に自信を持ったからか、ベアトリスちゃんの表情も明るい。あとは心配なさそうだ。

いや、『出番が終わった』といっても、それはさっきの寸劇のような『ベアトリスちゃんがやる 演(だ) し物は』、という意味であって、パーティー自体の主役がベアトリスちゃんであることは変わらない。だから……。

「ベアトリスちゃん!」

あ、サビーネちゃん……。

「私の女官になってくれるんだね! 大歓迎だよっ!」

「「誰がだよっっ!!」」

……どうやら、寸劇と現実をごっちゃにしているらしい。

そりゃ、ベアトリスちゃんは一時期、サビーネちゃんの御学友要員というか、 先輩指導員(チューター) のようなものをやっていたらしいし、それを踏まえて劇中では『第三王女殿下付きの女官』って設定だったけど、今までたくさんの日本の物語に触れてきたんだから、そこは察しようよ……。

とにかく、今は時間がない。ここはステージ下の空洞部分であり、ベアトリスちゃんは着替え終わったらすぐにパーティー会場でみんなと歓談しなきゃならないから、こんなところで時間を潰している暇はない。なので……。

「ベアトリスちゃん、サビーネちゃんは放置して、会場へ!」

「うん、分かった!」

「ふたりとも、酷い!!」

今日ばかりは、ベアトリスちゃんを最優先だ。サビーネちゃんの優先順位は、ずっと下。それはサビーネちゃんにも分かっているだろうから、問題ない。

……多分、今日の主役のベアトリスちゃんに私を独占されて、ちょっとイジけてウザ絡みしているだけだろう。相手にすると長引きそうだから、ここは突き放そう。

ベアトリスちゃんは、既に出撃した。この後は、各テーブルを回って大人達に挨拶したり、子供同士で固まって歓談したり、という予定だ。

料理と飲み物については、ライナー子爵家のマルセルさん以下料理人一同と使用人達に手伝いをお願いしたから、作業的には充分な余裕があるはず。勿論材料も充分用意してあるから、不測の事態が発生しても、大抵のことには対処できるはずだ。なので、私が気にしたり手出ししたりする必要はないだろう。

アデレートちゃんの時には私が手出ししちゃったから、今回でマルセルさんに経験を積んでもらうという目的もある。

勿論主導権はボーゼス家の料理人達なんだけど、ヤマノ料理に関してはマルセルさんに一日の長があるから、料理人として大先輩であるボーゼス家の料理長と、うまく互いの能力を高めあい、吸収しあってもらいたいんだ。

……うん、完璧の母!

なので私は、会場全体を廻りつつ異状の有無を確認するだけだ。予定時間になるまでは……。

よし、私も出撃!

「サビーネちゃん、ここに居たけりゃ居てもいいけど、置いてくよ?」

「ああっ、待って!」

会場は、たくさんのテーブルが並び、料理や飲み物が置かれている。勿論、それに加えて、飲み物をトレイに乗せたウエイター、ウエイトレスが会場内を巡回している。

既に照明が点けられており、完全に日没を過ぎて暗くなっているはずの中庭を明るく照らしている。

勿論、この明かりについても驚いている人が多いけれど、軍部や王宮の人達は、 雑貨屋ミツハ(うちのみせ) で売っているLED懐中電灯のことを知っているから、そんなに騒ぎになっているわけじゃない。知らない人には、知っている人が『え、これのこと、知らないの?』と言って、説明してくれている。

お店ではLED懐中電灯はかなり高値に設定しており、『軍で大量に使うには、高価すぎる』ということにしてある。だから、贅沢品であり、軍需物資に指定される心配はない。

貴族や金持ちが少し買うか、お金を惜しんでなどいられない本当の戦争の時に、歩哨に持たせるか夜間の合図用に使うくらいかなぁ……。

まぁ、それはともかく、テーブルの上に料理や飲み物があるわけだ。……やや少な目に。

勿論、それには理由がある。

アデレートちゃんのデビュタント・ボールの後でベアトリスちゃんに約束させられた、アレだ。

『ベアトリスちゃんのデビュタントには、電飾行進と花火大会、出店付き』って 言質(げんち) を取られたヤツ。

その約束を果たすべく、木工加工屋のクンツさんとその弟子、そして同業者にも声を掛けてもらってステージと共に設営してくれた、出店の数々。

屋台じゃなく、簡易的に組んだだけのものだから、大してお金は掛かっていない。パーティーが終わればバラして、木材は再利用されるし。

そしてそこで売っているのは、それぞれその一品のみを作る特訓を受けた、使用人の皆さん。

本職の料理人達は普通の料理を作るので手一杯だから、こっちには使っていない。

……孤児達のポップコーンの屋台?

さすがに、ここに孤児院の子たちを連れてきて働かせるわけにはいかないよ。

使用人に作らせて、出してるけどね、ポップコーンも……。

そして、ピザ、タコ焼き、焼きイカ、リンゴ飴、綿アメ、おでん、串焼き、焼き鳥、寿司、焼きそば、ベビーカステラ、ホットドッグ、天ぷら、その他諸々。

器材は、天ぷらとかタコ焼き、綿アメとかのはプロパンガスや発電機と共に日本でレンタル品を借りたり、買ったり。こちらの器材で何とかなる焼き物とかは、こっちの調理器材で賄った。

なるべく地元にお金を落とさなきゃね。

勿論、出店は全て『模擬店』であり、お金は取らない。パーティーで提供する料理を、『そういう出し方をしているだけ』というわけだ。

今回は、食べ方が分からなかったり試すのに腰が 退(ひ) ける人達への対策として、サクラを用意した。ライナー家やボーゼス家、その他懇意にしている人達に前もって試しておいてもらい、本番で、如何にも初めて食べるような振りをして大袈裟に感嘆してもらい、皆を誘導するよう頼んでおいたのだ。

……よし、アデレートちゃんが取り巻きと共に出店を廻っているな。向こうでは、テオドール様が串焼きを食べている。その他、サクラではない普通のお客さんも出店に群がり始めている。

よしよしよしよし……。

ええと、ベアトリスちゃんは……。

あ、いた!

ベアトリスちゃんは健在。私の左前方にいるわ。

……って、どこのヱクセリヲンかッ!

うわぁ、えげつない程、男性達に取り囲まれてる……。

かなり年上の、完全に『おっさん』の域に入っている者も多い。ただボーゼス家との繋がりが欲しくて顔繋ぎの挨拶に来ているだけなのか、それとも、本気でベアトリスちゃんを手に入れようとしているのか……。

いや、貴族の結婚は政略結婚が多いから、20歳とか30歳とかの年の差での結婚なんか、別に珍しくもないらしいけどね。

……勿論、ベアトリスちゃんの場合は、そんなの、たとえ神が許しても、この私が許さない!

多分、ボーゼス伯爵様とイリス様、アレクシス様とテオドール様も。

そして何よりも、好き勝手やってる私やサビーネちゃん、コレットちゃんを見ていて、『ベアトリス商会』という やり甲斐(オモチャ) を手にしたベアトリスちゃんが、そんなのを受け入れるわけがない。

そう、ベアトリスちゃんは、既に『覚醒済み』だ。

よぉし、敵をこちらに引きつけるよ、できるだけ多く、できるだけ遠く……、って、それはもうええっちゅーねん!

あんなのを押し付けられて 堪(たま) るか!

あ、今日の私は、実はドレスを着ていない。

今日はベアトリスちゃんのデビュタント・ボールを仕切るのに全力なので、余計なことに時間を割く余裕はない。なので、雑貨屋ミツハで使っている店員服を着て、『今日は裏方で忙しいから、話し掛けるな!』オーラを出しまくっているわけだ。

客の多くが、私がアデレートちゃんのデビュタント・ボールを仕切ったことを知っているし、私とベアトリスちゃんとの仲を知らない者はいないだろう。だから、このパーティーを私が仕切っていることくらいは当然推察するだろう。……特に、寸劇や出店の料理を見た後は。

なので、一箇所にゆっくり立ち止まったり飲食したりせずに、常にあちこち歩き廻っている私に声を掛けるような勇者は存在しない。

私を怒らせたらどうなるかは、みんな充分知っているらしいからね。

それに、今日の主役はベアトリスちゃんなんだから、私に付きまとったりしていたら、自分の評判が落ちることくらい分かっているだろうし。

それに、今日は大事なパーティーだから、あまりおかしな人は招待していないらしいし。

……普通なら招待すべき立場の人であっても。

うん、娘を守るために使わなくて、何のための権力か、ってことだ。

今日は、私が直接走り回って差配するようなことはない。せいぜい、開始の合図をするか、私が仕込んだ部分でイレギュラーやアクシデントが発生した時に対処するくらいだ。

現在のところ、全て順調。

出店の食べ物も好評、……些か好評過ぎて行列ができちゃってるけど、まぁ、料理が切れてるというわけじゃないから、問題ない。多少の不手際があったところで、アデレートちゃんのおうち、新興貴族家であるライナー子爵家の場合とは違い、ボーゼス伯爵家が 軽(かろ) んじられるようなことはないからね。

ボーゼス家くらいになると、『悪口を言った方が、潰される』からねぇ……。

怖いわっ!

……よし、そろそろ始めるか。

ベアトリスちゃんとの約束のうち、『出店』はクリア。

次は、アレだ。

ポケットから超小型トランシーバーを取り出して、と……。

送信ボタンを、ポチッとな……。

「電飾戦隊、発進!」

『ラーサー!』