軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

254 誕生日 4

……そして、領地のことを色々とやっているうちに、あっという間にベアトリスちゃんの誕生日が……。

デビュタント・ボールは、王宮の行事やら他家のパーティーやらを避けて日程を調整し、ベアトリスちゃんの誕生日当日ではなく、その3日後となった。

そして、今日がその当日である。

「……ミツハ、どうしよう……」

いつも元気なベアトリスちゃんが、少し血の気が引いたような、やや血色の悪い顔でそんな弱気な台詞を 溢(こぼ) した。

イカンなぁ。今までは緊張するイベントとかもなかったし、家族の前で自由に振る舞っていたからか、こういうのに慣れていないというか、耐性がなかったのか……。

「大丈夫、しっかり練習したし、料理もお酒も完璧! あとは、練習した通りにやれば大丈夫だよ!」

うん、きっと大丈夫! 多分大丈夫! おそらく大丈夫!

……大丈夫かもしれない。

…………大丈夫であればいいなぁ……。

って、イカンイカン! 私が心配そうな顔をすると、ベアトリスちゃんがますます弱気になる!

「私に任せて!」

そう言って励ますけれど、ベアトリスちゃんの顔色は優れない。

まぁ、自分の未来、人生が懸かっているんだから、無理もないか。

考えてみると、私が初めてデビュタント・ボールの差配を受注した、ライナー子爵家のアデレートちゃん。彼女って、凄く 肝(きも) が 据(す) わってたんだ……。寸劇だけは私のアテレコだったけど、全て自信たっぷりに、堂々とこなしていたからねぇ……。

その後、同年代の子供達の中で中心人物的な立場になったみたいだけど、それも納得だ。

でも、ベアトリスちゃんも、決してアデレートちゃんには負けていないと思うんだけどなぁ……。

ライナー子爵家はアデレートちゃんのお 祖父(じい) さんの代で新たに叙爵された新興の貴族家らしいから、雑草の強さが残ってるのかなぁ……。

とにかく、もう、今更どうにもならない。もう、やるしかないのだだだ!

そして、ボーゼス伯爵家王都邸の中庭で開催された、ベアトリスちゃんのデビュタント・ボール。

……そう、『中庭』だ。

今回の出席者のうちの多くがアデレートちゃんの時の出席者と被っているから、同じような演出じゃ駄目だ。それも、アデレートちゃんのところは子爵家で、ベアトリスちゃんは、間もなく侯爵家になることが確実な、伯爵家。比較されるというレベルであることすら許されない。

……だから、比較のしようがないように、根本から変えたわけだ。屋内ではなく、屋外へ、と。

季節的に、暑くも寒くもなく、やや涼しい、というくらいの気候。天候は、北北西の風10ノット(5m/s)、快晴。時間は、日没の少し後。既に急速に暗くなり始めている。

そして中庭の一角、建物の白壁を背にして作られた急造のステージの上で、スポットライトに照らされたボーゼス伯爵様の御挨拶。

今回は、バッテリーだけでは電力に不安があるので、少し離れたところで発電機を回している。

御歓談の時間になったら、中庭全体に照明をつけなきゃならないからね。いくら消費電力が少ないLEDとはいえ、数が多いとそれなりに電気を喰うからねぇ……。

「皆さん、本日は我がボーゼス伯爵家長女、ベアトリスの誕生パーティーにお越しいただき、ありがとうございます……」

このあたりの国では、女の子は男の子より軽く扱われる。それはまぁ、こういう文明レベルの世界では仕方ないことかもしれない。地球でも、多くの国が辿った歴史だ。

でも、ベアトリスちゃんはボーゼス家唯一の娘であり、両親や兄弟が溺愛。そして 雷の姫巫女(わたし) や 第三王女殿下(サビーネちゃん) のお友達にして、ベアトリス商会の商会主だ。

おまけに、王都絶対防衛戦の英雄のひとりにして新興貴族家の開祖であり、今、貴族の若者達の間で尊敬と憧れの的である、アレクシスコン……、いやいや、アレクシス様の妹だ。

……うん、そりゃ、狙われまくるよねぇ。ボーゼス伯爵御夫妻と私が危惧していた通りに。

でも、だからといってベアトリスちゃんのセールスポイントを敢えて紹介しないとか、ベアトリスちゃんの価値を低く説明するとかいう真似ができるわけがない。

ベアトリスちゃんの魅力と、その価値を最大限にアピールする。そこは、私も、ボーゼス伯爵御夫妻も絶対に譲れないところだ。

優秀、かつ人柄の良い三男以下をいかに大勢引き寄せて、その中からいかに良い人物、かつベアトリスちゃんが気に入る人物を選び出すか。

そのためには、戦力の出し惜しみはしていられない。

そして伯爵様によるベアトリスちゃんの『本人がいない状態での紹介』が終わり、伯爵様がステージの裾へと 捌(は) け、スポットライトをオフ。

既に辺りはかなり暗くなっている。

そして……。

ばしゃっ!

「「「「「「おおおおおおお!!」」」」」」

ステージの後ろの白壁に、綺麗な絵が映し出された。どこかの王宮の一角らしい絵である。

そう、アデレートちゃんの時と同じく、プロジェクターによる映像投写だ。ステージを建物の白壁の前に設置したのは、勿論、このためだ。

アデレートちゃんの時に見た人はそう驚いてはいないけれど、初見の人はかなり驚いている。

ま、そりゃそうだろう。

そして……。

『お友達である王女殿下の女官となり、宮廷で働くひとりの少女……』

マイクを使って、ナレーションが始まった。

スピーカーは建物の高い位置に設置してあるから、中庭全体どころかボーゼス邸の周囲にも丸聞こえだろう。

でも、伯爵家に騒音の文句を言ってくる者はいないだろうし、娯楽が少ないこの世界だから、声だけでも娯楽として楽しんでくれるだろう。……多分。

今回は、ナレーション担当は私じゃない。ボーゼス家の使用人の中からそういうのが得意そうな者を探し出し、特訓したのだ。

それに、ベアトリスちゃんの台詞も、私のアテレコではなくベアトリスちゃんが自分で喋る。 襟(えり) に超小型の高性能マイクを付けて。

それくらいはやらないと、アデレートちゃんの時との差別化が図れない。

二番 煎(せん) じには、最初の時の数倍のインパクトがないと馬鹿にされちゃうからねぇ。

そしてナレーションによる状況説明が終わり、ベアトリスちゃん登場!

『宮廷に手の者を送り込み、悪事を企む商人め! この私がいる限り、王女殿下も、他の王族の方々も、そしてこの国の 民草(たみぐさ) も、決して悪の手には渡さぬ!!』

うん、さすがに宮廷の内部抗争とかをネタにするわけにはいかないから、悪党役を割り振っても問題のない、みんなお馴染みの『悪徳商人』にその役を振ったのだ。

今回は私の『ひとりアテレコ』じゃないから、登場人物を増やしても大丈夫だ。なので、敵役も登場させた。……その分、超小型マイクの必要個数が増えて予算が 嵩(かさ) むけれど、まぁ、また使う機会もあるだろう。必要経費は伯爵様持ちだしね。

……そして話が進み、いよいよ悪党共の前で、女官姿のベアトリスちゃんの 大見得(おおみえ) 。

ちゃんとした演劇ではなく、ごく短時間の『美味しいシーンだけの寸劇』だから、話が飛ぶのは仕方ない。ただ、このシーンをやるだけのための、僅か2~3分にも満たないものなのだから。

そして……。

『ある時は、ボーゼス伯爵家の娘。ある時はベアトリス商会の商会主。またある時は第三王女付きの女官。しかして、その実体はッッ!』

そこで、大きく長い 幔幕(まんまく) ……長く張り巡らす幕……を掲げた7人の 黒子(メイド) さんが舞台の裾から現れて、ベアトリスちゃんの前を通り、そこからぐるっと回ってベアトリスちゃんを囲んで、幕でその姿を完全に隠した。そして幕を掲げたままベアトリスちゃんの周りをぐるぐると回り続ける。

スイッチを握り締めた私の 掌(てのひら) が、緊張でじっとりと汗ばんでいる。

いち、にい、さん……。

……よし、今だ! チェ~ンジベアトリス 1(ワン) 、スイッチ、オン!!

ビカビカビカビカビ~~!

事前に建物の屋根から吊っておいたミラーボールと、ステージの下に仕込んでおいたカラーライトが輝き、周囲に光が乱舞する。

『バニー・フラアアァ~~ッシュ!!』

幕の内側では今、ベアトリスちゃんが脱ぎやすいように作られた女官服をするりと脱ぎ落とし、床の物入れを開けて中からスラックスを取り出して素早く穿いている。服は、女官服の下に着込んでいたシャツの上に、着やすく作られた上着を着ける。そして脱いだ服を物入れに蹴り込んで、蓋を閉めているはず……。

失敗しないでよ! タイミングが狂ってベアトリスちゃんの下着姿を観客の前に晒したりすれば、イリス様に殺される……。いや、マジで!!

よし、規定の回数回った 黒子(メイド) さんが包囲を解いて反対側の裾にハケ始めた!

当然ながら、 黒子(メイド) さんはベアトリスちゃんの着替えが終わったのを確認してからハケるはずだから、大丈夫のはず。もし着替えが遅れていたら、回る回数を増やす手筈になっている。

幕を掲げた 黒子(メイド) さんの最後尾がベアトリスちゃんの前から去った時、そこには、 凜々(りり) しい衣装……但し、ウサ耳とウサギ尻尾を装着……の、ベアトリスちゃんの姿ががが!

勿論、露出は全くない。バニースーツなんか、論外だ。

ここの女性の衣服は、背中や胸の谷間はかなり大胆に見せるくせに、足は 膝(ひざ) より上は絶対に見せないのだ。そして、まだ15歳になったばかりのベアトリスちゃんに胸の谷間が見える恰好なんかさせられるわけがないから、上も下も露出は無し!

いや、他の15歳くらいの子は、結構上半身が露出したドレスを着ているけれど、 私的(わたしてき) に、ベアトリスちゃんには不許可!

後で着替えさせる、貴腐人店長に作ってもらったドレスも、露出は控え目。

……私の 僻(ひが) みじゃないよ!

そういうわけで、今のベアトリスちゃんの衣装は、少し女性近衛騎士を思わせるような、しかし近代的なデザインを取り入れてスーパーヒロインらしさを加えた、滅茶苦茶カッコいい衣装だ。

貴腐人店長が命を燃やした力作だからねぇ……。

手にする武器は、レイピア。

このレイピアは、本物だ。日本で模造品を買うより、伯爵家のものを借りた方が安上がりだから。

そして……。

『宮廷の平和を守る、愛の天使、 宮廷(キューテイ) バニーさッッ!!』

ここで、光のエフェクト、パターン2! BGM、オン!!

『宮廷の情報は、この長い耳で全てキャッチ! 悪党共、覚悟しろ!!』

「「「「「「おおおおおおおおぉ~~!!」」」」」」

そして始まる、剣戟の響き。

……よし、掴みはバッチリだ!