作品タイトル不明
253 誕生日 3
「……なる程、そういうわけかい……」
さすが、日本人! クルマに乗ったままでの私の説明に、納得して頷いてくれたおやっさん。従業員のお兄さんも、うんうんと一緒に頷いている。
……順応力高過ぎだろ、おっさん達!!
「じゃあ、ここは 火星(バルスーム) ってわけかい……」
「 浴室(バスルーム) ?」
「 火星(バルスーム) だ、 火星(バルスーム) ! 全く、最近の若い者は……」
え? それ、知ってて当たり前のこと? 基礎素養なの?
「とにかく、ここは異世界で、この場所は王宮で、ここから花火を打ち上げて王都の者達に見せるというわけだな? まともな花火なんか観たことのない連中に……」
うん、日本では江戸時代にはもう観賞用の大規模な花火が作られていたけど、ここではそういう文化はないんだよね……。ま、火薬がまだ普及していないのだから、当たり前か。
それに、火薬の製造が始まっても、最初のうちは貴重品だから、全て軍用に回されるだろうし。
もし大砲や銃に使用するのではなく、花火っぽいのが作られるとしても、始めは 狼煙(のろし) やら夜間用の信号としての火炎を直上に噴き出すか打ち上げるものやらになるだろうな……。
「くく……」
「ふひひ……」
「くくくくくくく……」
「ふひひひひひひ……」
ありゃ? おやっさんとお兄さんが、何やら怪しい含み笑いを……。
「「ふあ~っはっはァ!!」」
と思ったら、含まず、本気笑いになったよ……。
「この中林煙火店店主、中林善治郎、この仕事に 命(タマ) ぁ張るぞ!」
「おぅさ!」
何か、おやっさんとお兄さん、盛り上がっちゃってるよ……。
どうすんだ、これ。
* *
「ふむふむ……。広さも地形も問題ねぇな。当日の天候さえ大丈夫なら、打ち上げそのものは何も問題ねぇ。
問題があるのは……」
うん、アレだよねぇ、多分……。
「煙火消費許可申請や消防署への届け、どうすっかな~」
「やっぱり……」
ここでの許可は、問題ない。王様にお願いすれば済むから、簡単だ。
問題は、大量の火薬を消費するから、『ちゃんと花火として使いました』という書類と、消防署とか土地の管理責任者とかに許可を貰ったという証拠がないとマズいんじゃないかと思うんだよねぇ、素人考えでも……。
そのあたりを、どうするか……。
「まぁ、何とかなるか……」
「なるんかいっ!」
簡単に言われちゃったよ、オイ!
「別に、依頼者が嬢ちゃんでなきゃなんねぇというわけじゃねぇ。使用場所も、外国のクルーズ船が洋上で花火を観るために依頼してきて、台船か漁船から打ち上げるとかにすれば、目撃者がいなくても何とかなるかも……」
「おやっさん、それって、許可出るんですかい?」
「分からん。まぁ、他にも、山奥の小さな村のお祭りで、とか、新作花火の実験のためで、依頼じゃない、ということにするとか……。
最悪、『当日になって、別のところへ連れて行かれた』ってことにすりゃ……。
書類上の依頼者はただの仲介役で、本当の依頼者は身元も何も分かんねぇってことで、うちは被害者面すりゃ問題ねぇだろ。
……嬢ちゃん、別に日本で犯罪者扱いになっても問題ねぇよな? いくら日本の警察が優秀とはいっても、異世界までは捜査にゃ来られねえだろうからな。それに、名前も分からねぇし写真もねぇ、ってことで、正体不明だからよ。
モンタージュ写真や似顔絵は、似ないように作らせるからよ……」
何じゃ、そりゃ! 問題あるでしょ、それって!
……多分、それは冗談で、そういう事態にはならないだろうと思ってるんだろうけど……。
「まぁ、何とかする! してみせる! だから、嬢ちゃんは気にするな!!」
「……お、おぅ……」
よく分かんないけど、そういう時は、餅は餅屋。プロに任せておけば、安心だ!
よし、次行こ、次!
そういうわけで、サビーネちゃんと見張りの兵士を引き連れて、現場の確認を続行。
いや、私だけならばともかく、見知らぬおっさんと若い衆が一緒なら、そりゃ見張りは付くだろう。 お姫様(サビーネちゃん) が一緒なんだし……。
そして、確認を終えた後……。
「なぁ、嬢ちゃん。あと200万、何とかなんねぇか?」
え?
「生まれて初めて花火を観る奴らに、最高のヤツを見せてやりてぇんだよ。そのためには、あと200万。あと200万欲しいんだよ……。
俺だけなら、儲けなしとか、チョイ赤字でも構わねぇんだが、経営者として、従業員達とその家族の生活に責任がある身としては、いくら花火師として 命(タマ) ぁ張るとはいっても、赤字覚悟の商売は出来ねぇ。あと200万! 200万あれば、絶対に満足できるやつを打ち上げてやるから!!」
あ~……。
分かる。
気持ちは分かる!
本当のことを知って、予算の出所が子供のバイト代ではなく公的な予算からだと思って、欲が……、お金ではなく、花火師としての欲が出ちゃったんだろうなぁ。
でも、200万って、金貨からドル、そして円へと換金、両替すると、金貨80枚分なんだよねぇ……。
「……か、考えときます……」
こうして、何やかやと、事前確認を終えたのだった。
* *
「隊長さん、3週間くらい後に、軽装甲機動車と幌を外したトラック2台、貸して! 3日間くらい。それと、 運転手(ドライバー) 3人を、1時間くらい……」
「何だよ、また、唐突に……。
ま、お前からの依頼で、唐突じゃなかったのなんて殆どないがな」
仕方ないじゃん。ウルフファングのみんなに頼み事をするのは、困って、他に方法がない時だけなんだから。
「護衛とか戦いとかじゃなく、イベントのためだから危険のないやつ。ちゃんとクルマのレンタル料と運転代は払うし、クルマの飾り付けも経費と日当を出すからさ。お願い!」
うん、電飾は向こうの人にはできないし、丁度いいクルマがあるんだから、ここにお願いするのが一番いい。情報の拡散防止のためにも。
クルマを借りるのが3日間なのは、勿論、飾り付けの時間が必要だから。
あ!
「その他にも、着ぐるみ要員を……、いや、やっぱ、それはいいや」
着ぐるみ要員は、駆け出しの傭兵とかに依頼を出してあげよう。それは現地の人でも問題ないからね。
稼ぎが少なくて生活が苦しい人たちに仕事を与えるというのも、事業主としての役目だ。
それに、ウルフファングのみんなは全員ゴツいから、着ぐるみが着られない人もいそうだ。
傭兵なら、対象人数が多いから、小柄な者や女性、10代の『日本でならば未成年』の子たちを選べば、小さくて着られないということはないだろうからね。
孤児たちは……、小さすぎて、着ぐるみは無理っぽいな。
「しょうがねぇなぁ……。ま、そういうのが好きそうな奴もいるから、当たっといてやるよ」
「うん、お願い!」
よし、これで早く根回ししとかなきゃならないことは終わった。あとは、着ぐるみレンタル会社でモノを選んで予約すれば、その他は何とかなるだろう。食材とか、出店の……、って、木工加工屋のクンツさんに仕事の依頼をしとかなきゃ! 多分、同業者にも声を掛けてくれるだろうから、大丈夫だろうけど……。
うん、何とか、なるなる!