作品タイトル不明
249 お断り
私がその祝勝パーティーに出たがらない理由である、もう一つの懸案事項として、『私のことを知っている海軍軍人が大勢来るのではないか』ということがある。
いや、海軍軍人というだけなら、既に今までのパーティーで大勢に会っている。今言っているのは、あの軍港の街で、『王都で商売をしている、異国の王族か大貴族の娘』としての私ではなく、『この国の国民である、移民系の金持ちか、貴族の娘』として会っている連中のことだ。あの、バーでお話をした皆さんとか、軍人くんと一緒に呼び出された司令官とかの……。
まぁ、別に、バレちゃ困るというわけじゃない。
私が自分でそういう身分を名乗ったわけではなく、彼らが勝手に色々と憶測して勘違いしている かもしれない(・・・・・・) 、というだけだからね。
私は別に嘘は吐いていないし、もしバレたところで、『貴族の娘がお忍びで』という基本想定には変わりない。
ま、バレないに越したことはないけどね。
また、私がレフィリアに指示して断らせた、販売禁止指定の貴族達からの注文やら、個数制限を無視した注文やらに対して、文句を言われる可能性もある。『女神の使徒たる我々の命令が聞けぬと申すか!』とか言われちゃったりして……。
知らんがな~……。
この国にとっては英雄であっても、他の国の者にとっちゃあ、ただの軍人だ。貴族としての地位も、あくまでも『その国の貴族』というだけのことであり、他国の者である私の知ったこっちゃない。
いや、私も『他国の貴族』としての肩書きは利用しているけれど、それはあくまでも、この国の貴族達と対等の立場で会話や交渉をするために使っているだけだ。それぞれの国の貴族として。
……決して、貴族の肩書きを他国の者への高圧的な態度や理不尽な命令、ゴリ押し等に利用したりはしていない。
「面倒事に巻き込まれそうな気がするから、パス!
それとも、何? もし私が絡まれたら、相手が王族、公爵、侯爵、他の派閥の長、大臣、大商人とかであっても、全部侯爵様が介入して追い払い、しつこい相手は殴り倒してくれるの?
そして勿論、そんな連中に少しでも絡まれたら、私、この国を出ていって、他国に拠点を移すよ? ノーラル王国とか、その他の国に……」
「…………」
侯爵、言葉もない模様。
よし、これで諦めてくれるだろう。
ホント、私にはそのパーティーに出るメリットが全くないからねぇ。
タダメシが食べられるというメリットは、『ウエストサイズ・ストーリー』に対するデメリットとで、帳消しだだだ!!
あ。
そうだ、気になっていた、あの件を確認しておこう。
「あの、街で噂を聞いたんですけど、『女神の使徒、探検船団の兵士達』の御家族には、何か褒賞とかはあったのでしょうか?」
「……自分が情報を得たい時だけ、急に丁寧な喋り方になりおって……」
うん、さっきまでは、殆どタメ口に近い、ぞんざいな喋り方だったからね。
でも、面倒な話を持ってきて強要する相手をあしらう時と、こっちからお願いする時とでは言葉遣いが違うのなんて、当たり前でしょ? 頼み事をする時にもぞんざいな口調だったりすれば、話を聞いてもらえなくなるよね。国王陛下とかの、相手に有無を言わせぬ権力者でもない限り。
「なぜそのようなことを知りたがる?」
まぁ、当然の疑問か。少しでも私に関する情報を集め、以後の交渉に役立てようと考えるならば、そう聞かない者は馬鹿だろう。
「いえ、私のお友達の中に、知り合いがあの船に乗っていた方がいまして……」
嘘じゃない。私自身が『あの船の乗員と知り合い』だし、あの連中に言葉を教わったというコレットちゃんとサビーネちゃんも、『知り合いが、あの船に乗っていた』と言えるし……。
「そうか……。数日後には正式に会議で可決され発表されるだろうが、乗員には拿捕艦の報奨金を分配される権利と、特別褒賞金、そしてそれぞれの階級に応じた勲章が授与されることとなっておる。……勿論、それらは遺族に対して手渡されることとなる。
お金は一時的なものに過ぎんが、『英霊となり国を護った者の家族』という栄誉があれば、遺族が職に困ることはあるまい。普通に働くつもりさえあれば、どこでも喜んで雇ってくれるだろう」
「よかった……」
うん、これを聞けば、探検船団のみんなも喜んでくれるだろう。
* *
「う……、うう……」
みんな、泣いてる……。
うん、仕入れてきた、探検船団乗員の遺族……、いや、家族に渡されるお金や勲章に関する情報を伝えたからね。そりゃ、泣くか……。
家族が生活に困らず、弟妹が英雄を兄に持つ者として良縁に恵まれる確率が高くなったとなれば、二度と戻れぬ身ではあっても、それは嬉しいだろう。それも、それが自分達が頑張った成果とあっては……。
勿論、あの時船に乗っていなかった者の家族も同様の扱いだからね。ヴァネル王国の者は、船に乗っていたのは全員が元々の探検船団の者……の魂……だと思っているから。
当然ながら、それは最初に上陸した3艘の 短艇(カッター) に乗っていた連中……今は王都の地下牢にいる……の家族も同じだ。
あの連中も、たまたま短艇の乗員だっただけで、別に他の乗員と異なるわけじゃないし、悪人だというわけでもない。
なのに、あの総督を詐称する商人と一緒の扱いで王都へ連れていかれ、侵略者の代表みたいに牢に入れられているのは、気の毒だ。他の乗員達は、高給を貰って普通に働き、次々と彼女をつくっているというのに……。
今はもう他の乗員達も『女神の 御業(みわざ) 』のことは知っているから、情報統制のために隔離する必要はあまりないんだけどね。
でも、サブマシンガンの威力を見たのはあの連中だけだし、国としては『捕らえた、侵略者達』というものの存在が必要らしいから……。
そりゃ、『侵略者全員が、今は自国民として働いています』っていうのも、対外的にはちょっとアレか。敵の親玉と部下数人くらいは、捕らえておきたいよねぇ。
そして、商人の家族にはお金も名誉も何も与えられない、と聞いた乗員達は、 快哉(かいさい) の叫びを上げた。
うん、ま、そりゃそうか。
一攫千金を狙って国王に取り入り、賄賂以外のお金は使わずに無料で船と乗員を貸与されて無謀な探険航海に。
そりゃ、商人はいいだろう。成功すれば栄誉と地位と莫大な財宝と利権が自分の物になるのだから。……失敗して死ねば終わりだけどね。
でも、乗員達は軍の任務として従事しているだけだから、探検が成功しても別に何かが貰えるわけじゃない。まぁ、あの航海の乗員のひとりだった、と家族や孫に自慢できる程度だ。
……そして、死ねば終わり。栄誉も、家族に自慢できることもなく、ただ異国の海で野垂れ死にするだけ。馬鹿な商人の野望に巻き込まれて……。
そして現在、死にはしなかったものの、二度と祖国に帰れぬ身となって、家族や恋人とは永遠の別れに。
それも、調子に乗った商人が『総督』などと自称して、勝手にこの地の領有宣言やら宣戦布告に等しい言動やらをやらかしたせいで……。
そりゃあ、 怨(うら) み魔太郎、いやいや、 恨(うら) み骨髄、だろうからねぇ。自分達の手柄が商人のものになるのは我慢できないだろうから、快哉の叫びが出るのも無理はないか。
ま、本人は王都の地下牢だから……、って、あれ、みんながちょっと気まずそうな……。
ああ、連想ゲームで、あの商人と一緒に地下牢にいる仲間達のことを考えたか。
確かに、たまたま上陸チームに選ばれたというだけで、みんなと同じ、仲間だもんねぇ。
私がさっき考えていたのと同じように、『運が悪かっただけの、気の毒な仲間達』と思えば、今の自分達の幸運な状況と比較して、気の毒というか、申し訳ない、というような気持ちになるのも無理はない。
……でも、だからといって、私達にどうこう言えるような立場じゃないことは充分承知しているだろうし、政治的に『 人身御供(ひとみごくう) 』が何人か必要だということくらい、理解しているだろう。
多分、仲間内でも『あいつらを何とかしてもらえないか』という話題は出たに違いない。世話になった上官、可愛がっていた部下や後輩、そして仲の良かった親友とかもいただろうから……。
でも、頭のいい者達が、ちゃんと説明してあきらめさせたのだろう。『じゃあ、お前が交替して、代わりに地下牢に入ってやるのか?』とか言って。
人生に必要なのは、努力と、運。
特に、兵士に必要なのは、運。
今は、不運を乗り越えて自分達が掴んだ幸運を噛みしめてほしい。
いつまた自分の手からすり抜けるかは分からないけれど、とりあえず今は自分の手の中にある、その幸運を……。