作品タイトル不明
248 収穫物
収穫物である。
うん、ノーラル艦隊から徴発した、武器弾薬、船具や備品、食料その他、……そして金庫の中身。
いや、金庫は中身だけでなく、そのまま丸ごといただいたけどね。
武器弾薬とかは、本当はうちの国の船に搭載すべく、国に売りつけるべきなんだけど……。
それには、ちょっとばかり。うん、ほんのちょっとばかり、問題があるんだ。
そう、『それを、どこから入手したのか』という問題が……。
3隻を 率(ひき) いて『渡り』により参戦したこと自体は、隠しようがない。
そしてそれ自体は、問題ない。そう予告して許可を貰っていたし、戦った両国については、適当な説明をしてあるし……。
まぁ、どうせそのうち元乗員達から漏れるであろうと思った、『彼らの母国と、その敵対国との戦い』であったことと、彼らの母国、つまり現在我が国と交戦状態にある国の味方をした、ということは、正直に言ってある。そんな基本的な部分で嘘を吐いてもどうせバレるし、そもそも嘘を吐く意味も必要もない。
この国の上層部は、勿論あの国と戦争状態になったのは船と乗員を借り受けた商人の勝手な行動によるものであり、本国の者達は 与(あずか) り知らぬことである、ということは理解している。
でも、だから本国には何の罪もなく、両国は戦争状態ではない、と言わないのは、ただ単に、いつかヴァネル王国との交渉になった時に『一方的に侵略され、先制攻撃と宣戦布告を受けた』という状況であった方が、交渉が圧倒的に有利になるからだ。
……但しそれは、ヴァネル王国側が我が国と対等に交渉する気になってくれた場合の話であり、武力で簡単に屈服させることができる弱小国、と判断された場合は、何の意味もない。じゃあ、そのまま戦争を続行しましょうね、で終わりだ。
だからそれは、超長距離航海を続けてやってきても、元気いっぱいのうちの艦隊にボコボコにされるだけ、と思い知らせ、植民地や属国にして搾取することなんかできず、 大火傷(おおやけど) して大損するだけだ、ってことをしっかりと教えてあげた後の話だ。
まぁ、そういうわけで、義勇艦隊の振りをして実戦訓練をさせてもらう、という程度の簡単な説明で、私の『ヴァネル王国の国際的な立場が大きく変わるのを防ぐための、政治的介入』という部分は伏せて、なおかつ戦闘時における『転移戦法』についてもその詳細を知られないよう 箝口令(かんこうれい) を敷いたわけだけど……。
そんなのをこの国の上層部が知ったなら、『大金を費やして、急いで船や武器を開発する必要はないのではないか』とか、『我が国の方から打って出て、相手を蹂躙すれば……』とか言い出す馬鹿が必ず現れるだろう。
陛下やボーゼス伯爵、アイブリンガー侯爵とかはそんな馬鹿なことを言い出すとは思えないけれど、世の中、頭の悪い貴族は多いからねぇ……。
別に、国を乗っ取ろうだとか私を利用しようとか考えているわけではなく、本当にこの国のためを思って、『そうするのが最善であり、国と国民のためである』と信じ込み、善意と熱意と貴族としての義務感から、そう主張する連中。
……そう、『無能な働き者』というか、『優れた敵よりも脅威となる、「愚かな味方」』というやつだ。
そういうのに、余計な情報を与えちゃいけない。絶対に!
船の乗員達の口止めは大丈夫か?
女神の存在を信じて……、いや、 知っている(・・・・・) 船乗り達が、女神の御寵愛を受け、その奇跡の力を託されたという私からの『女神の名において、口外することを禁ずる』と言われたことを、ぺらぺらと喋るわけがない。
信心深いことでは定評のある船乗りと、同じく『運』というものに命が懸かっているため、それ以上に信心深い兵士。その両方を兼ねた軍艦乗りが、女神に逆らうことなど、あり得ない。
多分、拷問されても口を割らないだろう。
それに、もし喋らないことを理由に危害を加えられそうになったりクビになったりしたら、すぐ私に連絡するように言ってある。そうなったら、うちの領地で面倒を見てあげるから、と。
まぁ、そうなる前に、私から女神の名の許に口止めされている、と答えるように言ってあるから、ボーゼス伯爵様ならそれ以上は追及しないだろうからね。
「というわけで、ここで預かって!」
「また、妙なもん、持ち込みやがって……」
うん、武器弾薬を保管するなら、ここ、ウルフファングの 本拠地(ホームベース) だよねぇ。
「いや、うちの領地に置いてたら、火薬が 湿気(しけ) ったり、事故で爆発したりすると怖いから……。
ここで、空調完備の倉庫で保管してよ。勿論、保管料は払うからさ!」
「……しょうがねぇなぁ……。
どうせ、また色々と持ってくるんだろ。一応倉庫の空いてるとこに置いてやるが、すぐにお前用の新しい倉庫を建ててやる。広さや設備について要望があれば、パソコンに入力しておけ。
倉庫の建設費はうちが払うが、使用料はちゃんと払えよ!」
「うん、助かる! じゃあ、それでお願いね!」
自腹で倉庫を建ててくれるとは、何たる太っ腹!
まぁ、ドラゴン関係やら仕入れ用の商会やらで色々と儲けてるらしいから、それくらいはどうってことないのかな。
それに、使用料はちゃんと受け取ってくれるなら、貸しアパートと一緒だ。別に損をするわけじゃないか。……私が使用料をちゃんと払い続けている限りは。
ま、私も早死にするつもりはないから、ウルフファングの出資金がきちんと回収できるまでは借り続けられるよう頑張ろう。
よし、とりあえずは、これでひと安心だ。
現在、あの3隻に搭載されている 発射薬(かやく) と砲弾はかなり減っているけれど、いきなりどこかの軍艦と出会い 頭(がしら) に砲撃戦が始まるわけじゃなし、当分はそのままで構わないだろう。
これにて、一件落着!
……こっちの国では、ね。
* *
「ヤマノ子爵、このパーティーには必ず出てくれ」
ほら来た……。
新大陸、ヴァネル王国の社交界にも、少しは顔を出さなきゃならないかな~、とは思っていたんだ。色々と大きな出来事があったから、状況の確認と顔繋ぎのために。
そうしたら、『ソサエティー』のお茶会の打合せのためにみっちゃんのところへ遊びに行った時に、ミッチェル侯爵に捕まった。
「侯爵様には、もう私が出席するパーティーの選別はお願いしていませんよね?」
そう、例の件以降、私は自分が出るパーティーは自分で決めており、そのため出席するパーティーの数は激減している。
でも、ミッチェル侯爵もそれはもう 受け入れ(あきらめ) てくれたはず。なのに、何を今更……。
「いや、それはもう仕方ないものとして受け入れ、諦めておる。
これは、そういった思惑とかは関係のない、この国の先の海戦に対する祝勝パーティーへの、異国の貴族であるヤマノ子爵に対する招待だ。派閥とかは関係なく、国の 主立(おもだ) った貴族や、軍の上層部も大勢出席する。
そこで、王都に在住している他国の貴族も招こうという話になってな……」
「パス!」
「え……」
私が母国のために事前調査に来ていると思っている侯爵は、情報収集の絶好の機会である祝勝パーティーへの出席を私が断るはずがない、と思っていたらしく、絶句している。
でも……。
「それって、あの『ウォンレード伯爵とエフレッド子爵』も出るんでしょ?」
「う……、それは……、あ、いや、あの両名は出席せぬぞ!」
え? そういうパーティーに、国王と王太子が出ないなんてことは、あり得ない。どうして……。
あ、そうか!
「ウォンレード伯爵とエフレッド子爵は出席しないけれど、国王陛下と王太子殿下は出席する、ってこと?」
「うむ」
やっぱり……。
「なら、パス! 国王陛下と王太子殿下としてのふたりも、私に高圧的な態度を取ったり騙そうとしたりしたから、半径100メートル以内には近寄りたくないもの。身の危険を感じるから!」
うん、こう言えば、侯爵にはどうしようもないよね。
まぁ、あのふたりが出るパーティーには、私が大勢の貴族の前では断れないだろうとか考えてとんでもない要求をされる可能性とかがあるから、怖くてとても出席できない。そのことは、侯爵にも言ってある。
以前、私の方からパーティー会場で大勢の前で無礼な態度を取った?
いや、あれは国王陛下や王太子殿下に対してではなく、私に対して無礼な態度を取った『ウォンレード伯爵とエフレッド子爵』に対してだから、問題ない。
そして向こうからの無礼も、『ただの伯爵と子爵によるもの』として、うやむやにされた。
でも、今はあのふたりは私にとって、『異国の貴族の娘を王宮に呼び付けて、高圧的な態度で無理難題を吹っ掛けた上、騙そうとした国王陛下と王太子殿下』なんだから、私が怖がって側に近付きたがらなくても、仕方ないよね?
家族も家臣もいない、ひとりぼっちの未成年(に見える)の少女としては、怖い男性から身を守ろうとするのは当然のことだ。
自国の貴族であればともかく、さすがに他国の貴族に出席を強要することはできないだろう。
うん、欠席は、決定だ。