作品タイトル不明
250 報 告
「……というわけです」
「うむむ……」
海戦から10日後。
そしてここは、王宮の一室。
日が空いた理由は、ボーゼス伯爵領からの移動に時間が掛かった、ということにしてある。『渡り』はそう何度も連続して使えるわけではない、ということで。
というか、普通、移動にそれくらいかかるのは当たり前だから、何も言わなくても、そんなこと聞かれもしなかったけどね。
割と小さな部屋で、列席者は私、王様、宰相様、アイブリンガー侯爵様、王太子殿下、一の姫様、三の姫様ことサビーネちゃんの、7人。ボーゼス伯爵は、領地にいるため不参加。
……いや、王太子殿下は分かる。将来のための勉強という意味もあるし、もし万一王様が怪我や病気になった場合のことを考えれば、国の次席者が全てを把握しておくことは意味がある。
でも、一の姫様とサビーネちゃん、キミタチは何のためにいるの? 一応、これは国家の重要機密、極秘会談なんだよね?
私の報告を聞いても、王様が『ミツハの生命力が~』とか言って騒がないのは、事前に参戦の許可を貰った時に『それは、この国の貴族としての義務ですから』と言って説明して、納得してもらったからだ。
……でも、本当のところは、その場に立ち会っていたサビーネちゃんがそれに対して何も反応しなかったからだろうな~……。
うん、サビーネちゃんが、そんなの許容するわけがない。
だから、多分王様には大体バレてると思う。……勿論、宰相様にも、アイブリンガー侯爵様にも……。
でも、誰もそれには突っ込まない。 公(おおやけ) になったら、貴族連中や大商人達が大騒ぎするのが分かってるからねぇ。
「では、当方に被害はないものの、かなりの弾薬を消耗した、と……」
「はい。でも、充分それに見合うだけの成果がありました。一度も実戦を経験していない戦闘艦など、張り子の虎ですからね。 戦闘証明(コンバット・プルーフ) は必要ですから」
うん、砲撃のタイミングについて事前にみっちり教育しておいた者達を、それぞれの船に数名ずつ配置して、 鬼教官役(元乗員) に実地指導してもらったんだ。これが今回の一番大きな成果だろう。
……勿論、揺れる船内で、暴発事故を起こさないギリギリの速さで火薬と砲弾の装填作業を行うとか、その他にも色々な経験を積ませることができた。今回は敵弾が命中する危険は少なかったけれど、装填作業で手を潰したり、暴発で吹き飛んだりする事故は珍しくもない。戦場に出る船に、『絶対安全』なんてことはあり得ない。
「とにかく、敵味方それぞれ30隻前後、合計60隻以上による砲撃戦です。うちは戦果はあまり気にせずに比較的安全な位置から撃っていただけですけど……。
そしてそれも、両国が本気になっての最終決戦、とかではなく、ただの限定的な小競り合いに過ぎません」
「拿捕艦の1.6倍の砲数を持つ船が30隻ずつで、小競り合い、か……」
まぁ、1.6倍の砲数とは言っても、参加艦艇のうち最新・最大の艦は、だけどね。中には、40門艦だとか、32門艦とかも交じってたけど、余計な事は言わなくていいか。
今、強調すべきなのは、『敵は強大』、『でも、まだ時間はある』ってことだ。
この大陸の国々が、力を合わせれば。
そして数年以内、遅くとも10年以内に、超長距離航海をしてきて疲弊した敵艦隊を叩きのめし、一隻も母国に帰還できないようにできるだけの戦力を用意する。
……たとえ、その時に私がいなくても。
試作小型帆船の建造を経て、現在建造されているのは、拿捕艦のコピーだ。
やはり、経験のない者達が作るのならば、現物見本があるのをそのまま真似るのが一番早い。
なので、船体はそのままコピー。帆に関しては、最新のデザインを取り入れて、材質も最良のものを使うため、地球で発注する。
帆船は、帆が命。船型がほぼ同じであれば、帆の性能が運動性能に大きく影響する。
勿論、地球産の帆を使うのは、最初の一隻だけ。二番艦からは、この国で作るようにする。デザインは一番艦のを丸パクリで。
純国産にしないと意味がない。最初だけは、ちょっと心配だから地球産にするけれど……。
また、船体がある程度出来たところで、地球の専門家に依頼して、強度とかが大丈夫か確認してもらおうと考えている。
どこかの国の政府経由でお願いすれば、何とかなるだろう。
そして、それだけでは新大陸の国々の艦には到底太刀打ちできないので、武装で勝負する。
旋回砲塔なんか、夢のまた夢。造るどころか、旋回させる動力すらない。
なので当然、固定砲。
但し、後装式にして口径の増大を図り、 椎(しい) の実形砲弾にして、 旋条(ライフル) 砲。そして使用弾種は、主に榴弾。木造艦に、徹甲弾は必要ないだろう。
……世の中には、一粒で3度美味しい、徹甲炸裂焼夷弾とかいうものが存在するらしいけれど、それはいささかオーバースペックだ。
これで、アウトレンジからのタコ殴り。
接近されたところで、近距離での殴り合いでも負けるとは思えない。砲数で劣っても、命中率と破壊力が桁違いなら、勝負にならないだろう。
多分、相手の隻数の3分の1もあれば完勝だろう。
そして、大艦隊を引き連れてくるには、ここ、旧大陸と新大陸の距離は、あまりにも遠い。
迎撃専門で、こちらから侵攻するつもりがないなら、もっと小さな船でもいいんじゃないか、って?
いやいや、明らかに渡洋能力がない艦隊だと、舐められるからね。
自分達はいつでも攻撃に行けるけれど、相手側は自分達のところには来られない、なんて、馬鹿にされるに決まってる。
だから、『こっちも、いつでもてめーのところへ行って軍艦も商船も壊滅させて、艦砲射撃で港町を火の海にできるんだぜ?』っていうことを教えてやらなくちゃ。
そのためには、40門艦くらいの大きさは必要だろう。
なので、この40門艦を、うちの国の標準艦1号タイプとする。
後に、使い勝手のいい小型艦も考えよう。
標準艦方式は、設計技術の進歩を阻害するけれど、うちの国は到底そんなレベルじゃない。独自で更に優れた艦の設計ができるなんて、ずっと先の話だから、関係ないよ。
今は、それよりも標準化による同一性能の艦の量産で、建造の効率化、艦隊行動のし 易(やす) さ、水兵がどの艦に乗り換えても最初から即戦力、その他様々なメリットの方が、ずっと重要だ。
標準艦1号タイプ、って長いし語感が硬いから、艦型名を考えるか……。
帆船。
決して沈まない、不沈艦。
それにふさわしい艦型名は……。
……よし、『スタン級』だ!
そして一番艦の名前は、これしかない! スタン帆船、『ウエスタンラリアット号』!
後に造る予定の、小型艦に大口径砲を積んだ砲艦は、『ハルク級』でいいか。
一番艦は、勿論、ハルク砲艦、『アックスボンバー号』だ。異論は認めない!
まぁ、とにかく、最悪の事態に備えての海軍軍拡だけど、その最悪の事態、『戦い』そのものを回避すべく行動しているのが、新大陸における私の『なんちゃって王女(仮)』作戦だ。レフィリア貿易や周辺国の提携店、貴族の少女達の集い『ソサエティー』とかも、全部その作戦の一環。
戦いは、情報の入手と、情報の操作が大事だ。
文章にすると僅か数行に過ぎない情報が、1万人の兵士の死闘よりも大きな成果を挙げることがある。費用対効果が非常にいいのが、情報戦だ。必要な情報を入手するのも、……欺瞞情報を流布して敵を混乱させるのも……。
「……そろそろいいかな?」
「え、何が?」
急に聞かれたので、アイブリンガー侯爵様に思わず少々失礼な返事をしてしまった!
いや、仕方ないよね、そういうのって! 急に聞く方が悪いよね!
「妄想タイムを終えて、話の続きをすることだが……」
「あ、ハイ……」
そして、色々なお話をして、会談は終了。
まぁ、今回は私からの報告が目的であって、何かを相談して決める、っていうようなものじゃないし、身内だけの……国王陛下、王太子殿下、王女殿下達を『身内』呼ばわり、というのもアレだけど……、まぁ、気心の知れた仲間内での情報共有、という場だから、意見の食い違いだとか揉めるだとかいう話じゃないので、簡単に終わるのは当然だ。
この情報を元にした検討会や会議は、また後日開かれるのだろう。
……勿論、それは国の偉い人達の間でのことであって、私には関係ないよ、うん。
新大陸の方は、しばらくそっとしておくか。
ヴァネル王国は、今、騒がしいからなぁ。
騒ぎが収まるまで、あっちはしばらく放置して、軍部や王宮、そして社交界が落ち着くまで待つか……。
あ、勿論、レフィリア商会や周辺国の提携店への商品の納入や、『ソサエティー』のお茶会とかは続けるよ。私の個人的な事情で、他の人に迷惑をかけるわけにはいかないからね。
義務は、ちゃんと果たさなきゃ。
そして、 新大陸(むこう) にかかる労力が減った、今のうちに……。
そう、領地のことをやらなくちゃ。
本当ならば、領地の発展、領民の幸せを第一に考えなきゃならないのに、この国のこと、新大陸のこと、日本の実家関係、ウルフファング関連、そして地球の各国のことと、色々と手が広がりすぎて、領地のことにあまり手が回っていない。
これでは、領民のみんなに申し訳が立たないよ。
というわけで、領地経営の時間だだだ!!
……そんなふうに考えていた時期が、私にもありました……。