軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

243 戦い終わって 1

私は勿論、うちのフネの乗員達に口止めをしていた。

女神の 御業(みわざ) について軽々しく口にしてはならない、この奇跡は3隻の乗員達の心にそっとしまい込むべきものである、と説いて……。

勿論、こんなことが広まったらヤバいことになるからである。

……主に、私が。

それに、下手をすると軍や上層部が慢心する可能性がある。

自分達は女神に護られている、我が国は無敵だ、とかいって……。

それは非常にマズい。致命的だ。

それに、もしこんな話が『あの人達』にバレたら……。

そう、『渡り』の力を使うと生命力が~、と説明してある、あの人達に……。

* *

「ミツハはどこだ! 出てこい!!」

うひゃー、ボーゼス伯爵様、激おこだぁ!

うん、実戦に出るかもしれない、って伝えた時、『私も同行する』と言ってたからなぁ、伯爵様。

でも、伯爵様についてこられると、転移やりまくりを見せるのはアレだから、今回は『ちょっと、外洋に出て戦隊行動の訓練を』ってことにしてたんだ。

勿論私も乗艦せず、この国、ゼグレイウス王国の海軍士官が各艦長を務め、同じく王国の海軍兵士達が乗艦して。

……そして今回は、それにプラスして、元の乗員達、つまりヴァネル王国の船乗り達の内、鬼軍曹に相当する人達にコーチとして乗艦してもらっていた。『訓練指導』のために、ね。

たまたまだよ、たまたま!

たまたま、その訓練中に事件が起きて、そのまま緊急出動しただけ!

軍隊式の言い方をするならば、『突発的に事象が生起したため、現場の判断により緊急対処した』とかいうやつね。

だから、仕方ない。不可抗力だ!

……でも、伯爵様は、私が『カリアード』の艦長に持たせた事情説明の手紙の内容に納得しなかった模様。

そして今、うちの領地邸に怒鳴り込んできたわけだ。わざわざ、馬を飛ばして何時間もかけてやってきて……。

普通に訪問すれば通されるのに、玄関先で怒鳴り散らすものだから、メイド達も案内できずに固まっちゃってるよ。

……うん、相当怒ってるよね、これは。

やばたにえん……。

でも、玄関先で騒いでくれたおかげで私が先手を打てるわけだから、ありがたい!

「アントンさん、あとは任せたよ! 伯爵様の対処、お願い!!」

「……え? ミツハ様、いったい何を? ……ま、まさか……」

フネの連中には、『今回は極秘任務のため、詳細を口にすることは禁止する』、『女神の御業についても、口外することを禁ずる』と念を押してあるから、大丈夫だろう。神罰について、ほんのちょっぴり説明しておいたし……。

いや、今回の戦いの位置付けや、戦果については喋ってもいいと言ってある。自慢話はしたいだろうし、働きに対する報酬、練度の把握とかのためには、そのあたりの報告は必要だ。

……ただ、具体的な超常の戦法、……『女神戦法』についての口外を禁止しただけだ。

ま、多少は漏れても構わない。それが『公式なもの』として正式に報告されたり、戦闘詳報として提出されたりさえしなければ。

「ごめん! ……緊急退避、脱出!!」

「いや、そんな、ま、待って、待ってください……」

……よし、転移!

そして勿論、そんなことで問題が解決するはずがなかった。

もうほとぼりが冷めただろうと、夕方にベアトリスちゃんの部屋に顔を出したところ、待ち構えていた伯爵様達に捕獲され、地獄を見た。

……イリス様も御一緒だったのですね。玄関先での騒ぎではお声が聞こえなかったのに……。

え? 怒りのあまり、声が出なかった?

ははは、ソウデスカ・・・・・。

* *

「何だとおおおっ!」

大臣達と共に、大会議室で帰還した艦隊からの報告を受けていた国王は、 小型帆走軍艦(スループ) の艦長からの報告に眼を剥いた。

このヴァネル艦隊大勝利の第一報は、艦隊の入港に先立って到着した、伝令のための快速スループによってもたらされた。入港と同時に、艦のことは全て副長に任せた艦長が、自ら馬を飛ばして全速で王都へと向かっての報告であった。

この艦は、戦いの最中は殴り合いの場である戦闘海域から少し離れて待機していたため無傷であった。元々連絡用として使われるだけあり、武装は貧弱ながらも、速力にはいささか自信がある小型艦である。フリゲートというよりは、コルベットに近い小型のフネであった。

そのため、艦長始め、このフネに乗っていた者達は『女神の奇跡』、そして『探検船団による、奇跡の大逆転』については、その全てを直接間近で目撃したわけではない。戦いが終わった後、搭載ボートで旗艦に移乗し、王宮に届ける報告書を託され、司令部の幕僚達から起こった奇跡について、そして陛下に報告すべき第一報についての概要を聞かされただけである。

……詳細報告は、後日、艦隊司令官が自ら行う。

現在、航行能力がさほど落ちていない艦を6隻選び、司令部を移乗して全速で帰投中である。

他の艦は、損傷艦や拿捕艦と共にゆっくりと母港を目指している。

先行した6隻の乗員達は、街に飲みに出れば、戦いの話を聞きたがる街の者たちに 無料(ただ) 酒が振る舞われるのが確実であるため、かなりの額となるであろう拿捕賞金のことと合わせて、胸を 躍(おど) らせていた。

しかも、話す内容が、女神の使徒となった探検船団と共に敵艦隊を撃滅するという、殆ど英雄譚のような話なのである。女性達にモテまくることは確実であった……。

そして勿論、司令官もまた、心を躍らせていた。

女神の奇跡。

自らが率いる艦隊に対して女神が御支援くださったという、『自分達が女神に祝福されし者である』ということ。そしてその事実を、陛下や多くの人々の前で報告すること。

その栄誉を他者に譲るような指揮官はいないであろう。

今はただ、戦果と被害報告、そして大勝利の知らせと、自国が『女神の加護を受けし国である』ということを第一報として知らせ、陛下の、そして人々の心配を一刻も早く解消するだけであり、そのための伝令艦の存在であった。そのため、持たせた手紙による報告内容は、あまり詳細なものではない。

これが負け戦であれば、対処のために正確、細密、迅速な情報が必要であろう。しかし、大勝利とあらば、詳細説明が多少遅れても、大した問題ではなかった。

……しかし、『概略報告』とは言っても、この報告は、あまりにも驚天動地、荒唐無稽、そして報告者の正気を疑うものであった。そして、もしそれが真実であったならば、祖国の未来は盤石であった……。

報告書を読んだ国王は、考え込んでいた。

確かに、少し前に『イーラスの奇跡』というものがあった。

しかしあれは、一隻のフネとその乗員の命を救うために、女神が慈悲をお与えになっただけである。

女神が、 下賤(げせん) な人間同士の殺し合いなどに興味を持たれることも、ましてやそれに対して干渉されることも、その片方に肩入れされることも、あり得ない。あれはただ、 気紛(きまぐ) れに慈悲をお与えくださっただけ。

それが、あの件について聖職者達と討議した結論であった。

なので、引き続き軍隊の維持・増強に努め、外交の手段としてその力を行使することには何の問題もない、ということになったのである。

そもそも、『戦うための組織』、『戦うための船』というものに対して何も言われることなくお救いくださったということは、その存在や役目をお認めくださっているということに 他(ほか) ならない。そう主張する軍人達に、聖職者達も頷くしかなかったのである。

だが、あれは『人間同士の戦いではなく、大自然の脅威と 果敢(かかん) に戦った結果』である。

……しかし、今回は違う。

人間同士の、自分達の意思による戦いであり、殺し合い。

いわば、『仲間割れ』であろう。至高の存在である、女神の視点から見れば……。

……では、なぜ力をお貸しくださったのか?

正義が我らにあると思っていただけた?

それとも、女神は我が国を御寵愛くださっている?

何があろうと、我が国をお護りくださる?

「……ふひ」

国王の口から、おかしな声が漏れた。

しかし、誰もそれを笑ったり、怪訝な顔をしたりはしていなかった。

それも当たり前のことであろう。

今、この部屋で報告を聞いていた者は皆、国王と同じようなにやけた顔をしており、無意識に声を漏らしている者が何人もいたからである。

……そう、皆、国王と同じような思考過程を辿り、そして同じような結論に達していたのである。

「「「「「「我が国の栄光の未来は、約束された!!」」」」」」