軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

242 戦いの肖像 9

「こんなもんか……」

ノーラル艦隊の戦隊旗艦を次々と潰し、二番艦も何隻か潰した。その大半が、沈没間際か、既に沈没済み。……搭載していた武器弾薬や資材、食料、金庫とかを全て失った、ドンガラだけの状態で。

これ以上沈没させると、明らかに沈没艦の数が多すぎて異常だ。それに、やり過ぎは良くない。

そう、今日はこのへんで勘弁しといたろか、ってヤツだ。

あとは、自力で頑張ってもらおう。

第三戦隊旗艦、『リヴァイアサン』は健在。

いや、勿論ノーダメージというわけじゃない。だから、軍人くんが無事かどうかは分からない。

それは仕方のないことだ。そこまで 恣意(しい) 的なことはできない。今の私は、軍人くんの 友達(ガールフレンド) のミツハじゃなくて、ゼグレイウス王国の貴族、ミツハ・フォン・ヤマノ子爵なのだから……。

『よし、あとは「普通の砲撃戦」の練習だよ! 残弾全部撃ち尽くすまで、遠距離砲戦!!』

あとは遠距離からの曲射……山なりに撃つやつ……の練習をさせる。遠距離とはいっても、高々1マイルくらいだ。

最大射程距離はもっとあるけど、そんなギリギリ弾が届くだけの距離から撃っても、意味がない。至近距離からの直射ではなくとも、せめて有効射程距離内でないと……。

この世界の 現在(いま) の海戦では、200~300メートルくらいでの 撃ち(なぐり) あい、ってやり方がメインらしいから、転移で一撃離脱、ってやり方じゃなければ、当然こっちも攻撃される。

貴重な我が軍のフネと乗員に被害を出させるわけにはいかないので、それはパスだ。うちの新米海軍の者達には、両艦隊の凄絶な 撃ち(なぐり) あいを見て、たっぷりと勉強してもらおう。

うしろでどやしつけている、 元捕虜(おにぐんそう) 達に指導されながら……。

砲弾と火薬、替えの砲身は、たっぷりと手に入れた。今積んでいる弾薬は、全部使い尽くしても構わない。どうせ、新型砲を作るまでの繋ぎだ。

……いつになるか分からないけどね、新型砲の完成と、量産……。

* *

そして、 実目標(てきかん) 相手に遠距離からの砲撃を何度かやって、そろそろ撤収の頃合いとなった。

敵艦側は、そんな殆ど命中せず、たとえ数発がたまたま命中しても受ける被害はあまりない腰抜け攻撃をやっている艦に構っている余裕はなく、目の前にいるヴァネル艦と交戦するのに必死で、こっちに撃ち返してくるようなフネはいなかったから、我が軍には被害なし。

これでいいんだよ。うちがやっているのは、新型のライフル砲で遠距離から炸裂弾を撃つ時の練習なんだから。アウトレンジから、一方的にね。

馬鹿にしたけりゃ、するがいい。今に見てろよ……。

今回、ヴァネル艦隊を負けさせるわけにはいかなかった。

もしヴァネル王国側が負けると、海軍の増強、新造艦の建造が始まってしまうだろうし、そのために古くなった艦が第一線を 退(しりぞ) き、失った植民地の代わりを探すべく探検船団として商人とかに貸与される可能性が出るからだ。

……それに、もし国がガタガタになって余裕がなくなれば、私の後ろにあるお金や商品、物資やその他諸々を狙って 形振(なりふ) り構わぬ手段に出たり、私の『本国』を手に入れて富や技術を我が物に、とか考えられると困るからね。せっかく根を張ったヴァネル王国から撤退して、ノーラル王国でまた始めからやり直すのも、面倒臭い。

……そしてノーラル王国には、みっちゃんも軍人くんもいないからね……。

交戦が始まってから、既にかなりの時間が経っている。日没は過ぎ、辺りは暗くなり始めている。

戦いは、勿論ヴァネル艦隊の勝利に終わった。各戦隊の旗艦がことごとく潰され、二番艦もかなりの数が私達に叩かれたのでは、いくら緒戦で優勢であったとはいっても、勝てるわけがない。

今は、逃走に移った艦、降伏してヴァネル艦隊に拿捕されつつある艦と、最後の詰めの段階だ。

間もなく完全に暗くなるので、現在拿捕しているフネ以外は、航行能力を失っているものを除き、捕らえることができずに逃げられてしまうのだろう。

拿捕したフネは、その価値に応じて艦隊の者達に拿捕賞金としてお金が配分されるらしいから、皆、1隻でも多くの拿捕船をと、必死な模様。

地球でもそういう制度はあったらしい。直接拿捕したフネだけでなく、その瞬間に見通し距離の圏内にいた全ての味方のフネの乗員に報酬を貰える権利があったとか……。

ま、当たり前か。複数艦で追いかけて、前方に回り込んで停船させたフネとかがいるのに、一番最初に接舷して乗り込んだフネの乗員に総取りされたんじゃあ、そりゃ喧嘩になっちゃうよねぇ。

取り分も、指揮官が全体の1/8、艦長が3/8、士官1/8、准士官・下士官1/8、そして兵が2/8とかで、なかなかのものだったとか。軍艦は高価だからねぇ。

見通し圏内に僚艦なしの一対一で戦って、敵を撃破。相手が降伏する寸前に敵が放った最後の砲弾が船尾楼を直撃、生き残った士官がひとりだけ、とかになれば、初級士官がひとりで1/8、とかいう夢のような……、って、仲間の士官全員が目の前でミンチになったら、そりゃ、夢は夢でも『悪夢』の方か。

もしそんなことになっちゃったら、私なら、自分の取り分全額を亡くなった士官達の遺族に贈るよなぁ……。

いやいやいやいや、元々、亡くなった乗員の取り分は、ちゃんと遺族に引き渡されるようになってるよね? 私が国の偉い人なら、絶対にそうするよ!

……ま、戦闘中に士官全員が一箇所にかたまっている、なんてことがあるはずないけどね。

かなり暗くなってきたな。そろそろか……。

携帯無線機のスイッチを、ポチッとな……。

『2分後に、令なくして照明弾投下!』

『 了解(ラジャー) !』

よし、これで、改めて指示しなくても、自動的に投下を開始してくれる。

転移!

「出番だよ~!」

「「「はいっ!」」」

うん、ヤマノ子爵家メイド成年隊の中から選ばれた、船魂要員の3人だ。

探検船団のフネは全部老朽艦だから、少女隊の子ではアレだからねぇ。

かといって、お年寄りを起用するほどのチャレンジャーではない。

なので、普通に、若手の成人の中から選んだ。妙齢になった時点で外見の変化は止まる、という設定だ。

特別手当が出るから、希望者殺到だったよ。

一応、『危険がないわけじゃないから』ということで、結構高額にしてるんだよね、特別手当。

いや、みんな、危険なんかないって思ってるようだけど、何かのはずみで私が砲弾の直撃を受けて吹っ飛んだりすれば、みんな、知らない異国の地で立ち往生だよ? 広瀬中佐の例もあるし。

他にも、足を滑らせて見張り台から落ちるとか、全く危険がないわけじゃないんだから……。

とにかく、役割は事前に説明してあるし、この3人は、以前にも船魂役のアルバイトをしたことがあるから、安心だ。

ひとりずつ、探検船団の3隻の見張り台に連れていく。既に本来の見張り員は見張り台から下ろしてあるので、問題ない。

よし、トリプル連続転移!

3人をそれぞれ見張り台に送り届け、しばらく待つと、哨戒機が照明弾を投下し始めた。

そう、毎度お馴染み、航空機から投下する照明弾、 吊光投弾(ちょうこうとうだん) だ。

小型のパラシュートにより、ふわふわと、ゆっくり降下する。

そして、その明かりを背後から受けて、闇の中に浮かび上がる3隻の船体と、その見張り台に立つ、3人の女性。

距離があることと、後ろからの明かりなので顔はよく見えないが、当然ながら、観客の皆さんはそれを『絶世の美女』であると決めつけ、そう信じ込むだろう。

……いや、一応、ちゃんと美人さんを選んであるけどね、念の為。

探検船団は、将官旗と指揮官旗が掲げられているため艦隊旗艦であることが分かっている艦の側を走らせている。なので、見張り台の女性、『船魂』を含むそのシルエットは、旗艦を含む多数の艦から視認されている。

そう、帰国後に上層部へ報告する者達、全員の眼に。

* *

「司令官、探検船団旗艦、カリアードから発光信号です! 本文、『カゾクヲタノム ヴァネルオウコクニエイコウアレ』……」

「何? これから我らと一緒に帰国するのではないのか?」

それにはそぐわない内容の文章に、とまどいの声を上げる指揮官。そして……。

「3隻全てが発光信号を打ち始めました! 文章は、全て同じです! 全艦、『サヨウナラ』……、ただ、『サヨウナラ』と繰り返し打ち続けています!!」

見張り員からの報告を聞きながら、無言で3隻の姿を見続ける船尾楼の人々。

いや、甲板上でも、砲列甲板からも砲門から身を乗り出して……。

そして、見張り台の上の女性が手を振り続け……。

「「「「「「消えた……」」」」」」

「既に、彼らは女神の許へ召されていたというのか? そして、我らのあまりにも 不甲斐(ふがい) ない姿に我慢できず、死してなお、祖国のために戦いに参上してくれたというのか?

自分達を生還の可能性が低い無謀な探険へと追いやった祖国のために、それでも忠義を尽くしてくれたというのか……」

『ヴァネル王国海軍、ばんざ~い!』

『探検船団、ばんざ~い!』

戦闘が行われた海域に響く、全てのヴァネル王国艦から上がる、 鬨(とき) の声。

しかし、艦隊旗艦の船尾楼では、皆ただ立ち尽くし、 滂沱(ぼうだ) の涙を流すのみであった……。

後に、艦隊司令官が発案した、『探検船団の3隻の乗員にも、拿捕賞金を分配すべきではないか。そしてその分配金は、乗員達の家族に手渡してはどうか』という提案は、艦隊に所属する船乗り達、ほぼ全員により支持され、決定した。

そして、『艦長以下の者達は分ける艦の数が増えれば取り分が減るが、指揮官である艦隊司令官の取り分は変わらない』ということに気付いた者は、ひとりとしていなかった……。