軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

241 戦いの肖像 8

『次、行くよ~!』

「「「「「「お~~!!」」」」」」

最初に使ったカリアード号は、装填作業中。

二隻目に使ったフネは、後方からの攻撃の訓練を積ませた艦だから、片舷撃っただけで少し待機。勿論、撃った方は装填作業にはいっている。

その間に、残りの1隻を使って最初のと同じ手順で攻撃する。

さっきの戦隊はもう大丈夫だろうから、今度は別のやつ。

艦尾からの攻撃なら1回で1隻潰せるかもしれないけれど、内部はぐちゃぐちゃになってもフネとしては艦体もマストも大した被害じゃないからねぇ。本国まで戻れば、修理は結構簡単そうだ。

そして、人的被害は大きそう。……あんまりやりたい方法じゃないなぁ。今回の私の目的にも合わないし。

それに、私抜きでできるとも思えない。そんな方法の経験を積んでも、あまり役には立たないか。

今回は、実験を兼ねて1回やってみたけれど、あのやり方はもうやめて、あのフネにも普通の接射の練習をさせよう。超至近距離での転移砲撃が『普通』かどうかは置いといて。

……いや、超至近距離での砲撃も、そりゃ私抜きでは難しいとは思うよ? でも、まぁ、『そういうもの』だという経験にはなるじゃん? この後、余裕ができたら遠距離砲撃の練習もさせるつもりだし……。

よし、転移!

* *

「いったい、どういうことだ……」

あの後、戦隊旗艦と二番艦を一瞬のうちに、それも目の前で、理解し難い奇怪な現象で無力化された敵の戦隊は、自分達がほぼ無傷の艦が2隻に大破艦が2隻、そしてこちらが小破3隻に中破3隻とあっては到底勝負にはならず、そしてそれ以上に、先程目にしたことへの衝撃があまりにも大きかったせいなのか、その後戦いに精彩を欠いてヴァネル艦隊側に一方的に叩かれ、現在は同航戦状態から逃れて離隔している。

結局、4隻中3隻はかなりの被害を受けたものの沈没のおそれはなさそうであったが、喫水線下に多くの破孔を生じた先頭艦はほぼ停止しており、破孔からの大量の浸水により次第に浮力を失いつつあった。

逃げる3隻を追撃するのは 容(た) 易(やす) いが、今は健在な敵艦を叩くのが先である。ボロボロで速力が大幅に低下した艦など、いつでも追いつける。

そしてほぼ無力化したその戦隊は無視し、他の敵戦隊に向かって有利な位置へ占位しようとしている第一戦隊であるが、その、一時的な平穏の間に、船尾楼では司令官が疑問の声を漏らしていた。

「こんなところにいるはずのない、探検船団。そしてその乗員達は、軍艦乗りとしては無能……あまり能力のない……落ちこぼれ……、いや、とにかく、『それほど才能があるわけでもなく、勇猛というわけでもない連中』だったはずだ。それが、どうして……」

しかし、司令官のその言葉は、幕僚のひとりによって遮られた。

「いえ、そのような些細なことはどうでもいいでしょう。問題は、あの、『一瞬で敵艦に接近し、そして一瞬で離隔するという、謎の現象』ではありませんか? それは、まるで……」

軍艦が、突然消える。

船尾楼にいる者達は、そういう話に聞き覚えがあった。それも、比較的最近……。

「女神の、奇跡……」

そう、それは現代の神話、『女神に愛されし船、軍艦イーラス』の物語であった……。

「距離、1200!」

見張り員の声に、皆の思考が切り替わった。

そう、僅かな空き時間は終わったのである。

「第三戦隊を支援する! 敵戦隊の手前500で取舵いっぱい、同航戦となす。右舷砲撃戦用意!」

敵側は、ひとつの戦隊の隻数は4隻と少ないが、戦隊の数は味方を上回る8個戦隊である。1個戦隊同士で戦っているところは風上側という不利な条件下にも拘らず善戦しているが、2対1となっているところは圧倒的に劣勢である。既に大破して戦闘力を失っている艦も多い。

しかし、この戦隊が乱入し、戦隊の数が2対2と同数、そして艦の隻数では12対8と、圧倒的な優勢となれば……。

* *

「 撃て(てー) っ!!」

どんどんどんどんどん!

一斉、というには些かばらついてはいるものの、片舷斉射の発射音が轟いた。

こちらは、第一戦隊が味方の支援のため単縦陣の敵艦の側面から突入しているところではなく、1個戦隊でノーラル艦隊の2個戦隊を相手にしている他の戦隊、第五戦隊である。

艦数では6対8、占位位置の不利もあり、圧倒的な劣勢である。

敵艦の攻撃力を奪うため、砲列甲板に向けて片舷斉射を行ったが、当然のことながら、幾ばくかの成果はあったものの、完全に戦闘力を奪うには程遠い。それどころか、こちらが先に全戦闘力を奪われそうであった。

それも当然であろう。こちらの先頭の2隻には敵艦が2隻ずつ、そして他の4隻にはそれぞれ1隻ずつが張り付いて、撃ち続けているのだから。しかも、こちらは風下側の最下層砲列甲板の砲は使えない。

これでこっちが優勢ならば、勲章モノである。

「くそ、ジリ貧だ! 艦隊旗艦は……」

今、戦隊司令が気にしているのは、ただひとつ。自分が指揮する戦隊が全滅する前に、艦隊旗艦、つまり艦隊司令部が乗艦している第一戦隊旗艦のマストに撤退を指示する 旗旒(きりゅう) 信号がいつ 掲(かか) げられるか、ということだけであった。

できれば、それがこの戦隊の各艦が航行能力を喪失する前であって欲しいと願いながら……。

どんどんどんどんどん!

「え……」

敵艦の手前に突如現れた、見知らぬ……、いや、些か旧型ではあるが、自国の旗を掲げた味方艦。

そして、あとは第一戦隊の者達が見たのと同じ光景が繰り返された。

……違っていたのは、2隻目も、後方からではなく側面から砲撃されたということだけであった。

「……」

一瞬のうちに戦闘力を失った、敵の先頭艦と二番艦。

……そして消え去る、援軍として現れた謎の味方艦。

「「「「「「…………」」」」」」

暫し呆然とした無言の 刻(とき) が流れ……。

そして皆が、ハッと正気に戻った。

「女神の御加護、我に有り! 撃てええええぇ~~!!」

「「「「「「うおおおおおおおぉ~~!!」」」」」」

勿論、船尾楼で『撃て』と叫んでも、まだ砲列甲板では次弾の発射準備は整っていない。ただの景気づけの叫びに過ぎない。

しかし、敵艦の動揺と、この勢いがあれば。

……そして、それに更に女神の御加護が加わるならば……。

「……勝てる!!」

第五戦隊司令は、口元を歪め、凶暴な笑みを浮かべてそう呟いた。

* *

『最初の艦が沈みそうです。乗員は離艦中!』

「了解!」

よし、待っていた連絡が来た! 勿論、上空にいる哨戒機からの無線連絡だ。

沈み始めて乗組員が脱出を始めた艦があれば、すぐに教えてくれるようお願いしておいたのだ。

……なかなか沈まないんじゃないか、って?

それは、普通に撃ち合った場合の話だよ。

超至近距離で、船体の傾きのため大きく水面上に露出した船底部分に斉射を喰らって、引き続き反対舷から甲板上を砲撃された上に油を詰めた火炎壺攻撃で火の海にされたんじゃあ、水面下になった破孔から海水が 雪(な) 崩(だ) れ込むのに対処することもできないだろう。

沈む時には沈むよ、うん。

それに、破孔が小さくて沈みそうにないフネの何隻かは、私が転移で船底の一部を『連れていった』からね。

で、なぜ私がフネが沈む瞬間を知りたかったかというと……。

「転移!」

そう、勿論、戴くためだ。

大砲、火薬、砲弾。

新型砲が出来るまで、うちの新造艦に積む砲や、鹵獲艦の砲身命数が来たやつとの交換用の砲。

備蓄用の火薬や砲弾の確保。

そして、船具や工具、マスケット銃やその火薬、弾、金庫、保存食、その他なんでも、いただきヤスベエ!

下層甲板の火薬は少し濡れちゃったりして駄目になるものもあるだろうけど、少しくらいは仕方ない。

なぜ沈む直前まで待つかというと、それは勿論、『謎の艤装品消失現象』を敵艦の乗員に見られないように、だ。なので、乗員が脱出を始めるまで待っていたわけだ。

艦を丸ごと戴く、というわけにはいかない。

今回は、あくまでも『両国の艦隊が戦った結果』というわけであって、決して女神が 大鉈(おおなた) を振るって、ということじゃない。ノーラル王国側には、そう思わせるのだ。

いや、ヴァネル王国側には女神の仕業だと思われるのは仕方ないけど、一応、『救援に来て、敵艦を沈めたのは自国のフネ』だ。そして、普段より撃沈率が少し高いだけ。

……ちょっと無理があるけど、フネが撃った砲弾により沈んだ! 決して、女神が沈めたわけじゃない!!

うまくすれば、『我が国は、女神の加護で護られている』とか考えて 驕(おご) り高ぶって、軍事力の増強を 怠(おこた) ってくれるかもしれない。どうせ女神に助けてもらえるのだから、無駄な軍事費を使う必要はない、とか考えて……。

敵艦隊の母国への報告は、『突然、超至近距離に現れた敵艦の斉射により~』ってことになるだろうから、報告を受けた側は、『目の前の敵との砲撃戦に集中していたため、別方向から単艦で突入してきた敵艦の発見が遅れ、衝突覚悟の大角度変針で超至近距離を反航戦ですり抜けた敵艦の一斉射で致命傷を受けた』と解釈するだろう。

まさか本当に『突然現れた』とは思わないだろうし、艦隊の士官達がいくらそう説明しても、責任逃れの 戯言(たわごと) としか思われまい。

うむうむ、完璧の母!!

よっしゃあ、続けて行くよ!

次弾装填が終わったやつから、敵艦にそっと寄り添い、片舷斉射!

確実に沈没に追い込まなきゃ、中身が貰えないからね。

チャキチャキ行くよっ!!