作品タイトル不明
244 戦い終わって 2
「「「「「「ヴァネル王国、ばんざ~い!」」」」」」
「「「「「「ヴァネル王国海軍、ばんざ~い!」」」」」」
「「「「「「女神様、ばんざ~い!」」」」」」
詳細報告のため軍港の街から王都へとやってきた、艦隊司令官と幕僚達を乗せた馬車の一団を迎える、王都民たちの歓呼の声。
詳細の正式発表はまだであるが、先行したスループ艦の艦長がもたらした『大勝利』、『女神の奇跡』という情報は既に王都中に広まっている。そして現在、更に国中に広まりつつある最中であった。
その後は、周辺諸国を経由して、広く大陸中へと広まってゆくことであろう。
「ふひ……」
「「「「「「ふひひひひ……」」」」」」
そして、馬車の中の艦隊司令官とその同行者達は、漏れる笑い声を抑えようともしていなかった。
無理もない。
これから先のこと。
賞賛、褒賞、昇任、昇給。
上流階級のパーティーにおいて話題の中心となり、モテまくり。
何しろ、国家的英雄にして、『女神に護られし者たち』なのである。今後、自分達の足を引っ張ったり、敵対したりする者が現れるとは思えない。
そして、尻尾を振って群がる、貴族や大商人、若い女性たち……。
((((((……勝った!!))))))
彼らがそう思うのは、当然のことであった。
* *
「……ミツハさん、海軍系の貴族達から大量の注文が来ています。高級酒や高級食材、その他諸々……。取引禁止の連中からも、 迂回(うかい) 購入とかの小細工をすることなく、堂々と……」
レフィリアが、そんなことを言ってきた。
「あ~、女神の威光を笠に着て、調子に乗っちゃったか……」
おそらく、艦隊のフネに士官として乗っていた貴族連中が、身内や友人達が出航前にヤマノ産の物を入手してくれたこと。そして自分達は女神の御加護を得た者だという選民思想から、自分達からの要求は受け入れられて当然、とか 驕(おご) り高ぶっちゃったワケね……。
身内や友人達は、それらを手に入れるために平民の商人風情に頭を下げたことなど決して語らなかっただろうしねぇ。そして、『女神の御加護』なんか、とんだお笑いだ。
「全て、却下!」
「はいっ!」
うん、ルールの 恣意(しい) 的な運用は、悪評の元。規則は厳密に、例外なく適用する!
特定の客を優遇したりすると、それを見た他の客は不愉快だし、『自分達も優遇しろ!』とか言い出す連中が必ず現れる。
常連が幅を利かせたり我が物顔で振る舞う店は、一般客が寄りつかなくなってすぐに潰れるよね。
……まぁ、それとはちょっと違うけど……。
それに、この国でいくら英雄扱いされていても、他国の者である私には何の関係もないし。
レフィリアは、『国の英雄達からの注文に応えないとは、何たる無礼な!』とか言って責められるかもしれないけれど、卸元からの指示であり、それを守らないと契約を切られるから、と答えさせれば無理は言えないだろう。いくら何でも、他国の貴族には文句は言えないだろうからね。
……しかし、やっぱり調子に乗ったか……。
これが、一部の海軍系貴族だけならいいけれど、王宮も含んだ、国全体があんまり調子に乗っちゃうと、何かありそうでちょっと心配だなぁ。
いや、少しは調子に乗ってくれてもいいんだ。海軍の弱体化や、次の探検船団を出すだけの余剰能力が失われるのであれば……。
でも、あんまり調子に乗りすぎて、国の屋台骨が揺らいだり、外交に安易に武力を行使しようとしたりされると、ちょっとアレかなぁ、という気が……。
そして私は、レフィリアに指示して、探検船団やヴァネル艦の木製模型の販売を開始した。
そう、みすみす商機を見逃すようでは、一人前の商人とは言えない。この海軍ブームを逃してなるものか!
そう考えて、うちの領地の産業として、作らせたのだ。
……マストの見張り台には、船魂さんの超小型フィギュア付き。
設計図は、私がたくさん撮っておいたデジカメ写真を元にして、日本で各パーツの設計図を引いてもらった。それをうちの町や村で作らせたのだ。力仕事はできないけれど手先が器用な者、つまり女性や老人、子供、怪我人、病人達の内職として。
自分達にもできる仕事があり、家計を助けられるとなると、そりゃやり甲斐があるのだろう。凄い生産速度で頑張ってくれたよ。
船魂のフィギュアだけは、日本で業者に発注した。……うん、大事な部分だからね、そこは。
レジン製だけど、材質を気にする者なんかいないだろう。
今度は、3Dプリンターで作ってもらって、もっと安くあげようかな。
……続いて、ウォーターラインシリーズや、戦いのワンシーンをジオラマ風にしたセットとかも売り出して、馬鹿売れ。
場所を取るジオラマであっても、貴族の屋敷に飾るのには何の問題もない。
そして沈没艦からの接収品を含め、今回の戦いで儲かったのは、私とレフィリア貿易だけ。
うん、戦争は儲かるねぇ。
……戦った当事者以外が。
……そして数カ月後、『女神が御助力くださる!』と調子に乗って、ヴァネル王国海軍が自分達の1.5倍の隻数のノーラル艦隊に挑んで大敗、多くの拿捕船を出し、前回の勝ち分を全てチャラにしてしまったらしい。
私はそんな海戦が行われることなんか全然知らなかったため、全くのノータッチだったのだから、仕方ない。
そう、誰も私にそんな戦いがあることを教えてくれなかったのだから、それは仕方のないことなのであった……。
いや、もし知っていても、多分手出しはしなかっただろうけどね。
大砲と弾薬、帆船用の資材、器材の数々は、前回の海戦で充分手に入れたから。
それに、あんまり片方に肩入れするのは国家間バランス的に良くないし。
二度目の戦いでの大敗の結果、結局、両国の軍事バランスは以前の状況に戻ったらしい。
植民地の 帰趨(きすう) も、元サヤ。両国共に、フネと人員を大量に消耗しただけで、何も得るところがなかった模様。
……うん、戦争って、そういうものだよねぇ……。
* *
「……で、敵の砲弾が数センチ横を通って後方へと飛び去り、それを気にも留めずに次弾装填を続けて、発射! 敵艦の砲列甲板に見事命中して……」
「すご~い!」
眼を見開き、両手の拳を軽く握って口元に当てた私の賞賛の言葉に、鼻の穴を膨らませて説明を続ける軍人くん。
はいはい。
男の子の自慢話は、素直に聞いてあげるのが、いい女ってもんよ。
そう、軍人くんは、無事だった。
勿論、同じフネの乗員の中には、怪我人も出たし戦死者も出たらしい。
軍人くんは、たまたま無傷で助かった。それだけのことだ。
同じ艦の仲間を大勢失って、落ち込んではいるのだろうけど、『それはそれ、これはこれ!』なのだろう。 女友達(ガールフレンド) に自慢話、手柄話をする時の高揚感の前には、そんな感情は吹き飛んでしまっているらしい。
うん、そういうものだよねぇ。
……というか、そうでないと、軍人なんか、やってられないよねぇ。
こうして笑いながら喋り続けているのも、死にかけた恐怖、仲間を失った悲しさを誤魔化し、抑え込むための 空元気(からげんき) なのかもしれない。
今日は、半日付き合ってあげるか。軍人くんの自慢話に……。
* *
「以上が、王女殿下によります海戦への介入状況です」
「「「「「「…………」」」」」」
巨大な3面スクリーンを備えた某国の 作戦室(オペレーションルーム) で、大勢の将官、佐官達を前にして説明している、情報畑の上級士官。
「では、生命力の消耗を考慮しなかった場合、王女殿下は世界間だけではなく、同じ世界内における空間転移も可能であると? 帆船レベルの巨大な質量を伴って……」
「はい、王女殿下の領地と戦争状態になっております、この世界の某国に対して行われました『転移攻撃』により巨大な質量を伴った異世界転移が可能であることは判明しておりましたが、これで、同じ世界の中でも転移が可能であることが証明されました」
「「「「「「空間転移能力……」」」」」」
軍事関係者にとって、いや、人類にとって夢と憧れの、時空を自由に操れる魔法、もしくは超能力。
しかし、それを我が物とできるだけの能力は、今の人類にはない。
たとえそれが、魔法であろうが、超能力であろうが、……そして神による奇跡の力であろうが。