軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

239 戦いの肖像 6

『互いに占位運動に入ったようです』

機内交話装置(I C S) のヘッドセットから聞こえる、 正操縦士(パイロット) の声。

今回の 搭乗員(クリュー) は、 正操縦士(パイロット) より 戦術航空士(T A C C O) の方が先任らしく、そっちが機長を務めているらしい。この任務は戦局的な判断が重要だということで、そういうクリュー編成のチームを割り当てたのかな。

いや、この哨戒機が戦いに直接手出しすることはないし、私の指示通りに飛んでもらうだけだから、どっちでもあんまり関係ないと思うんだけどね。

「了解。現高度を保ったまま、監視継続!」

そう、エンジン音が届かず、万一視認されても鳥か何かにしか見えない高度で、のんびり滞空してもらうのが、この機体の今日のお仕事だ。

まぁ、戦闘中にのんびり空を眺めたり、砲撃戦の中で微かなエンジン音を聞き分けたりする者がいるとは思えないから、もっと高度を下げても問題ないとは思うけれど、そんなことをする必要性もないから、広範囲を見通せる高度の方がいい。

政治的なことも、戦略的なことも、そして戦術的なことも、何も分からない。

分かっているのは、ただ、両艦隊が初めから戦うつもりであることだけだ。

この哨戒機を出してもらっている国には、『うちの同盟国が、戦争を吹っ掛けられた。なので、もし負けそうになった場合には、うちの国が、僅かな戦力で「神の御加護を受けた国の戦い」というものを見せてあげるの』と言って説明してある。

……どうせ見えちゃうし、『神様に与えられた能力だ』ってことになってる謎の力で異世界転移しまくってるのに、何を今更、だ。

だからこの機の連中は、その『神の御加護による戦い』というのが見たくて仕方ないらしいんだよねぇ、搭乗員も、学者先生たちも。

現代の地球でも、真面目に神の存在を信じている人達は多い。……少なくとも、神の名の許に他の人間を平気で殺しまくれるくらいには。

……でも、残念ながら、もしうちの艦隊の出番があったとしても、この機の 乗員(クリュー) 達が期待しているようなものは見られないだろう。

うちの 機械仕掛けの神様(デウス・エクス・マキナ) は、ちょっぴり 無粋(ぶすい) だ。

* *

それからかなりの時間が経ってから、どうやら戦闘が始まったらしい。

いや、互いに砲撃を行うための位置につくのに時間がかかったし、全ての艦が砲撃可能な位置にいるわけじゃないし、艦の列というか戦列というか、それも結構バラバラだし……。

何か、それぞれ数隻ずつの単縦陣に分かれて、ごっちゃになって走り回ってるって感じ。

技量の問題なのか、それとも、そういうものなのか……。

まぁ、帆船じゃあ、動力船のようにはいかないか。長い戦列を形成するのは難しい?

それとも、単縦陣による戦列艦の一斉砲撃という戦術を採用していない?

確かに、最大戦力が64門艦というのは、戦列艦としては少々力不足かも? まだ『戦列艦による戦法』という時代じゃないのかな?

まぁ、別に地球と同じようにフネと戦術が進歩しているとは限らないか。海軍のおじさん達と話をした限りじゃ、割と似た感じだという感触だったんだけどなぁ。

う~む……。

今日は、結構風が強いらしい。

いや、哨戒機が飛んでいる高度の、ではなく、海面風が。

なので、各艦は一部の帆を 畳(たた) んで、あまり風に振り回されないようにしているらしい。

よし、『万一の時』は、あの作戦が使えそうだ。

うん、勿論、ちゃんと勉強してきてる。『知識チート』は、使ってナンボ!

地球の帆船時代の艦隊戦については、ちゃんと本を読んでおいた。『 風下(かざしも) に立ったが、うぬの不覚よ!』とかいうやつ。

……忍者かっ!

いや、この時代の海軍士官ならそれくらいのことはみんな知っているだろうけど、私には必殺技があるからねぇ。

とか言ってるうちに、双方に被害が出始めちゃったよ!

まぁ、碌な照準がつけられないから、200~300メートルくらいの至近距離で撃ち合うわけで、そりゃ当たるわな。数千メートルとか2~3万メートルとかの遠距離から放物線を描く弾道で曲射する公算射撃とは、わけが違う。

……でも、別に砲弾内に炸薬が入っていて炸裂するわけじゃないから、当たっても船はなかなか沈まない。木製だから、多少上部が破壊されても、あまり沈没には繋がらないらしいのだ。

帆柱(マスト) や索具を破壊したり、飛び散った木の破片で乗員を殺傷したりして操艦能力を奪ったり、敵艦に斬り込み隊が移乗したり、というのがメインらしいけど、こんな乱戦で敵艦に接舷したりする余裕なんかないよね。一対一の戦いじゃないんだから……。

派手に爆発したり、炎や黒煙が噴き上がるわけじゃないから、この高空からじゃそんなに分からないけど、多分、既に多くの死傷者が出ているのだろう。そしてその中には……。

私が王都のパーティーで会った人、港町のバーで面白い話を聞かせてくれた人、そして軍人くん。

船のどの部分に乗っていようが。そしてお偉いさんであろうが、下っ端水夫であろうが。

『死』は、そんなことには関係なく、平等に訪れる。

哨戒機の 搭乗員(クリュー) 達は、飛行機乗りとはいえ、海軍の軍人だ。

そして海軍軍人たる者、船や砲撃戦には普通の者以上に興味があるだろう。

だからか、皆、自分の仕事をしつつも見張り窓から下を見ている。この高度からじゃ、あまり細かいところは見えないだろうに……。

あ、見張り窓の多くは外側に膨らんでいて、通称『 出目金(でめきん) 』と呼ばれている、張り出しタイプ。だから、真下も見えるようになっている。……距離がありすぎて、よく見えないけど。

* *

砲撃戦が始まってから、既にかなりの時間が経っている。

艦数は、互いに、30隻前後。

そりゃ、国の運命を懸けた、天下分け目の大海戦、とかいうなら、それぞれ3桁に届く数の艦艇が入り乱れての総力戦になるかもしれないけれど、今回はあくまでも小競り合いであり、艦数としてはショボい。

でも、それは地球での大きな戦いのことを知っている私だからそう思えるのであって、このレベルの文明での敵味方30隻同士、合計60隻の砲撃戦というのは、かなりのものなのだろう。

……特に、その戦場に身を置く者達にとっては。

『同盟国が劣勢のようですね。5列に別れた戦隊のうち、3隊がかなりの被害を出しているようです』

双眼鏡で詳細を確認してくれている 機上武器員(ORDNANCE) が、そう教えてくれた。

私の国の同盟国、ということになっているヴァネル王国側は、6隻ずつで、5つの戦列を形成している。かなり 歪(いびつ) ではあるけれど、一応は、単縦陣だ。それが5本、それぞれ別個に行動している。より有利な位置に占位できるよう、それぞれの戦隊司令の指揮によって。

それに対して、敵、ノーラル王国側は、4隻ずつ8つの戦列を形成している。合計32隻で、ヴァネル王国艦隊より2隻多い。

無線機による細かい意思疎通とかはできず、操艦も動力船のようにはいかないため、それくらいの隻数が統一行動を取れる限界なのかな。戦隊旗艦が上げる旗旒信号が見える距離、とかいう限界がありそうだし……。

尤も、双方全ての艦が最強の戦艦ばかりだというわけではなく、上は最新の64門艦から、下はやや旧式の40門艦あたりまで、色々ある。それらが、それぞれ同クラスの艦ごとに戦列を形成しているのだ。

……そりゃ、性能ごとに揃えなきゃ、艦隊行動が取れるわけがないか。

速度、旋回半径、攻撃力、防御力、その他色々。同じ性能の艦でないと、同一行動を取れるわけがない。

だから、まぁ、隻数だけで優劣が決まるというわけでもないんだけど……。

『お仲間、判断をミスりましたね……』

そう、 機上武器員(ORDNANCE) の人が言う通り、ヴァネル王国艦隊は大失敗をやらかしていた。

普通であれば、帆船同士の艦隊戦は風上側が有利。

そう思われがちだけど、それはただ『敵に向かって進むのに有利であり、接敵に関する主導権が握れる』ということに過ぎない。そしてそこには、大きな落とし穴があった。

……今日は、風が強い。

風が強いと、帆に風を受けて進む帆船は、風下側に大きく傾く。そしてその結果……。

風下側の舷は最下層の砲列甲板が波に洗われ、砲門扉が開けなくなる。つまり、使える砲数が激減する。

そして更に、使える砲も下方を向くため、上げられる仰角に制限ができる。

そのため、『風下から接近するなど、逃げ腰の腰抜けが使う戦法である』として風上からの接敵を信条とするヴァネル王国艦隊は、その攻撃力を大きく減じていた。そして更に……。

「1個戦隊当たりの艦数を4隻と少なくして身軽に動き回り、ヴァネル艦隊の戦列の後方艦を狙うか……」

そう、後方で砲撃戦となっても、砲が側面にしかなく、しかも砲の可動範囲が狭いため、前方の艦は後方の艦の支援ができないのである。

支援のためには、反転しなければならない。

しかしそんな状況での反転はあまりにも無謀であり、リスクが高かった。個々の艦数は少ないものの、8個の敵戦隊は、そんな隙を見逃してくれようはずもない。

『決まりましたね……』

双眼鏡ではなく大型カメラを構えた 機上武器員(ORDNANCE) が、そう断言した。

撮影は機体下部のカメラポッドでも行われているが、どうやらそれだけでは満足できないらしかった。

そして、私は……。

「出ます! 我が国の艦隊、介入開始!」

介入する場合については、事前に説明してある。なので、この機はこのまま上空で待機していてくれる。

よし、転移!

* *

地球の、ウルフファングの 本拠地(ホームベース) で借りている部屋に出現して、肩掛け式の拡声器を掴み……。

転移!

『出撃! 総員、戦闘よ~~い!!』

戦隊中央の艦の見張り台に転移し、拡声器で叫ぶ。

1回目は上空に出て艦の位置を確認、2回目で見張り台に転移したのだ。

艦同士の間隔が狭いから、スピーカーを通した私の声は前後の艦にも届いているだろう。念の為、旗旒信号も上げさせるけど……。

「「「「「「うおおおおおお~~!!」」」」」」

ありゃ、全艦から轟く叫び声から、旗旒信号は必要なさそうだな。ま、手順通り、上げさせるけどね。

ボーゼス伯爵領の沖合で、単縦陣で航行していた3隻の元拿捕艦。

今は我が国のフネとなり、新しい名が命名されているけれど、今日だけは昔の国籍、昔の艦名に戻っての行動だ。

昔の名前で出ています……、って、うるさいわ!

『全艦、両舷、砲撃戦用意! 目標、敵、ノーラル王国艦隊!

両舷全速ぅ……、ヴァネル王国探検船団、発進!!』

いや、推進器は無いし、既に高速で航行しているけれど、こういうのは勢いだ!

よし、転移!!