軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

233 姉 様

久し振りのパーティー任務をこなし、ウルフファングのみんなに 弄(いじ) られて、王都の雑貨屋ミツハへ。

……疲れた。今日は、店は開けずに3階でゆっくり休もう……。

「あ、お邪魔してます……」

3階の居間に入ると、サビーネちゃんのお姉さん……『ちい姉様』の方……が、私に向かってぺこりと頭を下げた。

サビーネちゃん? 弟のルーヘン君とシューティングゲームで撃ち合っているから、それどころじゃないらしい。

「……あれ、ミツハ姉様、帰ってきてたんだ……」

今はちい姉様がいるから、私の方にも名前を付けて呼んでいるサビーネちゃん。

ゲームに夢中で、私が帰ってきたのに気付いていなかったか……。

「守ってるんだろうね、ゲームの制限時間……。違反していたら、1日1時間に制限を強化するよ?」

「そ、そんな、非・論理的な……」

サビーネちゃんの焦り具合。怪しいなぁ……。

ん?

「あれれ~? おかしいなぁ。どうしてこんなにたくさんのお菓子の空き袋があるのかな~……」

「げえっ!」

「あれれ~? おかしいなぁ。どうして急にサビーネちゃんの顔色が悪くなったのかな~……」

「ぐはぁ!」

「ミツハ様、サビーネを許してやってくださいまし。実は、サビーネは私を守るために……」

事情が変わった!

「詳しく!」

「は、はい。実は、意に染まぬ結婚話を持ち込まれ、それから逃れるために、ここに身を隠すことに……。この王都で王宮からの追っ手が侵入することができないのは、ここしかありませんので……」

「なる程……。でも、貴族や王族の娘は、政略結婚のため親が決めた相手と結婚するのが義務なのでは? そのために、国民の血税で贅沢な暮らしをさせてもらっているのでは? それを、美味しいとこだけ取って、義務を果たさないというのは……」

「「が~~ん!」」

「が、が~~ん!」

サビーネちゃんと第2王女、そしてワンテンポ遅れて第2王子のルーヘン君が、私の言葉にショックを受けた旨の意思表示を行った。擬音を口にして……。

「いや、そういうもんじゃないの?」

「そ、それは確かにそうだけど、まさかミツハ姉様がそんなことを言うとは思わなくて……。ミツハ姉様なら、あの、ほら!」

「助けてくれる、って?」

「うん……」

いや、確かに私は男女同権、女性が道具扱いされることのない世界で育ち、そういう価値観を持っている。……でもそれは、私が『そういう世界』で暮らしているからだ。

この世界でいきなり男女同権運動を始めたり、親の遺産は男女関係なく子供達全員で均等に分けるよう提言したりすれば、すぐに排斥されるだろう。いくら『救国の姫巫女』とか呼ばれていても。

だって、そんなことをすれば貴族制が崩壊しちゃうし、大店も経営者が亡くなって子供の数だけ分割されたら、ただの中小商店の群れに落ちぶれて、しかも互いに食い合って共倒れだ。

そういうのは、社会制度が円熟して、自然に受け入れられるようになるのを待たなきゃ駄目だ。ひとりの人間が声高に叫んでゴリ押ししても、混乱を巻き起こすだけで、何にもならない。

だから、私はそういうのに手出しする気は全くないよ。

ま、それを促進するよう、それとなく誘導するくらいが精一杯だろう。

「……無理だよ。いくら何でも、私ひとりで社会制度と戦うとか、王様達と対立するとか……。

それに、会ったこともない相手と結婚するとか、王族にとっては普通のことなんでしょ? どうしてそんなに嫌がるの? 知ってる相手で、すごく嫌な奴なの?」

そう、あの王様が、娘をそんな奴に嫁がせるとは思えない。

それに、この国は別に財政難というわけでもないし、他国の侵略を受けそうだというわけでもない。それどころか、政情は安定しており、新大陸からの防衛のための大条約機構の纏め役にして、新式の大型船や武器を保有し、それらを自国で生産すべく研究を進めている、現在この大陸で最も『行け行けGOGO!』、『ドンドンパフパフ!』状態の国なのである。可愛い娘を売らなければならないような状態ではない。

「……いえ、隣国の第2王子殿下で、 見目(みめ) が良く、聡明で優しく温厚、という噂なのですが……」

「なのですが?」

モテモテで女癖が悪い、とかかな……。

「私、『わあるどあどばんすどだいせんりゃく』で、にほんを勝たせられないような殿方は、ちょっと……」

「何じゃ、そりゃああああああぁっっ!!」

* *

「……別に、そのゲームをやらせてみたわけでもないのに……、って、本当のことを吐け!」

嘘に決まってるだろう、そんな理由……。

私の剣幕に、観念したのか恐る恐る口をひらく第2王女。

「……だって、隣国にはげぇむきも、美味しいお菓子も、ケーキも、冷たいしゃわしゃわジュースも、こたつも、みかんもないんですもの……」

「この部屋のせいかあああああぁっっ!!」

……あ。

確かに、このあたりの国では貴族や王族は子供の頃から婚約していたり、成人してすぐに結婚したりする。なので、15~16歳くらいの第2王女にそういう話が来るのは、不思議でも何でもない。むしろ、今まで婚約者がいなかったという方が不思議なくらいである。

しかし、ここで『不思議なこと』が存在するのである。

……そう、第1王女の存在である。

「ねぇ、あなたの前に、第1王女を嫁入りさせなきゃならないんじゃないの? もう24~25歳くらいなんでしょ? ……もしかして、旦那さんが亡くなってその弟が家督を継いだとかで、嫁ぎ先での居場所がなくなって出戻り……」

ぶふぉ!

「ぎゃあ! 何するのよ、サビーネちゃん!!」

サビーネちゃんに、飲んでいた炭酸飲料を思い切り吹きかけられた。

「う、上姉様は、まだ18歳よっ!」

「え?」

サビーネちゃんから告げられた、衝撃の事実!

「ええ?」

24~25歳というのも、気を使って、少し若めに言ったつもりだったのに……。

「えええええええええ~~っっ!!」

アレクシス様に気があるような素振りをしているのには、勿論気付いていた。

……というか、アレに気付かないようなのは、漫画の鈍感主人公とアレクシス様本人くらいのものだろう。

いや、アレクシス様は、気付いていて、知らない振りをして避けているということも……。

でも、それは日本のおばちゃんが若いアイドルタレントにキャーキャー言っているのと同じで、あの王都絶対防衛戦の時の英雄的活躍と新たな貴族家の始祖という栄誉を得たアレクシス様に、ミーハーおばさん的な興味でひとりで盛り上がってるだけだと思って、生温かく見守っていたというのに……。

ま、まさか、あれ、本気の『恋』だったのかああああぁっっ!!

イカン! こりゃイカンぞ!!

……え?

何がイカンのだろう?

え~と……。

「で、でも、それならば順番的には……」

「お姉様は、2年前に婚約者を亡くされたのです。その後、ずっとふさぎ込んでおられて……。

なので、お姉様にはしばらくそういうお話は、ということになりまして。

でも、最近はお元気になられて、ようやく笑顔が見られるようになりましたの」

あああ、やっぱりかあぁ!

めでたい……。

めでたいよね、うん。

ボーゼス伯爵家としても、王族と親戚になれるというのは大きいだろう。

王様にとっても、海軍創設の 要(かなめ) である、間もなく侯爵に陞爵するのが確実なボーゼス伯爵家を取り込めるのは嬉しいだろう。ボーゼス伯爵家は私とも仲良しだしね。

うん、めでたい! ……よね……。

アレクシス様は、第2王女の方がいいみたいだったけど。

そう、あの爵位授与の時の様子ではね。

でも、もし王家からお話が来たら、子爵風情に断ることができるのかな?

それも、傷心の娘がようやくその気になったと知ったら、あの子煩悩な王様が必死でゴリ押ししそうな気が……。

うん、アレクシス様、強くイキロ……。