軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

221 領地への帰還 1

帰還である。

またしばらく各地へ顔を出せなくなるので、やるべきことは全て済ませてある。

緊急事態には、領地からは執事のアントンさんかコレットちゃん、王都はサビーネちゃんが無線機で連絡してくれることになっている。まぁ、その他にはゲッゲッゲッの王女様のところのことしか分からないけれど……。

王宮前の中央広場に集結して、来た時と同数の馬車、同じメンバーでの旅となる。変わったのは、積み荷だけ。

ベアトリスちゃんは、王都邸執事のルーファスさんを始め、数名の使用人達が見送りに来ている。

ま、そりゃ屋敷からここまで一緒に来るわなぁ。王都邸からベアトリスちゃんひとりでここへ来させるわけがない。いくら伯爵家が雇ったベアトリスちゃん専用の護衛がついているとはいっても。

あ、私が屋敷まで迎えに行くべきだった?

いかん、失敗した……。

しかし、何だかベアトリスちゃんの様子が……。

いや、悪い意味じゃない。

何か、自信たっぷりに堂々とした感じで、ごく自然に、使用人達に威厳のある態度を見せている。

ヤマノ子爵領を出る時には、普通の世間知らずの貴族の少女、という感じだったのに……。

指揮官として商隊を率い、最上位者としてほんの数日間ボーゼス伯爵家王都邸を仕切っただけで、何か、急に成長した?

ベアトリスちゃんは私のことを自分より年下だと思っているから、貴族家の娘であるというだけの自分とは違い本人が爵位貴族であり、そして『救国の英雄』とか呼ばれている私が一緒にいても、あくまでも最高指揮官は自分であると認識しているから、旅の間はずっと気を張っていたはずだ。

そして王都邸でも、いつもは家族と一緒であり、何かあった時には自分が使用人達を指揮しなければならないという状態になどなったことがないはずだ。伯爵夫妻が出掛けていても、兄のアレクシス様やテオドール様がいただろうし……。

それが、他のボーゼス家の者はひとりもいない、自分だけでの移動と王都滞在。

……王都邸では何もなかったのか、それとも何かがあったのかは分からない。

でも、何だか立派になったように見えて眩しいよ、ベアトリスちゃん……。

『可愛い子には旅をさせよ』かぁ……。

やっぱり、昔の人はいいことを言うなぁ……。

あ、いや、いいこともくだらないことも色々言ったうちで、いいことだけが伝えられて残っただけか。昔の人だからといって、みんながいいことを言っていたわけじゃないよね、うん。

そして、ベアトリスちゃんがみんなに対して簡単な訓示を行い、出発。

いや、いったい、どうしちゃったんだよ、ベアトリスちゃん! 往路では訓示なんかしなかったよね?

「ミツハ、ヤマノ子爵領は割と領民の生活に余裕が出てきたみたいだから、そろそろ嗜好品、贅沢品の類いを流通させて領内のお金を回し、併せて領民の生活を豊かにさせて満足度を引き上げるべきよ。稼いだお金は、使わせないと……。

そこで、商人の荷馬車の空きスペースを確認して、余裕があるところに私の個人的なお金で仕入れたものを積んでもらっているから、それをヤマノ子爵領で売りたいんだけど……」

うん、輸送費 無料(ただ) で自分の個人的な荷を運ばせてる、ってことね。

……お願い、帰ってきて、ベアトリスちゃ~~ん!!

はぁはぁ……。

「ど、どうしちゃったのよ、いったい……」

「ん、ちょっと、邸の使用人達と色々お話をしてね……」

少し焦った私の問いに、そう言って遠い眼をするベアトリスちゃん。

主家のお嬢様が、使用人達と、いったいどんなお話を?

うむむむむ……。

確かにベアトリスちゃんはサビーネちゃんの御学友として選ばれた才能がある子で、分別がありサビーネちゃんをうまく導けるよう年上の子を選んだために、今11歳のサビーネちゃんに対して、14歳と3つも年上だ。

このあたりの年代の3歳差って、すごく大きいからねぇ。

そして、11歳のサビーネちゃんが、アレだ。14歳のベアトリスちゃんがこれでも、不思議はない……、って、いやいやいやいや!

私が14歳の頃って、中2か中3くらい? 完全に子供だったよ、その頃の私!

貴族の娘という立場のせい? それとも、これくらいでなきゃ生きていけないという、この世界の厳しさのせい?

……異世界の少女、恐るべし!!

そういえば、みっちゃん2号も年齢に見合わないしっかりさだし……。

『ソサエティー』の他のメンバー達も、世間話や男の子の話をしている時は結構普通の女の子っぽいけど、貴族として、とか、領地や領民の話とかになると、結構しっかりした話をしているし。

だから、ベアトリスちゃんがそれより少し上であっても、何の不思議もない。

年下の子供だからと、私が見くびっていただけなのか。

そして、今回の旅で、更に大きく成長したと……。

今まで、コレットちゃんとサビーネちゃんは、仲間というか共犯者というか 一蓮托生(いちれんたくしょう) というか、とにかく、身内というか家族というか、そういう扱いだった。だから私の秘密も全て話した。

でも、ベアトリスちゃんは私にとって、お世話になっているボーゼス伯爵様の娘、という定義だ。

勿論、可愛いし守ってあげたいし、……そして事実そうするけれど、それは『ボーゼス伯爵様の家族』としてであって、決して『私の家族』としてじゃない。

だけどサビーネちゃんは、ベアトリスちゃんもコレットちゃんのように『私達の仲間』にしたいと思っているんじゃないかなぁ。最初、ベアトリスちゃんも私のことを全部教えられていると思っていたみたいだし……。

学校に通っているわけじゃないサビーネちゃんにとって、御学友要員のベアトリスちゃんは、たったひとりのお友達だったのかも……。

勿論、他にも『御学友』はいるのかもしれないけれど、伯爵以上の貴族家の娘で、同年齢か2~3歳上までで、家の派閥上も、家族や親族の思想、交友関係、悪事に関わっている者と繋がりがないか、そして本人の能力と人格、その他諸々が合格点であり、更にサビーネちゃんと気が合って仲良しになれる少女。

そんな少女がゴロゴロいるとは、到底思えない。

たとえ最初の出会いは親達が勝手に決めたものであっても、その後のふたりには関係ない。いくら親達が決めて引き合わせた相手であっても、互いに、いや、サビーネちゃんが気に入らなければ、最低限の付き合い以上はしなかったであろうから……。

そしてそれは、ベアトリスちゃんにとっても同様だろう。

学校に行っているわけではない、貴族家の少女。

領地にいる時には近くに他の貴族家の少女がいるわけがないし、王都邸にいる時も、デビュー前の少女が友達を作る場がそうそうあるとは思えない。誕生パーティーとかは、婚約者を探す場であって、同性のお友達を作る場じゃない。同性の子は、みんなライバルであり、敵だ。

……殺伐としてるねぇ……。

だからこそ、似たような状況であろう新大陸のヴァネル王国で、『ソサエティー』に参加してくれた少女達があんなに楽しそうにしているのだろう。

あまり身分の上下や派閥等の立場を気にせず、ただの女の子同士として馬鹿話に興じることのできるお友達。……でも、一応は『貴族の娘』という身分の範疇には収まっており、平民とかが紛れ込む心配のない、安全で安心できる場所。

派閥争いや、領境でのいざこざ、商取引や婚姻政策。

そんな、周囲の貴族家は敵、貴族家の娘は道具として使われるのが当然であるという世界で出会った、『ソサエティー』の仲間、友達、そして同志。

あの御令嬢達にとって、『ソサエティー』は、まさに地上の楽園にも思えたことだろう。

『ソサエティー』の仲間は決して裏切らないし、私もまた、裏切るつもりはない。

みんなが私を裏切らず、役に立ってくれている限りは……。

「……ツハ! ミツハってば!」

「……え? あ、ああ、ごめん、考え事してた……」

「『妄想タイム』でしょ、知ってるわよ! で、サビーネちゃんとはどんな話をしていたのよ?」

……ああ。

サビーネちゃんは、私よりずっと前からの、ベアトリスちゃんのお友達。

つまり私は、ベアトリスちゃんからサビーネちゃんを横取りした、浮気相手か。

そしてサビーネちゃんは、ベアトリスちゃんから私を奪った、浮気相手。

あちゃー、数少ない友達が、自分を仲間外れにして、後から知り合ったふたりで仲良くしてるって、この年代の女の子から見て、どうよ?

……うん、逆上して怒鳴りつけられてもおかしくないよねぇ。

なのに、怒ったり不愉快そうな顔をしたりしないって、人間が出来過ぎてるよ、ベアトリスちゃん……。

いや、ごめん!