作品タイトル不明
220 サビーネちゃんと新大陸
「ここが、新大陸……、って、ここは……」
そう、実は、サビーネちゃんは以前ここに来たことがある。
コレットちゃんと一緒に、『もっと自分達に構え!』とゴネられた時に、私もあちこちで色々なことをしなきゃならないから忙しいんだよ、ということを分からせるために各地の支店を連れて廻った時に。
なので、あの時はここ、物産店を少し見せただけで次の場所へ転移したから、ここがヴァネル王国だとは気付いていなかったんだけどね。
「うん、新大陸。つまり、サビーネちゃんは既に、とっくにコレットちゃんと一緒に新大陸に来ていたってことだよ。勿論、今のところ、向こうの大陸の者でここに来たことがあるのは、私達3人だけ」
あの時のコレットちゃんの様子から、コレットちゃんもあれが初新大陸だったことは分かっているだろう。つまり、日本へ行った時と同じく、新大陸もコレットちゃんとサビーネちゃんは一緒に初訪問していたわけだ。決して、サビーネちゃんが後回しになったわけじゃない。そのことに気付かないようなサビーネちゃんじゃないだろう。そして、その結果……。
「…………」
あ、あからさまにサビーネちゃんの機嫌が良くなった……。
チョロい。
いくらしっかりしていて頭が良いとはいっても、やっぱり子供だなぁ。
「じゃ、うちの取引先に行くよ」
「うんっ!」
「……というわけで、うちの妹その2。よろしくね」
「ドゾ、ヨロシク!」
う~ん、コレットちゃんよりは新大陸語が下手だなぁ。
ま、王女業の方が勉強やら作法の修業やらで色々と忙しいだろうし、コレットちゃんは私と一緒にいるために命を懸けているからなぁ、較べるのは可哀想か。普通に考えれば、これでも驚異の学習速度なんだから。
何しろ、手作りの辞書1冊と捕虜との会話だけでの独学だからねぇ。しかも、捕虜の方はこっちの言葉しか喋れないという、とても教師役とは言えない連中だし。
うん、自動翻訳能力を身に着けるまでは英語すら碌に喋れなかった私から見れば、充分に天才だよ、コレットちゃんもサビーネちゃんも……。
子供の学習能力、恐るべし!!
レフィリア貿易に顔を出して、レフィリアと主な従業員にサビーネちゃんを紹介。
その後、レフィリア貿易と周辺国の提携店からの発注書を受け取り、ウルフファングのホームベースへ。
「これ、お願い。今揃ってる分は貰っていくね」
ここでは、サビーネちゃんは既に顔馴染みだから、紹介とかはない。忙しいから、発注書の写しを渡して今倉庫にあるものは受け取り、その他は仕入れておくよう依頼して、引き揚げ。
「慌ただしいなぁ、嬢ちゃん……」
隊長さんの声を背にして、さっさと倉庫へ。
必要なものを纏めて、転移。
レフィリア貿易、周辺国の店、その他へ配達。
転移、転移、転移、転移……。
「忙し過ぎるよ!」
サビーネちゃんからクレームが入った。
「だから、前にも言ったでしょ、私は色々と忙しい、って。まだ、新大陸でやることも、領地での仕事も残っているし、日本でやることも色々とあるし、数日後には帰還の旅についてかなきゃならないし……」
「……ごめん」
どうやら、私がすごく忙しいこと、そして帰還の途につくまでの王都での数日間は特に大変だということが分かったらしい。そこに、自分が我が儘を言ったせいで私の手間が増えてしまったことも……。
それに、コレットちゃんとサビーネちゃんは結構私と一緒にいられるけれど、ベアトリスちゃんにはその機会があまりない。そのことは、ベアトリスちゃんが私の転移能力は乱用できないと思っていること、日本や新大陸のことは教えられていないことからも、サビーネちゃんには分かっているはずだ。
そのベアトリスちゃんが私と一緒にいられるはずの貴重な時間を、自分が割り込んで邪魔をした。それが理解できてしまったサビーネちゃんは、罪悪感を感じているのだろうな、多分……。
ま、帰りの旅も、ずっとベアトリスちゃんと一緒だ。そう気にしなくてもいいんだけどな。
でも、言葉でそう言っても、サビーネちゃんが自分の行動を後悔する気持ちは変わらないだろう。
だから、サビーネちゃんの頭を軽くぽんぽんと叩いてあげるだけにした。
これで充分。
サビーネちゃんには、これで私の想いは伝わるはずだ。余計な言葉は要らないよ。
その後、サビーネちゃんを王宮に送り届けて、残った仕事をこなした。
明後日は、行くところがある。
* *
「では、御注文の品はこれで全部ですね?」
今日は、『ソサエティー』の会合の日。
領地と王都の往復プラス王都滞在日数で、30日近い期間拘束されるため、王都にいる間になるよう会合日を合わせてもらったのだ。さすがに、私の都合で1カ月近く開催しないのは問題があるからね。
……主に、他の御令嬢達からの不満、という方向で……。
そういうわけで、前回注文された品を渡し、代金を受け取った。
いつもニコニコ、現金払い。
御令嬢達は、自分でお金を払って買い物をすることなんかないだろうから、これもいい経験になるだろう。みんな、自分でお金を払って買う、という行為を割と楽しんでくれているみたいだし。
ちゃんと自分で買い物ができれば、悪役令嬢婚約破棄追放物語に巻き込まれても何とか生きていけるだろう。
……いや、そんな目に遭ったなら、私が支援して、ヒロインざまぁ展開に持ち込むよ、勿論。みんな大切な、 ソサエティーの仲間(わたしのもちゴマ) 達なんだからね!
「……実は、困ったことがございますの……」
あれ、大切なメンバーに、何やら悩み事が?
「実は、先日の男爵領支援の件と、ミツハ様に戴きました肖像画のせいで、あちこちからたくさんの縁談が参りまして……。
私、まだ結婚などしたくありませんわ! せっかく皆様と楽しい日々が過ごせるようになったというのに……」
あ~……。
「実は、私にも……」
「私もですわ……」
「ミツハ様、何とかしてくださいまし!」
……知らんがな……。
さすがに、他国の貴族家の婚姻について口出しできるような立場じゃない。
もし口出しできる立場だったとしても、絶対に口を出さないけどね。
他人の人生や他の貴族家のことに手出ししたり関わったりするもんか。そんな、脂肪フラグ、いや、死亡フラグ立ちまくりの案件……。
でも、可愛い女の子が14~15歳で政略結婚の駒に、というのも、日本人としては看過しづらいしなぁ……。
あ!
「それでは、皆さん、御両親や兄弟姉妹の方々に、『嫁に行ったら、私の家族はその家の人達になる。つまり、お酒や化粧品、その他諸々のヤマノ子爵領産のものが家族用として購入できるのは、新たな家族の分だけ』と説明されては 如何(いかが) でしょうか?」
「「「「「「それだっっっ!!」」」」」」
うん、ヤマノ子爵領産のものが優先購入できる権利が失われ、お酒も化粧品も手に入らなくなると分かれば、家族の考えも変わるだろう。
そして、数年後に今度は『家族の妨害が酷くて、嫁に行けません。何とかしてくださいまし!』とかいって相談されるわけだ。
……うん、知ってる。