軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

190 奇岩島 2

とにかく、何やかやで、島の件は伯爵様とイリス様の了承を取り付けた。……勿論、ベアトリスちゃんのことも込みで。

なぜベアトリスちゃんのことまでそう簡単に事が運んだか?

勿論それは、伯爵様とイリス様も私と同じことを考えていたからだ。

『ベアトリスちゃんを遠くに手放したくない、変な男に嫁がせて不幸にさせたくない!』って。

入り婿なら、少なくとも、不幸になるのはお婿さんの方であって、ベアトリスちゃんではない。

しかし、跡取りは次男であるテオドール様。ベアトリスちゃんが婿を取るわけにはいかない。

そこに、私のこの話である。

別に、ボーゼス伯爵領は領地経営に困っているわけではない。なので、金回りのいい貴族家と 縁(えにし) を結ぶためにベアトリスちゃんを差し出す必要はない。逆に、爵位は高いが財政難や派閥の力が低下して困っている貴族が、立場を笠に着て、ボーゼス伯爵家を取り込もうとして無理矢理縁談を押し付けてくることが最大の警戒対象だったらしいのだ。

造船業と海軍創設の中心地となり、侯爵への陞爵がほぼ確実視されているボーゼス伯爵家に、どうしても縁を結びたがっている貴族家は多い。上級貴族も、下級貴族も、……そして王族も。

いくら傍系の末端とかであっても、王族からゴリ押しされては、いくら娘思いのボーゼス伯爵であっても断るのは厳しいであろう。

そこで、私が持ち込んだ、この話である。

飛ぶ鳥を落とす勢いのボーゼス伯爵領と、あの雷の姫巫女の領地であるヤマノ子爵領との交易の中心であり、両領地の経済活動の 要(かなめ) 。そして海からの敵に対応するための砲台島を兼ねた要衝を取り仕切る商館を任された、重要人物。勿論、多くの収益を手にすることとなる。

『いやぁ、我が領地の生命線を守っている娘を手放して、他所に出すわけには参りませんなぁ。

娘は婿養子を取って、我がボーゼス領のために働いて貰わねば……』

そう言えば、跡取り息子とかが相手の縁談は断れる。そしてボーゼス家が侯爵に陞爵すれば、いくら相手が多少格上の上級貴族であったとしても、跡取りではない者の嫁として無理に話をねじ込まれることもないだろう。

そして、見所がありそうで、人柄が良く、……そしてベアトリスちゃんが気に入った相手を入り婿として招けば良いのだ。そして、婿となる男性には非常に気の毒なことではあるが、伯爵様とイリス様の眼が届く場所で暮らすことに……。

多分、最初のうちくらいは、イリス様も猫を被っていてくださるだろう。ふはは!

伯爵様が、ドアの向こうで待機しているであろうメイドに向かって大きな声で指示された。

「ベアトリスを呼びなさい!」

そして私達3人は眼を見合わせ、にやりと笑うと、大きく頷いた。

* *

「やる! 絶対やる! その役目、私が貰ったわ!!」

一発で決まった。

『朝刊で注目、夕刊で決心』という、某新聞社のアルバイトニュースも顔負けの、即答であった。

そう、この国も、当然のことながら、あの新大陸のヴァネル王国のように、女性が社会で活躍できる場は非常に限られている。せいぜいが、社交パーティーの場で夫のために夫人同士の人脈を作ったり、情報収集に努めるくらいである。

それを良しとする者はそれでよいが、それでは満足できないタイプの者にとっては、それは些か退屈な日々であろう。

……そして、ベアトリスちゃんは、明らかに後者である。

しかも、この話はかなりの大仕事である上、私からのお願いだ。元々、それ以外の返事があるなどとは思っていなかったよ、うん。

ま、伯爵様からの、『そうすれば、好きな男と結婚できるかもしれんぞ』のひと言も大きかったかもね、うん。恋愛結婚なんて、貴族の娘にとっては、夢のまた夢だ。

そして、あくまでも『かもしれんぞ』であり、断言はしていない、姑息な伯爵様であった。

ま、そりゃそーか。変な男を連れて来られちゃ、さすがに 堪(たま) んないだろうからね。

既に、商会旗のデザインは考えてある。

強く逞しいボーゼス伯爵領を意味する熊と、その肩に乗った、『知恵を貸すから、守ってね!』と言わんばかりの、ヤマノ子爵領を意味する小さなリス。

うん、完璧だ!

そして、言語の関係で、この世界の人達には絶対に解らない、裏の意味。

熊と、リス。

ベアーと、リス。

ベアトリス……。

うるさい! 何も言うな!

山野家の者に、画才とネーミングセンスを求めるな!!

うん、勿論、デザインは孤児院のあの子、コードネーム『謀略少女』に依頼した。

相変わらず、いい仕事をしてくれるぜ……。

* *

伯爵様の許可は取った。

そして漁村を始め、沿岸の者達には念の為に避難を指示し、漁船や海岸近くの動かせるものは退避させてある。……避難指示は、目撃者をなくす、という意味合いもある。

安全のためには、人目のない夜間にこっそり、というわけにはいかない。なので、これは真っ昼間にやる必要があるのだ。夜だと、村人達を避難させるのにも色々と支障があるし、海面状況が確認しづらいからね。

海岸付近に完全に 人気(ひとけ) がないのを見計らって、地球経由で、事前に何度も確認していた『領内の、川の脇の岩場』に連続転移。

「岩塊、ついてこい!」

地面からごっそりと抉られた巨大な岩塊を連れて、事前に水深やら色々な条件を確認済みの、海岸線から約500メートル程離れた海上の、海面すれすれに地球経由で連続転移。そして、出現と同時に岩塊とほぼ同体積の真下の海水を引き連れて、同じく地球経由で、今度は遥か洋上に転移。

そして膨大な体積の海水が、落下し、広がる。

でも、近くに島も大陸もない場所だから、多少波が立っても、大した影響はないだろうと思う。水塊の中にいた魚たちには、大迷惑だったろうけど……。

そして、休む間もなく岩塊落下位置に戻ると、いくら真下の海水を取り除いたとはいえ完全に波の発生を抑えることなど当然できるはずもなく、落下位置から全方位に大波が広がっていた。

その波の部分を連れて、……転移!

再び、先程の洋上に『波を捨てに』いく。

更に、岩塊の落下位置上空に転移して、大きな波がないことを確認して、近くの海岸へ。

……さすがに、疲れたよ……。

いや、転移そのものでは大して疲れてはいないけれど、精神的に疲れたんだ。短時間に『絶対に失敗しちゃ駄目なこと』を連続してやったから、気疲れ、ってやつ。

転移させた岩塊は、敢えて綺麗な形にはしなかった。球形だとか正四面体だとか正六面体だとかにすると、でこぼこな海底に落着した場合、却って安定が悪いんじゃないかと思ったのだ。

なので、わざとでこぼこな底部にして、海底面との『咬み合わせ』をよくしたわけだ。

でも、それだけじゃあ心配なので……。

「もういっちょ、転移!」

再び連続転移を繰り返し、今度は先程岩塊を抉り取った場所の近くで縦横50メートル、深さ2メートルくらいの岩盤を連れて先程の岩塊落下位置上空に転移し、それを落下させた。

そう、岩塊を安定させるため、海底に打ち込むべく、上から叩き付けるわけである。

どごおおぉ~ん!

派手な音を立てて岩盤が砕け散り、その破片を連れて、最初に岩塊を抉り取った場所の隣に転移し、そこに落下させた。

「よし、最後の仕上げだ!」

海上に落下させた岩塊の上に転移。

そして海面上に突き出た岩塊の上部を、海面に平行にすっぱりと切り取って、先程の破片捨て場へ。

「次は、と……」

平面となった岩塊の一箇所に、転移で切れ込みを造る。

そこに、切り取ってきた円柱形の大岩を嵌め込み、その周囲に階段用の切れ込みを造ったり、上部を抉って砲の設置場所を造ったり……。

そう、これは砲台だ。ここに砲を置いて、接近する敵に睨みを利かせるのである。

一応、飾りとして大砲らしいハリボテを置くけれど、本当に使うのは、35ミリ機関砲にする予定。新大陸の各国の艦載砲の射程が1マイルそこそこなのに対して、3マイル近い射程があるのだから、充分だ。

そして何より、少人数で操作できて、発射速度が速く、そして車載型や牽引型とかはコンパクトに纏まっているから使いやすい。口径の大きな砲は、給弾システムとか、色々と大変だし、ウルフファングに購入して貰うにはあまりにも不自然な上、値段が高い。そもそも、それをこっちの人間だけで操作できるとも思えないし。

ま、35ミリ機関砲で充分だ。自走式の対空機関砲が何億円もするのは、装甲車タイプの車体や、ミサイル、重機関銃等のその他の武装、そして対空機関砲を制御するためのレーダーや射撃統制装置とか光学目標指定機とかで構成された射撃管制システムがバカ高いからだ。動きの鈍い大型帆船を狙い撃つのにはそんなものは必要ないから、隊長さんに掘り出し物の中古品を探して貰えば、かなり安く買えるだろう。

……あとは、接近する上陸用の小舟を撃つための銃眼を付けた岩壁を設置。

別に、全周を覆うわけじゃない。全周が切り立った崖になっているので、船着き場と、そこに造るスロープと階段以外の場所から登るのは難しいだろうから、射撃手の身を守るために銃眼とセットで矢弾避けの壁をぽつぽつと作ったに過ぎない。無粋な岩壁で全周を覆うのは美しくないし、敵をこの島に上陸させるつもりもない。

他にも、色々と転移で工事や細工を行った。

そして、最後の仕上げに。

「よし、以前の『戦争』で接収した、敵国の金持ちの邸や倉庫。大半は資材利用のために分解したけれど、こんなこともあろうかと、そのまま残しておいたのがいくつかあるから、あれを使おう!」

建物を造るのに、資材を運ぶところから始めたのでは、完成がいつになるか分からないし、あまりにも大変過ぎる。なので、以前サビーネちゃんとコレットちゃんを誘拐しようとして我がヤマノ子爵領と戦争になった国、あそこから接収した家屋や倉庫を再利用することにしたわけだ。

基礎部分ごと転移させたため、地下部分も周囲の土ごとついているから、まずこっちの岩を少し削って、地面の下になる基礎部分が収まる穴を開けなきゃならない。……勿論、転移で。

そんなの人力でやってたら、いつまでかかることやら。『青の洞門』じゃあるまいし……。

とにかく、そんな調子で、転移能力使いまくりの土木工事がサクサクと進むのであった。