軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

191 奇岩島 3

「できた……」

私の眼の前、いや、 足下(あしもと) にあるのは、陸岸から500メートル程離れた海上にある、直径200メートル程の島である。

島全体が岩であり、島の形状は『概ね円形に近いが、やや 歪(いびつ) 』という自然なものであるが、上面は不自然な程に 平(たい) ら。そして、これまた不自然な程に正確に、島のど真ん中にそびえる、あまりにも綺麗な円柱状の……小山?

いやいや、やはり自然物の名で呼ぶのは、無理があり過ぎる。ここはもう、『塔』とでも呼ぶしかないだろう。そしてその塔に背中をくっつけるようにして建っている、豪華なお屋敷。その近くに建つ、3つの倉庫。

島の周囲は、全周に 亘(わた) って切り立った崖。海面からの高さは、せいぜい10メートルくらいであるが……。

上部に登るには、船着き場からの階段と荷車用のスロープを除けば、かなり苦戦することだろう。

「……よし、完璧の母!」

うん、陸岸から500メートルあれば、陸から攻められることはないだろう。

武装した兵士が500メートル泳げるとはとても思えないし、この世界では、新大陸のマスケット銃の有効射程は45メートルそこそこである。もし銃身内部にライフリングが刻まれ、 椎(しい) の実型の弾丸を用いる、地球で言うところの『ミニエー銃』のようなものが開発されたところで、有効射程は300メートル弱である。……最大射程は900メートル前後であるが、そんな数字には何の意味もない。

大砲であれば陸岸からここまで届くけれど、敵がこんな場所まで大砲を運んで陸側からやってきたという時点で、既にこの国が壊滅しているということだから、その時には、もう脱出するしかないだろう。私の転移か、島の大洋側に準備しておく予定の脱出船で。

あとで、岩をくり抜いて秘密のブンカーを造り、とりあえずそこに小型クルーザーを隠しておこう。ここから隣国までノンストップで爆走できるやつ。

……それくらいは持ち込んでもいいだろう。技術を流出させることのない、一隻限りのアーティファクトだ。

後世の考古学者達よ、ブンカー跡から発見されたオーパーツを見て、苦しむがよい! ふはははははは!

天浮舟(あめのうきふね) か、 虚舟(うつろぶね) か。それとも、ヴィマーナか……。

いや、遺跡が発掘されるくらいの未来なら、とっくに動力船くらい開発されてるか。

よし、中古の船を手に入れて、ベアトリスちゃんに操縦方法を教えなきゃ。

地球で小型船舶の免許を取るには、海上衝突予防法とか色々覚えなきゃならないけれど、この世界なら関係ない。ただ操縦法を身に着けるだけなら、簡単だ。整備は、地球に運んでやって貰えばいい。

しかし、体裁は整ったものの、この屋敷は、あくまでも地球製。岩を削った上に土台ごとすっぽりと嵌めたし、海の側に建っていたやつだから塩害対策もしてあるだろうとは思うけれど、電気やガス、水道等が通っていることを前提とした建物だから、このままじゃお風呂も台所も洗面所も使えない。水のタンクを少し高い位置に置いて水道管に繋いだり、お風呂を何とかしなきゃ。

ベアトリスちゃんが住むというのに、お風呂無しなんか、許せるわけがないよ!

……水、どうしよう。

私がいる間はどうとでもなるけれど、基本的に、私がこの世界からいなくなったり、姿を隠す必要が生じたり、そして確率は低いものの、私が転移能力を失ったりしても大丈夫なようにしておく、というのが、私がヤマノ領に対して行うテコ入れにおいての基本方針だ。なので当然、この島に関することも、その方針でいくことになる。

いちいち船で運ぶ?

平時ならばともかく、戦争になった時、水を外部からの輸送に頼っていれば、あまりにも脆弱だ。

造水器で海水から真水を造る?

多段フラッシュ方式だと石油やガスが必要だし、逆浸透法だと、高圧ポンプを動かすための電力が必要になる。1トンの水を造るのに、3kWhくらい……。

そして、海水から造った水は殺菌処理が必要だし、成分的に不味いためミネラルを添加するとかして味の調整をする必要があるし……。

勿論、明治時代の冒険活劇小説じゃあるまいし、『切り立った岩山のてっぺんに建てられた屋敷の地下に、轟々と流れる地下水の川が……』なんてことがあるはずもない。いくら掘っても、少なくとも埋め立てた岩塊を貫いて、更に深く掘らないと真水が出ることはない。

……多分、掘っても、岩塊を貫いた時点で海水が入ってくるだろうし。

ま、いいか。

とりあえず地球製の水タンクをいくつか設置して、船で補給させよう。

それもまた、雇用創出で、うちの漁村の収入源になるだろう。

勿論、支払いはボーゼス伯爵。造船と海軍景気で、お金には困っていないだろうからね。

あまり大勢が住むわけじゃないし、ベアトリスちゃんも、ずっとここにいるわけじゃない。

それじゃあベアトリスちゃんが寂しい思いをするし、そもそも、ボーゼス伯爵様とイリス様が、そんなの許すわけがない。

当然、日帰り。それも、数日に1回行く程度、かな。天気が悪かったり海が荒れている時は、勿論パス。あくまでもここは、『ボーゼス伯爵領とヤマノ子爵領に跨がった島』という、シンボル的な、口実的なものであり、別に全ての実務をここでやらなきゃならないというわけじゃない。ちゃんとうちの領地邸の中にも、ベアトリスちゃんのための執務室を用意してあげるよ。

そして、じわじわとベアトリスちゃんをヤマノ子爵家に取り込むのだ。ふはは!

何でもかんでも、私がひとりでやってしまうのは良くない。あとは、ボーゼス伯爵様に投げよう。

ずっと船で行き来するのか、そのうち浮き桟橋、いや、浮き橋で陸地と繋げるのかとか、色々と考えることはあるけれど、とりあえず、それはまた今度でいいや。

よし、今日はこの辺で勘弁しといたろか!

転移!

* *

翌日、ランディさんを連れて、岩塊の切り出し跡へ。その隣には、岩盤の切り出し跡もある。

目的は勿論、せっかく深い穴があるのだから、有望な鉱石がないか調査することである。ランディさんは金属加工の専門家だから、当然、ある程度の鉱物は見分けられるはず。

……というか、他に、ランディさん以上の人材がいないのだ、この領には。

そういうわけで、調べて貰ったんだけど……。

結果、めぼしい鉱石は無し。

まぁ、適当に掘って、一発で価値のある鉱脈を見つけられれば、鉱山技師は苦労せんわな。

というわけで、裏技発動!

そう、ここの技術レベルではまだ価値が判っていない資源があるかもしれないから、その道の専門家をお呼びするのである!

……そして、日本での私のブログ、『みんな助けて! 子爵領経営記』の常連さん、ヤマ王さんに連絡を取って、ちょっと来て貰った。連絡したら、ふたつ返事で引き受けてくれたよ。

今回は、具体的な仕事の依頼なので、ちゃんとバイト代を払った。さすがに、休日を潰して丸々一日働かせて、昼食と夕食を食べさせるだけ、というのでは、申し訳なさすぎる。

報酬は、金貨とかの方が喜ばれるような気はしたけれど、さすがにそれはヤバ過ぎる。主に、ブログ主としての私の正体が他国のエージェント達にバレる、という方面において。

そして、調査結果は……。

成果、なし。

ガックリだよ、ホント!

まぁ、仕方ない。切り替えて行こう!!

ヤマ王さんには、日本円でバイト代を払った。2万5000円。

その金額にしたのは、アレだ。……ここの金貨をドルを経由して日本円に換金すると、大体それくらいの金額になるから。ま、イメージだけでも、『金貨1枚分の報酬』ということで……。

そしてその後、川から水路を引いて、岩塊を切り出した跡地を大きな池にすることにした。池から川までの水路も引いて、池を経由して川に水が戻るようにしたので、池の水が腐るようなこともないだろう。

その内、水草が生えて魚が住み着き、いい釣り場になるかも。

勿論、主目的は、農地への 灌(かん) 漑(がい) 用水だ。川の水量が減っても、これだけのストックがあれば、ある程度は保つだろう。これを考えて、わざわざ川の近くで岩塊を切り出したのだ。

……一応、考えているんだよ、私も!

そして、岩盤を切り出した跡地、縦横50メートル、深さ2メートルのところには、某所から砂を転送した。深さ、1メートルくらい。

上まで全部砂を入れると、風やら何やらで周囲に散らばるといけないからね。

……そう、超巨大砂場の誕生である!

子供と犬と猫が喜びそうだな。

犬と猫は、トイレとして使用しないように!!

最初はプールにしようかと思ってこういう形に切り出したけれど、プールだと、水質や水温の管理、事故防止とか、色々と面倒事が多すぎる。塩素剤もないここで、どうやって水質を維持すればいいのやら。

病気の発生源になっても困るし、事故で子供に死なれでもしたら、 堪(たま) らないよ。

なので、プール案は取りやめた。

そして代案として採用したのが、この、超巨大砂場である。

さすがに、1メートルの深さの砂場で死ぬ者はいまい。

プールだと、1メートルどころか、水深30センチの場所ですら人間は溺れ死ぬからねぇ。

よし、こっちは一段落。ちょっくら新大陸の様子でも確認してくるか。

そろそろ動きがある頃だし……。