軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

189 奇岩島 1

「だ、だだだ、大丈夫です! じっくりと準備して魔法陣を敷き、星が揃うのを待って、魔石を用意し、地脈から魔力を吸い上げて、エロイムエッサイム、です! 自分の生命力ではなく、事前準備により世界の魔力を取り込むことによって発動する、身体に優しい秘術です! 勿論、先にダイアキュートも詠唱します!!」

私、全力での必死の説得!

そして、何とか話を聞いて貰えそうな状態に持ち込んだ!

頑張ったよ、私!!

「……というわけで、事前に充分な準備をして、それなりにお金を掛けて魔石や呪符、その他の神具を集めて星が揃う日を選べば、一日ベッドで休めば完全に回復する程度で、後遺症や寿命とかに関係するような悪影響はありませんので……」

私の説明により、まだ胡散臭そうな顔をしてはいるものの、何とか落ち着いてくれた様子の伯爵様と、イリス様。

「……本当でしょうね……」

「……本当なのだろうな……」

うわぁ、信用ないなぁ、私……、って、まぁ、仕方ないか。

国や領民のためならば命が磨り減るのも惜しまない、って思われちゃってるからなぁ、私。

本当は、そんなに殊勝な子じゃないよ、私は。どちらかといえば、『私、残酷ですわよ?』とか、『……ミツハだ。山野をやっておる』とかいうタイプだからね、私は。

目的のためなら、手段を選ばない。幼女を守るためなら、盗賊の命は切り捨てる。

……あ、それは普通のことであり、誰でもそうするか。当たり前だよね!

まぁ、とにかく、ここでは猫を被って……。

「はい、勿論です! 万全の準備を整えて、一挙に! そして、沿岸に被害を出さないよう、細心の注意を払って!!」

うん、巨大な質量を陸岸近くの海中に投下するわけだから、大きな波が押し寄せるのは間違いないだろう。いくら浅い部分を選ぶとはいえ、全く波が立たないというわけにはいかない。

まぁ、細かいことは、ちゃんと対策して回避するけどね。

そして、伯爵様達には、もうひとつ、お願いしなければならないことがある。

「それで、お願いなのですが、そこに設立する商会の商会主、ベアトリスちゃんにお願いしたいのですが……」

「え?」

「ええ?」

「「えええええ~~っ!!」」

眼をまん丸に開いて驚きの声で叫ぶ、伯爵様とイリス様。

……うん、そりゃ、驚くか……。

私がベアトリスちゃんにこの役目をお願いしようと思ったのには、勿論、理由がある。

……それも、たくさんの理由が。

まず、私は色々と忙しくて、とても手が回らない。

貴族や商人に絡まれないよう、身分が高く、他の者達が強い態度に出にくく、賄賂や汚い話やハニートラップ等を仕掛け難い者であること。

聡明であること。

信用できて、決して私とボーゼス伯爵様を裏切らない者であること。

……そして、『ベアトリスちゃんであること』。

以上だ。

いや、最後の理由だけで充分だよね。

長男のアレクシス様は私の領地の隣で子爵様になったし、次男のテオドール様はここ、ボーゼス伯爵家を継ぐことになるだろうから、家族みんなが近くで暮らせる。

……でも、ベアトリスちゃんは?

貴族の女性なのだから、結婚年齢は低い。早ければ、社交界へデビューしてすぐに結婚話が舞い込んでもおかしくない。そして、ボーゼス伯爵領は、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで急激に発展中であり、そろそろ侯爵に 陞爵(しょうしゃく) するのではないかと取り沙汰されている。

ベアトリスちゃんはそこの娘であり、あの帝国軍と古竜達相手の『王都絶対防衛戦』において、自らの身を盾として私と、総指揮官であるアイブリンガー侯爵を守り、勝利の 礎(いしずえ) となった、救国の英雄にして新たな貴族家の開祖となった、今、王国で一番イケてる男と評判の、アレクシス様の妹である。

……うん、モテモテなんだよね、アレクシス様……。

女の子達にモテたいという夢が叶って良かったね、アレクシス様……。

そしてトドメに、『雷の姫巫女』たる私、ヤマノ女子爵のお友達だ。

……そして、可愛くて素直で聡明で、素敵な女の子で、胸が大きい。

うん、 成人のお披露目(デビュタントボール) で縁談殺到、間違いなしだ。

となると、早ければあと2~3年でどこかへ 嫁(とつ) いじゃう。日本の基準じゃ、まだ子供なのに……。

そしてそこがいい嫁ぎ先だったらいいけれど、身分や立場でゴリ押ししてきた、いけ好かない馬鹿貴族だったら? 王族の端っこに連なる中年のエロオヤジだったら? 猫を被っていい人を演じていただけの、腹黒貴族だったら?

伯爵様は政略結婚で娘を売るような人じゃないけれど、貴族として、そして領主として、お家や領地、領民達は何があったとしても守らなきゃならないだろう。……たとえ、そのために娘が不幸になると分かっていても。

それが貴族家当主、そして領主というものだ。

駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だっっ!!

そんなの、許容できるわけがない!

……うん、だから、私や伯爵様、そしてイリス様の眼が届く場所で暮らして貰うのだ!

そのために、ベアトリスちゃんに重要な役目を与え、ベアトリスちゃんには、 婿(むこ) を取って貰う! 少なくとも、イリス様の眼が届く場所で、ベアトリスちゃんを不幸にする……、いや、『不幸にすることができる男』など、存在するはずがない。

ふは。

ふはははははは!!

そして、ベアトリスちゃんもサビーネちゃんもコレットちゃんもみっちゃん2号も、私より先に結婚させたりするものか!

ふひ。

ふひひひひひひ!!

「……そろそろ終わったかな?」

「え? 何がですか?」

「妄想タイム」

……うるさいわ!

「……と、まぁ、そういうわけで、是非ベアトリスちゃんにその役目を、と……」

勿論、伯爵様とイリス様に説明したのは、表向きの理由だけである。真の理由は、墓まで持っていく。……当分、入る気はないけどね。

「……また、何を言い出すかと思えば……」

「ミツハ、あなたねぇ……」

あ、伯爵様もイリス様も、思い切り『呆れた!』って顔をしてる。

「「ベアトリスを手元に残しておきたいだけ?」」

さすが夫婦、息がピッタリ!

……そして、完全にバレテーラ!

「まぁ、ミツハはベアトリス以外には友達がいなさそうだから……」

えええええっっ!

ボーゼス伯爵様が、とんでもない暴言を!!

「いますよっ! コレットちゃんに、サビーネちゃんに……」

あれ? それだけ?

「それだけか? そしてコレットはミツハの使用人だし、サビーネ殿下は王族だろう。どちらも普通の『友達』とは言えぬだろう?」

「うっ……」

コレットちゃんは、才能があるから家臣候補に、とか言っちゃうと伯爵様が移籍に難色を示すかもしれないと思い、『命の恩人だから、使用人として雇いたい』と言って引き抜いたんだよねぇ。

オーク狩りの時は、『久し振りに村に戻って御両親に会えるから』ということで同行させた、と説明してある。だから、伯爵様は私とコレットちゃんは主従関係であり対等な友人同士ではない、と言っているわけだ。……うう、反論できない……。

サビーネちゃんに至っては、新興の新米子爵風情が友達呼ばわりをすれば不敬罪になりかねない。

みっちゃん2号のことは話せないし、勿論、1号なんか論外だ。ヤマノ家メイド少女隊も『使用人だろう』と言われて終わる。

孤児院の……、駄目だ、伯爵様に友人とは認めて貰えそうにない!

「…………ごめんなさい!」

「なぜ謝るのだ?」

あ、そうか。

ここは、落ち込んで 頽(くずお) れる場面か。

でも、伯爵様に認められようが認められまいが、私にはちゃんとお友達がいるのだから、落ち込む必要なんか欠片もないんだよ、うん!

「……なぜ偉そうにドヤ顔になるのだ?」

……うるさいわ!