軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

175 決 裂

「こんにちは~!」

「おお、嬢ちゃん、無事だったか!」

そう言って迎えてくれたのは、お馴染み、お隣の警備隊詰所のおじさん達。

こういう世界だから、長旅に出たり、長期間に亘って姿を見せなかった場合、身を案じるのは当然のことらしい。盗賊、怪我、病気。人が簡単に死ぬ世界だからね。

「例によって、色々な連中が訪ねて来てたぞ。貴族の使い、商人、雇ってくれという執事やメイド候補達、その他諸々……。

雇用希望の連中、ありゃ、新人じゃなくて、どこかで働いていた連中だな。それも、かなりのベテランだ。……嬢ちゃんなら、分かるよな?」

うん、どこかに雇われている者が、スパイとして差し向けられた、ってことか。

「間諜なら、間に合ってるよ」

「ははは……」

そして取り出す、差し入れ。

「今回は、旅のお土産だから、ちょっと豪華だよ」

うん、1カ月間、それとなくうちの店を見守ってくれていたんだから、警備料としては安いもんだ。

ウイスキー、ブランデー、饅頭、アーモンドチョコ、そしてクッキー。

ちなみに、クッキーは私の手作りだ。たまには作らないと、腕が鈍って、女子力が低下しちゃうからね。身体が貧弱な分、ここらでカバーしないと……、って、うるさいわっっ!!

「「おおおおお!!」」

「ちゃんと、あとの4人と分けて下さいよ!」

うん、あとの4人は巡回中らしく、今いるのは、ふたりだけ。

まぁ、余計なことを言わなくても、自分達だけで独占するような人達じゃないのは分かっているけど、ま、軽いフレンドリートーク、ってやつだ。

「……で、その子は?」

うん、コレットちゃんだ。

……脅しに屈したんだよ!!

あれは卑怯だよ、コレットちゃん……。

「妹だよ。コレットっていうの。私を追いかけて来ちゃって……」

「コレットです、ドゾ、ヨロシク……」

「お、おお、よろしくな、嬢ちゃん!」

警備隊のおじさんは、感心したような顔。

そりゃそうだ。コレットちゃんの喋り方から、コレットちゃんの母国語はここの言葉じゃないのは丸分かり。それが、姉を追いかけるためにごく短期間のうちに他国の言葉をここまで習得したというのは、10歳そこそこの子供、それも贅沢に我が儘放題に育ったであろう上流階級の少女にとって、どれだけの努力を必要としたことか……。

まともな教材も、音感学習用のDVDもない、この世界でのそれは、まさに驚嘆に値することであろう。おじさんが感心するのは、当たり前だ。

事実、日本語や英語の学習にはアニメや語学学習用のDVDとかを使ったけれど、ここの言葉の学習には、そんなものはなかった。私が帰化した船員さん達のために作った簡単な辞書だけで、あとは船員さん達と互いに言葉を教え合って学んだ、完全な独学だ。しかも、日本語と英語を学ぶのと併行して……。

その、あまりの執念が怖いよ……。

でも、それって、私と一緒にいたい、私を手伝い、助けたい、っていうコレットちゃんの想いが成したことなんだよねぇ。コレットちゃん、そこまで私のことを……。

「ミツハ! ミツハってば!」

あ、イカンイカン、つい感動に浸って、トリップしてた……。

とにかく、今ではコレットちゃんも行儀作法を身に着け、ちょっと高級な服も着慣れ、田舎の村娘ではなく、大都市の商家の娘くらいには見えるようになっている。なので、ちょっとお転婆な下級貴族の娘とか、お忍びでわざと少し粗野に振る舞っている上級貴族家の三女とかならば、通らなくもないだろう。

なので、ここでは私達は姉妹だということにした。腹違いの兄弟姉妹など、貴族の間では当たり前だ。特に私は外見的にも、遠国から政略結婚で嫁いだ第3妃あたりの子供とか、愛人の子供とか思われている可能性が高いしね。

そもそも、ここではコレットちゃんとはマブダチモードのままでいたいからね。領主・家臣モードは、それがどうしても必要な時だけで充分だ。

「じゃあ、引き続き、よろしくお願いしますね!」

「おぅ、こっちこそ、よろしくな!」

よし、これで警備隊詰所との顔繋ぎはOK!

コレットちゃんのことも、あとの4人にちゃんと伝えてくれるだろう。

さて、お次は、と……。

「たのも~う!」

「……暫し、お待ちを……」

うむ、勝手知ったる、みっちゃんち。……新大陸の方ね。

門番のお兄さんも私の顔を覚えてくれたらしく、今更用件を聞かれることもない。

うん、普通ならば 何時(いつ) のアポを取りたいのかを確認するところなんだろうけど、直接侯爵様に取り次いでくれるんだろうな、多分。

よしよし、大分、慣れてきたようだな……。

「ミツハ、普通の人に、ミツハのやり方に慣れさせたりしちゃダメだよ!」

……そう?

「どうぞ、侯爵様がお会いになります」

そして、すぐに戻ってきた門番のお兄さんに案内されて、応接の間に。

「どこで、何をしておった!!」

「ひえっ!」

いきなり、怒鳴りつけられたよ。

「いったい、何を怒って……」

「これが、怒らずにいられるかっ!」

侯爵様、大激怒!

いや、何でやねん……。

「なぜ、1カ月もの間、何の連絡もなく行方をくらませた!

そりゃ、あんなことがあったのだから、しばらくパーティーに出ないというのは分かる。しかし、あんな形で姿を消した後、何の連絡もなく1カ月、というのは、どういうことだ!

自宅である物産店、レフィリア貿易、取引銀行、その他あらゆるところへ毎日使いを出して調べて廻っても、何の手掛かりもないこの1カ月、儂らが、いったいどれだけ心配したと……」

あ~……。

まぁ、確かに、心配掛けたのは悪かった。でも……。

「その原因は、『ミッチェル侯爵様に勧められて出席したパーティーで、騙されて陥れられておかしな連中に売られそうになったせい』なんですけど、その辺はどうなんですか、侯爵様?」

「うっ……」

「私があの連中に受けた仕打ちも、それからずっと避けているということも御存じのはずですよね?

なのに、あの時、庇って下さる素振りもありませんでしたよね?」

「ううっ……」

よし、困ってる困ってる。

小娘だと思って、怒鳴れば自分が有利になる、とか思って貰っちゃ困るよ。

それに、いくら侯爵様と子爵風情とはいっても、国が違うんだから、言いなりになる必要なんかない。爵位が上であれば他国の貴族にも好き勝手に命令できる、なんて馬鹿な話はないよ。

ボーゼス伯爵様にも何度か怒られたけど、あれは、私を心配して『叱ってくれた』んだ。自分の利害関係を気にして、腹立ち紛れに怒鳴りつけたミッチェル侯爵様とは違う。

さっきの、『どれだけ心配したと』というのは、私の心配じゃなくて、私がいなくなると自分達が利益を得られなくなって困る、という心配ってことだ。

侯爵様の紹介で、侯爵様に連れられて行ったパーティーであんな目に遭わされて、それでも社交界復帰の挨拶にと、一番に報告に来たというのに、会って第一声が、謝罪の言葉ではなく、腹立ち紛れの怒鳴り声。

ないわ~。

それは、ちょっと、ないわ~……。

そう思って、罪悪感の欠片もない眼で侯爵様を睨み付けてやった。

「…………」

まさか私がそんな態度に出るとは思わなかったらしく、驚いたような顔で、少し慌てているような侯爵様。

ま、最初に怒鳴りつけて、この後の会話の主導権を握ろうとでもしたのかな。何か、自分達に都合の良い条件でも押し付けようとして……。

でも、そういうのは、間に合ってる。

侯爵様の横で、蒼い顔をして固まっているみっちゃんには申し訳ないけど、私は、Win-Winの関係で、互いにメリットのある協力者として侯爵様とお付き合いしているつもりだったんだ。

それを、自分がやらかしたことを謝りもせず、一方的に怒鳴りつけてマウントを取り、自分に有利なようにしようとするなら、もう、用はないよ。

「……帰ります」

そう言って、席に着くこともなく背を向けた。