軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

176 混 乱 1

「……ま、待て! 何を勝手なことを……」

一瞬反応が遅れた後、焦ったように侯爵様が声を掛けてきた。

「陛下が謁見を、との仰せだ、その件についての話を……」

ははぁん、それが理由か。レフィリアの方だけじゃなく、こっち側にも王宮からの根回しが来たわけか……。

でも、どうしてその程度のことで、こんな高圧的な態度を? 普通に伝えればいいものを、マウントを取って私が断れないように追い込もうとした理由は何だ?

こりゃ、何か裏がありそうだなぁ……。

ならば、返事はひとつ!

「お断りします!」

「……え?」

立ち止まり、振り向いてそう答えると、侯爵様はぽかんとした顔をしていた。

ま、普通は、即答で断られるとは思わないか。

「だって、私、別にここの王様の家臣じゃないですから、お誘いならばともかく、命令を聞く必要はありませんよね。

それに、私は『今の身分』で他国の王にお会いして、『今の立場の私』に対して色々と要求やら命令やらをされると、困ったことになりますので……」

「あ……」

私の言葉に、何やら思い当たることがあるらしい侯爵様。

うん、今までずっと、そう思えるように言葉の端々に色々とヒントを仕込んでいたからねぇ。

そう、今の私はただの下級貴族の身分を名乗っており、それはそれでちゃんと爵位を持っているから嘘ではないけれど、実は他の身分、つまり『王族の一員』としての身分と立場も持っている、というように『受け取れなくもない』という、微妙な言い回しをしていたんだよね。

だから、ここの国王に、『ただの下級貴族に対するように、一方的な要望や高圧的な態度での命令、ゴリ押し等をされて、他国の王族がそれをハイハイと受け入れるわけにはいかない。なので、今名乗っている身分のままで国王に謁見することはできない』と思わせたわけだ。

そして私は、何ひとつとして嘘は吐いていない。正直に本当のことを言っているのに、それを誤解するのは、向こうの勝手であり、向こうの責任だ。

「…………」

そして、あまりにも真っ当な私の説明に、返す言葉が浮かばないらしく絶句している侯爵様。

よし、ここで、トドメだ!

「もし無理を言われるようならば、他の、道理の分かる派閥の方にお世話になるか、貿易の拠点を他国に移そうかと思います」

「なっ!」

既に充分顔色が悪くなっていた侯爵様、もはや顔面蒼白である。

……うん、自分が 下手(ヘタ) 打って私を派閥から追い出す形になったり、他国へ移動する原因となったりすれば、大事だろうからねぇ。

「では、これにて失礼を」

侯爵様にそう言った後、泣きそうな顔のまま黙って見ていたみっちゃんに向かって、にっこりと微笑んで、ひと言。

「じゃあ、またね、みっちゃん!」

うん、これは、侯爵様とは 仲違(なかたが) いしても、みっちゃんとはお友達のままだよ、という、私の意思表示だ。

だって、侯爵様の娘だから、みっちゃんとお友達になったわけじゃない。

逆だ、逆!

爵位なんか関係ない。私がお友達になったのは、あの時、ネタが滑って困っていた私に厚意で手を差し伸べてくれた、誇り高きツンデレの、優しい少女だ。侯爵様の方が、『たまたま、私のお友達の父親だった』というに過ぎない。

そう、侯爵様が、娘のツンデレ……じゃない、『娘の 伝手(ツテ) で、私と知り合いになれた』のであって、決して、その逆じゃない。

そして、頭のいいみっちゃんは、すぐに私の意図を察して、ぎこちない笑みを浮かべてくれた。右手首が、腰の辺りで小さく振られている。……いわゆる、『ごきげんよう』というやつだ。

私も、同じように、腰の辺りで小さく手を振った。

よし、離脱!

* *

「あああああ、やってしまった! やってしまったああああぁ!!」

ミツハが完全に屋敷から出た頃、ミッチェル侯爵が頭を抱えて叫んでいた。

「だって、仕方ないだろう! 他国の、年端も行かぬ少女に対する対応など、したことがないのだぞ! そして、今まで侯爵と子爵としての立場で普通に話していたではないか、時々ぞんざいな口調になる時はあったが、一応は敬語を使うようにしておったようであるし……。

それが、どうして急に、あんなに態度を硬化させたのだ……」

娘のミシュリーヌは、最初は侯爵とミツハが話している時に同席していなかった。侯爵が、ミツハを責めて優位に立とうとしていたため、それを娘に見せたくなかったのである。

しかし、ミツハが社交界でも物産店でも全く姿を見せなくなったということを聞き及んでいたミシュリーヌは、ミツハが来訪したと聞いてすぐに応接の間へとやってきたため、話の大半は聞いていた。貴族家の当主同士としての話であったため、口を挟むことはなかったが……。

だが、今現在は、ミツハに見限られかけている父親より、『お友達』のままである自分の方が、ミツハに対する影響力が遥かに大きい。なので、ずけずけと、遠慮のない言葉を父親に対して叩き付けた。

「……馬鹿なのですか、お父様は……。おかしなことを企むから怒らせたに決まっているでしょう。

ミツハは、ああ見えて、結構頭が廻るのですよ。伊達に自国の今後の政策を左右する情報収集員兼 尖兵(せんぺい) として派遣されているわけではないでしょう。

おそらく、政略結婚用の姉姫様達とは別の、『実用品としての、 懐刀(ふところがたな) 』として育てられたのでしょう、側妃か愛人の子が……。

但し、道具としてではなく、愛情たっぷりに。

お父様、今までミツハと話していて、それくらいのことにお気付きにならなかったのですか?」

愕然。

ミッチェル侯爵は、愕然として固まっていた。

しかしそれは、娘に指摘されたミツハについての考察のためではない。

『馬鹿なのですか』と言われた。愛する娘、ミシュリーヌに……。

今まで、侯爵である自分を尊敬し、屋敷にいる時はいつも自分のあとをついて廻っていた、あの可愛いミシュリーヌが、ば、『馬鹿なのですか』と……。

それはまるで、世界が崩壊したかのような衝撃であった。

そして、娘にとっての一番が、家族である自分ではなく、他人である『友人』へと変わった瞬間。

それはすなわち、娘が『籠の鳥』から世界へと飛び立った瞬間である。

めでたい。

めでたいはずであるが、無性に悲しくて、湧き上がる悔しさを抑えきれないミッチェル侯爵であった……。

「……ところで、さっきミツハと一緒にいた女の子は、誰ですか?」

「はて?」

コレットちゃんの、ミッチェル侯爵家への正式なお披露目は、もうしばらく先になりそうであった……。

* *

「ミツハ、さっきの人、ミツハのこの国での後見役じゃなかったの? あれで良かったの?」

コレットちゃんが心配そうにそう聞いてきたけど、別に構わない。

「協定を結んでるわけじゃないし、恩義があるわけでもないし……。逆に、お友達のお父さんだからというだけの理由で、色々と美味しいとこを任せてあげてただけだよ。

それを、勘違いして調子に乗られたんじゃ、切っても構わないでしょ」

「何だ、その程度の相手だったんだ。うちの領主様とは、立場が全然違うんだ……」

え?

「あ、ごめん、ボーゼス伯爵様のことだよ!」

何だ。

今のコレットちゃんの領主様は、この私なんだからね! 浮気は許さないよ!

ま、とにかく、侯爵様には、『もし無理を言われるようならば、他の、道理の分かる派閥の方にお世話になるか、貿易の拠点を他国に移そうかと思います』と言っただけだ。

『もし(これ以上)無理を言われるようならば』であり、そうなれば、『移そうかと思います』というだけのことであって、何も、今すぐにそうすると言ったわけでも、既にアウトだと言ったわけでもない。考え直して、おかしなゴリ押しとかをやめてくれるなら、今のままでも構わないんだ。

私も、別に、好き好んでみっちゃんのお父さんと仲違いをしたいわけじゃない。

……でも、結構気の良い、そして強力な派閥を持つ貴族や大商人の知り合いは、既に何人かできている。選択権があるのは、私の方だ。

そして、本当に、近隣他国での活動も視野に入れている。

この国から周辺国に輸出するより、各国に拠点を築き、それぞれの国でレフィリア貿易のような商会をでっち上げさせて、その実質的な支配権を握る。……所有権や法的権利とかじゃなくて、『言うことを聞かないと、取引を停止して、他の商会に卸す』という、絶対的な生殺与奪の権利を握ることによって。

そう、レフィリア貿易の場合と同じく、どんな法的責任も金銭的責任も負わず、いつでも全ての資産と共に正々堂々とおさらばできる態勢での、やりたい放題。

いざという時には、他国の商会と示し合わせての暗躍し放題。

うん、これだよ、これ!

目指せ、陰の経済国家、悪の大帝国!

組織名、『ファウンデーション』にしたろか!

ネクライム、ゴルゴム、邪魔大王国、百鬼帝国、ショッカー、パンサークロー、ブラック団。

うむうむ、夢が膨らむのぅ……。