作品タイトル不明
164 経営会議
売れた彫刻その他は、勿論、日本の『彫刻 コレット』から正規の手続きで航空便で送ったやつである。これで、商品の流れの実績ができた。あとは、『Gold coin』が不良在庫を抱えようが、仕入れ値より安い価格で売ろうが、問題ない。『販売実績ができた』ということが大事なのである。
これで、商売の説明をする時に、嘘ではなく、本当の話ができる。……意図的に喋らないことがあっても、それは『嘘』じゃないからね。
そして、私の作品もちゃんと売れるという実績ががが!
「よしよし。よしよしよしよしよし!」
にやにやと笑いながら、満足そうに頷いている私を見て、ルディナとシルアも、何だか喜んでくれているようだ。……判りづらい表情だけど。
私の日本でのお店(自宅を所在地にした、名ばかりの自営業)、『彫刻 コレット』からこの店が買った金額、つまり仕入れ値の10分の1の価格だけど、向こうの世界での相場くらいの値付けだから、製作者のふたりも満足してくれるだろう。
ま、私がふたりから買った価格と、ここでの売り値とは全く関係ないんだけど。
よし、金銭的な経営状態の次は、お店の営業状態の確認だ。
「営業については、どう? 困ったことや改善案とかはない? 問題のあるお客さんがいて困っているとか……」
「「…………」」
おや?
何かあるのかな……。
「特にありません」
ルディナが、ふたりを代表してそう答えたけれど……。
いやいや。
いやいやいやいやいや!
絶対、何かあったでしょ、さっきの『間』と態度から。
「ちゃんと言う!」
私が本気で睨むと、一瞬、やべ、というような顔をして、ルディナが話してくれた。
「ええと、女性ふたりなので甘く見たのか、食事に異物がはいっていたとかの言い掛かりをつけて『慰謝料を寄越せ』とか言ってくるお客さんが、何人かいまして……。
何か、綺麗に料理を平らげたあとの、何も残っていないお皿の上に、料理の色が付いてもいない虫が原形のままちょこんと載っていたりしまして……」
「ああ、そういうのは『お客様』じゃないから、排除していいよ。二度と来て貰わなくて構わない……というか、来ない方がいいからね。筋の悪い者が出入りしていたら、普通のお客さんが減っちゃうから。
で、しょっちゅう来るのかな、そいつら。私が排除しようか? 一応、警察には顔が利くんだよね、私……」
ルディナとシルアを護るためなら、コネでも何でも惜しみなく使うよ。コネとお金は、使ってナンボ、だからね。使うべき時に使わねば、意味がない。
アレだ、『今使わずに、いつ使うというのだ!』ってやつだ。
「いえ、それはもう終わりました。シルアがフォーク……ランド諸島で、いえその、フォークダンスで……」
……うん、全てを理解したよ。
あの穴の謎も、何もかも……。
「うん、フォークダンスを踊って、納得して戴いた、ということかな?」
こくこくこく!
必死で頷くふたり。
そんなわけ、あるか~~い!
まぁいいや。深く考えるのはやめよう。
多分、フォークがダンスを踊ったのだろう。カウンターテーブルの上とか、宙を舞って扉の付近へ、とか。うん、フォークダンスで納得して貰えたのも、無理はないな。
よし、この件は、ここまで!
「……で、結構繁盛してるみたいなんだけど、何か理由があるの?」
ストレートにそう聞いた私に、ふたりの答えは。
「……料理が美味しいから?」
「……ウェイトレスが可愛いから?」
うん、原因は不明か。
「その他、事故や事件、高価な備品の損失とかは……」
「販売用展示美術品の窃盗未遂2件、お客さんのバッグの窃盗未遂1件、みかじめ料の要求1件がありましたが、全て犯人は捕らえて警察に引き渡しました。フォーク…… 伝承民俗学(フォークロア) 的な方法で……」
はいはい、扉のところの穴ね……。
何だか、意地でもフォークのことは誤魔化すつもりらしいけど、別に気にしないのにな、そんなの……。
ま、普通の女の子ならドン引きかも。だから、私が怖がるとでも思って、心配してるのかな。
大体、私はこの国にいる時には 腋(わき) にワルサーPPSを着けているのに、投げナイフや投げフォークくらいじゃ驚かないよ。
あ、勿論、銃の携帯許可は取ってる。正式に申請したわけじゃないけど、頼んだらすぐにくれたよ、政府の人が、直々に。だから、日本以外の国にいる時には、銃を身に着けたままの場合が多い。
勿論、携帯許可を貰っていない国では、ちゃんと法律内に収まる装備しか身に着けていないよ。スタンガンとか、刃渡りが規則内の長さしかないナイフとかね。
しかし、どうしてフォークなんだろう。命中精度や攻撃力から考えれば、同じ食器でもナイフの方が……、って、そうか、ナイフだと、いかにも『殺傷武器』って感じがするから、他のお客さん達の心理的なことを考えて、わざとフォークを使ってるのか! うむむ、やるな、シルア!
「……しかし、この街の警官は、大半が ルーサス一家(はんざいそしき) の者には手出ししないはずなんですけど、その名を名乗ったチンピラ達も普通に捕縛していましたし、その日のうちに、割った食器の弁償金が支払われました。不思議です……」
そう言って、首を 傾(かし) げるルディナ。
うん、まぁ、地元を仕切る犯罪組織よりも、国の情報部や特殊部隊の方がヤバいと思ったんだろうな、警官や、その上司達は。
多分、そのルーサス一家とやらにも、『あそこには手を出すな』という指示がいったのだろう。でないと、そんなに早く、いきなり賠償金が支払われたりするはずがない。
ま、これでルディナとシルアの安全性がかなり増したと考えていいだろう。うむうむ。
……待てよ?
この店にお客さんが多い理由って、もしかして、『安全だから』か?
窃盗事件も、チンピラが騒ぎを起こしても、犯罪組織の一員が因縁を付けてきても、店員が全てを排除し、客の安全を守ってくれる。そして、なぜかここで起きた事件に関しては、犯罪組織の圧力や脅し、賄賂等で骨抜きのはずの警察が、まともに機能する。
ここは、水と安全はただ同然、というのが当たり前の日本じゃないんだ。それは、暴力や犯罪から身を護る 術(すべ) のない普通の人々にとって、心から安心して過ごせる場所なのではないだろうか。
そして……。
ちらりと、ふたりの顔を見た。
決して凄い美少女というわけではないが、13歳という年相応の可愛らしさとひたむきさを備えた、天涯孤独で真面目な少女、ルディナ。
無表情で何を考えているのか読めないけれど、それなりに誠意と真面目さがあるような気がする、17歳のシルア。
漏れ聞こえたお客さんの話によると、ごく 稀(まれ) に、本当にごくごく稀に、作り物ではない本当の笑みを漏らすらしい。……その道の専門家にしか判別できないらしいけど。
って、『その道の専門家』って、誰やねん!!
……ま、特に問題はなさそう、ってことだ。
私の、資金洗浄場所兼 緊急避難所(シェルター) 、ギャラリーカフェ『Gold coin』。
再び、しばらく放置しておいても大丈夫だろう。
もし何かあれば、この国の情報部から、隊長さんのところへ連絡が来るだろうし。
よし、あとは任せたよ、ルディナとシルア!
……あ、歩合給の分、給与を振り込まなくちゃ。
固定給の部分は自動振り込みにしてるけど、さすがに、歩合給の分は自動にはできないよねぇ。
盗人(ぬすっと) 捕縛手当とかも付けた方がいいのかな?
ま、大きな問題はなさそうで、何よりだ。
「じゃ、他に要望事項とかは……」
「あの……」
おや、シルアが、何やら言いたいらしい。
「何かな?」
「あの、私もここに住み込みにさせて貰えないでしょうか……」
おお、そういえば、家賃光熱費全て 無料(ただ) のルディナと、それらが全て自費のシルアとは、実質的な手取り額にかなりの差が出ちゃってるんだった。いや、それでも、このあたりの相場と較べれば、かなりの好条件らしいけど。
それ、是正しなきゃ、って思ってたんだよなぁ。
2階の部屋も空いてるし、夜警代わりなら、ひとりよりふたりの方がいい。よく考えたら、若い女の子がひとりで泊まり込んでるお店とか、おかしなのに眼を付けられたら危ないじゃん!
その点、ふたりで、しかも片方が護身術ができるシルアなら、安全性が増すだろう。水道費や光熱費の増加分なんか、営業時間内にかかる分に較べれば、微々たるものだ。それに、従業員の安全は、 端金(はしたがね) と較べられるようなものじゃない。
「承認!」
よし、これで、またしばらくはふたりに全部任せられる。
人、それを『丸投げ』と言う!