軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

165 鯨の腹

「ロルトールさんとティラスさんの作品、3つずつ戴きます」

王都で、ギャラリーカフェ『Gold coin』で売れた分の彫刻を補充。

ふたりの作品は、私が直接買うのではなく、あの個人経営の小さな美術店に置いてある品から買うことにしている。そうすれば、ふたりの作品がこの世界でも展示されて、うまくすると他の人に売れるかも知れないから。

あのふたりにとっては、やっぱりこの世界で作品が売れて名が広まる方がいいからね、どう考えたって。

私は、まだ売れていない物の中から選んで買えばいいだけだし、商品として店に陳列されているものを買った方が、宣伝にもなるだろう。あの作品をヤマノ子爵が購入した、ってことで。

それに、美術商のおじいさんにも、少しは儲けさせてあげないとね。小さな店なのに、売れない新人芸術家の作品で店の陳列棚をあんなに塞いだら、碌な稼ぎにならないだろうからね。

売れない新人芸術家をそっと支える、小さな美術店の店主。

いいねぇ。『ジェニーの肖像』の世界だよ、素敵だねぇ。

これで、みんな幸せ、Win-Winだよ!

……とか考えていたら、サビーネちゃんが『 雑貨屋ミツハ(おみせ) 』にやってきた。

「姉様、レミア王女から、むせんきで支援要請が!」

「ええっ!」

国内に潜在する反対勢力は、みんな纏めて一掃したはず。ならば、他国からの侵略?

新大陸からの侵略に備えるために大陸中の国が一致団結しなきゃならない、この大事な時に?

くそ、どこの馬鹿国家が……。潰してやる! 潰してやるぅ!!

「オセロの大会を開こうとしたら、思わぬ大反響で製造が追いつかず、そして大会開催のノウハウもなくて勝手が分からないので、手伝って欲しい、って……」

……知らんがな……。

そして、勝手に製造しとるんかい……。

他国じゃ、大会への参加権とか姫巫女様の天罰とかの効き目が薄いから、シェアを奪われちゃうかも。失敗したなぁ……。

ま、商人か誰かの手によって、とっくにうちの国から持ち出されているだろうから、元々、時間の問題だったか。そして、カードは実用に耐えるものは製造できまい。

でも、先を越されたら大変だから、カードの製造を急がせなくちゃ……。

* *

王様……というか、国に、『イーラス』を売った。ま、そこそこの値段で。

あの国、ヴァネル王国にとっては廃艦処分相当の粗大ゴミであっても、うちの国にとっては、最新技術の習得、そして修理という『ゼロから始めるよりは、遥かにハードルが低い大型艦建造』という絶好の教材だ。ヴァネル王国にとっては『イーラス』を修理するより新造艦を造った方が簡単で安上がりだったとしても、うちの国にとっては、そうじゃない。

販売代金は、私の個人資産ではなく、子爵領の金庫へ。

まぁ、仕方ないよねぇ。領地の予算と領主の個人資産は別にしないと、領主が代わった時に領地の全予算を前領主に根こそぎ持っていかれたりしたら、領地が潰れちゃうよ。

本当は、私の個人資産にしてもいいかなぁ、と思わないでもなかったんだけど、地下資源の調査だとか、製鉄の可能性調査だとか、漁船の建造、漁網の生産等、資金を注ぎ込みたいことはいくらでもある。ここは、涙を飲んで……。

そして、お金とは別に、イーラスを売ることに対する交換条件を出した。

いや、以前から言ってはいたんだけど、完成間近の『建造技術習得用試作小型帆船』を、うちの漁港とボーゼス伯爵領の軍港とを結ぶ航路に就航させたい、ってやつだ。

乗員の養成訓練が進み、鹵獲した3隻がそろそろ稼働状態になるから、国としては試作小型船はそう必要じゃないだろうし。あれはあくまでも、技術習得のための練習台だからね。

それに、引き続き、今度は本格的な実用大型船の建造が始まるんだ。用済みの小さな試作船なんかにそう未練はあるまい。試作小型船の運航は、新人船乗りの養成教育を兼ねて貰ってもいいしね。

これで、増産に励んでいる農作物や、漁獲量が激増した魚介類の販売ルートが確立できる。造船関係と海軍軍人養成で住民数が激増したボーゼス伯爵領の漁村……、いや、『軍港の街』。そしてそれらの人々を相手にして儲けようと集まった、商人や酒場女、その他膨大な人の群れ。

うむ、食料品は売れる。いくらでも!

問題は、傷みやすい魚介類や葉物野菜の迅速な大量輸送手段だったのだ。

よし、これで勝つる!!

そして大量の荒くれ者や食い詰め者、犯罪者達が流入して治安が悪化、大変な状況のボーゼス領。私は、それが嫌で、自領に海軍関連の施設を誘致しなかったのだ。

ボーゼス伯爵様、頑張って~!

まぁ、波が過ぎれば、安定した発展期がやってくるだろうから、しばらくの辛抱だよ。ガンバ!!

* *

そして、やってきました、新大陸のヴァネル王国。

地球と領地関連が一段落したから、そろそろ始めるよ、本格的な活動を。

そう、新大陸での商売の開始だ。

ヴァネル王国だけでなく、周辺国も巻き込んで、高価で役に立たないものを売り込んで国力を低下させ、そしていざという時には思い切り国の足を引っ張れるように、商人として食い込んでおくのだ。

更に、労働力、生産力を、無駄なことに浪費させる。

……そう、『テトリス陰謀論』の実践である。

獅子身中の虫。

巨大な鯨の腹を、内側から食い破る。

……番場蛮かっ!

とにかく、アレである。

海賊の……、じゃない、陰謀の時間だ!!

* *

(……くそっ、あの、石頭……)

15~16歳くらいの少女が、苦虫を噛み潰したような、不機嫌そうな顔で大通りを歩いていた。

(父さんも兄さんも、頭が固すぎる! これからは、絶対に大型船による遠距離地域との大規模貿易の時代がやってくる! 旧態依然の今のやり方にしがみついていたのでは、うちのような中規模商会は時代の流れについていけず、滅びてしまう……)

中規模商会の3代目である父親と、その跡継ぎである、兄。

ふたりとも、そう暗愚だというわけではないが、今現在利益が出ているならば、下手なことはせずにこのままのやり方を続ければいい、という考え方なのである。状況が変わり、利益が減り始めれば、その時に対処すれば良いではないか、というのが、ふたりの持論なのだ。

どういう理由で利益が減ったかは、その時になれば分かる。なので、それに対応する措置を行えば良い。いつ、何が起こるかも分からないのに、現在うまくいっているやり方を変える必要はない。

それはそれで、ひとつの考え方ではある。

しかしそれは、上を目指す商人のやり方ではない。

そう言って説得したが、父親と兄は、自分の話を聞いてはくれなかった。

『3代目が店を潰す』と言われているが、父親も、4代目になるであろう兄も、決して愚かでも浪費家でもない。

(しかし、このままでは駄目だ。時代に取り残され、その結果……)

「きゃっ!」

「あ、ごめんなさい!」

イライラと考え事をしながら歩いていたため、大きな荷物を持って歩いていた少女とぶつかってしまった。

よろけて倒れ、尻餅をついてしまった少女は、尾てい骨を打ちでもしたのか、痛みで立ち上がれない様子。

「だ、大丈夫ですか!」

12~13歳くらいの、黒髪で、少し 異国風(エキゾチック) な顔立ちの、可愛い少女。

こんな美少女に怪我をさせたとなると、大事である。しかも、この、高価そうな身なり。もし他国の貴族や有力者の娘とかで、国際問題になりでもしたら……。

そう考えると、すうっと顔から血の気が引いた。

(ちょっとお尻を打っただけ。お嬢様育ちだから、痛みに免疫がないだけ。お願い、そうであってええぇ~~!!)

* *

「……私、セルツ商会の娘、レフィリアと申します……」

「ミツハ・フォン・ヤマノです」

(き、ききき、貴族ううううぅ! しかも、『フォン』ということは、他国の貴族ううううぅ!!

……終わった……)

半泣きの、レフィリア。

ここは、レフィリアが異国の少女にぶつかった場所の近くにあるカフェであった。

あの後、お尻を押さえて痛がる少女を放置して逃げるわけにもいかず、少女が抱えていた大荷物のため背負って移動することもできず、とりあえず近くの店で休むことにしたのであった。

尾てい骨を骨折していたりすることなく、ただの打ち身であることを祈りつつ……。

そして、場所代代わりに飲み物を注文した後、自己紹介をしたのであるが。

そこで、まさかの、他国の貴族であることを示す称号、『フォン』が付いた家名。

金持ちの娘だとは思っていたが、まさかの貴族。

これで、もし怪我が酷ければ……。

(あああああああああ! ごめん、父さん! ごめん、兄さん!)

「ご、ごごご、御両親に謝罪を……」

必死に、やっとの思いでそう言葉を絞り出すと。

「あ、いえ、あれは私の過失ですから。大荷物を持ってふらふら歩くなんて、迷惑もいいとこですよね。ごめんなさい……。それと、私、ひとりでこの国に来ていますので、家族は一緒じゃないんですよ」

(え?)

「それと、私は貴族の娘として『フォン』という称号を名乗っているわけじゃありません。私自身が爵位持ち、ミツハ・フォン・ヤマノ女子爵なんです」

「ぎ……」

「ぎ?」

「ぎゃあああああああ~~!!」