作品タイトル不明
163 謎のギャラリー・カフェ
異世界旅行も無事終わり、今日はギャラリーカフェ『Gold coin』の営業時間外視察。
前回は営業時間内の視察だったけれど、経営面のこと、ルディナ達が困っていることがないか等、やはりそういう面のフォローは必要だろう。
お店を丸々任せておいて、お金だけ吸い上げる、ってのは、ちょっと問題がある。私は 出資者(スポンサー) ではなく、 店の持ち主(オーナー) なんだからね。
そういうわけで、やってきました、ギャラリーカフェ『Gold coin』。
今回は、夕方の部終了の40分前、つまり19時20分に店に入った。食事して、そのまま最後まで居座り、他の客が帰るまで待っているという寸法だ。そして、その後、お店の運営会議。
ふたりの夕食が遅くなるけれど、私を待たせて食事、というのは落ち着かないだろうし、私が帰った後で、ふたりで色々と会議の結果について話しながらゆっくりと食事する方が、本人達も気が楽だろうからね。
空いているカウンター席に座り、メニューを開いて、と。
…………。
前回は気付かなかったけれど、メニューの品が、何か『カフェ』らしくない。
ここは、一応は『ギャラリー・カフェ』なのである。ギャラリーを兼ねた、カフェ。
そしてカフェとは、飲み物や軽食を提供し、客達がお洒落な会話を楽しむお店ではないのか。
……しかし、この店のメニューは、ガッツリし過ぎている。
トースト、パスタ等の、名前を聞くと『軽いもの』らしきものもある。しかし、メニューの写真やイラストを見た限りでは、少々、量が多い。
トーストは、厚切りらしき食パンが7~8枚くらいに、サラダと茹で卵とミルクをかけたシリアルがどんぶり1杯分くらいと、更にリンゴとバナナが付いている。
パスタは、乾麺300グラムくらいを茹でた量、つまり日本人ならば3人前と考える量。
どんぶり2杯分くらいはありそうな、雑炊。
かなり大きなのが3個もある、ふかし芋。
カフェというものは、決して大食いをするところではないはず。
もっとこう、粋で、お洒落で、可愛くて、少女やOLのお姉さん達がいて……。
そして店内を見回す私の眼に映るのは、コーヒーやジュースを片手にショートケーキを味わう女性達ではなく、大盛りのメシをかっ喰らう、むさいおっさん達……。
……つまりここは、『カフェ』というより、大衆食堂なのではないだろうか……。
「あ、チャーハンをお願いします」
例によって、無言のまま水のはいったコップを突き出してきたシルアにチャーハンをオーダーし、こくりと頷いたシルアは、厨房の奥に向かってオーダーを通した。
「オーナー、入りま~す! チャーハン1丁!」
……ちゃんと声が出せるんだから、お客さんにも話し掛けようよ……。
チャーハンを頼んだのは、料理のレベルを確認するためだ。
いや、冷凍食品なのは分かってる。高火力の業務用コンロと大きな中華鍋で作る本格的なチャーハンが、素人料理レベルのルディナに作れるとは思えない。しかも、この国の者にとって、中華料理はあまり馴染みがないと思うし……。
なので、冷凍食品に違いないけれど、それをどれくらいの出来に仕上げているかということだ。
冷凍食品であっても、調理の仕方によって、美味しくもなれば、不味くもなる。そう、料理人の腕を見るのである! ……冷凍食品で。
あんまり意味がなさそうだなぁ。
そして出てきた、大盛りチャーハン。
いや、頼んだのは普通のチャーハンだけどね。ただ、大きめの皿に思い切り盛ってあるだけで。
スプーンでひと掬い。そしてパクリと口の中へ。
「おお? おおおおお!」
美味しい! 予想していたより、遥かに美味しい!
御飯の粒に卵の皮膜を作らせ、ご飯がベタベタの団子状になるのを防ぐと共に、油の吸収を防いでいる! これは、玉子を鍋に入れてから熱で固まるまでの間、僅か10秒以内に御飯を投入して 攪拌(かくはん) 、全体に均等に混ぜ合わせるという技術なくしては為し得ぬ技!
こっ、これは……。
何と、自家製だったかと驚いて、後でルディナに聞いたところ、「冷凍物ですけど?」と言われた。
何でも、飯粒にラードなどの食用油脂を機械で噴霧してから冷凍することで、家庭料理どころか、中華料理店並みの御飯のパラパラ感を実現しているらしい。多くの店ではこの業務用のものを使っており、下手に自分の店で作っているところより美味しいらしく、真面目な店が半泣きらしい。
なので、業務用冷凍食品を活用している店の大半にはこのメニューがあるそうな……。
こんな国でチャーハンがメニューにあるのを少し不思議に思っていたけど、そういうわけか。
母親の手作りより美味しい冷凍食品。
う~ん、何だかなぁ……。
科学の進歩、恐るべし!
そして大盛りチャーハンを平らげた私は、まだ数人残っているお客さんの目を盗んで、従業員用のドアをくぐり、2階への階段を上った。
* *
「では、ギャラリーカフェ『Gold coin』の営業会議を始めます。遠慮しないで、何でも自由に話してね。でないと何の意味もないし、お店にとって良くないことだから。
言いにくいこともはっきり言う、というのがこの店のためであり、私のため、そしてみんなのためなんだからね。今は、本音を喋るのが仕事、と考えてね」
私の言葉に、こくりと頷くふたり。
真面目そうなふたりのことだから、ここまで言われれば、ちゃんと喋ってくれるだろう。
「……で、まずはルディナに質問。売り上げ状況はどうなってるかな?」
「黒字です。勿論、備品その他の初期投資分は別にしてですが、原材料費、消耗品、光熱費その他の必要経費プラス、私達の基本給。それらを引いても、充分な黒字です。あとは、備品の減価償却をどれだけ考えるかで……。あと、この店の家賃とか、色々……」
そう言いながら差し出された帳簿に目を通すと……。
「おおお、まさか、こんなに黒字になるとは! あ、この店は賃貸じゃなくて私の持ち物だから、家賃は考えなくていいからね!」
「え……」
あ、自分の持ち物でも、大金で買ったわけだから、減価償却はあるか。
ま、固定資産税も払わなくていいんだから、大したことじゃない。小さいことは気にしない!
それに、ここは日本への偽装送金用と、万一の時のための 避難場所(シェルター) として使うのが主目的だ。カフェはあくまでもオマケに過ぎないから、赤字でも構わない。『あれで、どうして潰れないんだ』と周囲の人達から疑問に思われ、怪しまれる程の 惨憺(さんたん) たる経営状態でさえなければ、それでいいんだ。これだけ儲かっていれば、充分!
……というか、これ、『黒字分の1割』っていう歩合給が発生する売り上げだよね?
あ、私が帳簿から顔を上げてふたりを見たから、考えていることを読まれたか? ふたりの口元が、ヒクヒクと引き攣っている。
絶対、笑顔になるのを抑えてるよね、アレ……。
そうか、歩合給が貰えるのを確信してるか……。
いや、出すけどね、勿論。
ん? この数字は?
私が首を傾げていると、ルディナが覗き込んで、説明してくれた。
「あ、それ、美術品の売り上げです」
「えええええ~っ!」
……って、何、驚いているんだよ、私!
売るために展示してるんだから、売れて、何の不思議があるんだよ。
……でも、売れたかぁ……。
いくら本職とはいえ、全然売れていない新人さんの作品だからねぇ、ロルトールさんも、ティラスさんも。しかも、異世界の製作者さんだから、地球とは感性が違うかも知れないし。
そうか、売れたかぁ……。
ん? この、W、S、Mという印は……。
「あ、それ、売れた作品の種別です。ウッド、ストーン、ミステリーの別で……」
おお、ロルトールさんの木工彫刻、ティラスさんの石材彫刻、そして……、ミステリー?
「えと、ミステリー、って……」
「あ、どうやって創ったか分からない、不思議製品群のことです。石のも木のもありますけど、明らかに他の彫刻を創ったのとは別の人ので、石も木も同じ人が作っていますよね?」
……ま、実物を見れば、子供にでも分かるか。
でも、私が創ったやつも、結構売れてる。
くふ。
くふふふふふふ……。
図画工作や美術が最低点だった、この私の作品が。
芸術作品として、結構な値で売れている。
ふふ。ふふふふふ……。
って、嬉しかないよ!
これって、ただ単に、作り方が分からない不思議製品として、キワモノとして売れてるだけじゃん!
いや、それを狙って創った私が、文句を言う筋合いじゃないけどさ。
う~ん、嬉しくもあり、嬉しくもなし……。