軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

162 異世界旅行 2

まずはサビーネちゃんの案内で王宮を見て廻り、その後、昼食会。

ここの王様に、『私の母国の近くの、お世話になっていた国の王様が私の様子を見に来る』と言ったところ、是非連れてきてくれ、と言われたんだよね。

始めは『歓迎パーティーを!』とか言ってたけど、そういう大袈裟なのはやめてくれ、とお願いして、昼食会と、その後の懇親会に落ち着いた。『せめて晩餐会を』と食い下がられたけれど、貴族が大勢やってくるのは勘弁して欲しい、と言って突っぱねた。

だって、話しかけてくるであろう全ての言葉と、それに対する返事を、いったい誰が通訳すると思ってんだよ!

そういうわけで、昼食会と懇親会。

どうせ会話は私の通訳頼りなので、おかしな情報が漏れる心配もない。

そして、食事中は他愛のない世間話や私のこの国での活躍について話すここの王様……、陛下の言葉を、都合の悪いところはカットや大幅改変して王様達に通訳して、一応は楽しい時間を。

食後の懇親会は、陛下御一家(長男は不在)と宰相のザールさん、その他大臣が3人と、少人数での茶話会。

……うん、誰も国家間交流や貿易の話をするとも、その仲介をするとも言ってないよ。なのに、どうしてそっちの方に話を持っていこうとするかなぁ……。いや、魂胆は分かるけどね、勿論。

陛下側も王様側も変に乗り気だし、勝手に話を進められても困るよ。

くそ、一介の子爵風情じゃ国王同士の話を邪魔するわけにはいかないけれど、それは『普通であれば』、だ。そして勿論、私は普通じゃない。

「王様、勝手にそんな約束をしても、誰がそれを運ぶのですか?」

「うっ……」

「陛下、複雑な機械は、こまめに整備しないとすぐ故障しますし、誰がそれを直すのですか?」

「うっ……」

「そもそも、互いの契約書の文字も読めないくせに」

「「ううっ……」」

よし、勝った!

勝手に話を進めるな、と釘を刺して……、って、勝手にも何も、私が通訳しなきゃ、話の進めようもないか。片言の英語が喋れるようになったサビーネちゃんやコレットちゃんが裏切るとも思えないし、そもそも、私が転移を引き受けなきゃ、どうしようもない。

陛下が立場を利用しておかしな命令をし始めたら、私はこの国を捨てて、他国へ本拠地を移す。陛下もそれは分かっているだろうから、そんなことをする可能性は皆無だけどね。

ま、クーデターが起こって、野心家が王位を簒奪でもしたら、そういう目もあるかも知れないけど……。

そういうわけで、懇親会も無事終了。

「いやぁ、楽しかったのう……」

あれ、自国の利益になるわけでもない、文明レベルの低い異世界の国の国王なんかと話したって、何も得るところはないんじゃないかなぁ。退屈だったんじゃないかと心配してたのに。

そりゃ、昼食会や懇親会とかでは楽しそうだったけど、それは社交辞令的なものであって……。

私がこれをセッティングしたのは、今回の訪問旅行のことを知った陛下の方から強く要望されたことと、『うちの陛下と会って、会談した』ということが王様の手柄として国民や他国へのアピールになれば、って思ったからだ。陛下はいい人だけど、文明背景の全く異なる初対面の者が通訳を介して少し話したところで、そう楽しいとは思えない。

「そうでございますね。我が国の、数十年前の姿を見るようで……。陛下も、お懐かしゅうございましたでしょう……」

「うむ。この国の王も、儂と同じようなことで悩み、同じようなことで苦しんでおるようじゃ。いや、懐かしいわい……」

あ。そういえば、確か王様は若くして王位を継がれたんだったな。

その当時は、資源もろくにない、『開発途上国』とすら言えない、全く開発される様子もない取り残された小国だったらしい。

40~50年前のこととはいえ、世界には、電気もガスも水道も通っていないところなんか、いくらでもあった。……いや、今現在ですら、そういうところは世界にたくさんあるだろう。

1回目の 異世界懇談会(イセコン) に招待する誠実そうな小国を選んだ時、勿論、各国の指導者についても調べた。それによると、王様は20代半ばで王位を継ぎ、 旱魃(かんばつ) や病虫害による飢饉で餓死者が出たり、疫病が 流行(はや) ったり、周辺国やら、そのバックについた大国の思惑に振り回されたりと、苦労の連続だったらしい。

その、昔の自国の姿が、兵士が持つ武器が剣か 手動式連発銃(ボルトアクション) かの違いくらいしかないこの異世界の国と重なって、懐かしく思えたのだろう。

そして、ようやく自国が4流国の末席あたりに手が届きそうになった今、人生の全てを国と国民に捧げ、おそらくは実年齢より遥かに老けて見えるくらいボロボロになって、今なお残る、多くの国民達の命を奪った風土病で、間もなくこの世を去る王様。

願わくば、どこかの神様の目に留まって、チート能力を貰って異世界に転生して、今度は他人のためではなく、自分のための人生が歩めますように……。

「では、最後は、旅行における恒例、お土産購入の自由行動です」

いや、自由行動とは言っても、勿論安全確保と通訳のため、私がくっついているんだけどね。

私が連れ回すんじゃなくて、私が自由に行動する王様達についていく、という意味だ。

昼食会と懇親会で割と時間を使ったから、店が閉まり始める日没までには、あと2~3時間くらいしかない。会話をいちいち私が通訳しなきゃならないから、時間を喰ったのは仕方ない。

「これをどうぞ」

そう言って、私は懐から取りだした巾着袋の口を開け、中から硬貨を取りだした。そしてそれをふたつに分けて、王様達に差し出した。

「この国の貨幣です。おふたりに、それぞれ銀貨5枚ずつ。銀貨1枚が、およそ10ドルくらいの価値になります。……但し、肉や野菜は安く、道具類や衣服とかはバカ高いですからね。工芸品とかは、ピンキリです。よく考えて、お好きなものをお土産に購入して下さい」

「……小遣いか! おやつは2ドル50セントまでか!!」

そう言って、破顔する王様。

官僚さんも、何やらにやにやと笑っている。子供の頃のことでも思い出したか?

ま、ふたり合わせて銀貨10枚、100ドル相当だ。大したものは買えまい。あまりたくさんのお金を渡して、色々なものをガッポリ買われたんじゃ、こっちの都合が悪いからね。本当に子供の小遣い程度の金額だけど、それで我慢して貰うしかない。

「これを貰おう!」

そして、最初にはいった武具店で、いきなりナイフを買おうとする王様。

いや、さっき言ったじゃん! そういうのは高い、って。地球でも、50ドルや100ドルじゃ買えないよ、そんなの。しかもそれって、私が地球で見たことのない金属のやつじゃん。

確かに、私は地球の金属を全部知ってるわけじゃない。

金はこっちで金貨を手に入れるまでは触ったこともなかったし、プラチナは指輪のカタログで見た程度。コバルトなんか見たこともないし、ルビジウム、フランシウムとか、名前しか知らない。いや、そりゃ、そうと知らずにどこかで見た可能性は、ゼロじゃないけどさ。

でも、これは、多分違う。

ナイフに加工する金属なんて、その用途による材質特性や材料費、加工難度とかから、大体は限られているはず。そして、この見た目と軽さ。

……多分、『地球では有名じゃないやつ』だよね、コレ……。

とにかく、私が渡した金額で買えるようなものじゃない、ってことだけは、間違いない。

というか、こういうのを防ぐための、『ふたり合わせて銀貨10枚』なんだから……。

高くて買えないよ、と言っても、王様が、とにかく値段を聞いてくれ、と言うものだから、店の主人に聞くだけ聞いてみた。そして、やはり銀貨10枚ぽっちではお話にもならない価格だったため、それをふたりに伝えると……。

王様が、懐から巾着袋を取りだして、金貨を数え始めた。

「よし、これでいいか?」

「え?」

固まる私に、にっこりと微笑みながら王様が告げた。

「異世界に行くのじゃから、現地の通貨を用意するのは当然じゃろう? 数万枚単位で出回っておる金貨なんじゃから、金さえ惜しまねば、それなりに買い集められるものじゃぞ?」

そう言って王様が私の眼前に突き出した巾着袋は、まだ大きく膨らんでいた。

「陛下、急ぎませんと! 鉱物、植物の種、動物の肉、色々と持てる限り買い込みますよ!

生きた動物はこの短時間では難しいでしょうが、なるべく原形のままのものを手に入れましょう。DNA解析して……」

官僚さんが、そう言って王様を 急(せ) かせる。

「や……」

「「や?」」

「やられたああああぁ~~!!」

* *

そして、数時間後。

買い込んだ大量の『お土産』を背負い、ホクホク顔の王様と官僚さん。

……くそ!

でも、あれは私が取引条件として渡したものじゃないから、私が他の国への取引に使っても構わない。そして、ふたりには、他国への提供禁止、あくまでもそれらの権利はこっちにあるものとして、金のタネになる発見があった場合にはロイヤリティを払って貰う、ということで、一筆書かせた。

勿論、それらのものを転送することを拒否する、ということもできたけれど、そこはアレだ。

一本取られた、ということで、 潔(いさぎよ) く負けを認めるのが、 良(い) い女ってもんだ。

それに、どこの国に提供しても、私にとってはあまり変わらないしね。超大国に提供して、その国の 国内総生産(G D P) が0.0001パーセント上がるより、新興国の 国内総生産(G D P) が10パーセント上がる方がいいだろう。

この世界からの、王様へのお土産だ。ええい、持ってけ、ドロボー!!

「じゃ、行きますよ!」

地球への転移。

そして、旅の終わり。

王様の病気がどんな病気なのかは知らない。

そして勿論、地球から転移する時に、異世界に病原体や寄生虫の類いを持ち込ませるわけにはいかないから、それらのものは除外して転移した。

異世界から地球に戻る時には、それに加えて、私が自分ひとりで転移する時にたまにやっていること、つまり『体内に蓄積している毒素や有害物質等を除外して転移する』というのをやった。時々やっていることだから、習慣的にやっただけで、深い意味はない。

それに、『異世界に行ってから、体調が悪い。何か、空気か水、食べ物等に身体に悪い成分があったのではないか』とか言われて悪評が立ったら大変だからね。

願わくば、人生を国に捧げた王様が、自国が発展し、捧げた努力が大輪の花を咲かせる姿を見られますように……。