作品タイトル不明
161 異世界旅行 1
「あ、あれは、拾得物です!」
「「拾得物?」」
声が揃う、ふたり。息がピッタリだね!
「は、はい、洋上を漂っていた無人の船を回収しました」
転移した時点では、既に乗員達は救難艦に移乗しており、無人だった。だから、決して嘘じゃない。
「「…………」」
そして、王様達は行く先々で 国賓(こくひん) 、いや、『領賓』待遇で歓待され、その後、領都邸でディナー。
料理は、異世界らしさを出そうと、角ウサギのステーキやらオークの 生姜(しょうが) 焼き、アノマロカリスの煮付けにハルキゲニアの唐揚げと、珍しいものを中心に。
王様は、角ウサギが気に入ったのか、『これを養殖して増やせば、肉と、角の加工品を名産品として輸出……』とか呟いていたけれど、そうか、そう言えば、角ウサギの 番(つがい) を贈ったんだった……。
メチャクチャ繁殖力が強いし、人を襲うからね、そいつら。お願いだから、逃がして野生化して、地球の生態系を崩すようなことにはしないでよ。
そして、言葉が通じる相手が私しかいないから、ずっと3人で喋りっ放し。
王様達、いい人なんだけど、この旅行には自国の利益が懸かっているから、なごやかな話の中で、結構激しい攻防戦が。
「あの帆船の修理、我が国がお手伝い致しましょうか? 船大工を派遣しますぞ。代金は金塊や宝石、珍しい動植物のサンプルで戴ければ……」
「ふむ、それは良い考えじゃの。帆布とか索具とか、経験のない国がイチから作るのは難しかろうて」
官僚さんと王様の、ワンツーパンチ。
「いや、おふたりのお国、大型帆船の建造技術なんかないでしょう?」
そう、今でも大型帆船を建造したり運用したりしているのは、余裕のある国が中心だ。日本、英国、米国、ロシア、ドイツ、ポーランド、メキシコ、ノルウェー、オランダ等……。中には、都市とかの地方自治体で持っているところもあるけれど……。
とにかく、途上国だから帆船の技術が残っている、というものではない。余裕のない国は、第二次大戦で使われていた老朽駆逐艦を屑鉄価格で買い取って使っていたりする。
……って、さすがにそれらはもう引退してるかな。とにかく、伝統技術と熟練技師が必要で、実戦力としてはまともな戦闘力ゼロの帆船を新造したり運用したりできるのは、そういうことにお金を廻せる余裕のある国だけだ。
ということは、他国から技術者を引き抜いて、『中抜き』をするつもりとしか思えない。
「……」
「「…………」」
「「「………………」」」
いや、ま、いいけどね。元請け、下請け、孫請けっていうのも、業界の仕組みに過ぎないんだから。それもまた必要なシステムであり、別に悪いわけじゃない。
ただ、私が、契約するならなるべく中間業者をあまり挟まずに、実務会社と直接契約したいというだけだ。間に色々と挟まると、こっちの意図が末端まで伝わらなかったり、余計な障害が発生したり、高くついたりするからね。
その他にも、農業支援の必要はないか、武器の提供もできるぞ、とか言われたけれど、どうせ倉庫に眠っている旧式武器の在庫一掃セールとかを狙っているのだろう。
別に悪気があるわけではなく、この世界ならばそういう武器でも充分役立つであろうこと、最新武器は高いし手入れが大変なこと等で、それが我が国にとって最良の選択だと、本当にそう思っての提案なんだろうけどね。この程度の文明レベルなら、M-16よりM-1ガーランドの方が良いのでは、と考えるのは、別におかしくはない。
まぁ、そういう様々な御提案を 躱(かわ) し、いくつかの参考意見は要・検討、そして3つ程、取引してもいいと思える申し出があった。あくまでもうちの領地との取引であり、国とは関係ないけどね。
しかし、うちの製塩設備が思ったより進んでいたのは、アテが外れたらしい。どうやら、そのあたりで食い込みたかった模様。ふはは、我が祖国、日本の製塩技術は世界一イィ!
そりゃ、もっと進んだ方法はあるだろうけど、ここの科学技術で可能、充分な利益を生むペースで必要量を賄えている、という時点で、地球の技術支援が継続して必要になる方法を導入するメリットなんかゼロだ。
そして、何やかんやで夜も 更(ふ) け、続きは翌日に。
* *
異世界旅行2日目は、王都見物だ。
そりゃ、こんな田舎町を見ただけで終わったら、クレームものだ。
「…………転移!」
勿体振った呪文をしばらく唱えた後に、連続転移で王都の『雑貨屋ミツハ』……、いや、『ヤマノ子爵家王都邸』へ。
呪文は、私が転移するためには少し準備時間がかかる、という嘘情報を広めるため。そう思わせておけば、私が襲われた時に、敵の隙を衝くチャンスが多くなる。……うん、こういった地道な下準備が大事なんだよね、安全のためには。
「ここが、我が領の王都邸です。お店を兼ねていますが……」
転移は、1階のカウンターの前へ。3階は私のプライベートスペースだし、防犯システムを解除するのも面倒だから、上の階には立ち入らせない。
店内は、何の変哲もない『地球の、田舎町の雑貨屋』と同じなので、そのまま何の説明もなく外へ。
「おお……」
街並みは、現在の地球でも、ヨーロッパの田舎町へ行けばあるかも知れない、という感じ。だけど、剣を佩いた冒険者……、いやいや、傭兵とか兵士とかが歩いていたり、肉屋の軒先にはオークの面皮が吊り下げてあったりして……、って、いや、沖縄で似たようなの売ってたな、牧志の公設市場で。量り売りの単位が『1 斤(きん) いくら』だったのには参ったけどね。どれくらいの量だよ、『1斤』って!!
とにかく、それなりに『異世界情緒』を感じられるので、王様達は、ほぅほぅ、と言いながら、キョロキョロとあたりを見回している。
いくらお年寄りとひ弱そうな男性がお上りさん丸出しでふらふらと歩いていても、チンピラに絡まれる心配はない。……うしろに私がついてるからね。
少なくとも、王都で私に喧嘩を売ろうとする者はいない。いや、王都以外でも、私のことを知っている者ならば。
そして、王都の名所とか私の行きつけの店とか、あちこちを御案内。
それなりに楽しんでくれているようだけど、ふたりとも、時々、鋭い眼で何かを注視している時がある。多分、何か自国にメリットがあるかも知れないネタを見つけて、脳内で検討しているのだろう。
お、ぼちぼち昼前だ。そろそろ……。
「あ、いた!」
うん、来たな、サビーネちゃん!
一見ひとりに見えるけれど、実際には隠れ護衛が何人か付いているはず。
王位継承順位が低いサビーネちゃんの場合、殺害してもメリットのある者はいないから、王様を、そして私を激怒させるような危険を冒す者がいるとは思えない。だから、サビーネちゃんが襲われるとすれば、それは『誘拐』であり、それならば、護衛が数メートルくらい離れていても大丈夫……、なのかなぁ? う~ん、よく分からない。
まさか、敵対者を炙り出すための餌にされているわけじゃないだろう。あの王様達がそんなことをするとは思えないからね。
まぁ、それも、私からの本気の報復を覚悟してそんなことをする者がいるとは思えないけどね。
……それはともかく。
「よし、じゃ、行こうか!」
うん、今から、サビーネちゃんの案内で王宮行き。王宮見学と、せっかくだから、うちの王様と会って貰うのだ。
私の国の王様と会った、というのは、地球で他国に対しての大きなアドバンテージになるだろう。実質的なメリットは何もないけれど、他国にそう思わせることができれば、国の立場が強くなる。
それに、学者や先の長い若い官僚ではなく、王様にこの旅行の権利を贈った国民達に、その判断が間違っていなかったということを示したいから。訪問者が王様ではなく平民の官僚や学者とかなら、うちの王様が会うことはなかっただろう、って私が言えばいい。
そして、別にサビーネちゃんが案内してくれなくても、私がエスコートすれば王宮には入れるだろうけど、ま、サビーネちゃんがやりたがったから……。
勿論、王様の方にはアポを取ってある。さすがに、いきなり他国の王様を連れて王宮にアポ無し突撃はやらないよ。
「こちら、この国の第三王女、サビーネ殿下です。皆さんのエスコートに来て下さいました」
「おお、これはこれは! 可愛い王女殿下にエスコートして戴けるとは、光栄の至り……」
王様が何を言っているかは分からないだろうけど、雰囲気や言葉の 抑揚(よくよう) から、大体の意味を察したであろうサビーネちゃんが、可愛らしくカーテシーで礼をとった。
このあたりの対応が、さすがサビーネちゃんだ。本気で『王女様モード』になった時のサビーネちゃんは、『雑貨屋ミツハ』でゴロゴロしたり甘えている時のサビーネちゃんと同一人物とはとても思えない。
ま、それだけ私に心を許してくれているということだろうから、ちょっと嬉しいような……。