作品タイトル不明
139 商 売
「購入決定、ポチッとな……」
『彫刻 コレット』。その HP(ホームページ) の通販コーナーから、いくつかの商品をポチる。
……ここは、ギャラリーカフェ『Gold coin』の、2階の一室である。空き部屋のひとつを少し片付けて、事務室 擬(もど) きにして、パソコンを設置したのだ。今時のカフェは、ネットでの宣伝くらいできなきゃお話にならないよ。
……って、それは建前で、本当は、日本の私のお店、『彫刻 コレット』から商品を購入し、その証拠をバッチリと残すためのものだ。税務調査とか、その他のところにも、小娘が大金を稼いでいることを疑問に思われたりしないように。
税金の過少申告ならばともかく、過大申告とは、夢にも思うまい。ふはははは! ……はぁ。
今回購入したのは、向こうで仕入れてきた、石の彫刻と、木の彫刻。それと、私が転移能力による 非常に困難な任務(ミッション・インポッシブル) で作成した、石が複雑に絡み合った細工物。
いや、私の転移能力以外の、どんな方法で造れるというのだ、こんな無理筋物件。ヘッジスの水晶 髑髏(どくろ) どころの話ではない。
木製の彫刻はロルトールさん、石の彫刻はティラスさん作。そう、『雑貨屋ミツハ』にパトロン募集に押し掛けた、あの若き芸術家の男女だ。
仕入れ値というか、買値は、小金貨数枚から金貨1枚弱くらい。それを、小金貨1枚を1万円と換算して売る予定。……ギャラリーカフェ『Gold coin』では。
向こうの金貨を地球のお金に両替すると、金の含有量の地金価格で、小金貨4枚が1万円くらいになっちゃうけど、互いの世界での収入や生活に必要なお金から考えた『体感』というか『感覚』では、小金貨4枚は、4万円くらいに感じるんだよねぇ。だから、売り値は『体感価格』で合わせることにした。
本当は、向こうでは小麦や野菜等は安く、衣服や贅沢品は高いから、何でもかんでも同じレートで考えちゃ駄目なんだけど、『向こうでは芸術品は高い』というのと、『向こうでは無名の新人の作品は地球以上に安く買い叩かれる』というのが絶妙のバランスを取っていて、あのふたりの作品の現在での相場価格としては、それくらいが適当だろうと判断した。
ま、多少は美術品の相場を調べたとはいえ、素人なんだから、深く考えるのはやめよう。異なる世界の相場を比較しても、何の意味もない。
そう、この値段なら買いたい、という人がいれば、買ってくれればいい。売れなきゃ、また、その時に再検討すればいい。別に、すぐに売って換金しなきゃ生活できない、というわけじゃなし。気楽なもんよ!
……但し、それはギャラリーカフェ『Gold coin』での売り値のことである。
『彫刻 コレット』では、その10倍以上の価格で売り、『Gold coin』がそれを買い取る。でないと、充分なお金を日本に送るためにはたくさんの商品を売買せねばならず、面倒だ。
それに、そうなると『Gold coin』に大量の彫刻がだぶつき、置き場所がなくなってしまう。
日本の税務署も、『高く売り過ぎで、税金の払い過ぎである』なんて文句は言わないだろうし、高く仕入れて安く売るということになる『Gold coin』については、私がこの国での税金を免除されているから、決算書を提出する必要も無ければ、文句を言われる心配もない。全ては、この『税金免除』という好待遇があるからこそ安心して立てられた計画であり、お店をこの国に構えることにした大きな理由である。
融通の利く中小国家、サイコー!
まぁ、その代わり、ちゃんとお礼はしてあるけどね。私にはただ同然で、この国の人達には喜んで貰える方法で……。
もし日本でこんな非常識な逆ザヤ商売を行えば、絶対にどこかに調査されるだろう。
理由もなく、わざわざ大幅な赤字になる商売や値付けをする者はいない。もしいたとすれば、それには何かの事情や秘密があると考えるのが普通であり、常識で考えれば、それは何らかの悪事、ってことになるよねぇ……。
* *
数日後、『Gold coin』に彫刻や絵画、その他の小物等を搬入した。
いや、別に日本からわざわざ発送したわけではなく、転移で運んだよ、勿論。
送料は、領収書が無くても経費で通ると思うし、たとえ通らなかったとしても、領収書目当てでわざわざ本当に送るよりは安上がりだ。経費にできても、税金がその分免除されるだけであって、別に送料全部とか、それ以上のお金が返ってくるわけじゃないんだからね。
それに、海外発送なんて、荷造りも宛名書きも発送手続きも、面倒だ。転移能力、万歳!
そして、元々美術品を置くために用意していた台や専用スペースに様々な美術品を置き、壁には絵も掛けた。『彫刻 コレット』謹製の、転移による怪しい細工物と、異世界コンビの彫刻以外にも、ネットで地球のあちこちから購入したり、向こうの世界で見つけた面白そうな物を仕入れたりしている。
記録に残る仕入れ先が『彫刻 コレット』だけだと眼を付けられる可能性があるから、たくさんある仕入れ先のひとつに過ぎない、というポーズのためであり、他所から仕入れたものも、あまり売れるとは思っていない。ま、情報攪乱のための必要経費、といったところだ。
これで、あとは、ときたま何点かが売れれば、それでいい。
店の維持費や店員の給料とかはカフェ部分で賄うし、赤字になっても、別に構わない。日本への送金も、今まで使った分を補填できれば、あとは大した金額じゃなくてもいいし。
数年間は、両親が残してくれたお金を食い潰して生活している、ということでいいし、無職ではなく、ちゃんと働いている、という実績が示せれば、それでOKだ。
「よし、完璧の母! じゃ、明日からは、もし美術品が売れたら、そっちの方もよろしくね!」
店長のルディナには、ちゃんと説明しておいた。美術品には値札が付けてあるし、念の為、それぞれの価格を書いたノートがレジに置いてある。……値札を書き換えるヤツがいないとは限らないからね。
それに、美術品が売れた時は、レジに少し多めのお金がはいる。強盗にとっては、若い女性と未成年の少女しかいない店など、いいカモだろう。
このあたりには夜間金庫などというサービスはないし、たとえあったところで、閉店後にルディナがお金を持って夜道を歩くこと自体が、充分危険だ。世の中には、僅か7~8ドルの金を奪うために平気で人を殺せる人間がゴロゴロいるのだから。
……世界中が、日本みたいに平和で治安がいいわけじゃない。先進国であるアメリカでさえ、場所によっては、そういうところはいくらでもあるのだから。
なので、防犯設備はちゃんと設置してあるし、近くの警察署には開店の挨拶と付け届けもバッチリである。その他にも、色々と手配しておいた。
でも、一番大事なのは、『無茶をするな』ということだ。
お金は、また稼げばいい。でも、10ドルや20ドルのために殺されては、何にもならない。だからルディナとシルアのふたりには、『強盗や食い逃げ、その他の理不尽なことをする客達には、あまり抵抗するな。自分達とお客さんの身の安全だけを考えろ。そいつらには、後でキッチリと後悔して貰うから』と言ってある。日本式の接客理念と共に、従業員教育はバッチリだ。
よし、あとは任せた!
「……で、どうして日本の『彫刻 コレット』に、知らないところからメールでの注文がはいっているかなぁ……」
そう、『Gold coin』での販売価格の10倍以上の価格である、『彫刻 コレット』のHPでの通販。『Gold coin』以外から注文がはいることなど、想定さえしていなかった。
……どこの馬鹿だよ!
くそ、面倒な国外発送をやらなきゃならない。
品切れとか、適当な理由を付けて断ればいい?
いや、注文が来たの、私が造ったやつなんだよねぇ。
……嬉しかったよ! 悪いか、ええ?
しょうがない、何か、謂われのない罪悪感があるから、開店特別サービスとして、大幅値引きしてやろう。オマケも付けるよ!
……だから、なぜ追加注文をする!
舐めてんの? ええ?