作品タイトル不明
112 次なる国は 5
「明日、銃のデモンストレーションを行うことになりました。それと、もし王様が希望するなら、本交渉の使節団も派遣することに……」
「え?」
晩餐会から戻ってきた伯爵様にそう伝えると、伯爵様は一瞬眼を見開いたものの、すぐに平然とした態度に戻った。隣のクラルジュ様は、まだ、ぽかんとしたまま。うん、人生経験の差が現れてますなぁ。クラルジュ様、もっと修行して、渋くて 良(い) い男になってね。
「で、いつの間にそのような話に?」
伯爵様がそう尋ねてきたけど、当たり前だ。向こう側の首脳陣は、全員晩餐会に出ていたはずだからね。
「向こうにも、頭の回る遣り手がいたようです。第3王子殿下が、しっかりとフォローに来ましたよ。多分、王様からの指示じゃなく、独断です」
「な、何! そ、それで、その他には何か交渉や約束とかをしてはおらぬだろうな!」
あれ? さっきは割と平然としていたのに、この伯爵様の慌てようは……、ああ!
「大丈夫です。まだまだ、サビーネちゃんを嫁に出したりはさせませんから!」
「いや、それを決めるのは、子爵では……、いや、まぁ良い……」
何か、歯切れの悪い言い方だなぁ。そして、なぜ呆れたような顔をして私を見るのだ、サビーネちゃんは……。コレットちゃんは、話が分からないため、我関せず、の状態だ。
そう、デモンストレーションと、本交渉の使節団の派遣。
あんなに即答で、躊躇う素振りもなく「手」を選ばれたんじゃあ、こっちの完敗だ。うん、残りのふたつも、全部お土産にしちゃったよ! ……甘かったかなぁ。
でも、まぁ、ほぼ確実に王位に就くことのない王子様だ、少しくらいは功績を挙げさせてあげないと、肩身が狭くなっちゃうだろう。妹さんとかに、お兄ちゃん、すご~い、とか言って貰えれば、王子様も嬉しいだろうし……。
そういうわけで迎えた、翌日のデモンストレーション。
時間と場所、向こう側への根回し等は、サヴァス殿下がやってくれた 筈(はず) 。昨日、ちゃんと打ち合わせ済みだ。
そしてM1ガーランドを背負った私が、サビーネちゃん、コレットちゃん、そして使節団の面々と一緒に王宮に行くと、待ち構えていたサヴァス殿下に案内されて、デモンストレーションの会場へと直行。
会場は、昨日頼んでおいた通り、50ヤードの距離をとった場所に鎧を着せた 人形(ひとがた) と、その後方はちゃんと築山になっている。後方は土でないと、跳弾がどこへ飛んで行くか分からないから、怖くて撃てやしない。
射座には、ちゃんと供託用の木製の台も作られており、注文通りだ。
……そして会場には、大勢の見物客がいた。
初日の予備会談の場にいた大臣達、軍人、そして国王と第1王子、第2王子。
「では、早速、新型武器の展示を行います。よく御覧下さい」
私は、そう言ってサヴァス殿下に少し離れるよう指示し、肩から下ろしたガンケースを開いた。
王様達? ガン無視である。
これは、『お友達であるサヴァス殿下に御覧戴くための展示』であり、たまたま居合わせて見物しているだけの人達とは関係ない。特に、こっちを小娘呼ばわりして馬鹿にして、交渉の席を自ら潰した人とかには。
本会議の使節団派遣の件も、あくまでも『国王がそれを要望すれば』の話だ。むこうが潰した話なのだから、むこうから頼んで来ない限り、こちらからはもう声を掛ける気はない。サヴァス殿下にはそのような権限はないから、『もしそちらの決定権者が頼んできたなら、考えてもいいよ』と言ったに過ぎない。決定権者、すなわち、国王が、だ。
あの国王が、実際には頭を下げないにしても、『下げたも同然』となることをするかどうか。
いや、こっちは全然構わないんだけどね、下げようが下げまいが……。
前回と同じく、木製の台に銃身を載せ、ボルトのレバー部分に右手の手刀部分をかけて、思い切り引く。それを見て、サビーネちゃんとコレットちゃんが、サヴァス殿下の左右の手をそれぞれ掴み、更に少し後ろへと下がらせた。
先程の位置でも全然構わなかったけれど、これは、殿下とサビーネちゃんの親密さをアピールするための演出だ。第3王女殿下と姫巫女様のふたりと個人的に懇意になったとなれば、殿下の株も少しは上がるだろう。街に遊びに行くのを大目に見て貰えるかも知れない。……って、今でも遊びに行ってるみたいだから、関係ないか。
ポケットから7.62mmNATO弾を1発だけ取り出して、薬室に突っ込み、マガジンフォロワーを親指で押し込んだままボルトを僅かに引いて、ロックが外れる感触を確認して、勢いよくスライドを閉じる。そして安全装置を掛けて、と。
銃身を木製の台に供託して、いったん狙いをつけて、それから安全装置を解除して、再び狙いをつけて、そうっと、そうっと引き金に力を加えて……。
ぱあんっ!
「殿下、どうぞ、御確認を」
少し離れたところには、あとふたり『殿下』がいるけれど、関係ない。今日の私達のホストは、第3王子であるサヴァス殿下だけなのだから。
殿下がこくりと頷いて的の鎧人形の方へと向かうが、私は動かない。
銃を置いて行くのも気が進まないし、見物客がぞろぞろと的の方へ歩き始めたから、私が行くと話し掛けられそうで嫌だからだ。面倒事は御免だよ。
「……凄い……」
鎧を貫通したのを確認した見物客連中が黙りこくっているので、殿下がそう言ってくれた。うんうん、やはり、気遣いのできる人は違うねぇ!
「……と、まぁ、こういう武器を開発、生産して、剣と共に兵士全員に持たせようというわけです、協定に加わった国々は。海に面した国は戦闘艦も造りますし、それに積む大砲、……この銃を数百倍にしたような武器ですが、そういうのも造ります。
かなりお金もかかりますが、この国はそういう心配をしなくて済むから、良かったですね!」
そう言って、にっこりと微笑んであげたのに、なぜそんなに引き攣った顔をするのかなぁ。
挿弾子(クリップ) を装填したわけではないので、次弾がないため開きっ放しになっているスライドを閉じて、M1ガーランドをガンケースに収納して肩に掛けていると、後ろから声を掛けられた。
「待て、話がある!」
ありゃ、王様だ。大臣あたりが来るかと思っていたのに。
「私の方には、話したいことはありません」
「え?」
おそらく、王様にとって史上初の大暴言だろう。
「女神に用があるなら、教会で祈りなさい。私に用があるなら、仲介者を介しなさい。あなたは、私に直接謁見する資格を失いました」
「え……」
王様だけでなく、その後ろに立っていたふたりの王子様、大臣連中、そしてサヴァス殿下までもが固まっていた。
まぁ、いきなり無礼討ちされることもないだろうし、万一の時には転移する。
転移で逃げ出せば、後は伯爵様が「姫巫女様に、何という真似を!」とか言って誤魔化してくれるだろう。……まず、そういう事態にはならないだろうけど。
うん、勿論、事前に伯爵様とは打ち合わせ済み。『姫巫女様』は使節団とは別枠であり、使節団には手出しできない女神の御使いである、ということにして、いくら強く出ても、使節団には何の責任もない、という作戦である。これによって、向こうがいくら強気に出ても無駄、却って状況が悪化するばかり、ということを分からせるのだとか……。
いや、私は反対したよ? ちょっと無理があるんじゃないか、って。
でも、伯爵様がそれで行く、と決定してしまった以上、私にはどうしようもなかった。
いくら使節団の命令権下にないとはいえ、交渉に関する部分においては、使節団長である伯爵様の判断を無視するわけにはいかないのだ。そのように、王様から言われている。
固まったままの王様に、右手の人差し指をちょいちょいと曲げて、その指で伯爵様の方を指し示した。これで、どうすれば良いかが分かったことだろう。
「じゃ、サヴァス殿下、色々とお世話になりました。また、お会いできる日まで!」
そう言って、てくてくと歩き出した私達3人を止める者は、誰もいなかった。
「あ~、終わった終わった!」
宿で思い切り背伸びをした。
「あんまり無茶するから、卒倒しそうだったよ!」
サビーネちゃんが、何やら不機嫌そう。
「いや、交渉ができなくても構わない、って話だったじゃない。王様も、正気であれば他国の使節団とそのオマケ、しかも王女殿下と姫巫女様に手出しはしないでしょ、さすがに。それこそ、国の破滅じゃないの」
「だから、その正気を失うほど激昂させてもおかしくなかった、って言ってるの! 王族が、それも国王が人前であんな侮辱を受けたら、普通はただじゃ済まないわよ。よく自制してくれたものよねぇ……」
しみじみとした顔で、そう言うサビーネちゃん。
「え? だって、伯爵様が……」
「多分、本当は怒らせるつもりだったんだと思うよ。姉さまが私達を連れて転移するのを見越していて、女神の御使いに手出しした、という事実を証明付きで突き付けるとか、自分が身を盾にして姉さまを守るつもりだったのかは分からないけど。どっちにしても、絶対的なカードを手にできるよね、そうなれば……。
姉さまが気軽に転移してることは、多分察してると思う。前の国の時、襲撃現場から王都、王都から襲撃現場の、所要日数の計算が合わないから」
「え……」
「姉さまは、甘いんだって。だから、私が付いていてあげないと……」
な、何じゃ、そりゃああああぁっっ!!