軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

111 次なる国は 4

「 今宵(こよい) は、お招き戴き、ありがとうございます」

「いえいえ、どうぞ、ごゆっくりお楽しみ下さい!」

互いに形式的な挨拶を交わす、使節団長コーブメイン伯爵と、この国、クールソス王国の宰相。

晩餐会は、王族抜きで、実務者クラスの者達が非公式な場でゆったりと本音ベースでの交流ができるよう企画されたものであった。なので参加人数もそう多くなく、食事をしながらのんびりと 和(なご) やかに……、というはずであった。

しかし、なぜか聞いていたより相手側の参加者数がかなり多く、それも到底実務者とは思えない年齢の、見目の良い若者や少年が大勢混じっている。

そして、なぜか上座の席に鎮座する、国王と第1王子、第2王子。

それらを目にしたコーブメイン伯爵は、ため息を 吐(つ) いた。

(やっぱり……)

そう、姫巫女殿の、そして自分の予想通りだったか、と。

そして、怪訝そうな顔で、会場にはいる使節団をきょろきょろと眺め回す招待側の者達。

しばらく経って、彼らのうちのひとりがとうとうコーブメイン伯爵に尋ねた。

「あの、姫巫女殿は……」

「姫巫女殿なら、サビーネ王女殿下と御一緒に王都見物に行かれましたが?」

「え?」

尋ねた者は、伯爵が言ったことが理解できなかった様子であった。

「い、いや、夜会の招待を受けていながら、そんなはずが……」

コーブメイン伯爵は、自分も『え?』というような顔をした。

「御招待戴いたのは、使節団の者全員、で間違いありませんよね?」

勿論、全員とは言っても、当然、メイドや警備の者達は除く。正規の使節団員のみ、という意味である。

「は、はい、その通りです! なので、姫巫女殿も当然……」

それを聞いた伯爵は、計画通り、とでもいうような、悪い笑みを浮かべた。

「はい、ですから、使節団の者は全員参加させて戴いております。使節団員ではなく、同行者である3人を除きまして……」

「え?」

「「「ええ?」」」

「「「「「えええええええええ~~っっ!!」」」」」

そう、クールソス王国側の目論見は完全に 外(はず) されたのであった。

そしてその会話が聞こえていたらしき国王と王子殿下達もまた、眼を見開いて顔を引き攣らせていた。

(まぁ、これだけ完全に起死回生のはずの計画が狂えば、動揺するであろうなぁ……)

コーブメイン伯爵は、さすがに少し気の毒そうな顔をしていた。

「じゃあ、行くよ!」

「「えいえいお~!」」

宿のロビーで腕を突き上げる3人の少女達に、微笑ましそうな視線を向ける他の客達とフロントマン。

客達は、まさか少女達が他国の王女殿下と貴族家当主だなどとは思いもせず、パーティーに招かれた親に置いて行かれて退屈を持て余している子供達とでも思っているのであろう。

そして今ではその身分を知ってはいるものの、それを知る前から色々と普通に接していたため、あまり緊張することのないフロントマンであった。

夕方とはいえ、仮にも王都の中心部である。なので宿の周囲はそう治安が悪いわけではないが、10歳前後の少女が保護者無しでうろつくには少々問題があった。なので、客達とフロントマンが少女達の冒険を引き留めようとした、その時。

「姫様、私めにエスコートの栄誉をお与え戴けないでしょうか?」

15歳くらいの、優しそうな雰囲気の少年が、少女達に声を掛けた。

「「「「お、王子殿下!」」」」

周りの客達や宿の従業員達が、驚きの声を上げた。

そう、それは、体調不良を理由に夜会を欠席した第3王子殿下であった。

王位継承順位が第3位であり、3人の王子達の中でただひとり、側妃が産んだ子である第3王子は、温厚で利発ではあるが、王位を継ぐ可能性は殆どなく、そして母親の身分もそう高くないことから、政治的な問題となるような心配もなく、王子としては割と自由に行動していた。

兄達や姉、妹達との仲も良く、貴族達にとっては「お付き合いしておいて損はない」という人物であり、王太子妃の座を狙うには少々ハードルが高過ぎるという貴族家の少女達にとっては、割と狙い目の人物であった。

な……、王子殿下?

なんじゃそりゃ~!

王族は、今頃は夜会、具体的には晩餐会に割り込んでいるはず。私の灰色の脳細胞が、そういう結論を出しているのだ!

しかし、まぁ、居るものは仕方ない。問題は、コレが何番目の王子様か、ということだ。

うん、私は、人の顔を覚えるのがあまり得意じゃない。だから、会談の内容に関係のない王子様の顔なんか、全然覚えていないのだ。

「あ、あの、王子殿下……」

「ああ、第3王子のサヴァスです。側妃の子で、王位を継承する可能性はまず無い、サヴァス。

まぁ、サヴァス様、とでも呼んで下さい」

説明台詞、ありがとうございます。

いや、多分、私が顔も名前も覚えていないと察しての、説明台詞なんだろうけど。

そして「様」呼びを求めたのは、別に傲慢なわけではなく、いちいち殿下と呼ばれるのが嫌なのだろう。なので、好感度は決して低くはない。……多分、それも全て計算の上、なんだろうけど、傲慢な態度よりはずっとマシだ。

アレだよ、アレ!

『偽善も「善」。悪よりは100万倍マシ』とか、『為さぬ善より、為す偽善』とかいうやつだ。

100万円の寄付をする偽善者の方が、1円も寄付をせずにそれを罵倒する善人より10万倍はマシだよねぇ。

「で、いったい、何をしに……」

「いや、先程言ったでしょう、姫様のエスコートを、と」

確かに、そう言っていたなぁ。

そして、姫巫女様、ではなく、姫様、と言ったのが、ポイント高い。

皆がサビーネちゃんを軽視していたけど、ちゃんと我が国の王女殿下を立ててくれている。

使節団プラスアルファの一行の中で、一番身分が高いんだものね、サビーネちゃん。あまり軽視されたら、我が国に対する侮辱だ。私なんか、たかが子爵風情なんだから。

温厚で優しそうな目元をしているし、おかしな事をすることはないだろう。なにせ、これだけ大勢の者が見ている中でのエスコートの申し出だし、他のお客さんの中には、他国の人も混じっている。もし何かやらかしたら、全員の口を封じることはできないだろう。

「サビーネちゃん、どうする?」

うん、お誘いを受けているのは、私じゃなくサビーネちゃんなので、当然、決定権はサビーネちゃんにある。そして……。

「……是非、お願い致しますわ」

スカートの両脇を摘まみ、にっこりと笑顔のカーテシーで礼をするサビーネちゃん。

うん、いつもはぞんざいな喋り方をするサビーネちゃんも、やる時はやるのである。

頭が良く、ちゃんと勉強をしているサビーネちゃんは、その気になれば、完璧な王女様を演じることが可能なのだ。……って、「演じる」も何も、元々本物の王女様なんだけど。

そして、王子様を加えて、4人でお出掛け。

驚いたことに、この王子様、結構穴場を知っていた。それも、貴族用の場所ではなく、庶民用の美味しいレストランとか、子供向けの矢場(弓矢を使った、射的のようなゲーム場)とか、お菓子屋とか、 流行(はや) りの小間物屋とか、土産物屋とか……。

どうして王子様がそんなの知ってるんだ?

わざわざ、私達のために調べておいた? それとも、普段から遊んでいるとか……。

「あら、サーちゃんじゃない! 珍しいわね、可愛い女の子を3人も連れてるなんて!」

……判った。普段から遊んでるんだ……。

「本日は、色々とありがとうございました」

私の言葉に合わせて、再びカーテシーを行うサビーネちゃん。コレットちゃんも、ぺこりと頭を下げている。王子様、コレットちゃんも差別せずに紳士的に振る舞ってくれたから、始めはオドオドしていたコレットちゃんもしだいに懐いて、楽しそうだったからなぁ。

……仕方ない。何か策略にハマったみたいだけど、楽しませて貰ったし、お礼としてお土産を持たせてあげるか。誠意を見せてくれたし、元々、こっちとしても落とし所が必要だったから、丁度良かったし。

手柄が誰のものになっても、こっちには関係ないんだから、それが、この、遣り手で面白い王子様であっても全然構わないわけだ。

でも、普通に切り出すのは面白くないなぁ。……よし!

「とても楽しかったので、今日のお礼をしたいと思います。なので、本交渉の使節団の派遣、新型武器のデモンストレーション、私達の手へのキス、この3つのうちから、ひとつだけお選び下さい」

ふふふ、女の子に恥をかかせる選択肢しか選べまい。存分に困るが良い!

「勿論、キスで!」

「えええええ!」

何と、即答かい! しかも、王子様としては、絶対選んじゃいけないやつ!

お手を許す、というのは、サビーネちゃんにとっては全然大したことじゃないらしい。いくら10歳とはいえ、王女様なら日常茶飯事か。コレットちゃんは、全然分かっていない様子。

結局、一番ダメージを受けたのは、私だった。くそ!